第119話 新たなステージに立つために





「例の装備をパーティメンバー全員分。ついでに上位ジョブへのアイテム1個。そんなところでどうでしょう」


「それは魅力的なんだが、うーん」


「何かあるんですか」


「アリシャーヤが嫌がっていてね」


 あのヒロインめが。大体『訳あり』がここまでしてやる理由なんてないんだぞ。まあ、証拠も無しにヘーストラン領に攻め込んで、恫喝したくらいだ。悪かったよ。


「じゃあ、アリシャーヤのジョブチェンジアイテムを1個追加です。それでどうでしょう」


「ふぅ、仕方ないわね」


 なんだその態度は。いいから頷け。


「怖い目しないでよ。分かったわよ」


 分かればよろしい。


「じゃあ、引き渡しは15日後を予定します。アイテムは運次第ですから順次ってことで」


「ああ、了解だよ」


 さて、あのガキと取り巻きの皆さん。楽しいレベルアップツアーの開催だよ。



 ◇◇◇



「はい、お届けに上がりました」


「モノ扱いはどうなんだろうね」


「まあいいじゃないですか。ガキ……子爵令息は、ウィザード、ソルジャー、メイジ、シーフ、ウォリアー、プリースト、ハイウィザードです」


 わたしたちは頑張ったんだよ。あのガキも結構頑張った。良い根性してたよ。


「護衛の皆さんは、ナイト、ソルジャー、メイジ、シーフ、ウォリアー、プリースト、エンチャンター、ウィザードです。後のビルドは任せますね」


「まあそれなら大丈夫そうだね」


 レベリングの仕方はいつもと一緒なので省略だ。背負子大活躍だったよ。実戦経験? 知らないね。



「あとは、お約束通りこちらを」


 ジュエルトリアにはもう渡してあるので残り11人分の防具と、そして1本のスクロール、一振りの剣を手渡した。


「アリシャーヤはエインヘリヤルへ、ジュエルトリアさんはホワイトロードに。どちらもヴィットヴェーン初のジョブですよ」


『ギュルヴィたぶらかし』はパワーウォリアーの上位ジョブ『エインヘリヤル』へ、『フルンティング』はロードから『ホワイトロード』へのジョブチェンジアイテムだ。


「良いのかい?」


「惜しいですけど、厄介者を追い出す経費です」


「わかったよ。俺は伯爵子息だ。子爵令息の躾をしてやるよ」


「本気で助かります」


 こうして新クラン『高貴なる者たち』が設立された。書類代筆はハーティさんだった。ごめんね。



 ◇◇◇



 それからふた月、わたしがこの世界にやってきて大体10か月くらいかな。こちらでは新年に全員の年齢が上がるそうなので、わたしは16歳になった。

 そう、今日は元日なのだ。いや、こっちでは新年聖日とか言うらしいけど、しらん。元日は元日だ。そして、この日ばかりは冒険者たちもお休みだ。


「じゃあ、新年一発目、行きましょう!」


「おう!」


 ただし『訳あり令嬢たちの集い』を除く。


「では手始めに38層でゲートキーパー祭りです。福袋みたいなものですね」


「福袋?」


「そうだよリッタ。わたしの地元の風習よ」


「変わっているのね」


 まあね。ダブりが多いって話だし。


「今日は他の冒険者もいないでしょうから、やりたい放題です」


「いつもどおりじゃないか」


「アンタンジュさん、そういうことを言わないでください」


「はいはい」



 この2か月で、みんなのジョブが結構変わった。ズィスラはケンゴー、ヘリトゥラはエルダーウィザードだ。

 ファンサーさんもエルダーウィザード、ポロッコさんはカダ、そしてドールアッシャさんは予定通りヴァハグンになれた。

 ワンニェとニャルーヤは約束通り、パワーウォリアー、ファイター、ソードマスターをコンプして、見事ニンジャになった。その時にはシュリケンも出て、二人同時のジョブチェンジだ。


 新人組のキューンとポリン、シーシャとワルシャンは、現在後衛ジョブを取得中でハイウィザードまで来てる。そろそろ前衛系にシフトしてメインジョブを決めることになるだろう。


