第118話 婚約破棄だと!?
「『クナイ』だ」
「ありゃりゃ、どうしよう」
とか言いつつ、わたしはニヤけてしまう。そうだよ、レアアイテムが出ただけで、心が躍るのがプレイヤーってもんだ。コレクション? いやいや、ウチにはシーフから始めた猫耳がいるんだから。
「ワンニェかニャルーヤだよね」
二人は全く同じビルドをしている。
シーフ、ソルジャー、メイジ、ウォリアー、ウィザード、ハイウィザード、エンチャンター、プリースト、ビショップ、カラテカと来て今はグラップラーだ。どちらがニンジャになっても問題ない。
「後で31層に戻った時に聞いてみよう」
「それしかないわね」
「……喧嘩にならないといいが」
ウィスキィさん、ジェッタさん、不安になるよ。
わたしの婚約、もといウィスキィさんのジョブチェンジから3日、みんなは元気に活動している。
キューンとポリン、シーシャとワルシャンはウォリアーになった。そろそろ背負子も卒業かな。
みんなのジョブだけど、流石に3日では変わらない。精々ウィスキィさんがレベル16になったくらいだ。それでも十分なんだけどね。
副産物として、アホみたいにジャイアントヘルビートルの甲殻素材が溜まってしまった。だけど二人の伯爵に遠慮して、市場には流通させていない。はっきり言って死蔵ってやつだ。
それだけに今『訳あり令嬢たちの集い』の台所を賄っているのは、31層でレベルアップをしているメンバーだ。まあ私たちもラージロックリザードとかの素材は流している。ついでにたまには、22層とかで食料集めもしてるんだけどね。
「穴を掘って埋めるのはどうだ?」
「それなら第2棟を倉庫にするよ」
ターンが実にワンコらしい提案をしたけど却下だ。後になって、何処に埋めたか忘れるパターンでしょ。
もうちょっとでクランハウスの拡張が終わるから、そこを全部倉庫にしてしまおう。
「わたしもついにニンジャになれるんですね」
「わたしもニンジャだー!」
「何言ってるのニャルーヤ、わたしがニンジャだよ」
「ワンニェこそ、わたしがニンジャになるんだよ!」
「はぁ?」
「ふーん」
ああ、こうなるのか。まあ分からないでもないけどさ。
「ワンニェ、ニャルーヤ、力で示せ」
そう言ったのはターンだった。そう言えば最初のうちは、ターンが教官やってたんだっけ。
「得物無し、スキルなし、やれ」
文字通りのキャットファイトが始まった。二人って『ブルーオーシャン』だから、リッタ管轄のはずなんだけど。そんな彼女は泰然と二人のバトルを見ている。
ううっ、ターンといいリッタといい、リーダーの適性とはこういうモノなのか。
「まいったー」
「ふふん」
結局勝者はワンニェらしい。なんかよく分からなかった。お互いに怪我もしてないし、通ずるものがあるんだろう。
「じゃあコレはニャルーヤにあげる」
「ワンニェ……」
おお、なんか美しい展開になってきたぞ。勝者が敗者に譲るかあ。胸が熱くなる。
「舐めてんのかー!」
「なにお!」
また喧嘩が始まった。なんだこれ。
「はい、そこまで。イーサ」
「そこまでです」
結局イーサさんが二人に割って入って、戦いは終わった。
「では判定するわ。パワーウォリアー、ファイター、ソードマスターを先にコンプリートした方がニンジャよ」
「分かりました」
「わかったー」
リッタの見事な裁きであった。やるねえ。
◇◇◇
「むっ?」
「どしたのターン」
「クランハウスが騒がしい」
「っ! 急ぐよ」
クランハウスには『ホワイトテーブル』が居る。早々な事は起きないだろう。武力的な意味では。だけど、権力が来たなら面倒だ。わたしが出張るしかない。
そして相手は権力だった。
「ええい、ここにはサワとかいう平民あがりがいるはずだぞ!」
「だから言ってるだろう? 彼女はまだ戻ってきてないんだよ」
「無礼だぞ!」
「あたしはこれでも名誉男爵でねえ」
「子爵令息のボクに、はんぱ貴族がさからうな!」
あちゃあ。もう、大体想像がついた。だってさあ、豪華な馬車が止まっている上に、ちびっ子が何か喚いている。しかもその周りには、護衛の騎士らしき人たちと侍女も2人いる。それが全員、セリアンなんだ。
そしてそのちびっ子、もうガキでいいや、そいつは10歳くらいだ。
「初めまして、わたしはサワ・サクストル・サワノサキ=フェンベスタ女男爵です」
「おまえかっ! ボクはイェールグート・ハッシュ・ヘーストランだ。子爵令息だぞ!」
はいはい。貴族貴族。
大方わたしが平民上がりで、自分は子爵令息で、しかも天然で偉いとでも思ってるんでしょ。
めんどくさ。
「ではイェールグート様、ここではなんですのでクランハウスの中へ」
「うむ、よかろう」
「ご案内いたします。従者の皆様方もどうぞご一緒に」
人数が人数だけに、食堂に案内する。道中、従者さんたちの顔を見たけど、イーサさんやワルシャンみたいな悲壮感はない。むしろウチのバカがすみませんって感じだ。あれれ。
「それで本日はどのようなご用件で」
「うむ」
そしてイェールグートはちょっと溜めた。
「サワ・サクス・サワノサキ! おまえとの婚約を破棄する!!」
なんで婚約してないのに破棄できるんだよっ!
