第197話 行く果てにあるパーティ





「オリヴィヤーニャさん、ステータスを見せてもらってもいいですか」


「構わん。ほれ」


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  JOB:EINHERJAR

  LV :68

  CON:NORMAL


  HP :450+398


  VIT:149+173

  STR:157+230

  AGI:137+91

  DEX:166+70

  INT:25

  WIS:42+83

  MIN:46

  LEA:18

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 また出た、天才だよ。LEAが18とかさ。

 なるほど強いはずだ。補正入れてSTRは400近いし、AGIとDEXは200を超えてる。

 だけどそれにしちゃ、INTとWISが低すぎないか?


「凄いですね。ヴィットヴェーンでもこれだけのステータスは、そうそう見ませんよ」


「そうか。ならば努力の甲斐もあったというものだ」


 いや、本当に凄いよ。まさかヴィットヴェーン以外にこんな人がいるとは思わなかった。前衛ステータスだけなら、ターナやランデより上なんじゃないかな。

 だけどこのアンバランスさはなんだろ。


「あ、あの、もしよろしければ、ジョブ遍歴なんかも」



「その前にだ。われはお前に感謝すると言ったろう?」


「はい」


「ジョブチェンジを繰り返し、スキルを集め、基礎ステータスを伸ばす。それを知ったのは半年ほど前だ」


 なんか自分語り始めたね。ああそうか、どっかでヴィットヴェーンの事情を聞いたのか。


「なるほどと思った。到達できぬ階層を目の前にしてレベルを停滞させるより、ジョブチェンジをして基礎ステータスを上げながら、さらに深層を目指す。道理だ」


 すっげえ。この人わかってるわあ。


「スキル数も増え、より戦いやすくなる。ナイト、ロード? 尊き者の誇りなどクソ食らえだ」


 言いすぎだよ。


「その結果がこれだ。われのジョブ遍歴は、ナイト、ヘビーナイト、ロード、ソルジャー、ファイター、シーフ、カラテカ、グラップラー、ウォリアー、パワーウォリアー、ソードマスター、サムライ、ケンゴー、プリースト、モンク、ニンジャ、ハイニンジャ、ロード=ヴァイ、そしてエインヘリヤルだ」


 うわあ、プリーストも取ってるけど、それってモンク前提でしょ。前衛ジョブばっかりを並べたんだ。


「おおむねレベル50台で揃えている。ハイニンジャ以降は深層探索ができたので60台だな」


「あの、ベンゲルハウダーの探索最深層は」


「69層だ」


 王都のキールランターより、10層以上先に行ってるじゃないか。

 ヤバい。この人、ガチ勢だ。



「さて、こちらも見せたのだ。お前のステータスも当然開示してくれるのだろうな」


「ええ、もちろん」


 わたしは、インベントリからステータスカードを取り出した。


 ==================

  JOB:YAGYU

  LV :68

  CON:NORMAL


  HP :710+401


  VIT:226+73

  STR:292+153

  AGI:210+169

  DEX:275+175

  INT:127

  WIS:140

  MIN:61+101

  LEA:17

 ==================


「ははっ、あははははっ! 勝てぬはずだ。なんだそのバカげたステータスは」


 STRはおいといて、AGIとDEXが全然違うからね。受けに回れば、そりゃ負けるはずがない。


「なあ、お前のトコ、『訳あり』だったか? こんなのがゴロゴロしてるのか?」


「そうですね。そこにいる『ライブヴァーミリオン』なら五分。それ以外の『クリムゾンティアーズ』『ブラウンシュガー』『ブルーオーシャン』、そしてわたしたち『ルナティックグリーン』。24人はオリヴィヤーニャさんより強いでしょう」


