第15話 交渉と実践とさらに交渉





「どうした、なんで突っ立ってるんだい?」


「えっと」


「いいから座りなよ」


「はい」


 生前に勉強した面接術とはなんだったのか。これでも一応、微かな可能性に期待して、面接ノウハウを勉強したことがあるんだ。台無しじゃないか。


「わたしはサワです。よろしくお願いいたします!」


 挨拶は元気に。


「あたしはサーシェスタ。ここの会長だよ」


「わたしはウェンシャーです。副会長です」


 サーシェスタさんは、長い銀髪を無造作に後ろで縛った年配の女性だった。と言っても50は行ってないだろう。ヒューマンだね。

 そしてウェンシャーさんはまだ若い。だけどエルフだ。見た目に騙されてはいけない。年齢不詳ということにしておこう。とってもスレンダーで、綺麗な金髪をさらさらと流している。ゴージャスエルフのフェンサーさんとは大違いだ。なんかこう、守ってあげたい儚さを感じる。



「紹介状は見せてもらったよ。アンタンジュの所にいたんだね」


「はい。『クリムゾンティアーズ』の皆さんにはお世話になっています」


 そんなやり取りに、ウェンシャーさんがちょっと苦い顔をしていた。どういうことなんだろう。


「それとツェスカさんか」


「そちらは驚きですね」


 ウェンシャーさんが本当に驚いた顔をしている。ツェスカさんって、ほんとに何者なんだろう。レベルが高い、伝説の冒険者ってわけでもなさそうだけど。


「協会からの紹介状はどうでもいい」


「あ、はい」


「問題は残り2通だ。どんな内容だと思う?」


 そういう質問は困る。わたしがどんな風に見られているかってことかな? うーん。


「危なっかしい、とかでしょうか」


「まあ、そうだ」


「そうなんですか」


 がっくしだよ。そうなんじゃないかって、事前に予想しておいて良かった。ダメージは少ないぞ。


「それ以外では?」


「……分かりません」


 悔しい。まだあるのかあ。なんて言われてるのやら。


「多分、とんでもないことを言い出すが、怒らないで、損得勘定を弁えて聞いてやってほしい、だとさ。二人とも似たようなもんだ。後は、意外と脆いので、気を付けてやってほしいだそうだ」


