第185話 嘘発見セリアン





「私はね、穏便な余生を送りたいんだ」


「はあ」


 なに言ってんだ、この人。


「ほら、次期国王陛下は第1王子殿下で安泰なんだよ」


 自分は王になるつもりは無いってか。


「多少意固地なところはあるらしいけど、まあ問題ない治世を為してくれると、私は期待しているんだ」


「なるほど」


「そこでよくある話さ。燻っている名前だけの高位貴族が、玉座が入れ替わる機会に成り上がろうと、ね」


「噂の第5王子殿下を推戴するわけですね」


「そうらしい。筆頭はブルフファント侯爵閣下、というわけさ」


 本当かな。ここまでバラして、後になって嘘でしたってならないよね。

 そもそもこの話、なんでわたしたちにバラす?



「今まで第5王子殿下は、上手いこと侯爵閣下に合わせて美味しい思いをしてきたらしいよ」


 おいおい。


「ところがキールランターの氾濫で状況が変わった。功績をあげてしまったんだ」


「それは、王都の危機でしたし、仕方のないことなのでしょうね」


 わたしたちのせいだって言わないだろうね。


「まさにそうだよ。そしてあの場面で分権派の活躍が無かったとする。どうなるかな」


「……次の異変」


「聡いね。その通りだよ。王都があのままで良しとなったら、次が危ない。メッセルキール公爵閣下は頑張っているようだし。王家も動き出してはいるようだけどね」


 それって、ターナとランデのことかな。


「第5王子がそうなるように仕向けた」


「それはどうだろう、王女殿下方のご意思じゃないかな。たとえそうだとしても、誰にとっても優雅な老後は王都が無事であればこそだろう」


 しまった、殿下ってつけるの忘れた。だけどなるほど、分権派の活躍を認めたのはそういうことだったんだ。


「どうしてこの話を今」


「王子殿下だけの意思でヴィットヴェーン総督になったわけじゃないんだよ。王陛下との共謀さ」


 げげげっ。



「聞いたことも無いヴィットヴェーンとキールランターの氾濫、それは冒険者たちが強くなってから始まっているという説が有力だ。そして、冒険者を強くしたのは君だね」


「ま、まあ」


「王家は必死なんだよ。強くなるための要素を、全てかき集めたいとね」


「わたしたちは何も隠していませんが」


「そうなのかもしれないし、そうじゃないかもしれない」


 あっちから見ればそうなるかあ。


「それにこれから新しい何かが出てくるかもしれないからね」


 そりゃたしかに55層みたいなレベリングスポットが新しく見つかるかもしれないね。


「では視察が目的ということでしょうか」



「あの、発言をよろしいでしょうか」


 ハーティさんが手を挙げた。


「構わないよ」


「ヴィットヴェーンの離反を恐れている、もしくは統合派への組み込みを狙っている、などはどうでしょう」


 うわあ。ハーティさんぶっこむなあ。


「あると思うよ」


 そして殿下も切り返した。


「ひとつの行動に複数の目的を持たせるなんて、当然じゃないか」


「それじゃあ」


 わたしの声はちょっと震えてたと思う。


「だけど、大前提条件があるみたいだね」


「それは」


「『訳あり令嬢たちの集い』と敵対するな。気分を損ねるな。メッセルキール閣下からかなり念を押されたらしい」


 わたしたちはどんな扱いなんだろ。


「だから君たちの気分を害してまですることじゃない。現状さえ保てれば御の字なんだろうさ」


「お答えいただきありがとうございます。話も長くなりましたし、お茶をいれ直しますね」


 そう言ってハーティさんは部屋を出た。



 ◇◇◇



「いやあ、彼女も剛毅だね」


「剛毅?」


 確かに凄い質問だとは思った。


「自分たちのクランリーダーをひとり残して退席するなんてさ」


 ああ、そっち。


「わたしを害することのできる人間なんて、そうそういませんから」


「君も言うねえ。確か第5王子殿下も体験したらしいよ」


「その節は」


「いやいや、いい勉強をさせてもらったそうだ」


 そう言ってポリィさんは後ろの護衛をちらっと見た。ああ、彼らの表情が歪んでる。可哀相に。



「それで、ブルフファント侯爵子息がついてきたのは」


 ハーティさんも戻ってきて第2ラウンドだ。


「ブルフファント閣下の横やりなんだろうね。どうも次代の王に仕えさせたいらしい。もしくは王子殿下のお目付けかな」


 この場合はブルフファント侯爵からのお目付けって意味かな。


「追い落とされる可能性もあるよ。例えば、かの侯爵令息が騎士団を主導して大失態とか」


「ダメですよ!」


