第187話 悪党貴族の集い
「なっ!?」
「本日からよろしくおねがいいたします、ベースキュルト卿」
「わたくしたちもまだまだ未熟者。お互い研鑽を積みましょう」
ターナとランデがジャブってか、右ストレートを放った感じだ。ヒット。
「な、なぜ殿下たちが」
「あら、わたくしたちも『訳あり』ですよ。7番隊『ライブヴァーミリオン』。お見知りおきを」
「な、なっ」
聖騎士団は卒なく膝を突いてるけど、ベースキュルトは突っ立ったままだ。不敬だぞ、不敬。
なんてったって、こっちは王女ふたりだけじゃない、コーラリアとユッシャータも王位継承権持ちだ。ほれ、明らかな格上を連れてきてやったから、頑張ってね。
「クリュトーマさん、限界層は35です」
「わかっていますよ、サワさん」
36層からはボーパルバニーが出る。ナイトはおいといて、ウィザードはヤバい。
「どうせコンプリートレベルでジョブチェンジでしょうから、気軽にやってください。周辺警戒はズィスラたちに任せて大丈夫です」
「あら、わたくしたちも負けないわ」
ターナが胸を張る。まあ気持ちも分かる。
今現在だけど、クリュトーマさんがサムライのレベル46、コーラリアはグラップラーで46、ユッシャータはケンゴーの45、ケータラァさんはサムライの48。彼女たち4人は20ジョブを超えてる。
さらにターナとランデはふたりともロードのレベル42だ。19ジョブ目。35層なんて鼻で笑うだろうね。
「それじゃ、わたしたちは先に行きますので」
指示した通りにメイジになったベンターさんとヘックスさんを背負子に載せて、わたしとターンは迷宮に突撃だ。
周りの騎士団連中が、王女たちにビビりながらせせら笑うなんて器用な真似してるけど、いつまでそんな顔してられるかな。
◇◇◇
「どうですか?」
「レベル18であります!」
「同じです」
「ふむっ」
ベンターさんとヘックスさんの返事にターンが鼻を鳴らす。頃合いか。
55層のカエルレベリングを1回やっただけでこれだ。まだ午前中だよ。
「ターン、行こう」
「おう」
「あ、あのどちらに」
「59層です、ヘックスさん」
「ごっ!?」
道中で1か2上げて、59層でエルダー・リッチを倒せば、まあコンプリートするよね。
足りなければ2回倒すだけのこと。
「ここは、地上でありますか?」
「そうです。59層には地上へ転送される仕掛けがあるんですよ」
ベンターさんがポカンとしてる。ヘックスさんは気絶してるね。ターンの動きは激しいもんなあ。
だけど時間が勿体ない。
「さあ、ジョブチェンジしますよ」
わたしとターンは協会事務所に駆け込んだ。
「ウォリアーです。急いでください」
「わ、わかりました!」
「はいっ」
うむ、素直でよろしい。じゃあいくよ。
「今日中にウォリアーもコンプしますけど、その上を目指しますからね」
「上とは?」
迷宮を突っ走りながらベンターさんと会話する。そりゃ第3世代レベリングに決まってるじゃない。
35層で『ライブヴァーミリオン』と聖騎士団に会ったけど、シカトだ、シカト。突き進む。
「ま、またカエル!?」
「そうだぞ」
ターンの背中にいるヘックスさんが悲鳴を上げたけど、それも無視。
バトルフィールド展開だ!
