第14話 プリースト互助会へ





 さてはて、ポイズントード狩りを認めてもらったわたしだけど、結構綱渡りだ。何故って、偏にポイズントードが毒攻撃主体で、攻撃力が低いから成立しているだけなんだ。しかも経験値が美味しくないから、競合する冒険者が居ないのも大きい。

 つまり危ないけれど、ここはわたし専用の狩場ってわけだ。なんか良いフレーズだ。


「ところでサワ」


「なんですか?」


 ウィスキィさんの声に振り返った。なんかあったっけ?


「その酷い格好、どうするの?」


「え?」


「服が穴だらけで、毒の何か、気持ち悪い何かだらけですわ。近づきたくないですわ」


「ああ」


 わたしは初期防具の『冒険者の服』のままだった。まあ、後衛だし。

 だけどこれがまた酷いことになっていた。確かにフェンサーさんの言う通りだ。所々が破れて、ポイズントードの牙にやられたのか、それとも前のツーテイルスネイクのせいなのか、穴だらけで、しかも毒唾で緑塗れだ。これ、ポーションチートが無かったら、今も追加ダメージくらってるんじゃ。


「……まあ、やることやったし、帰ろうか」


 アンタンジュさんの言葉に、誰も反対はしなかった。



 ◇◇◇



 帰り道は、なんと言うか悲惨だった。昇降機で1層まで戻ったは良いけど、そこの人たちに何事だという目を向けられた。


 この世界、都合の良い生活魔法だとか、イメージで繰り出される魔法とかないのだ。水を掛けるイコール攻撃魔法だ。だから、わたしは緑色の何かとなって好奇と憐憫の眼差しの中歩き続けることになった。



「店に入んないで」


 やっとこさ宿に戻ったわたしに告げられたのは、ツェスカさんの容赦ない宣言だった。まあ確かに1階は食堂だから、営業妨害になるのは分からないでもないなぁ。だけどそれはないんじゃないかなあ。


「裏に回って。お湯をあげるから、300ゴルドだよ」


 なんと世知辛い世の中か。


 他の人たちはみんな食堂に入っていった。一緒にいてくれたのはターンだけだ。思わず抱きしめようとしたが、AGIの差で躱された。結構ダメージがデカいな、これ。



 わたしとターンが宿屋に入る許可を得たのは、1時間後だった。いや別にターンは最初から入れたんだけど、わたしに付き合ってくれたんだ。感謝しかありません。


「みなさんの冷たさについては、まあ何も言いません」


 わたしの視線に『クリムゾンティアーズ』の面々は目を背けた。しかもこの人たち、酒が入っているじゃないか。何も言わないと宣言した後だが、なんかこう、許すまじって感じだ。


「わたしは明日、プリースト互助会を訪ねる予定です」


「ああ、その間、ターンのことは任せておけ」


「ありがとうございます」


 ターンがモノみたいな扱いなのは気に食わないが、仕方がない。わたしの我儘が発端なんだから。


「サワ、その前に」


「なんです? ウィスキィさん」


「着替えって、あるの?」


「あああああ!!」


「はいカンパって言うか、今日ポイズントード倒したのはサワ一人だったから、素材の分配は無しってことで良い?」


「異議なし」


 ウィスキィさんの提案に即答してくれたジェッタさん、アンタンジュさんもフェンサーさんも頷いてくれた。ターンはご飯が美味しいらしく、気にもしていなかった。みんなの心遣いを嬉しく思うと同時に、ちょっと寂しいな。ね、ターン。


「ん? ご飯美味しいぞ」


「良かったね」



「ああそうだ、良いこと思いついた。サワ、新しい服を買うのはいいけど、プリースト互助会にはボロい服で行った方が面白いことになると思うぞ」


「アンタンジュさん、何言い出すんですか」


「あそこは、あたしたちが新しく作ろうとしているクランと、似てるんだ」


「だから、ボロっちい格好で行けってことですか?」


「それもあるけど、あそこの会長は結構面白い人なんだよ。あたしも紹介状書いてやるよ」


「それは助かりますけど、変なこと書かないでくださいよ」


「おうよ」


 本当だろうか。アンタンジュさんって、どこかでイタズラ仕掛けてくるから油断できないんだ。

 あれ? これってもしかして、わたしが他の人を分かり始めてるってことなのかな? だったら良いなあ。



 ◇◇◇



「サワ、これ持っていきな」


 翌朝、朝ご飯を食べ終わって、冒険者協会に行こうとしたら。ツェスカさんが手紙を渡してきた。これってまさか。


「紹介状だよ」


 冒険者の宿の女将さんの紹介状だ。これは強力なカードになるんじゃないだろうか。でもなんで?