「傑作だ!」


 実際はジョブ次第だけど、前衛職を3日くらいレベリングすれば、まあ負けないだろう。

 それにしたって、そんな話を聞いてカラカラと笑っているこの人、凄いなあ。めっちゃ格好良い。



 ◇◇◇



 翌日オリヴィヤーニャさんたちが、わたしたちの逗留先、メッセルキール公爵邸を訪ねてきた。6人で。


「やあ、初めまして。オリヴィから聞いているよ。サワ嬢だね」


 にこやかに挨拶してくれたのはオリヴィヤーニャさんの夫、レックスターン・ヴィエト・フォウスファウダー公爵だ。金髪碧眼の中々のイケメン、いやイケオジってやつか。

 表面上はとっても良い人そうだけど、わたしは貴族を疑ってかかるのを思い知ってる。さて、どんな人なんだろう。


「わたくしはブラウディーナよ」


「僕はブラウの夫で、ホーウェン。よろしく」


「わたしはポリアトンナ。次女ね」


「わたしはペルセネータ。三女です」


 えっとつまり、フォウスファウダー家は3人娘がいて、ホーウェンさんが入り婿になったらしい。

 長女のプラウディーナさんから順に23、21、19歳だそうな。


「これがわれのパーティ、その名も『フォウスファウダー一家』だ」


 まんまじゃねーか。



「では聞かせてもらいたい、われらに足りないモノだ」


 大問題なのは、なんと半月ほど前に、ベンゲルハウダーでも氾濫が起きたということだ。

 20層から25層のモンスターが異常繁殖したらしくって、『一家』の活躍もあってなんとか終わらせたらしい。王都に来てたのは、それの報告が理由だ。


 やっぱり、迷宮が強者を求めてるって説が有力なのかな。わたしはベンゲルハウダーと一切関わりなかったわけだし。


「マルチロールは……、できてますね」


 オリヴィヤーニャさんが尖ってたから、どんなジョブ構成かと思ったら、実はしっかり考えられてた。

 旦那のレックスターンさんが後衛系とナイト系、ブラウディーナさんは前衛アタッカー兼カダ。残り3人はバランスの良いヴィットヴェーン的マルチジョブだ。

 全員がプリースト持ちで、ポリアトンナさんとペルセネータさんは、なんとエルダーウィザード持ちだ。エンチャンターも4人いるし。それとホーウェンさんがナイチンゲールを取ってるのも大きい。ああ、男の人でもできるんだよ、ナイチンゲール。


「うん。素晴らしいパーティだと思います」


「うむ、われもそう思っている。だがお前に負けた。純粋な前衛勝負でだ」


「それは実戦期間とジョブ数でしょう。強いて付け加えるなら、スキルトレースでしょうか」


「スキルトレース?」


「はい。行動系スキルを使う時の感覚を、スキル無しで疑似的に再現するんです」


「……なるほど」


 理解の早い人だから、多分これだけでわかっちゃうだろうなあ。


「スキルじゃないのがミソなんです。途中で動作を中断したり、軌道を微調整したり。もちろん威力は落ちますけど、継戦能力が上がるのは確実です」


「うむ、意識してみるか。皆もよいな」


 ああ、ホントにリーダーなんだ。



 ◇◇◇



「なにより大きかったのは、46層でモンスタートラップを見つけたことだな」


 ジャイアントローカスト。つまり巨大バッタの群が出てくるらしい。


「なるほど。それで高レベルのジョブチェンジが捗ったわけですか」


「そうだな」


 公爵邸の裏庭で、ターンがブラウディーナさんをあしらってるのを見ながら、会話は続いてる。

 ところでターンって今、エルダーウィザードだよね。普通にシュゲンジャレベルの杖術なんだけど。ステータスどうなってんの?



「中々有意義な時間だった。感謝する」


「いえ、こちらこそ」


 うん。なんかこう貴族的やりとり無しで、こうやって冒険者談義ができたのが嬉しい。


「あの、最後にひとついいですか」


「なんだ?」


「気を悪くしたらごめんなさい。『一家』はわたしの目指す理想のパーティを体現してます」


「どういう意味だ」


 本心なんだよね、コレ。



「わたしたちは今、とことん個人のマルチジョブを突き詰めています。ですけど、最終形があるんです」


「それがわれたちだとでも」


「そうです。迷宮深層は個人の力だけでは歩けません。パーティの力が要るんです」


「まるで見てきたかのように言う」


 まあ、ゲームでだけどね。


「わたしたちは上位3次ジョブを重ねてますが、その先、超位ジョブはそうもいかないんです」


「……条件は?」


「超位1次でレベル100と100層以降に出るアイテムです。超位2次ならレベル200」


「まさか、3次があるのか」


「あります。もちろんレベル300と300層到達」


 300層までしかない迷宮で、300層到達がジョブチェンジ条件とはこれ如何に。

 よくあるお遊び、もしくはやり込み要素ってやつだ。



「なるほど。超位からは気軽にマルチジョブとはいかないか」


「はい。超位1次で2つか3つ。そこから先は役割分担をするでしょう」


「だからわれたちか。未完成の未来を見たわけだな」


「すみません。だけど本当に良いパーティだと思ってます」


「いや、よい。そうか、まだまだ先は長いな」


「ええ」



 ◇◇◇



 そうして『フォウスファウダー一家』は去っていった。


「あいつらはやるな」


「そうだね、ターン」



『ルナティックグリーン』と『ライブヴァーミリオン』も刺激をもらった。特に実力が近い『ライブヴァーミリオン』の気合が凄い。

 ありがたく応えなくっちゃね。さて、ヴィットヴェーンに帰ろうか。


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