 思わず立ち上がってしまった。そんなのはダメだ。騎士団だろうが魔術師団だろうが、迷宮に潜れば冒険者だ。そして冒険者は見捨てない。


「はははっ」


 なに笑ってんだよ。今、境界線だぞ? そんな手を使ったらわたしは、多分わたしたちはあんたの敵に回るぞ。


「ごめんごめん、君は良い冒険者だね。そんなことは王子殿下が一番望んでいないさ。監督責任を問われるだろう」


「ああ、なるほど」


 よかった。第5王子との関係じゃない、騎士団の人たちや冒険者が可哀相じゃないか。

 あれ、護衛さんの視線が熱い。なんだろ。



「さて、私からの話はこれくらいだね。そちらはどうかな」


 まとめるとだ、第5王子は王座を狙っていない、ここに来たのは視察のため、派閥争いは現状維持で十分、かな。あと敵対する気も無しと。


「少々お待ちいただけますか」


 殿下の言葉が本当かどうか、これはターンたち年少組の判断が必要だ。特にセリアン組は信用できる。彼女らが『良い奴』判定を下したら、まず当たりだ。

 あ、いや、一人だけ例外がいた。エセヒロイン、アリシャーヤだ。え、まさか彼女も良い奴なのか!?


「あの、ポリィさんはセリアンをどう思いますか?」


「ん? 君の所にはエルフやドワーフもいるはずだよね?」


 ああ、そう受け止めたか。


「ヴィットヴェーンにもヒューマン至上主義者はいますし、特にセリアンは」


「私はなんとも思わないね。むしろ可愛らしくていいじゃないか」


 さて、これが取り入るためのお世辞かどうか。


「でも確かにこれからお世話になるかもしれないクランだ。メンバーにご挨拶できるならそうしたい」


 好都合。


「ハーティさん、食堂にみんなを集めてください」


 もちろん『シルバーセクレタリー』を除く。ハーティさんにお任せだ。



「あ、アンタンジュ、です」


 そういえばアンタンジュさんって、貴族相手だとこういうキャラだっけ。

 もちろんポリィさんが第5王子だってのはバラしてあるよ。ハーティさんがね。


「『ルナティックグリーン』隊長、ターンだ」


「君がサワ嬢と並ぶという強者だね」


「ポリィさん、是非撫でてあげてください」


「いいのかい?」


「ええ、ウチならではの交流です」


 結構本当だからね。ほらシッポフリフリでしょ。


「では失礼して」


 第5王子がターンの頭を撫でる。さあ、どうなる。


「まだまだだな」


 辛辣だったー。


「だけど才能の片鱗がみえた。また来い」


「そ、そうかね」


 そして何気に格好良かった。随分難しい言葉使ったね。



 その後も第5王子はキューン、ポリン、シローネ、チャートと順番に撫でていった。すっごい微妙な光景だ。

 ちなみにワンニェとニャルーヤはキャンセルだ。年齢帯がねえ。


「『ライブヴァーミリオン』隊長、クリュトーマです。よろしく」


「ああ、こちらこそよろしくね」


 酷い茶番だ。顔見知りだろうに。ケータラァさんが引きつってる。


「わたくし、ヴィルターナです」


「わたくしはカトランデです」


「これはこれはご丁寧に。こちらこそよろしく」


 ターナとランデがすっごい嫌そうな顔をしてるよ。そこまで徹底しなくてもいいのに。



「ところで『ライブヴァーミリオン』は7番隊のはずだけど、ここには36人しかいないのだね」


「6番隊は欠番です」


「そうなのかい」


「ええ」


 そうなんだよ。顔を知られるわけ、いかないでしょうに。


「……そういうことにしておくよ」


 知ってたかあ。



「じゃあそろそろお暇するよ。今日はどうもありがとう」


「いえ、こちらこそ貴重な情報を、ありがとうございました」


「そうそう、今後連絡なんかをする時は、こちらのふたりが担当するだろう。挨拶を」


「カクラーです」


「スケルタンです、よろしく」


 ハッチーとかいないだろうな。



 ◇◇◇



「さてターン、ポリィさんはどうだった?」


「まだまだだけど、片鱗はある」


 片鱗って言葉を使いたいのね。

 それにしても白に近いグレーってとこかな。


「まあまあだった」


「うん、まあまあ」


 チャートとシローネがつづき、キューンとポリンも頷いてる。まあ白でいいか。


「しばらくはピンヘリアたちにお任せだね」


「はい」


『シルバーセクレタリー』はとっくに跡を付けている。


「なんだったんだい?」



 サーシェスタさんが話を聞きたそうにしていた。もちろんみんなもだし、『ライブヴァーミリオン』なんかは特にだ。さて、どこから説明したもんか。


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