第16話 レベルアップをしたいか?





「サワと言います。よろしくお願いします!」


 プリースト互助会の寮に一室を貰って、そこに宿泊したわたしは、翌朝みんなに紹介された。まずは元気に挨拶だ。


「彼女は、レベル7のプリーストですが、特殊な、ちょっとアレなレベルアップ手法を会得しています。その力を使って、皆さんのレベルアップを支援してもらうことになりました。本当に見た目が辛い手法になりますが、希望者がいれば申し出てください」


 ウェンシャーさんの説明が滅茶苦茶だ。わたし以外は痛い思いもしなければ、汚れることも無い。こんな素敵なレベルアップ方法に対して、何と言う暴言を。

 だけどわたしは学んだのだ。人付き合いはそれぞれだ。今のところは希望者に限ればいい。


「あの、希望してもいいですか?」


「ポロッコ……。いいのですか?」


「はい。頑張ります」


 なんだ、この犠牲者を選ぶような空気は。


「大丈夫ですよ。痛くもないですし、汚れません。安心してください」


「汚れる?」


 説明が面倒くさいから、後は現地で見てれば大丈夫だろう。


「立ち合いは会長がやってくれるそうです」


 あら、護衛はサーシェスタさんなんだ。じゃあ安心だね。プリースト二人とモンク一人のパーティって、ある意味凄いわ。


「レベルアップはどこでやるのですか?」


「第5層ですね」


 ポロッコさん、というか、わたしより年下っぽいけど、ドワーフだね。例によって年齢不詳だ。一応さん付けしておいた方が無難だろう。


「あの、わたし鍵を持っていないんですけど……」


「あ」


「ああ」


 わたしとウェンシャーさんが同時に気づいた。この作戦の大きな穴だ。どうする?


「ゲートキーパーを倒せるパーティに心当たりがあります。依頼費用を考えておいてください! それでは」


 この時間ならまだイケる。わたしは冒険者の宿に向かって走り出した。



 ◇◇◇



「鍵を持ってない、ね」


 困ったときの『クリムゾンティアーズ』であった。わたしは拝み倒す。


「第4層のガーディアンを倒すだけなんです。お金は払います。互助会が払います」


 わたしがお金を払う義理は無い。


「わかったよ。ちゃっちゃとやればいいんだろ。ターンもレベルアップできるかもだな」


「ほんと助かります。ありがとうございます」


 アンタンジュさんには本当、感謝しかない。何せ、レベル1のプリーストをキャリーして、4層のゲートキーパーを倒すなんて依頼だ。冒険者協会に頼んだら、断られるかぼったくられるかのどっちかしか見えない。


「立ち合いで、サーシェスタさんも同行する予定ですから。お代は安心してください」


「サーシェスタさんも来るのか!? おい、ウィスキィ、お前抜けろ」


「ブチのめすわよ」


 なんでパーティ分裂の危機になってるんだ? 今度クラン作るんでしょう。仲良くしようよ。


「ターン」


「どうした?」


 なんとなくターンの頭を撫でた。


「んーん。昨日の夜は大丈夫だった?」


「大部屋になって、フェンサーと一緒に寝た。髪の毛が邪魔だった」


 おのれフェンサーさん!



 ◇◇◇



 ポロッコさんを『クリムゾンティアーズ』に任せて、わたしは一足先に狩場に向かった。ふひひ。今日は一人だ。フルパーティの6倍もの経験値がやってくるぜ。



「お前、本当に頭大丈夫なのか?」


 サーシェスタさんは何を言っているのだろう。これ以上ないくらいわたしは充実しているんだけど。


「とりあえず、一旦全滅させろ。話にならん」


「……分かりましたよ」


 仕方ないから、残ったカエルを殴りまくって全滅させた。おおう、またもわたしを銀の光が包み込む。これでレベル8だ。いぇい!



