第203話 新生ヴィットヴェーン





「またジョブチェンジしたのかい」


「ええ」


 だって80超えたしさ。

 ここのとこ『訳あり』じゃ、超位ジョブ構成が話題に上がる。サーシェスタさんやベルベスタさんは、それぞれモンク系、ウィザード系で納得してるけど、他のメンバーはそれに納まらない。


「結構迷ってるんですよ。後衛ふたつで前衛みっつとか」


「それは話に聞いた超位ジョブのことかな」


「そうですよ」


「私からしてみれば、遥か高みで想像もつかないね」


「そうでもないと思いますけど」


「そういうことを言えるのは選ばれた、いや失礼だったね、掴み取った者たちの贅沢ってものだよ」


 今日もポリィさんたちとレベリングだ。最近はスケジュールを変えて、2日に1回に変更してもらった。わたしたち自身のレベリングがあるからね。

 ベースキュルトたちもだ。あっちは自分で潜って頑張ってる。稼げ稼げ、そしてわたしたちに貢ぐがいいさ。



「悪い顔をしているぞ?」


「そんなことはありません」


 きりっ。

 そんなわたしは昨日、グラディエーターをレベル83にして、ジョブチェンジした。これでパワーウォリアー系とモンク系の超位ジョブがイケる。あとはどうしよう。近接系はターンだし、中距離と防御のロード系がいいかなあ。いやいや、ナイト系もアリだ。楽しいなあ、こういうの。


「ふむっ」


 鼻を鳴らすターンは、フェイフォンを終えてスクネになった。これで彼女はグラップラー系を網羅だね。最終的にはニンジャだろうから、近接の鬼と化す。


「今日も殴るぞ」


 そりゃまた、敵が哀れだねえ。

『クリムゾンティアーズ』はわからないけど、『ブラウンシュガー』と『ブルーオーシャン』はマルチ超位ジョブをやる気マンマンだ。燃える。


「そのためにも100層いかないとね」


「うん」


 キューンも気合をいれた。彼女は今『ジャービル』だ。オーバーエンチャンターの3次ジョブだね。近接ができる後衛を目指してるっぽい。殴りウィザードとかエンチャンターって格好良いよね。