 わたしはヒキタのレベル58、ターンはイガニンジャのレベル62だ。もう、早々にはレベルが上がらない。


 そろそろ『計画』を実行する時が近づいている。それもこれもドロップ次第かな。



「『ルナティックグリーン』と『ブラウンシュガー』で、とりあえず45層を目指します」


「おう!」


「ただし『ルナティックグリーン』から、キューンとポリン、リッタとイーサさんを入れ換えです」


 わたしとターン、ズィスラとヘリトゥラにリッタとイーサさんを迎え入れた編成だ。強いぞ。


「『ブルーオーシャン』はシーシャが部隊長。できますね? 35層でレベルアップとジョブチェンジです」


「はい! やります」


「気を付けてくださいまし」


「頑張ってください」


 フェンサーさんやドールアッシャさんに応援されて、わたしたちは40層を越える。



 ◇◇◇



「レッサーデーモン、5」


「おっけい」


 ターンの索敵に引っかかった敵を、切り裂いていく。ここは迷宮42層だ。今となっては懐かしきモンスターだね。皮の在庫が減ってきたので丁度いい。

 以前は『ラング=パシャ』を使って弱体化させてから倒したけど、今ならそんな必要はない。前衛の剣の錆だ。



 41層のマッピングに丸1日を費やして、2日目だ。ゲートキーパーが居ないせいか、それっぽいドロップはまだない。これは、38層を任せた『クリムゾンティアーズ』に期待かな。


 さらに翌日、43層だ。


「居たあ!」


 そいつはサモナーデーモン。無限にレッサーデーモンを呼び出す厄介な敵だ。だけどわたしたちにとっては好都合としか言えない。


「『ブラウンシュガー』はマッピングを続けて。もしサモナーデーモンを見つけたら手筈通りで」


「了解!」


 シローネがそう言い残して、『ブラウンシュガー』は転進した。さてさて。


「サワに指示出しを任せるぞ」


「任された。全員バイタルポーション。戦闘開始!」



 真っ先に突撃をかけたターンの切っ先が、取り巻きを切り裂く。バトルフィールドが展開された。


「祭りの始まりだよ! ヘリトゥラ、ごめん」


「構いません。『ラング=パシャ』!」


 この中で一番レベルが低い、とは言っても29なんだけど、そんなヘリトゥラが小さな奇跡を願う。効果は『魔法無効化解除』。


「『BF・INT』」


「『BF・INT』」


 わたしとリッタが同時に自己バフを掛ける。


「『BFW・SOR』」


「『DBW・SOR』」


 バフとデバフが同時に飛ぶ。これで十分だ。


「目標は20時間。とことんやるよ!」


「おう!!」



 3日後、44層でゲートキーパー、オーガロードを確認して、わたしたちは地上に戻った。

 ああ、試しに1回倒したよ。昇降機の鍵だった。何層まで続いてるのかな。

 ちなみにドロップはカタナだった。


 結果として『ルナティックグリーン』のわたしはレベル64、ターンは66、ズィスラが41、ヘリトゥラが36、リッタは54、イーサさんが56だ。

『ブラウンシュガー』はチャートがレベル59、シローネが46、リィスタは35、シュエルカは42、ジャリットが49で、最後にテルサーが39だ。


 うん40層台ならまだ結構上がるね。



 ◇◇◇



「いやあ、最高でしたよ」


「そう言えるサワは凄いね」


 アンタンジュさんが苦笑いだ。だけど、年少組は高揚しまくってるし、新人たちも目がギラギラしている。大分このクランに馴染んだね。



 ここで重大発表がある。これからのわたしたちの有り様だ。


「皆さんに聞いてもらいたいことがあります」


 そしてわたしは説明を始めた。


「ひとつは、サワノサキ領の発展です。育成施設の全員をレベルアップして、冒険者志望は全員、それ以外は領地開拓を行います。一応会長との約束もあるので、北東方面を耕すことになるでしょう」


 まあ、ここまではいいだろう。問題は次だ。


「そして、わたしとターンです。最初に謝っておきます。ごめんなさい」


「どうしたっていうのさね」


 サーシェスタさんが訝しげだ。


「皆さんには、特にズィスラとヘリトゥラ、キューンとポリンには迷惑を掛けるわ」


「構わないよ!」


「はい」


 ズィスラ、ヘリトゥラ。内容を聞かないうちに返事するもんじゃないよ。だけど嬉しいね。


「準備が出来次第、わたしたちは……」


「ええええ!?」



 全員が愕然としている。こりゃ、会長にも話を通しておいた方が良さそうだね。

 だけどね、これが新しい強さの始まりなんだよ。


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