第200話 99層のゲートキーパーはトカゲさん





「それで、どうすればいいんだい?」


「片方の黒門が開くまでに、大掃除です。敵はレベル70相当」


 アンタンジュさんの声に返事をする。今の段階でやることはひとつだ。


「わかったわ」


「おう」


「畏まりました」


 リッタが、シローネが、ピンヘリアが答えて、それぞれのパーティが動き出した。



「ジェッタ!」


「……『ワイドガード』」


 アンタンジュさんの声にジェッタさんが応える。


「『貧しき戦友たち』」


 ジャリットが幾人もの騎士を生み出し、一斉に盾を構える。


「サワ、スキルはどう?」


「3割かな」


「なら寝て。他のパーティは、サワの判断で」


「了解、リッタ」


 ありがたい。本命が出てくる前に、スキルを回復させておきたかったんだ。


「『フォウスファウダー一家』と『天の零』はスキルを回復してください!」


「おうよ!」


「了解だ!」


 それぞれオーブルターズ殿下とオリヴィヤーニャさんが応答してくれた。

 3時間、3時間だけ扉が開くのを待ってほしい。


「『ピフェン』」


 そう考えながら、わたしは自分で自分に魔法を掛けた。これってなにげに高等テクニックなんだよね。『訳あり』なら誰でもできるけどさ……。



 ◇◇◇



「サワ、起きろサワ」


「んん、シローネ?」


「寝ぼけるな。開くぞ」


 ああ、そうだった。氾濫の途中だっけ。門が開く!?


「どれくらい寝てた?」


「2時間半くらい」


 自分の中にあるスキルを確認する。うん、8割は回復してる。これならイケる!

 さあ、なんでも出てこい。全部叩きふせてやる。


「あ、フラグっぽいこと考えた」



 それがマズかったのかどうか。真っ黒になった黒門が、表現おかしいけど、3倍くらいに大きくなった。


「あ、ヤバ」


 普段は半径10メートルくらいの円柱形なバトルフィールドが、ぶわっと広がった。今や半径は20メートルを超えてる。これって。


「デカブツが来ます!」


 バトルフィールの広さには疑問があったんだ。最初の大きさだと98層までの敵しか収容できない。それが倍、いや半径だから面積だと4倍か? んなことたどうでもいい。これは多分『99層からの仕様』だ。

 理由はふたつ。単純に接敵数が多くなるのと、デカブツが現れるから。


 そしてそいつが現れた。


「サワ・サワノサキ……。アレはなんだ」


 ぬめりとした緑色の鱗肌。ロックリザードを5倍にしたような体躯。コウコリみたいだけど、比較にならないほどの巨大な羽。


「ワイバーン。99層ゲートキーパー」



 ◇◇◇



「絶対に近寄らないでください! レベル100クラスです!」


 くっそう抜かった。他のメンバーのジョブ構成を聞き忘れてた。『訳あり』は1週間もあれば、普通にジョブを変えてくる。『ブラッドヴァイオレット』を構成できない。


「サワ」


「ターン」


「やるぞ」


「うんっ。ズィスラ、ヘリトゥラ、キューン、ポリン!」


 この瞬間から『ルナティックグリーン』は『ブラッドヴァイオレット』兼任だ。

 大丈夫。単体なら勝負になる。


「サワ、あれ」


 唖然としたように、ズィスラが呟いた。

 扉が消えてない。続けて2体。合計3体。そうして黒門が消えた。なんの冗談だろ。



「あはっ、あははははっ!」


 思わず笑い声が出た。


「ばっかじゃないの? ワイバーンが3体だって、この状況で?」


 そうだ。そもそも100層目指して、わたしたちはレベルを積んできた。

 それをさ、途中の苦労をすっ飛ばして、目の前に大ボス。こんな美味しい話はない。


「『一家』と『零』、『クリムゾン』と『シルバー』、全冒険者あぁ、ハウンドを掃討しろお!!」


 テンションが高くなりすぎて吠えちゃったよ。ビビらせちゃったかな。ちょっと固まってる。


「動けえ!!」


「まったく貴様ときたらあ!」


 最初に動いてくれたのはオーブルターズ殿下だった。


「ベンゲルハウダー。行くぞ!」


 続けてオリヴィヤーニャさんも。ありがとう。

『クリムゾンティアーズ』と『シルバーセクレタリー』は言うまでもないね。とっくに暴れてる。



「リッタ、シローネ! 一体ずつだよ。イケるね!?」


「もちろんよ!」


「おう!」


「すっごく重要なことを伝えるよ。『最初の1回だけ』超位ジョブチェンジアイテム、確定ドロップだよっ!」


 それが3体いる。1個だけなのか3個なのかはわからない。だけど、繰り返しになるけど、こんな美味しいシチュエーションはそうそうないぞ!


