第120話 サワ・サクストル・サワノサキ=フェンベスタ。君との婚約を解消する!





「サワ嬢。いや、サワ・サクストル・サワノサキ=フェンベスタ。君との婚約を解消する!」


「そ、そんな。いったいどんな理由があって」


「それは貴様の奇行が理由だ」


「わたしはそんなことを」


「しているじゃないか。今、目の前でやらかしたじゃないか!」


「強くなるためです」


「強さ強さ、君はいつもそればかりだ」


「冒険者が強くなろうとして、何が悪いのですか」


「やり方というものがあるだろう。なんで、なんでソルジャーなんだ!」


「良いじゃないですか、ソルジャー。冒険者の基本です」


「貴様が今更基本を語るかっ!」


 ああ、茶番だ。



「それにだ、君は僕の好みじゃないんだよ。僕はもっと包容力」


「それ以上ほざくな! 斬り殺すぞ」


「そういう所だよぉ」


 あれ、こんな会話、シナリオに無かったぞ。


「そっちだって、いっつも胡散臭い笑い方してるじゃないか。キモいんだよ!」


「き、キモいだと!? それならそっちは怖いんだよ!」


「手前ぇ、うら若き女性を怖いと抜かしたなあ」


「ああ、言ったさ。本当に怖くて、何するか分からないから本当にビビってるんだよ! 今もだ」


「おいそこの男爵令息。女男爵に上等こいたな。表ぇ出ろや」


「だからそういう所だよ!!」


 ここは、冒険者協会事務所。『ステータス・ジョブ管理課』カウンターの目の前だ。受付のスニャータさんが唖然としている。気持ちは分かるよ。

 婚約者同士の男爵令息と女男爵がこんなやり取りをしているんだ。


 だけどなあ、途中まではブックだったけど、今はガチだ。許せん。許さんぞお。



 ◇◇◇



 そもそもの発端はだ。


 ==================

  JOB:HIKITA

  LV :64

  CON:NORMAL


  HP :87+310


  VIT:42+110

  STR:53+183

  AGI:39+137

  DEX:49+161

  INT:31

  WIS:19

  MIN:29+113

  LEA:17

 ==================


 ヴィットヴェーン最強のサムライたるわたしが、こうなったからだ。


 ==================

  JOB:SOLDIER

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :118


  VIT:53

  STR:71

  AGI:52

  DEX:65

  INT:31

  WIS:19

  MIN:40

  LEA:17

 ==================


 いやあ、補正ステータスが消えると身体が重いわあ。

 それでも補正無しで平均15って言われている成人の平均ステータスから見れば、化け物だけどね。


 そうだよソルジャーだ。サムライ3次ジョブたるヒキタを放り投げて、わたしは最下級ジョブに就いたんだ。どうだ、まいったか。


 ==================

  JOB:NULL

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :9


  VIT:13

  STR:12

  AGI:13

  DEX:14

  INT:20

  WIS:13

  MIN:17

  LEA:17

 ==================


 ちなみに最初がこうだから、見比べてみれば一目瞭然、凄まじい変化だ。頑張ったぞ、わたし。



 ◇◇◇



「わたしはソルジャー、ターンはメイジになる」


「うむ」


「えええええ!?」


 ひと月前に『訳あり』たちに宣言したのは、このことだ。


「わたしは最初、ターンや『クリムゾンティアーズ』の皆さんと一緒に、探り探りで迷宮に挑みました。そしてカエルレベルアップを発見しました」


 そんなわたしの独白を、黙ってみんなが聞いてくれている。


「当時は20層が基本で、30層以降は深層攻略の意味合いがあったと思います。だけど、層転移事件で状況が変わりました。『ブラウンシュガー』は覚えてるでしょ? あの時、悔しい思いをしたのを」


「うん。助けたかった。だけどできなかった」


 代表してシローネが悔しそうに言う。


「だけどあの時を起点にして、わたしたちは強くなった。35層までなら当たり前のように探索できるようになった。そして、ゾンビの氾濫」


 ああそうだ。あの時のエルダー・リッチ。最初は手も足も出なかった。


「だけど、わたしたちはレベルを上げてぶん殴った! そして今、44層のゲートキーパーを倒すに至った。どういうことか分かるかな」


「わたくしたちは、最低でも45層、多分50層まで行ける」


 そうだよリッタ。だけどそれじゃあ足りない。



「うん、50層なら行ける。このままメインジョブのレベルを上げれば60層だって行けるようになる」


「なら、なんでだい?」


 わたしとターンがジョブチェンジしようとしてるのを、咎めるようにアンタンジュさんが声を上げた。


「最強になるためです」


「目指すは最強だぞ」


 わたしとターンが同時に腕を組む。胸を張る。


「わたしとターンは弱いんです。マスターレベルになるのに何日もかけて、コンプリートにはもっと時間を掛けました。だからジョブを絞ってレベルを上げた。だけど今は違う」


 一部例外、わたしとターン、イーサさん、サーシェスタさん、ベルベスタさん、ハーティさん。この6人を除いて、他のメンバーはなんでもできる。そしてそこからメインジョブを伸ばそうとしている。


