第201話 冒険者の宴





 倒したワイバーン3頭からそれぞれ素材と宝箱が得られた。ポリンが嬉々として開けたそれには、一本の剣とスクロールがふたつ入ってた。


「『五輪の書』と『フーマの書』……、それとこれは『オーバーロード』っ!」


 わたしの膝が落ちた。スクロールは言うまでもない、『ミヤモト』と『フーマ』へのアイテムだ。そして『オーバーロード』は無骨な剣。これもジョブチェンジアイテムだ。しかも超位ジョブへの。


「やっぱり一個だけなの?」


 ポリンが残念そうだけど、問題はそこじゃない。


「これね……、『マイロード』へのジョブチェンジアイテムなの」


「『マイロード』?」


 ああ、言ってなかったっけ。


「うん、ロードの超位ジョブ」


「なら!」


「男の人専用……」


「ええ……」


 ロード=ヴァイとホワイトロードを極めれば、就けるジョブだよ。ただし女性の場合はさらにヴァルキリーが必要になって、行く先は『アーマードヴァルキリー』。

 いや、強いんだよ、アーマードヴァルキリー。だけどさあ。



「オリヴィヤーニャさん、これはウチでは使えません。ご判断ください」


「うむ。オーブルターズよ、持っていけ」


「よいのか!?」


「ああ、貴様の助力、ベンゲルハウダー迷宮総督として感謝する」


 ちなみにオリヴィヤーニャさんとオーブルターズ殿下って従兄妹らしい。今のメッセルキール公爵夫人が王様の姉なんだとか。


「『五輪の書』と『フーマの書』は『訳あり』だ。それとワイバーンの素材だが……」


「ちょうど3体分です。ベンゲルハウダー、キールランター、ヴィットヴェーンでひとつずつでどうでしょう」


「いいのか?」


「みんなが頑張ったでいいじゃないですか」


 どうせこれから99層で獲れるし。予行演習にもなったし。


「……感謝しよう。ハウンドの素材も山分けでよいか?」


「ええ、もちろん」


 爪やら牙やら毛皮やら、ジョブチェンジアイテムも混じってるね。

 全部でどれくらいあるんだろう。5000以上は確定だろうけど。これはアレかな。



「あの、オリヴィヤーニャさん」


「なんだ?」


「ハウンドの牙で、こんなの作りませんか。全員に」


 胸元から出してみせたのは、吸血鬼氾濫のときに作ったペンダント、革ひもにヴァンパイアの牙がぶらさがってるだけのそんな記念品だ。これで飾りがふたつになる。悪くないね。


「いいな。早速声を掛けよう。それまでは滞在か?」


「そうですね。ウィスキィさん、どうしましょう」


「二日くらいならいいんじゃないかしら」


 アンタンジュさんに聞かなかったのは、高貴なる者から逃げ出してるからだよ。


「では明日にでも宴だな」


 そうなった。



 ◇◇◇



『フーマの書』と『五輪の書』は、それぞれチャートとシローネが使うことになった。

 ふたりとも、特にチャートが嫌がったけど、ターンが押し切った形だ。


「強くなれ」


「わかった」


 ウチの柴犬ーズはわかりあってるねえ。



 さて今回の氾濫が終わってのリザルトだ。

 わたしはヤギュウからグラディエーターになった。将来的にサムライ系超位を取るけど、前衛後衛両方のサブ超位は持っておきたいって思ったんだ。すっごい贅沢だけどね。


 ターンはフェイフォン。本格的に近接ジョブを取る気になったみたい。

 ズィスラはユーグだ。前衛剣士系を目指すらしい。ヘリトゥラはハイニンジャでレベル68。もうちょっと粘るみたいだね。ハイニンジャは完全に腰掛ジョブだ。最終的には後衛になるんだろう。


 キューンはスクネ。こっちも近接系だ。ターンと違うのは、ニンジャじゃなくって格闘をメインにする感じかな。ポリンはオーバーエンチャンターだ。まだ取ってなかったのが不思議だね。彼女は後衛回復系がメインになるのかな。


