第74話 イカしたメンバーと31層へ
「さて、協会にできる協力はあるかな? 一応、物資は用意するし、特別報酬も出す予定だよ」
「度々申し訳ないのですが、ジョブチェンジのアーティファクトを」
「分かったよ。今回は何層だい?」
「基本は31層、できれば34層で」
現在わたしは会長と交渉中だ。
特にジョブチェンジ。もう奇跡はごめんだ。だからアーティファクトをお願いします。
「それは、34層で一度はジョブチェンジをするということだね」
「その通りです。2日もかければ、コンプリートレベルまで行く人たちもいるでしょうから」
「そこで再び育て上げる、か」
「ですが、前衛を後衛にはしません。あくまで同系統でになります」
「なるほど」
わざわざ前衛能力を見込んでパーティを組んだんだ。柔らかくするのはあり得ない。
「許可はするよ。だけど、護衛をしっかりとしないとね」
「それこそ『シュレッダーズグレイ』の出番です。あと1パーティほど欲しいですね」
「『木陰のベンチ』が請け負おう」
「助かります。ですが『氾濫』が起きているなら、ボーパルバニーが34層に出る可能性もあります。対策も説明しますので、留意してください」
「それもひっくるめてだろ。やってやるさ」
「ありがとうございます」
レッサーデーモンの皮、大処分市だね。首装備だけはしっかりしておこう。
「では出発はどうするのかな」
「今朝、首用防具を発注しました。2日でできるそうです。『訳あり』の分は揃っていますので、わたしたちは先発して31層で待ちます」
「アーティファクトの搬送は後で良いのかな」
「はい。もうひとつお願いがあります。なるべく石材を集めてほしいんです」
「『訳あり』のクランハウスと『育成施設』の防御だね。それに誘導も」
「無駄になるかもしれません。その場合は『訳あり令嬢たちの集い』が全額を支払います」
ああ、これで『氾濫』が地上に来なかったら大損だ。でも仕方ない。
「いいさ。丁度、低金利融資の約束をしていたね。無利子無担保無制限で貸し出そう」
「感謝致します」
追加で催促無しの無期限が欲しいけど、まあそれでも厚意は受け取ろう。
「では、『ルナティックグリーン』と『シュレッダーズグレイ』の出発は明日。それ以外のパーティは、2日後にアーティファクトを持って出撃だね。31層で落ち会い、そこから先はサワ嬢、君の判断に任せるよ」
「賜りました」
ああ、なんて重たい責任なんだ。でもやらなきゃならない。
◇◇◇
出発前にやるべきことはやった。『ルナティックグリーン』と『シュレッダーズグレイ』には、例のレッサーデーモン装備が行き渡っている。白いマフラーをたなびかせる、12人の戦士たちだよ。
ここでおさらいだ。まずは『ルナティックグリーン』。
隊長はターン。ハイニンジャでレベルは26。
副隊長はわたしで、ケンゴーレベル33。
わたしとターンは当面ジョブチェンジはあり得ない。それ用のスクロールも見つけていないし、必要レベルがターンは50でわたしは40だからね。
サーシェスタさんは、モンクのレベル38。
ベルベスタさんが、ソードマスターでレベル22。コンプリートしちゃってるよ。
流石にサーシェスタさんはレベルが上がっていない。
ベルベスタさんはどうする気なんだろうね。一応レベル30がエルダーウィザードの条件だけど、彼女の場合、次にサムライになるって言っても不思議じゃないよ。
「ああ、あたしゃ昨日シーフになってきたから、レベル0だよぉ」
「ベルベスタさーん!!」
「31層まで行けば、マスターは簡単だろぉ? しばらくは後ろで魔法撃ってるさぁ」
「まあそれが役割ですけどね」
なんか疲れた。
引き続き、ポロッコさん。ウォリアーのレベル16。プリースト、ソルジャー、ウォリアーの流れだね。彼女次第だけど、31層でジョブチェンジしてもらう。ナイトかシーフかどっちかだ。ってか、ベルベスタさんがシーフだから、ナイト一択なのかなあ。
「わたしはナイトになりたいです」
「それは助かります」
本当に良かった。まあドワーフだし、ヒーラーができるVITの高いナイトは大歓迎だ。タンクの練習もしてもらおう。そうしよう。
最後に、シローネ。モンクのレベル18。メイジ、ソルジャー、プリーストを引き継いできた。基本的なことはなんでもできる。もちろん彼女もジョブチェンジ予定だ。行く先は任せるつもり。
そして新たなパーティ『シュレッダーズグレイ』。
