第198話 今度はベンゲルハウダーだ





「黒門!?」


「ああ、桃色であるらしいが。ヴィットヴェーンで報告があったな。2つだ」


 翌日、そろそろヴィットヴェーンに戻ろうかって時に、オリヴィヤーニャさんたちが再訪した。そして伝えられたのが、ベンゲルハウダーに黒門が出たって話だ。

 ベンゲルハウダーは王都から北に馬車で5日くらいらしい。わたしたちが急げば1日で到達できる。


「ターン、クリュトーマさん」


「いくぞ」


「当然いくわ」


 2パーティのリーダーに確認をとる。わたし以外の11人、全員が頷いてくれた。

 まあ当然だよね。それが『訳あり』なんだから。



「『シルバーセクレタリー』。誰かいる?」


「ここに」


 メンヘイラが即登場した。良かった、いてくれた。王都で情報収集中だったはずだもんね。

 公爵邸への不法侵入はこの際不問だよ。


「ヴィットヴェーンに行って。『ブラウンシュガー』と『ブルーオーシャン』を直接ベンゲルハウダーへ。リーダーはリッタ。判断は任せるって伝えて」


「畏まりました」


 そう言って、メンヘイラが消えた。


「今のは、なんだ?」


「ウチのメンバーですよ」


「そ、そうか」


 オリヴィヤーニャさんが驚く顔って初めて見たよ。凄いね『シルバーセクレタリー』。


「じゃあ、行きますか」


「……すまん、恩に着る」


「いえ、レベルアップのためですよ。貴族絡みで色々あったので、丁度良い気晴らしです」


「ぬかせ」


 半分本気だけどね。



「はははっ、凄いな!」


 わたしたちは街道を北上する。全力疾走だ。

 持ってきた荷車はふたつ。わたしとキューンが引っ張ってる。荷物は水樽とそして、レックスターンさん、ポリアトンナさん、ペルセネータさんだ。

 全力進軍には、ちょっとVITが足りないね。


「これが『訳あり』式です」


「導入しよう。移動は馬車と決めてかかった不明だな」


「そこまで言わなくても。それでえっと、4日前の報告ですよね」


「そうだ。さて、着いた頃には何色かな」


 オリヴィヤーニャさんがニヤリと笑う。獲物を見つけたって、獰猛な笑みだ。

 ウチにもそういう笑い方する人、結構いるんだよね。リッタなんか特にそう。



「乗り心地はどうですか?」


「快適だよ。どうやっているんだい」


 レックスターンさんが答えた。


「段差とかがあったら、瞬間的に持ち上げてるんです。コツをつかめば結構イケますよ」


「えぇ……」


 練習次第だ。いけるいける。たまに基礎ステータスも上がるからおすすめですよ。



 ◇◇◇



「状況はどうか!?」


「お早いお着きで。まだ紫には至っていません」


「そうか。潜るぞ」


 ベンゲルハウダーは、なんと言うかヴィットヴェーンに似てた。街の外れに迷宮があって、領主邸は目立つけど、本当に迷宮依存なんだなあ、って街並みだ。

 伝わるかな。全体的に素朴なんだよね。うん、むしろ落ち着く。


「6層でしたっけ」


「そう聞いている。いけるか?」


「そりゃもちろん」



「『ティル=トウェリア』」


 5層にいたゲートキーパーは、ターンがあっさり焼き尽くした。まあこの程度の階層なら初見でも問題ないね。

 そうしてわたしたちは迷宮を突き進んだ。



「確かに黒門です」


「そうか」


 6層にたどり着いたわたしたちの目の前には、黒門があった。

 ひとつは紫。ただしもうひとつはまだ紫に届いてない。薄紫ってところかな。だけど、これで5日目ってことは。


「マズいですね。多分ですけど、ヴィットヴェーンの時と同じ規模かもしれません」


「ヴァンパイアロードとプリンセス、だったか」


「はい。想定レベルは70から80で見積もってください」


「サワ・サワノサキ。お前ならどうする?」


 深刻な表情でオリヴィヤーニャさんが聞いてくる。


「単純ですよ。レベルアップです。あとは陣地構築でしょうね」


「ははっ、なるほどその通りだ。だが猶予はあるのか?」


「濃い方は2日から3日でしょう」


 うーん、ジョブチェンジをするにしても1回。あとは敵が出てきてから考えるしかないかな。


「ジョブチェンジアーティファクトを迷宮に入れることは、できますか?」


「よかろう」


 流石は迷宮総督、即断だ。



「では、いこうか。46層と最深層、どちらにする?」


「モンスタートラップを2セットしてから、最深層でお願いします」


 わたしがレベル68、ヘリトゥラに至っては88だ。他の4人は40台だから、ちょっと上げてから最深層が妥当かな。


「ヘリトゥラはどうするの?」


「ロウヒかジャービル、ジョフクが理想だけど、ニンジャもいいかなって思います」