「あんたが危なっかしいって、そう伝えておかないとね」


「悪い紹介状じゃないですか」


「まあまあ、その代わり、身寄りのない年下を拾ってくるような人間だってのも、付け加えておいたからさ」


「それも取りようによっては、お人よしだって意味しか」


「いいじゃないか、ほら行っておいで」


 ツェスカさんが手をひらひらさせて追い出そうとする。


「分かりました、ありがとうございます。あと、わたしはあっちの寮に入るでしょうから、暫くの間、ターンをよろしくお願いします」


「どうせすぐ戻ってくるんだろう?」


「分かっちゃいますか」


「なんかあんたは、普通のヤツの倍以上の生き方してるように見えるからねえ」


「あはは。じゃあ行ってきます」


 ターンと『クリムゾンティアーズ』は先に出かけていた。今日は第5層でターンを鍛えるそうだ。

 出かける前に、アンタンジュさんから紹介状を預かっておいた。



 なんで冒険者協会に行くかと言えば、こちらも紹介状を貰いにだ。なんだかんだで合計3通になってしまう。でも協会からの紹介状がないと、門前払いされるそうなので仕方がない。要は素行不良なんかが無いかどうかっていう、1次試験みたいなものらしい。


「では、こちらをどうぞ」


「ありがとうございます」


 どうやら定型文らしくって、10分も待たずに紹介状が発行された。素行も何も、冒険者になってまだ1週間も経っていないからねえ。ただ、今のわたしの格好を、可哀そうなものを見るような目をするのは止めてもらいたい。



 さて『プリースト互助会』だけど、これは読んで字のごとしだ。腕っぷしに問題のある後衛は、どうしてもパーティで軽く見られやすい。取り分とかで揉めることも多いそうだ。

 そこで互助会ができた。扱いは軽くても、回復役は貴重だ。ポーションは安くない。だからパーティに一人は欲しい。

 そういうわけで互助会の出番となる。所属しているプリーストを派遣するわけだ。完全に人材派遣業だね。もし派遣されたプリーストが無体な仕打ちを受けたなら、互助会が出張るわけだ。ケジメを付けられた上に、以後派遣禁止が広く布告されることになる。その後のパーティがどうなるか、想像するに恐ろしい。


 さらに後衛たる、『ウィザード互助会』『エンチャンター互助会』なんかもあるらしい。ここらへんは連携関係にあるらしくって、総合して『後衛互助会』なんて言われているようだ。敵に回してはいけない存在として畏れられている。



 ◇◇◇



 なんて道すがら考えていたら、『プリースト互助会』に着いていた。緊張しながら扉を開ける。


 そこは冒険者協会を小さくしたようなロビーだった。壁には大きく翼を象ったマークが描かれているプレートがある。多分互助会のシンボルなんだろう。

 わたしは、そのままカウンターへと向かった。


「本日はどのようなご用件で」


「あ、入会希望です」


 わたしは受付嬢さんに、3通の紹介状を提示した。ちょっとお姉さんが驚いている。視線で探ると、どうやらツェスカさんのに驚いたようだった。大物だとは思うけど、そこまでなのかな?


「面接を行う決まりになっていますので、少々お待ちいただけますか」


「分かりました。でも当日でも大丈夫なんですか?」


「ウチの会長と副会長は事務仕事より、面接が楽しみなんですよ。多分喜びますよ」


 お姉さんがとんでもないことを言いだした。なんで面接にトップ2が出てくるんだ?


「そちらで少々お待ちください」


 イタズラが成功したような顔で、お姉さんは奥に消えていった。



 そして待つことたった15分。


「お待たせしました、ご案内しますね」


 カウンターの脇にある廊下を通って、結構豪勢なドアの前でお姉さんが止まった。そしてノックをする。


「入会希望のサワさんです」


「おう、入ってくれ」


 年配の女性の声が聞こえる。



 普通面接って、自分でノックするところから始まるって聞いたけど、ここではどうもそうじゃないらしい。だけど油断はできない。なんてったって、わたしはこれから結構我儘な契約を言い出す予定なのだ。気合を入れねば。


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