第188話 だからこっちの方が強くなれるんだって
「これは、聞きしに勝る凄さだね」
「凄いだろう」
「うむ。チャート嬢は凄いね」
「むふん」
仲が良さそうでなにより。
背負った人物の適正レベルもへったくれもない。チャートとターンは最小限の動きで敵を屠って前進する。
「負けてられないわね」
「はいぃ」
ウィスキィさんとワルシャンもそれに続く。わたしはのんびり最後方だ。ムキになる時間じゃない。
ここは39層だ。35層でベースキュルト組とはすれ違わなかった。変装してるとはいえ第5王子を見せたくなかったから、クリュトーマさんに予定時間を教えて会わないように気を使ったんだよね。
「ベンターさん、慣れてきましたか?」
「はっ、補正ステータスもありますので」
ベンターさんとヘックスさんは、昨日パワーウォリアーになった。コンプリートも終わってるから、こんな状況でも会話できるくらいの余裕はある。
「頑張って見返してあげましょうね」
「見返すとは何のことでありますか」
またまたあ。家柄か実力かは知らないけど、面白くない立場なんでしょ? だからベースキュルトに生贄にされた。
「聞き方を変えますよ。強くなりたいですか?」
「……そうありたく思います」
「なら、なりましょう」
「……感謝、いたします」
「いえいえ、支払いは侯爵令息閣下ですから」
すこしは打ち解けられたかな。
◇◇◇
数々のゲートキーパーを打ち砕いて55層だ。
「あの、ポリィさんだったでしょうか」
「はいそうですが、なにか?」
なんとヘックスさんが第5王子に話しかけた。
「これから本格的なレベリングに入ることになりますが、お気を確かに」
「これはまた、お気遣いをありがとうございます」
「いえ」
被害者友の会を作るなし。だけどヘックスさん良い人だよなあ。一応士爵階級なのに、商人さんにあんなこと言えるなんて。
あ、士爵っていうのは貴族扱いされてないけど、一応貴族の傍流だね。男爵家を継げなかった3男、4男辺りが騎士団や私兵、もしくは文官になってるケースが多い。ウチだと、イーサさんとワルシャンがそうだ。
「見所がある」
ターンもご満悦だ。
考えてみれば『訳あり』は、色んな人がいるんだよね、孤児や村の出身が多いけど、
強いぞ凄いぞ、お金もあるぞ。
「じゃあ、ポリィさん、カクさん、スケさん。危険な目には遭わせませんが、個人差がありますので、頑張ってください」
「個人差?」
ポリィさんは合点がいかない顔をしてる。大丈夫大丈夫、合わないほど基礎MINが上がる傾向あるし。
「じゃあやりますよ!」
「なるほど、これは確かに、精神にきますね」
「大丈夫ですか、ポリィさん」
「ヘックスさん、ありがとうございます」
美しき男の友情だね。粘液まみれだけど。
「それじゃお風呂ですね。今日はコレを3セットやります。カクさんとスケさんはレベルオーバーですけど、我慢してください」
「はい」
スケさんは耐性無い方かな、やつれて見える。
「さてそろそろ時間ですね」
「時間でありますか?」
ベンターさんが聞いてくるけど、こっちの都合だ。そろそろベースキュルト組がレベリングを終わらせるはず。その前に地上に戻る。
「じゃあ59層行って戻りますよ。パーティ編成はわたしとターン、もひとつはウィスキィさんとワルシャン、チャートで」
◇◇◇
「これは」
「ああ、ポリィさんは初めてでしたね。59層から地上へ飛ばされる場所があるんです」
「聞いてはいたが、これが」
「便利でしょう」
丁度いいんだよね。レベル0を背負って戦いながらレベル上げて55層、そこでレベリングして地上に戻る。素敵なルーチンだ。美しささえ感じるよ。
「じゃあ、この後でみなさんはジョブチェンジです。ベンターさんとヘックスさんはシーフ、ポリィさんたちは全員ソルジャーです」
スケルタンさんとカクラーさんは、ついに来たかって感じの表情だ。手は緩めないよ。
「それと明日から『訳あり』は59層でお別れです」
「どういうことかな」
「わたしたち自身のレベリングもやらなきゃですから」
ポリィさんたちばっかり構ってられないんだよ。こっちのレベルが頭打ちなんでね。
そいで翌日。
「ちゃんとジョブチェンジをしてきましたね」
「はっ!」