隊長のハーティさんは凄い。ウィザード、エンチャンター、ソルジャー、ファイターを経由して今はロードだ。一人4役可能という、元受付嬢にして、男爵庶子。属性盛り過ぎでしょ。レベルは18。
副隊長はチャートだ。ターンを目指すという彼女は、カラテカのレベル19。彼女もシローネと一緒で、メイジ、ソルジャー、ファイターからカラテカの流れだ。次は何を選ぶんだろ。
「シーフ」
「わあ、シーフがいっぱいだあ」
どうしよう。
続いて、無口なジェッタさん。ウォリアー、メイジと来て、今はプリーストだ。レベル17。基本的に『クリムゾンティアーズ』のメンバーには口出ししないことにしてるので、ジェッタさんが今後どうするかは聞いていない。
次は『ブラウンシュガー』からテルサー。
メイジ、ウィザード、ビショップと、完全な後衛だ。その分、魔法攻撃力は高い。レベルは15。
ああ、ビショップだけど、ウィザードとプリーストの中級スキルまでと、相手の状態異常を引き起こす魔法スキルを持っている。デバフとはまた違う力を持つジョブだよ。
最後に、イーサさんとリッタだね。
イーサさんはもう守り特化。ナイトスタートなのに、ソルジャーからシーフ、カラテカ、グラップラーだ。レベルは10。テルサーとは逆に完全に前衛、しかもタンク仕様だ。
リッタはウィザードからソルジャー、ウォリアー、ナイト、今はシーフでレベル11だね。硬くて速いウィザードになると息巻くだけのことはある。そう言えるくらいにはなってきたよ。
「今回の探索でコンプリートするわ!」
「リッタ様、あまりご無理は」
相変わらずの二人だった。
◇◇◇
「じゃあ、行っておいで。無理をするなとは言わないけどさ。だけど無事に帰ってくるんだよ」
「はい!」
『ルナティックグリーン』と『シュレッダーズグレイ』の年少組、まあ、わたしも含めてアンタンジュさんに元気に挨拶を返した。
これから素材回収を担当する『ブラウンシュガー』と、ズィスラとヘリトゥラも心配そうだ。
「必ず戻ってくるのよ!」
「待ってます」
「任せておいて」
「ふむ。ターンは帰ってくるぞ」
ズィスラとヘリトゥラ、また一緒に『ルナティックグリーン』になろうね。あと、リィスタ、シュエルカ、それにジャリット。心配しなくても大丈夫だよ。
「行ってきます!」
ふたつのパーティが目指すは31層。そこで派手にレベルアップして、後続を待とう。
道中で何度かパーティを組み替え、戦闘を繰り返して31層に到達した。
この段階でイーサさんとリッタがひとつレベルを上げて、そして当然ベルベスタさんはレベル6になった。なんでレベル0から始めるかなあ。
6時間くらいかけて、31層に到達だ。相変わらず陣地は万全だし、今回は2パーティなので、交代も気楽だね。
一息ついた、そんな時だった。
「サワ、兎だ!! 4つ!」
「ええっ!? 『緑』前! ベル、引いて! 全員魔法攻撃!」
AGIが高いターンの『ティル=トウェリア』が間に合った。はっきり言ってオーバーキルだけど、それどころじゃない。ついでにベルベスタさんがレベルアップしたけど、それもどうでもいい。
「31層にボーパルバニー……」
はっきり言って異常事態だ。もうこれで『氾濫』確定してもいいくらいの、そんな状況だ。どうしよう。
「サワ、どうするんだい?」
サーシェスタさんが聞いてくる。どうしたもんか。
「1日、1日だけ31層を探索します。だけど『シュレッダーズグレイ』は陣地で待機です。ボーパルバニーが出たら、遠慮なく攻撃魔法してください」
「分かりました」
隊長のハーティさんが苦い顔で承諾してくれた。
「ベルベスタさん……」
「あたしゃ行くよ。自分の行動には責任持つさ」
レベル8のシーフなんて、格好の的だ。だけど彼女の攻撃魔法は魅力だ。
「絶対に後衛に貼り付いてください。サーシェスタさん、常にベルベスタさんの守りを」
「あいよ。全く面倒なばあさんだよ」
「ポロッコさん、シローネ。防御重視で」
「分かり、ました」
ポロッコさん、前回の経験でボーパルバニー恐怖症に罹ってなければいいんだけど。
「そんなに危ないの?」
「そうだね。一撃で首を持ってかれる」
「シローネ、ターンが前に出るけど、気を付けろ」
「うん」
こうして異常事態の中、31層の探索が始まった。
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