「『BFS・INT』『EX・BFS・INT』『EX・BFW・SOR』」


 出たよ、テルサーの初手大規模バフ。レベルが4つ飛ぶんだけど。

 きっちりバトルフィールド形成してる。ギリギリでワイバーンを1体、ハウンドは沢山だ。


「ねえテルサー、今のジョブは?」


「『ロウヒ』です。レベルは減っても78!」


「うわあ」


 ヴィットヴェーン3大ウィザードが、4大ウィザードになっちゃってたよ。


「シーシャ!」


「はい、サー姉様! 『BFS・INT』『EX・BFS・INT』」


 今度はシーシャがリッタをバフる。レベルが2個消えた。もったいないけど、『ブルーオーシャン』も普通に接敵判定してる。こっちもワイバーンを1体。


「ねえ、まさかとは思うけど」


「そうよサワ。今のわたくしは『ラドカーン』」


 リッタまでダブルウィザードになっちゃったのかあ。


「そしてレベルは85! テルサーには負けないわ」


 本当にみんな凄い。1週間、席を外してただけでこれだ。



「ブレスがくるぞ。ジャリット、リィスタ!」


 チャートが叫ぶと同時に、ふたりが盾を構えた。上手い。キッチリ、シュエルカとテルサーを守ってる。シローネとチャートはカバーしなくても平気だもんね。


「こっちもくるわ。イーサ、ワルシャン」


 猫耳ワンニェとニャルーヤも問題ないんだろうね。イーサはリッタを、ワルシャンはシーシャをがっつり守る。

 すなわち万全だ。


『ゴウァァァ』


 バトルフィールドに炎が吹き荒れる。だけど、2人ずついる盾がいるから大丈夫。

 そして、ブレスが終わった後に声が響いた。



「『活性化』『克己』『一騎当千』『芳蕗』『乾坤一擲』……」


「『北風と太陽』『明鏡止水』『ハイニンポー:ハイセンス』『ハイニンポー:4分身』」


 チャートとリッタが滔々とスキル名を連呼する。あのさ、やりすぎだと思うよ、多分だけど。


「『ファイナルホーリーアタック』!」


「『秘宝サンポ』! 『月と暁の星』!」


 それぞれ4人になったチャートとリッタが必殺技を繰り出した。片方は意味のない聖属性だけど、それでも一撃必殺の攻撃。もう片方はナイフの雨と、無数の流星だ。


「『切れぬモノ無し』!!」


 そっから被せるのっ!?



 ◇◇◇



「まったくもう、手が抜けないじゃない」


 2体のワイバーンと数十匹のヘルハウンドが消えた。残るは最後のワイバーン。


「手出し無用! 『ルナティックグリーン』が始末をつける!」


 わたしたちが数歩を踏み出しバトルフィールドが形成された。巻き込まれたハウンドは20匹くらいかな。邪魔だなあ。


「『マル=ティル=トウェリア』」


 6発のハイウィザード最強魔法が放たれた。ヘルハウンドが消滅する。



「ヘリトゥラ。バフを。レベル使うことないよ」


「はいっ! 『BFS・INT』『BFS・STR』『BFS・AGI』『BFS・DEX』」


 あれ? 個人バフはいいんだけど、それって全部ズィスラに掛かってない?


「ごめんなさい。ズィスラがどうしてもって」


「えぇ!?」


「わたしが始末をつけるわ!」


 ああえっと、ズィスラ。ここはわたしとかターンがビシっと決めるシーンじゃないかなあ。


「『活性化』『克己』『芳蕗』『一騎当千』『明鏡止水』……」


 ズィスラの自己バフがどんどん乗っかっていく。


「『修行を思い出せ』! 『踏み込み』『無影脚』!!」


 彼女の繰り出した蹴りが、ブレスを吐こうとしてたワイバーンの顎をかちあげた。

 ああ、胴体が丸見えだ。


「『ヴォルンドの歌 フンディング殺しのヘルギの歌 そのいち』」


 それはヴァルキリーの持つ剣技スキルのひとつ。それをズィスラが高らかに歌い上げる。

 ズィスラの捻り込むような一撃は、ワイバーンの首を見事に、まるで麦の穂のように刈り取った。

 はいはい。まーたわたしの出番無しだよ。


「見たっ、サワ!」


「う、うん。凄かったねズィスラ」


「やるな」


「そうだね、ターン。どうして譲ったの?」


「ズィスラが燃えていた」


「この場合、わたしの立場は」


「やむなし」


「そうなんだあ。んじゃ、ヘルハウンド、掃討しようか」


「おう」



 2時間後に黒門が消えて、ヘルハウンドを始めとしたワンコロ氾濫も収まった。

 ここに、ベンゲルハウダー黒門氾濫は終息した。


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