 だったらさ、わたしもターンも負けてられないんだ。


「こういう言い方をしたらすっごく申し訳ないんだけど、わたしはみんなが強くなるのを待っていたんです。今までと逆に、わたしとターンを守ってもらえるくらいに。だから」


 お願い、いや我儘なのかな。でもみんなならわたしを守ってくれる、そんな確信があるんだ。


「もっかい言うね。わたしはソルジャー、ターンはメイジになって、全部をやり直す。みんなお願い。わたしたちをレベリングして」



「仕方ないわね」


 ウィスキィさんが笑ってる。


「まったくもう」


 ハーティさんも。


「わたくしに任せて」


 リッタが太鼓判を押す。


「わたしが守るわ!」


「うん、守る」


「恩は返す」


「やる」


 ズィスラとヘリトゥラが、キューンとポリンが、つまり『ルナティックグリーン』が、狂気の沙汰を後押ししてくれた。

 ああ、やっぱりこのクランは最高だ。



 とりあえず後で会長に話を通しておこう。そうしよう。


 そして冒頭に戻るわけだ。



 ◇◇◇



「お二人とも、いい加減にしてください。冒険者の皆さんが見ていますよ」


「あ、ああ」


「見ていようがどうが、わたしは一向に構いません。この野郎はわたしを侮辱しました」


「サワさん?」


「あ、あう」


 ハーティさんの鋭い視線が突き刺さる。

 わかりましたよ、シナリオ通りにやれば良いんでしょう。



「ま、まあわたしもいきなりソルジャーになって、ごめんなさい」


「分かってくれれば良いんだよ。しかし、今回の行動は見過ごせないね」


「分かりました。会長からいきなり投げかけられた婚約破棄の件、もっともです。甘んじて受け入れましょう。証人はここにいる全ての冒険者たちです。後で強くなってから、泣き言ほざいても遅いからな!」


「だから、余計なことを言わないでほしいものだね」


 わたしは指輪を外し、ぽいっと会長に放った。相手は外した指輪をポケットに入れる。

 伯爵がどう出るかは分からないけど、ヴィットヴェーンの冒険者たちには、わたしと会長の婚約が破棄され、しかも修復困難なことは印象に残っただろう。



「サワ、ターンもジョブチェンジしてきたぞ」


 さっすがターン、空気読まないね。


 ==================

  JOB:IGA=NINJA

  LV :66

  CON:NORMAL


  HP :88+298


  VIT:46+84

  STR:40+90

  AGI:60+223

  DEX:60+193

  INT:25+43

  WIS:12

  MIN:26+131

  LEA:19

 ==================


 これが以前のステータスだ。AGI、DEXお化けだね。MINもだけどさ。


 ==================

  JOB:MAGE

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :117


  VIT:54

  STR:49

  AGI:82

  DEX:79

  INT:29

  WIS:12

  MIN:39

  LEA:19

 ==================


 そしてターンが見せてくれた、新しいステータスだ。わたしがSTR寄りなら、ターンはAGI、DEX寄りで人外だね。


「サワ」


「ん?」


「身体が重たいぞ。早くレベルを上げに行こう」


「そうだね!」



 ヴィットヴェーンにわたしが降り立って1年くらいかな。正確なところは、ちょっと分かっていない。それくらい毎日が充実してて、あっという間だったからね。


 そして今日は新しい第一歩だ。

 わたしはヴィットヴェーンにマルチジョブの概念をもたらした。そのためのレベルアップ方法も提示した。クランも作った。そうして強い冒険者が現れるようになった。


 じゃあ、それに乗っかって第2弾だ。

 わたしはターンと一緒に、もっともっと強くなる。新しい常識を、さらに新しい考え方で乗り越えてやる。


「ターン、行こう!」


「おう!」



 わたしとターンはヴィットヴェーンの冒険者だ。ただし、常識で測れると思うなよ?

 まだまだ道半ばだ。どんどんジョブチェンジして、とことんレベルアップをしてやるんだ!


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