「あ、みんなも来ていたんですね」


 本命のポロッコさんの他にも『クリムゾンティアーズ』の皆が来ていた。


「流石に一人でって聞くと、ちょっと、な。心配は要らなかったみたいだけど」


「いえ、心配してくれてありがとうございます」


 アンタンジュさんが微妙な顔をしているが、わたしは変わったのだ。相手の気持ちを思いやり、礼を言えるようになったんだ。


「ゲートキーパーはなんとかなりました?」


「ああ、ターンが大活躍だ」


「へぇ、ターン、レベル上がった?」


「まだ。サワは?」


「今、レベル8になった」


「むむっ」


 ターンが頬を膨らませた。

 でもさ、レベル8のソルジャーがゲートキーパー相手に大活躍って、プレイヤースキルが伸びてるってことでしょ? わたしより凄いよ。


「負けないぞ」


「その意気さ」


 わたしとターンは見つめ合う。だけど距離は遠い。なんでだろう。



「あ、あの、サワさん、ですよ、ね?」


「はいそうですよ。今日のレベル上げはポロッコさんですよね」


 なんで疑問形なんだ?


「サワさんは、自分を客観的に見ることを覚えるといいですわ」


「フェンサーさん、どういうことです?」


「緑色」


 わたしの現状を、ジェッタさんが端的に表現してくれた。ああ、そういうことか。


「大丈夫です。怖くないですよ。全身緑色かもしれませんけど、元気いっぱいですから」


 ポロッコさんを見てそう言うが、彼女の目には怯えの色があった。なんか、相手の気持ちを知るっていうのも、面倒なのかもしれない。

 とりあえず、ドロップ品を回収しよう。インベントリがスタックできるのはたすかるね。ポイズントードの皮78枚と、肉が5個かあ。幾らくらいになるんだろ。


「じゃあリポップ待ちで、一回部屋の外に出ましょう」


「んじゃ、あたしたちは5層で狩ってくるわ」


「負けないぞ」


 アンタンジュさんが促して、『クリムゾンティアーズ』が出発した。ターンが負けず嫌いを発動しているけど、良い傾向だ。それでこそ私のライバル。あれ? いつからそうなった。



「さて、ここからですけど」


「あたしがポロッコを守って、見ていればいいんだろ?」


「はい。それだけです」


「えええ?」


 ポロッコさんが、わたしと距離を置いてビビっている。


「ポロッコさんはわたしの戦いを見て、学んでください」


「やめろ、サワのやり方は参考にならん」


「なんでですか、理想の殴りプリーストですよ!」


「自動回復と毒無効のサワの戦い方なんぞ参考にもならん。むしろサワはもっとまともに戦えるようになれ」


「酷い。これでも効率は上がってるんですよ」



 そんな不毛な会話を繰り返しながら30分ほどが経った。そろそろリポップしたかな?


「そろそろ行きますか。後は打ち合わせ通りに」


「打ち合わせもなんも、あたしたちは見てるだけだろ?」


「そこは了解ってくらい、言ってくださいよ」


 わたしは例によって、蹴破るように扉をブチ開け、カエルを確認した瞬間突撃した。



 ◇◇◇



「レベルレベル、経験経験、レーベール!!」


「おーい、それくらいにしとけ」


 赤い血ではなく、緑色の粘液をぽたりぽたりとたらしながら、わたしの戦いは終わった。まだまだいけたけど、そろそろ夕方らしい。


 ぶわりとポロッコさんを銀色の光が包んだ。わたしはなんもない。緑色なだけだ。ちくしょう。


「で、どうだ? ポロッコ」



 ==================

  JOB:PRIEST

  LV :5

  CON:NORMAL


  HP :10+17


  VIT:15+8

  STR:14+6

  AGI:11

  DEX:14

  INT:8+16

  WIS:12+13

  MIN:14

  LEA:10

 ==================


 『ミルト』『オディス』『強打』『ピィフェン』『キュリウェス』

 『回避』『ファ=オディス』



「れ、レベル5!? 『キュリウェス』(解毒)と『ファ=オディス』(中級回復)も!」


「やったな。ポロッコは立派なプリーストだ」


「あ、ありがとう、ございます……」


 ポロッコさんはダクダクと涙を流していた。ある程度わたしから距離を取って。


「ね、ねえ、ポロッコさん。良かったですね」


「あ、は、はい」


 何故か彼女は、さらに距離を取った。これが人間関係ってやつか。



「サワ、ポロッコ、とりあえず帰ろう。で、お湯沸かして、そして晩飯食べよう。な?」


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