「そうですか……」


 ありがたいんだか、そうでないんだか。でもポジティブに考えて感謝しておこう。お二人に感謝だ。わたしはそれを学んだんだから。



「で、サワはどうしたいんだい? 何かあるんだろ?」


「はい。ご提案があります」


「ほう?」


「新人が提案ですか」


 面白そうな感じのサーシェスタさんと、面白くなさそうな顔をしているウェンシャーさん。わたしは今からこの二人に、わたしの我儘を受け入れさせなきゃならない。



 ◇◇◇



「わたしを新人教育専任にしてほしいんです」


「大きく出たねえ」


「わたしならできます。できるんです」


 ドラマで見た、若手ベンチャーの社長さんみたいな感じになってきた。だけどこれは、荒唐無稽な話じゃない。現実にできてしまうんだ。


「では、根拠の一端をお見せします」


 そう言って、わたしはナイフを取り出した。対面に座る二人は動じない。胆力あるなあ。

 右手のナイフで、テーブルの上に置いた左手の甲に、浅い傷を作った。そしてそれは即座に治る。


「迷宮の外ではスキルは使えないし、そもそも使っていない。わかりますよね?」


 ウェンシャーさんは唖然としている。結構表情豊かな人だな。逆にサーシェスタさんは難しい顔で腕を組んでいる。


「手品じゃなけりゃ、大したもんだ。カラクリは教えてもらえるのかい?」


「ええ。じゃなきゃ説得力ありませんし。ただし、お二人だけでお願いできますか?」


「まあいいよ」



 ならばということで、わたしは説明を始めた。わたしの特異体質、ポーションの効果が持続すること、1回きりじゃないということ。そして、それの意味するところ。


「この格好が証拠でもありますね」


「哀れみを誘うためかと思ってみたら、そういうことかい。じゃあ、行くか」


「行く?」


「実際に見てみないことにはなんとも言えないさ」


 なるほど確かに。でも見てもらえるのは嬉しい。一発で分かるだろうから。


「じゃあ、お願いがあります」


「なんだい?」


「強いメイスと、プリーストでも着れる鎧みたいの、貸してもらえませんか」



 ◇◇◇



 ポイズントード、いやもういい、カエルに『パワードメイス』を振り下ろす。凄いな一発だ。例によって私には、沢山のカエルどもが貼り付いてなんかやっているが、その牙は届かない。『エンハンスドチェインメイル』のお陰だ。


「おーい、もう30匹超えたぞぉ」


 サーシェスタさんの声は聞こえるけど、まだまだイケる。


「まだまだいきますよー! 経験値! 経験値! あそれ経験値!」


「サーシェスタさん、あれはちょっと」


「ああ、対策が必要かもな」


 何を言ってるんだろう、お二人は。貴方がたにも経験値が降り注いでいるんですよ?



「あははは! レベル、レベル、レベルぅ!!」


「分かった。分かったから終わりだ」


 いきなりサーシェスタさんが飛び込んできて、残っていたカエルを全部殴り倒してしまった。流石は『モンク』。だけど今はそれどころじゃない。


「せっかくノッてきたところだったのに」


「なるほど、あんたがヤバいっていうのだけは、よく分かったよ」


「そういうのは、分からないでください。あっ?」


 わたしの身体が銀の光に包まれた。レベルアップだ。きたきたきた。



 ==================

  JOB:PRIEST

  LV :7

  CON:NORMAL


  HP :9+21


  VIT:14+7

  STR:12+4

  AGI:13

  DEX:14

  INT:20+14

  WIS:13+17

  MIN:17

  LEA:17

 ==================


 『ミルト』『オディス』『強打』『ピィフェン』『キュリウェス』

 『回避』『オディス=ヴァ』『ファ=オディス』『シーフォ』『フィリスト』



 分かっていたとはいえ、VITとSTRが中々上がらない。最低でも10は上げて次のジョブに引き継ぎたいなあ。新しく覚えた『フィリスト』は全体魔法で、相手をランダムに麻痺状態にしてくれる。開幕に一撃って感じかな。



「まあ、やりたいことは分かったよ。分かりたくない風景だったけど」


「酷い格好です」


 二人は言いたい放題だな。効率のためには、何かを賭けなきゃならないなんて、当たり前でしょうに。


「とりあえず戻るよ。お湯でも被って洗い流しな」


「お幾らでしょう」


「……今日はタダでいいよ」


 おお。冒険者の宿、フォウライトと違ってタダと来たか。いや、貸与した備品が汚れたままなのが嫌なのかな?


 昨日に続き、緑塗れの私が1層を歩いていると、チラチラと視線が集まる。気にするのは止めよう。レベルアップのためには犠牲が必要なのだ。



 ◇◇◇



「で、どうでしょう」


「まあねえ。やりたいことは分かったし、やれるのも分かる」


 互助会に戻り、お湯を被って、再び応接室だった。


「それで貴女はなにを望むの?」


 ウェンシャーさんの問いに対する答えは簡単だ。


「アレと、さっきの武器と防具の貸与です」


 部屋の壁にかかった紋章を指さして言った。


「後ろ盾が欲しいと」


 話が早くて助かる。



「今、ここに在籍しているプリーストって何人くらいですか?」


「……87人ですね」


「冒険者協会から斡旋を頼まれるのは、できるだけレベルの高い人ですよね。『ファ=オディス』(中級回復)が使えるのが境界線として、どれくらいでしょう」


「それは言いたくありませんね」


 ウェンシャーさんが渋い顔をする。


「大体半分はレベル5以下だ。教育は上手く行っていないね」


「会長!?」


「じゃあ、その全員のレベル上げを条件に、入会を希望します。あと、さっきの武器の貸し出しをお願いします」



「いいだろうさ。乗ってやるよ。その代わりこき使うから、覚悟しとけよ?」


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