「なるほど、INT重視だね」


「はい」


 ジャービルとジョフクはオーバーエンチャンターの上位ジョブだ。だけど、ジョブチェンジアイテムはまだ持ってない。ニンジャからハイニンジャが現実的かあ。


「とりあえず潜るだけ潜ろう。時間が無いからね」


「おう!」



 ◇◇◇



「へーい、バッタービビってる、バッチコーイ」


「サワなんだそれ?」


「なんとなく」


「そうか。ヘイ、バッチコイ」


 ターンと何気ない会話をしてるけど、今やってるのは46層のモンスタートラップ狩りだ。

 バッタの体液だらけだけど、うん、悪くない。なんせ速度はあるけど物理一辺倒だ。『ルナティックグリーン』からしてみればカモだね。


「あうっ!」


「ランデ!」


 あ、ランデが被弾した。だけどねえ。


「ターナ、よそ見しない。ランデ、自分で治して。あと笑え、歌え、声出しだ」


「わかってるぅー。バッタバッタにするわー」


 それでよし!

 さて『ライブヴァーミリオン』はしばらくここでレベルアップかな。


「オリヴィヤーニャさん、深層お願いできますか」


「『ライブヴァーミリオン』だけ残して大丈夫なのか?」


「クリュトーマさん?」


 オリヴィヤーニャさんが聞いてくるから、あえて声をかけてみた。


「問題ないわ。行って」


「だそうです」


「はははっ、貴様らは凄いな! 負けてはいられん。では行くぞ」



 なるほど、アンデッド系か。

 最高到達層は、ヴァンパイアやレベルスティーラー、あとマミーなんかが沢山いた。


「ゲートキーパーはヴァンパイアロードとガードヴァンパイアだ」


 69層だし、ヴィットヴェーンと大体一緒だね。これならイケる。


「ポリンも前衛。さあ、行くよ」


 ポリンは今、ウラプリーストだ。レベルドレインは効かない。いやそれどころか、今の『ルナティックグリーン』なら、全部避けることだってできる。

 リッタがいれば、もっと効率的だろうなあ。だけどね。


「『BFS・INT』『BFW・MAG』」


 ヘリトゥラが自分のINTを上げて、さらにエリアINTバフを掛けた。


「『コンホヴァル』!」


 そうだ、彼女にはコレがある。レベルとINT依存で格下を即死させる、カスバドの魔法。

 現在のレベル89。さらにウィザード、エンチャンター系を渡り歩いてきたヘリトゥラのINTは『訳あり』屈指だ。


「『マル=ティル=トウェリア』」


 バタバタと倒れて消えていくヴァンパイアやレベルスティーラーの生き残りは、ターンの魔法で一掃だ。なんたって現役エルダーウィザード、補正INTが違う。



「なるほど、それがマルチジョブの真価か。6人がエルダーウィザード。凄まじいな」


「ナイト系ジョブも積んでありますから、硬いですよ。それに、聖属性スキルもあるから、アンデッドとは相性がいいんですよ」


 ズィスラとポリンが、ヴァンパイアロードを叩き潰した。そりゃバフってから聖属性攻撃かければイケるさ。

 ヴィットヴェーンで実証された、定評あるアンデット殺しだ。


「『一家』はどうします。パーティ分割したらいけますけど」


「いや、われたちはここでレベリングをするさ。最深層を獲られるのは悔しいが、貴様たちは先に行け」


『一家』にも意地があるってか。うん、わかるよ。


「わかりました。じゃあ先に行きます」



 ◇◇◇



「戻りました」


「5時間くらいか。どこまでいった?」


「72層までですね。グランドヘルハウンドがゲートキーパーでした。あとはヘルハウンドとコカトリスなんかが。速さと石化対策が必要です」


「そうか」


「暫定マッピングはしておきましたけど、まだまだです」


「それでも助かるさ」


 72層までは、これまたヴィットヴェーンと似たようなモンスター構成だった。

 わたしがレベル76、ヘリトゥラが90、他のみんなは60台後半になったけど、これはジョブチェンジに悩むなあ。

 強いて言えば、ターンには前衛ジョブを担ってほしいけど。うーむ。


「とりあえず戻ろう。黒門が心配だ」


「わかりました」



「確かにこれは、近いですね。早くて明日、遅くても明後日でしょうか」


「そうか……。ジョブチェンジはマズいな」


「はい」


 44層で『ライブヴァーミリオン』と落ち合って6層まで戻ったら、片方の黒門がかなり黒っぽくなってた。もう一方も、紫だなって感じだ。


「どうします?」


「限界だな。冒険者を全員引き上げさせる。1日の休息を挟んで総動員だ」



 ベンゲルハウダー迷宮の異変が始まろうとしてた。


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