第199話 2日半ほど頑張ろう





「ヘルハウンド……、それにポチハウンド、モモハウンド、ココハウンドまで」


 ヘルハウンドとその上位種が黒門から溢れだした。

 わたしたちがベンゲルハウダーに着いて2日半、ついに片方の黒門が開いた。そして出てきたのがワンコロの群れだ。


「70層相当です! 速くて、鳴き声にスタンがあります。上位種はポチが毒、モモが睡眠、ココが恐慌!!」


「了解だ。やるぞ!」


 オリヴィヤーニャさんが気合をいれた。


「うっす!!」


 前線は8パーティ。すなわち『ルナティックグリーン』『ライブヴァーミリオン』、ベンゲルハウダーからは『フォウスファウダー一家』と上位勢らしい2パーティ。最後に王都から駆け付けた『万象』の3パーティだ。

 オーブルターズ殿下も来てくれたんだ。いいねえ。



 後ろには陣地がある。そこにベンゲルハウダーとキールランターの冒険者が200人くらいか。


「名前の割には全然可愛くないんだよねえ」


「うむ」


 ポチとかモモとかココとか言っても、全然モフモフしてない。これならターンたちの方がずっと可愛いじゃないか。


「うむ」


「ターン、心読むの止めて」



 さて、主敵は確定した。ならばここからどうするか。

 まずヘリトゥラ。もうレベルはそうそう上がらない。だけどこの状況だと、彼女の『コンホヴァル』は最強魔法だ。ラドカーンの使う『月と暁の星』『グリフィン』もマッチする。どうする。


「ヘリトゥラ、どう思う?」


「……魔法を撃ち尽くしたら、ニンジャになります」


「了解! それとターナはガーディアン。ケータラァさんはグラディエーター」


 さらに『ライブヴァーミリオン』のふたりを固くする。


「わかったわ」


「わかりました」


 前衛志向の強いケータラァさんだ。やる気も出るだろう。


「ターナが先。レベル20くらいになってから、ケータラァさんです。ターナ、行って!」


「わかったわ!」


 1層上、5層に配置されたジョブチェンジアーティファクトにターナが向かう。黒門氾濫の内容次第でいつでも動かせる態勢らしい。やるねえ、ベンゲルハウダー。

 ナイチンゲールのターナがガーディアンになれば、かなり安定するはずだ。頼むよ。


「『月と暁の星』」


 ヘリトゥラが繰り出したのは、ラドカーンの魔法だ。ロウヒの『北風と太陽』に似てるけど、こっちはガッツリ物理だ。天井付近に浮かび上がった月から、小さな星が敵に降り注いだ。よくあるアレだね。

 一撃でバトルフィールドにいた30匹くらいが消滅した。強い。


「次。9時」


 ターンから短い命令が下された。ポチたち上位種の密度が高い所を狙ってるんだ。


「『グリフィン』」


 再びヘリトゥラの魔法だ。こっちはなんと変身!