ベースキュルト組のふたりはもう素直なものだ。ポリィさんは大した気にしてないみたい。問題は残りふたりだけど、すぐに払しょくしてもらうから大丈夫だよ。
「では出発です」
で、4時間後だね。ソルジャー3人組はカエル1セットでコンプリートしたので、ここでお休み。シーフのふたりはあと3セットね。今日中に50台まで持ってくからさ。
お休み組は交流を深めておいてくださいな。
今回の組み合わせ、チャートはターンと一緒で嬉しそうだし、ワルシャンは普段交流のないウィスキィさんに色々聞いてる。ウィスキィさん、お姉さん肌だもんね。
わたし? わたしはおじさんたちに色々解説だよ。モテモテだ。
「それじゃあわたしたちはここで。戻ったらカラテカにジョブチェンジしておいてください」
「了解です、お気を付けください」
「ありがとうございます」
まずベンターさんとヘックスとお別れだ。わたしとターンは60層の階段を進む。
10分もしないうちにウィスキィさんたちも降りてきた。
「ちゃんと伝えてくれました」
「はいはい、メイジにって言いつけておいたわ」
「じゃあ、5人パーティですけど、70層あたりまで行きますか」
「おう!」
ターンとチャートが元気に応えた。
◇◇◇
「順調ではあるのだけど」
「問題でも?」
その日の夜、クリュトーマさんを中心にして『訳あり』全体ミーティングだ。
「ベースキュルト卿はレベル18でご満悦よ」
「まあ、ホワイトロードですもんね」
「ナイト組は大体20台中ば、ウィザード組もそうね。順次ジョブチェンジさせる予定よ。だけどね」
あ、なんとなく想像できた。
「36層以降に行かせろって。確かに効率を考えればそうなんでしょうけど」
「死ぬでしょう」
「ええ、死ぬでしょうね」
それくらいボーパルバニーは怖いんだ。特にVIT、STR、AGIの無いウィザードなんて、簡単に死ねる。
さて、どうしたもんか。
「ナイトはヘビーナイトに、ウィザードをハイウィザードにして時間を稼いでください」
「稼ぐ? 時間を?」
「ええ、思い知らせます。あと、側近中の側近はロードもありですよって、吹き込んでおいてください」
「プリーストの代わり?」
「そういうことです」
あの浮かれポンチ共には教育が必要だね。
「5日待ってください。その後で叩き潰します」
「まさか、サワさんが?」
「それなら5日要りませんよ。潰すのはベンターさんとヘックスさんです」
◇◇◇
そして5日後、迷宮のちょっと北側にある闘技場に、皆が集まっていた。今日ばかりは『訳あり』たちも見物だ。ポリィさん一行はお休みだね。
「本日はお集まりいただきありがとうございます」
「レベリングを中断してまでの用件なのだろうな」
「もちろんですよ、ベースキュルト卿。なんでもみなさんは36層以降に挑みたいとか」
「その通りだ」
「死にますよ?」
「ふん、首狩り兎か。今の私たちならば造作もないわ」
てめえ、わたしたちがどんな思いで39層に挑んだって思ってんだ。
ウサマフラー? あれは保険だよ。保険。
「増上慢! 話になりませんね」
「なにぃ!?」
「デカい口を叩くのは、力を見せてからにしてください。今日はそのための場です」
「どうしようというのだ」
「簡単なことですよ。彼らに勝ってください」
わたしが指さした一角には、ベンターさんとヘックスさんがいた。
ああ、目がイっちゃってる。やりすぎたかな。
「なんだぁ、ベンターとヘックスではないか。奴らに勝てと?」
聖騎士団から笑いが起きる。いや、この場合は嗤いか。ナメやがって。
「地上ですからウィザードの皆さんは不参加ですね」
「本気か? ならばヘックスはどうする」
「彼はもう、立派な戦士ですよ」
そんなふたりは素手だ。
「もちろんナイトの皆さんは木剣を持ってください。舐めてかかると死にますよ?」
あ、観客席に隠れてポリィさん一行がいる。見つかったらどうするんだよ。
なんだかんだで仲良くしてたもんなあ。気にもするか。仕方ない。
「それと1対1なんてヌルいことは言いません。ふたり対ナイト全員17です」
片や素手のふたり、こなた木剣を持ったヘビーナイト17人。さあ勝敗の行方や如何に。
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