◇◇◇
「報告は聞いたが、本当なのかな」
「なんとも言えません。ただ、王子殿下のご意思は、今のところ納得できます」
「ふん、信用などという言葉を使わんか。それ自体も気に食わんな」
3日後、フェンベスタ伯爵邸の会議室にヴィットヴェーン関連の貴族が集まっていた。『シルバーセクレタリー』主導のお忍びが保証された会議だね。安心のセキュリティ。
サシュテューン伯爵、カーレンターン子爵、ヘーストラン子爵、カラクゾット男爵他、子爵やら男爵やら15人。もちろん筆頭子爵たるわたしもハーティさんを伴って参加だ。
なんかこう、雰囲気は完全に悪の貴族会議なんだよね。サシュテューン伯爵が全部悪い。
「玉座は要らない、ヴィットヴェーンを統合派に引き込もうともしない。信じられるか」
さっきからサシュテューン伯爵が毒を吐いてる。気持ちは分からないでもないけどさ。
「さっそく、件の侯爵令息殿が冒険者にちょっかいをかけたのだろう」
「そちらは『訳あり』が引き受けました。キッチリ始末はつけますので、ご安心を」
わたしの言葉にサシュテューン伯爵とヘーストラン子爵がビクリと身を震わせた。ふたりとも『訳あり』の怖さを体感したもんね。
「サワノサキ領と『訳あり』は、自由に迷宮を探索できれば満足ですが、みなさんはどうでしょう」
「ふんっ、私は現状維持を支持する。胡散臭い第5王子殿下を信用はできんがな」
「カーレンターンも現状を望みます」
サシュテューン伯爵がいきまいたら、当然カーレンターン子爵もそれに従った。寄り親には逆らえないよね。
「もちろんフェンベスタもだ。稼がせてもらっているからね」
フェンベスタ伯爵も現状維持を望んだ。となれば、ヘーストラン子爵とカラクゾット男爵も従う。
他の貴族たちも同意を表明した。フェンベスタ伯爵かサシュテューン伯爵、どっちかが後ろ盾だもんね。
「意思統一はできたと思ってよろしいでしょうか」
「ふん、貴様が取りまとめをやっているのが、一番気に食わんな」
サシュテューン伯爵が捨て台詞じみたことを言うけど、わたしは『サイド』なんだから、しょうがないでしょう。
それにしても誰一人第5王子に乗っかって栄達を、なんて人がいないんだね。中央の政争なんてごめんだって感じなのかな。
この話し合いの後、王都の国王陛下宛にヴィットヴェーン所属の貴族は第1王子を推挙する意思があり、かつ分権派としての現状を望む、なんていう微妙に都合のいい書簡が送られることになった。
連名はフェンベスタ伯爵とサシュテューン伯爵、それとわたしを筆頭にした諸貴族だ。
さて、これが第5王子の意思に沿うものなのかどうか。それは後になってからじゃないとわからないね。
ここまできたらいっそだね。わたしは第5王子にもうひとつ提案だ。
◇◇◇
経験値効率はマンツーマンが最強だ。だからポリィさんと護衛ふたりのために参加してもらうのは、ウィスキィさん、チャート、そしてワルシャンだ。
「強くなって損はないからね。むしろお声がかかるのを待っていたよ」
ポリィさんも覚悟は決まってるみたい。
「『訳あり』流儀になりますけど、強くなれる保証はします。やりますか?」
「今更だよ。お願いする」
第5王子、ポリィさんと護衛のふたり、カクラーさんとスケルタンさんにもレベルアップしないかって声をかけたんだ。
今回のレベリングでベースキュルト一派はある程度の力を付ける。そうなったときに第5王子の頭越しに何かやらかされても困るんだ。もちろん『訳あり』がいるけど、直接の上司にもガツンとやってもらいたいからね。
「王陛下と第1王子殿下には、その旨奏上したよ」
「こちらからも、ターナとランデから出してあります。却下されたらそこでお終いということで」
そもそも、ベースキュルトと第5王子を強くする必要?
無茶やって死なれたら寝覚めが悪いじゃない。地上でなにしようと勝手だけど、迷宮の中で死人は出さない。これは絶対に絶対なんだ。
死んだら許さんからな。あと、悪さしたら、その時はわたしたちが責任もって叩き潰す。
「わたしたちでいいの?」
「はうぅ」
ウィスキィさんとワルシャンがちょっと引いてる。チャートは堂々としたもんだ。
「ウチは全員自慢のメンバーですよ」
「もう、サワったら」
新メンバーとして召集されたウィスキィさんはヘビーナイトのレベル37、チャートはホーリーナイトで66、ワルシャンはグラップラーの69だ。申し分なし。ちなみにわたしはウラプリーストの63で、ターンはエインヘリヤルの62だ。
用意された背負子は5個、そういうことだよ。
「乗れ」
「じゃあ、お邪魔するよ」
がっつり商人風に変装した第5王子を乗せるのはチャートだ。彼はナイトのレベル5。なんだかなあ。
引き続き、カクラーさんがウィスキィさんと、スケルタンさんがワルシャンとペアを組んだ。ふたりはナイトのレベル30台らしい。50までは引っ張るからね。
そうそう、服の下には『訳あり』特製革鎧だ。胴周りの関係でポリィさんは割増だね。
「ではポリィさん、折角大枚をはたいたんです。3人で旅商人して問題ない程度にはレベルアップしますからね」
もちろんカバーストーリーだよ。さあ、出撃だ。
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