「まったく、君たちときたら」


「ポリィさんもいずれこんな感じになるかもですよ。もちろんスケさんとカクさんも」


「はあ」


 なんだその気のないため息は、たるんでるよスケさん。

 いいかな、カクさんも。わたしたちの常識は毎日変わっていくんだ。ついてこれないなら、わたしたちが引っ張り上げる。レベリングを依頼をしたのはそっちなんだから。



 ◇◇◇



「86層まで行った」


「やったねシローネ。どうだった?」


「角が光ってるトナカイが出た」


「多分、ランタン=ポロだね」


 色々と調整しながら探索してるわたしたちだけど、今日、最深層を『ブラウンシュガー』が更新した。86層だ。

『ブラウンシュガー』『ブルーオーシャン』『ルナティックグリーン』で持ち回りなんだよね。


「シュエルカが腹にもらった」


「大丈夫なの!?」


 いや今そこにいるから、大丈夫なのはわかってるんだけどさ。それでも心配するじゃない。


「うん、速かった。みんなも気を付けて」


 シュエルカは後衛回復をメインにして、前衛は剣士系だ。今はグラディエーターの60台らしい。



「リッタ、ベースキュルトたちはどう?」


「ソードマスターまで来たわ。後は自分たち次第ね。せいぜいアイテムを流すくらいかしら」


 こっちも、ビショップを経由してモンクが終わった。後は自分たちで好きにやればいいかな。


「教導はおわりね。だったらわたしたちは、100層を目指しましょう」


 99層のワイバーンには特典がある。それがどんなアイテムか、誰が使うのかはまだわからないけど、燃えてしまうのは仕方ないよね。さあみんな、本当の深層だ。



 ◇◇◇



「というわけで、昨日をもって教導は終了です」


 翌日、迷宮前でわたしは宣言した。


「貴様っ! そういうところだぞっ!」


「知ったことではありません。各自頑張ってくださいね」


 聖騎士団の連中は苦笑いだ。


「最後にひとつ。御唱和いただけると嬉しいです。ズィスラ!」


「冒険者は諦めない!」


『冒険者は諦めない!』


 ズィスラの叫びに聖騎士団が乗っかった。なんだかんだでノリがわかってきてるじゃない。


「ポリン」


「冒険者は見捨てない!」


『冒険者は見捨てない!!』


 うん、御唱和ありがとう。その心がある限り、わたしたちは絶対にみんなを助けるし、その逆になった時、遠慮なく助けてもらうね。



「ステータスは嘘を吐きません。繰り返しましょう。たとえ地上でスキルが使えなくても、ステータスは嘘を吐かないんです」


 ただ事実を言ったった。


「つまり皆さん、聖ブルフファント騎士団は地上においてかなり最強で、迷宮では一流の冒険者です。誇ってください!」


「おおう!!」


「ほんとの最強で、超一流にはまだまだですけどね」


「やかましい!」


 ホントのことじゃん。



「ここで皆さんにご紹介した方々がいらっしゃいます。どうぞー」


 そう言われて登場したのは、怪しげな3人組。もちろんポリィさん一行だ。

 ポリィさんがメガネを外して、付け髭を装着する。髪型も戻した。

 カクさんとスケさんも、それぞれ『シャドウ・ザ・レッド』と『シャドウ・ザ・グリーン』をはずした。それを恭しくキューンとポリンに手渡す。


「で、殿下!?」


「やあ、聖ブルフファント騎士団も頑張っていたようだね」


「サワノサキ、貴様ぁ!」


「いやあ、わたしも今朝知らされてびっくりしたんですよ。殿下もお人が悪い」


「……」


 ベースキュルトがプルプルしてるけど、顧客情報は秘匿するものだよ。わはは。


「ちなみにスケさんがガーディアンで、カクさんがホーリーナイト、ポリィさんはエルダーウィザードです。レベル50台で切り替えてるから、みなさんより強いですよ」


「ふんっ、貴様のやったことだ、それくらいは想像できるわ」


 あらま、理解されてたかあ。

 こうして第5王子迷宮総督閣下を筆頭に、新生聖ブルフファント騎士団が活動を開始した。



 ◇◇◇



「それで、殿下の奥様やお子さんたちはどうなります?」


「父上は手出ししないと、そう言っている」


 ベースキュルトが断言した。この状況になると、殿下の妻子はむしろ王家の人質って感じになる。


「当面は仕方ないよ。精々功績を上げて陛下と兄上におもねってみせるさ」


 殿下はそう言うけど、なんかなあ。こっちとしても『シルバーセクレタリー』と『オーファンズ』を戻したいんだけど。


「父上の働きかけで、王家とメッセルキール公家から人員を出すそうだ」


 あ、戻そう。『オーファンズ』はともかく、『シルバーセクレタリー』は公然にしたくない。彼女たちはウチの事務員。そうだね。

 斜め後ろに立ってるハーティさんに目くばせしておいた。



 ちなみに今わたしたちがいるのはフェンベスタ伯爵邸の応接間だ。伯爵と冒険者協会会長もいる。

 事情だけは伝えておこうって感じになったんだ。伯爵と会長は聞きたくなかったって顔してるけどね。


「我は伯爵邸を出ようと考えている」


「なにかご不満でも」


 フェンベスタ伯爵の顔色が変わった。


「いやいや、総督としての体裁もあるし、聖騎士団もいる。ヴィットヴェーンのどこかに専用の建物はないかな」


「……なにぶん辺境なもので、殿下の格を考えますと」


 伯爵がハンカチで汗を拭いた。


「騎士団専用の設備ともなると」


 ベースキュルトとしても、体裁は必要だろうね。


「新しく造りませんか?」


「新造か」


 伯爵の顔色が悪くなってく。ここで殿下に恩を売るのもいいんじゃない?


「資材と建築はサワノサキで持ちます。フェンベスタ伯とサシュテューン伯は資金でどうです? 格安で高級に仕上げましょう」


 サシュテューン伯爵、ここにいないけどね。


「格安というのは聞かなかったとして、それが最善だな。ヴィットヴェーンとサワノサキの中間に土地がある」


 やむを得ず、みたいなことは流石に言わない。フェンベスタ伯爵は観念したみたい。


「決まりでしょうか。では殿下、王家の格を超えない程度を教えていただけますでしょうか」


「そうだな」


 わたしも学んだんだ。体裁大事。ここで全力出したら王宮より凄いことになりかねない。


「サワ嬢、ほどほどに頼むよ」


 最後に会長が釘を刺してきた。大丈夫。秘密通路とか脱出路とかはキッチリ作るから。



 こうして迷宮総督館の建築も含めて、ヴィットヴェーンの新体制は一応落ち着いた。

 さて、100層を目指そうかな。


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