第202話 侯爵令息には意地がある





「貴様あっ! どういうことだ、説明しろ!」


 知らん。第5王子が勝手にやったんだから、ほんとに関知してないんだよ。

 ヴィットヴェーンに戻ったら、なんと自発的に守護を担当してくれたらしいベースキュルトに詰め寄られた。いや、本当に知らなかったんだって。


「ポリュダリオス殿下が継承権返上など、あるはずがない! どうせ元凶は貴様らだろう。どう責任を取る!!」


 知らんがな。


「まあ落ち着きたまえよ」


 そうだよ。ひとんちのクランハウスで喚くのがどうかしてる。それでポリィさん、落としどころはどうなのさ。


「確かに『訳あり』を救うための行動ではあったね」


「やはり貴様かぁぁ!」


「勘弁してください。確かに原因はウチかもしれませんけど、わたしだって聞いてなかったんです」


「まあまあ、正直に打ち明けると、頃合いだと思っていたんだよ」


「殿下っ、それはどういう!?」


 あ、なんかぶっちゃける空気だ。



「王陛下は、我を王都から遠ざけた。氾濫鎮圧の功績を名目にだ」


「確かに酷いやり方だとは思いました。ヴィットヴェーンなどという辺境。しかしそれならば私がっ!」


「ベースキュルト、本当のことを説明しよう。ここに来たのは、王陛下と兄上、第1王子殿下そして我との共謀だ」


「なっ!?」


 ぶっちゃけたなあ。ついにって感じなのかな。

 ちなみに同席してるハーティさんは涼しい顔だ。


「兄上が余程の失態でも演じない限り、我の王位などあり得なかったのだよ。父君がどう考えているか知らないが、君はわかっていたのであろう」


「くっ! それでも私は」


 なんかベースキュルトがすっごい悔しそうだけど、滅茶苦茶自業自得だよね。王子殿下の気質に気付いてなかったくらいだし。

 だからこっち睨むなって。わたしたちが影響与えたわけじゃないよ。きっかけではあったかもだけど。


「それより今後だよ。我としては君が離れても仕方ないと考えるけど、どうするね」


「……父の判断は」


 王都にいるブルフファント侯爵かあ。どうする気なんだろうね。


「このまま殿下を支えよ、とのことです。そして私も同意しております」


 へえ。やるじゃん。

 わたしは政治に疎いけどさ、人間として考えたら、こういうのには好感がもてる。



「さらに言えば『訳あり』との繋がりも保てと。こちらは業腹ですな」


「我の復権を望むのかい?」


「いえ、すでにこの状況では、王国を乱すだけです」


「理解してくれて助かるよ。ならば策を披露しよう。彼女がね」


 おおう、なんか言いだしたぞ。


「ハーティ嬢、どうだね?」


「はっ!」


 なんでハーティさんに振るし。


「それでは申し上げます。強くなってください。聖騎士団を強者の集団としてください。それだけで十分かと」


「貴様……。いや、そうだな」


 納得しちゃってるし。



 なんか謎に納得して、第5王子とベースキュルトは立ち去っていった。

 またレベリング依頼されたけどね。まあ、それくらいなら受けてもいいか。


「ハーティさん、意味はわかるけど、あれでいいんですか?」


「さあ、あとはベースキュルト様次第でしょう」


 強くなれ、強くなって第5王子の取り巻きじゃなく、名を上げろ。まあそういうことだろうけど。


「次のブルフファント侯爵はあの方です。侯爵家として名を残せるかは、力次第でしょう」


「なるほど、次代を見てるわけね」


「ええ」


 まあ悪さをしないなら手伝ってもいいか。



 ◇◇◇



 そしてレベリングの日々が再開された。


「侯爵家のお金なんてあてにしないでくださいよ。自分たちの力で稼いでください。物納認めますから」


「わかっている!」


 そう言って、ベースキュルトたちは迷宮に入っていった。お守は『ブラウンシュガー』『ブルーオーシャン』、そしてズィスラ、ヘリトゥラ、ポリンだね。

 わたしとターン、キューンはポリィさんご一行の面倒だ。


「3人ともウィザードですね。調子はどうですか」


「ああ、レベル30にはなったよ。『オーファンズ』には世話になったね」


 わたしたちがいない間。ポリィさんたちの相手をしてもらってたんだ。お陰でプリーストのレベル50を消化して、ウィザードになってくれてる。


「じゃあ行きますか。ばんばん魔法撃ってくれていいですよ」


「はははっ、私がウィザードになる日がくるなんてねえ」