 てな感じで、ヘリトゥラ以外は全員レベル0になっちゃった。

 ベンゲルハウダーの『ステータス・ジョブ管理課』職員さんが唖然としてたよ。


「さあ、宴会は夕方からだから、当然時間があるね」


 底なしVITを持つわたしたちだ。6時間も寝れば完全回復もするさ。

 同じくジョブチェンジした『クリムゾンティアーズ』『ブラウンシュガー』『ブルーオーシャン』『ライブヴァーミリオン』も揃ってる。


『シルバーセクレタリー』だけは宴会に参加しないで王都とヴィットヴェーンに走っていった。報告と、第5王子殿下の家族警護だね。ありがとう。本当に助かるよ。


「潜ろう」


「おう!」


 ほとんどがレベル0になっちゃったけど、それでもバカ強いメンバーがベンゲルハウダー迷宮を疾走する。とりあえずの目標は44層のモンスタートラップだ。そこでレベルを40台にしてから、さらに深層を目指す。

 夕方には戻るけどね。



 ◇◇◇



「それで、そんなナリなのだな」


「ごめんなさい」


「湯でも被ってこい。手配はしておく」


「ありがとうございます」


 宴会の直前に戻ってきたわたしたちは、バッタやら他のモンスターの返り血だらけだった。

 レベルは50台。うーん、目標には届かなかったよ。


「まったく、主役がなんてザマだ」


「主役?」


「貴様たちに決まっておる」


「えええ」


「ふむ、主役か」


 どうやら主役に抜擢されてしまってたらしい。これは責任を分散する必要がある。

 ターン、誇らしげに鼻を鳴らさないで。



「此度の大戦、皆の奮闘、まこと見事であった!」


 オリヴィヤーニャさんが格好良い。


「その胸にあるヘルハウンド共の牙が、この度の誉れだ。存分に誇れ」


「おおう!」


 なんと約400人分の首飾りが、1日で完成しちゃってた。まあ、穴を開けて紐を通すだけだからね。わたしたちは紐、自前だし。


「そして、快く助力をしてくれた『万象』『訳あり令嬢たちの集い』には、深い感謝を述べたい」


 すでにオーブルターズ殿下たち『万象』18人と、『訳あり』の30人は壇上にいる。

 この場にいない勇者6名。ほんとにゴメンね『シルバーセクレタリー』。


「気にするでないわ! 我らは冒険者として当然のことをしたまでよ! さあサワ、謳いあげろ!」


 殿下がわたしに振った。なに呼び捨てしてやがるんだ。


「冒険者は見捨てない!」


 だけどまあ仕方ない、叫んであげるよ。


『冒険者は見捨てない!!』


「冒険者は諦めない!」


『冒険者は諦めない!!』


 圧力を感じるほどの唱和が返ってきた。そうだよ、その通りなんだ。わたしたちのやったことなんて、冒険者なら当然のことなんだ。



「盃を掲げよ!」


「おう!」


「今後事あれば、キールランター、ヴィットヴェーン、いやさボルトラーンであろうとも、われらは駆けつける。それがベンゲルハウダーの得た、此度の宝だ!」


 すっごい良いこと言ってるんだけど、なんかフラグくさいと思うのはわたしが汚れてるのかな。

 でも、適度な異変って経験値的に美味しいしなあ。アイテムもだけどさ。


 まあいいや。年少組も併せて、今日はミルクで乾杯だ。

 ターン、口の周りに白いヒゲが生えてるよ。



 ◇◇◇



「行くのか」


「ええ」


 そりゃ行くでしょ。7部隊の内、6部隊も投入したんだから、帰らないとさ。


「強さの秘訣、受け取ったぞ」


「存分に活かしてください。負けませんよ」


「まったくもって気持ちの良い奴らよ。王陛下とポールカードにはしっかと伝えねばな」


 オリヴィヤーニャさんは何を伝えるつもりなんだろ。ポジティブ方面っぽいかな。そうだといいな。


「こちらこそありがとうございます」


「何を言うか、こちらが受け取ってばかりではないか。それに報いる必要がある」


「なら、これからも鍛えてください。『一家』だけじゃなく、ベンゲルハウダー全部を鍛え上げてください。ヴィットヴェーンはもう、そういう段階ですから」


「ははっ、ぬかしおる!」


 笑ってるけど、意味は伝わってると思う。


「迷宮は強者に呼応するっていう話、どう思いますか」


「多分、真であろうな。それゆえか」


「はい。少ない最強も大切ですけど、沢山の強者が必要だと思ってます」


「心得た」


「では、わたしたちはこれで」


「ああ、また逢おう」



 その4日後、わたしたちはヴィットヴェーンに戻った。

 子供たちや、ハーティさんたち『ホワイトテーブル』が出迎えてくれる。うん、帰ってきたって感じだね。


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