◇◇◇
「あの、わたしは貴方と別に婚約者、一応、建前の婚約者がいるんですが。あと、名前変わってますから。サクストル・サワノサキ=フェンベスタですから」
頼む。通じろ。
「なにっ!?」
ダメか。
そこに横から、猫耳侍女さんがヒソヒソと何かを伝えた。
「婚約を断っただとっ!?」
「はい」
「貴様ぁ、ボクは最強の冒険者になる男だぞ!」
なんか最近、どっかで聞いたなあ、こんな台詞。
「それは素晴らしい心がけですね」
「そのとおりだ。そこで、ヴィットヴェーン最強のクランを紹介しろ」
「はい?」
「ボクは最強になるんだ。最強のクランがふさわしいだろう。そんなこともわからないのか」
ほほう。あと、ターン。どうどう。
最強はウチだ。このガキが女の子だったら、それはそれで面白い逸材なんだけど、残念でした。
それにしてもクランかあ。こういう時は『世の漆黒』なんだけど、ケインドさんの胃が破裂するかもしれない。だけど、貴族のいるクランなんてウチくらいだし。
あ、あった。
「ところで、そこのセリアンたちはどういうことだ」
「どういうこととは?」
「みごとな色つやではないか! 髪も耳もシッポもすばらしい!!」
「分かりますか!」
「ボクを誰だと思っている」
まさかこのガキが同好の士だったとは、不覚だ。
「毎日お風呂で磨き上げていますからね。良いでしょう」
なんせこっちは、犬耳3に猫耳3、キツネ1にタヌキ1だ。数と質が両立されているぞ。
「ふむ、献上せよ」
「あぁ!? 殺すぞ?」
「お待ちください!」
殺害予定対象者の従者が声を上げた。
「イェール様は尊大で傲慢でちょっとアレですけど、セリアンには良くしてくださっているのです」
それは良い奴なのか悪い奴なのか?
「たしかにわたしたちは拉致同然でお屋敷に囲われました。ですがそこで、良い待遇を受けているのです。たまに耳やシッポを撫でたり舐めたりするのが、非常に鬱陶しいのですが」
「そう言えば貧民街から」
「はい。わたしも病を患っていたところを、救われた者です。残念な性格ではありますが、それでも恩人なのです」
「あまりほめるでない」
褒めたことになっているのか。すげぇ感性だ。
「では聞こう。キミたちはボクの下に来る気はあるか?」
「死ね」
「殺していい?」
「やです」
「やだー」
全員が物騒で無礼に断った。
「しかたあるまい。ボクはセリアンの自由を愛する。彼女たちは自由に駆け巡る時こそ輝くのだからな! 耳やシッポがなえるのを見たくはない」
凄げえ。こいつ、大物なのかもしれん。
「いずれ交流の機会もありますよ。ただしお触りは厳禁ですからね」
「あいわかった。それでクランの方はどうだ?」
◇◇◇
「何故俺たちなのかな」
「他に冒険者やってる貴族関係者を知らないからです。貸しを返すと思ってください」
「しかしなあ。敵派閥だぞ」
「勘違いも多々ありましたけど、わたしに敵対しましたから。どっちもどっちです」
わたしは今、『咲き誇る薔薇』のジュエルトリアと交渉している。
あのガキ、イェールグートはなんと10歳にしてウィザードだった。体力系ステータスこそ年齢相当だけど、INTだけは高いんだ。
ついでに犬耳3と猫耳2のナイトを連れている。前衛過多だけど、一応パーティとしての体裁は整っているんだ。
「なので、あちらのパーティ『ラブリィセリアン』と、クランを結成していただけると助かるんです。ほら、お互いの実家に入金するって感じの軽い同盟です」
「うーん、ちょっと検討させてもらいたい。それと、ちょっと鍛えておいてもらえると助かるよ」
仕方ないなあ。なんでわたしたちがこんな苦労を抱え込んでいるんだろう。謎だ。
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