 上半身が鷲で下半身がライオン、お馴染みのモンスターだね。体長は3メートルくらいだ。


『グラァァァ!』


 そんなヘリトゥラが、ハウンドの群れをなぎ倒していく。これまた強い。これぞ独擅場だ。

 だけどオーバーキルも否めない。やっぱりINTが下がってもニンジャになってほしいかな。レベルは上げ直せばそれでいいし。



「戻ったわ」


 そんなことをしてる間にターナも戻ってきた。砦に置いといた大楯を持っての登場だ。

 さあ、レベル上げ放題だよ。


「最初はいいんだよねえ」


 スキル満タンの状態で戦闘開始したわけだ。当然しばらくは問題ない。

 それが1時間、2時間経つごとに、状況は苦しくなる。



 ◇◇◇



「スキルが尽きましたあ!」


「砦に入れ。前線はわれたちが守る」


「はい!」


 戦闘開始から3時間、そろそろ脱落するパーティが出始めた。そうだ、ここからが勝負だよ。

 この場合の脱落って、スキル枯渇ね。別に死人が出たわけじゃないから。


「サワ・サワノサキ! どうする!?」


 オリヴィヤーニャさん、わたしに判断を仰がなくても。


「スキルが切れたパーティを、砦で強制睡眠させてください。わたしたち2パーティはスキル無しでもいけます。オーブルターズ殿下、当然できますよね?」


「当たり前だぜ!」


「なによりです。ベンゲルハウダー組も『一家』を残してスキルを回復してください」


「わかった。聞こえたな皆ども。寝ろ! 3時間後に叩き起こす!」



「『コンホヴァル』。撃ち終わりです」


「了解。ヘリトゥラ、行って!」


「はい!」


 ついにヘリトゥラが魔法を撃ち尽くした。彼女だけでイヌコロを2000匹くらい倒したんじゃなかろうか。お疲れさま。


「ターンはこの後どうする?」


「ヴァハグンだな」


 ターンはとっくに魔法を撃ち尽くして、今は杖で相手を倒しまくってる。

 休み無しで殴りにいくかあ。でも剣士系じゃないとスキル足りなくない? ヴァルキリーとか。


「要らない。殴る」


「どうして心を読めるかなあ」


「バディだからだぞ。それとドールアッシャに負けたくない。超位を取る」


 ターンのことだ、3つか4つ、超位を取るつもりなんだろうなあ。わたしもだけどね。



「レベル22よ」


「ケート、行きなさい!」


「はっ」


 横で戦ってた『ライブヴァーミリオン』だけど、どうやらターナがガーディアンをコンプリートしたみたい。今度はケータラァさんだね。

 さて、こっちはどうしよう。


「わたしはイザという時があるからダメだね。ポリンかな」


「うん」


 もうひとつの黒門が残っている以上、わたしはジョブチェンジできない。ならば次はフェイフォンのキューンか、ウラプリーストのポリンか。

 素手系もそうだけど、ウラプリーストは独自スキルが足りない。ここは汎用性のあるジョブがいいんだよね。


「相手がわかってたら先にジョブチェンジだったんだけどねえ」


「やむなし」


「そりゃそうだ。今を頑張ろう」


 黒門氾濫は事前に相手がわからないのが痛いね。



 ◇◇◇



 そして1日が経った。『ルナティックグリーン』は1回、『ライブヴァーミリオン』が2回の休息を取って、戦い続けてる。

 ターンはヴァハグン、ズィスラはヴァルキリー、キューンはレ・ロイ、ポリンがツカハラになった。ヘリトゥラはもうちょいでハイニンジャかな。

 もう全員が前衛だよ。


「なあ、なんで貴様らは笑ってるんだ」


「ジョブチェンジとレベルアップしてるからですね」


「まったく、噂で聞いてるぞ。『狂気の沙汰』だな」


「誉め言葉ですから、それ」


 オリヴィヤーニャさんが呆れるけど、苦しい時こそ笑うのが『訳あり』だ。

 ほら、それぞれジョブチェンジした『ライブヴァーミリオン』だって笑ってるでしょう。


「ならばわれらも笑おうか」


『一家』の女性陣が獰猛に笑い、男性ふたりは苦笑いだ。

 それを見た他の冒険者たちも笑いはじめる。


「うわははは!」


 オーブルターズ殿下の笑い声が暑苦しいね。

 だけどまだまだイケる。なんたって戦線が安定してるから。だけど、もうひとつの黒門がそろそろ危ない。明日か明後日には開くね、コレ。



「アレが開いたらどうなると思う?」


「さあ、出てくる敵次第ですね」


「まあ確かに、だが」


「いざとなったら、最終手段を使います」


「そんなモノがあるのか」


 オリヴィヤーニャさんが聞きたそうな顔をしてるけど、教えてあげない。使いたくないんだよね、『虚空一閃』。『死霊のオオダチ』はストックがあるけど、カタナもレベルも惜しいんだよ。


「大丈夫ですよ、多分」


「根拠でもあるのか?」


「敵はわかりません。だけど味方はわかるんです。後1日かそこらで、来ます」


「そこまで期待できるのだな」


「もちろんですよ。『ルナティックグリーン』が3倍になると思ってください」


 冗談でも誇張でもない。『ブラウンシュガー』と『ブルーオーシャン』には、それくらいの価値がある。



 ◇◇◇



 そして1日経って、ついにもう片方の門が真っ黒になった。いつ開いてもおかしくない。

 間に合わないか。


「待たせた」


「来たわよ!」


「シローネ、リッタ!」


「あたしたちも忘れてもらっちゃ困るねえ」


「アンタンジュさん!?」


「ハーティさんの指示です。ヴィットヴェーンは任せてほしい、と」


「ピンヘリアまで! ところでなんで、砦の上で整列してるわけ?」


「格好良いからだ!」


 チャートが胸をそらせた。

 うん。確かに格好良いよ! 流石『訳あり』、わかってる。



 頼もしい仲間たちが参上した。『クリムゾンティアーズ』『ブラウンシュガー』『ブルーオーシャン』、さらには『シルバーセクレタリー』が!


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