「背負子ももう少しで卒業です。前衛に戻ったら走ってもらいますからね」


「少しは痩せるかもしれないね」


 レベリングダイエットとは恐れ入る。

 今のわたしは細くて健康体だけど、痩せてベッドの中にいたことを考えたら、とてもじゃないけどそんな考え方にはなれないよ。

 わかってもらえないかもしれないから、誰にも言わないけどさ。自分の足で走ることができるって、とっても素敵なことなんだよ。わたしにとってはね。


「さあ行こう、迷宮を駆け抜けるよ!」


「おう!」



 そいで5日後、殿下たちがハイウィザードになった頃なんだけど、王都から使者が来た。


「よう。ちょっとぶりだな」


「オーブルターズ殿下……」


 なにしにきたんだよ。


「お前たちとポリュダリオス殿下、ベースキュルト卿に報告することがある」


 ヤバい取り合わせだよね、多分。



 ◇◇◇



「随分と変わったものだな」


「公爵令息夫人に相応しい調度品ですね」


 通じろ。嫌味。


「ほう? 王都でも見たことがないぞ」


「ヴィットヴェーンの特産品ですから」


 そうなんだよね。殿下がいた頃に比べて、『訳あり』クランハウスの応接室は、ちょっと豪華になってるんだ。

 60から70層台の素材をドワーフのおっちゃん方に預けた結果だよ。それとワイバーン素材も渡してある。あと10日くらいで、新装備ができるんじゃないかな。



「久しぶりだね、オーブルターズ卿」


「オーブルターズ殿下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」


 それぞれ第5王子と侯爵令息のオーブルターズ殿下に対する挨拶だ。この場合の格ってどうなるんだろう。


「うむ、今回は王陛下の特使である」


 言われた瞬間、全員が膝を突いた。流石にこうなるか。

 ああっと『訳あり』側からは例によって、わたしとハーティさん、それとターナとランデだね。オーブルターズ殿下のご指名だ。


「ではお言葉を伝える。サワノサキ領主、サワ……、忘れた。サワ・サワノサキ」


 台無しだよ。


「先に発生したベンゲルハウダー氾濫鎮圧の功績をもって、サワ本人から王家への上納を3年免除するものとする、だそうだ」


「なっ!」


 絶句したのはベースキュルトだった。

 ああそっか、ブルフファント侯爵の入れ知恵だった功績が吹っ飛んだんだ。

 ついでに、失脚したケルトタング伯爵の面目も。


「推薦者は我、オーブルターズとオリヴィヤーニャ迷宮総督、ヴィルターナ様、カトランデ様だな。功績に疑いなしと判断された」


 ターナとランデまでもか。当事者じゃない。王族だからって、そういうの通るの?


「そうか、そうなったか」


 力なくベースキュルトが呟く。ちょっと可哀相だと思っちゃうわたしは間違ってるのかな。



「ははっ、はははっ。サワノサキ卿」


「な、なんでしょう」


「先日ハーティ嬢が言ったことが心から理解できた気分だ」


 力で成し遂げろってか。


「畏れながらオーブルターズ殿下」


「なにか」


「王都に戻りし時に、わが父ブルフファント侯と王陛下、並びに第1王子殿下に伝えてもらいたき言葉がございます」


「申してみろ」


「ベースキュルト・レディア・ブルフファントはポリュダリオス迷宮総督を支え、必ずや王国に貢献し続けることを誓う、と」


「いーい言葉だ。気に入ったぞ」


 本当に面白そうなオーブルターズ殿下と、真顔なベースキュルトの対比が状況を露わにしてるみたいだ。

 キールランター氾濫の時もそうだったけど、ベースキュルトって最後の最後で意地見せるよね。そういうとこは悪くないって思うよ。



「間を挟んだが、サワ嬢は褒賞を受けるか?」


「王家のご厚情まことにありがたく。謹んでお受けいたします」


「断る気かと思ったぜ」


 まあねえ、折角王家の利権だし、他の人たちが面目潰したらって思ったけどさ。


「ベースキュルト卿の意思に応えた、ということですよ」


「ならばよし!」


 うんうん、なんかいい話みたいになった。だったら。


「迷宮に潜らなきゃならないですね。強く強くならないと。今よりもっと」



 ほれほれ、皆の衆。もっともっと強くなって功績を上げればいいじゃない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る