第13話 狂気の沙汰の始まり





「さあて、5層、行ってみるか」


 ゲートキーパーの部屋の奥にあった扉を開けると、そこには昇降機があった。なんでも、全員が鍵を持っていないと昇降機の扉は開かないそうだ。ケチくさいなぁ。


 ギシギシと危なっかしい音を立てて、1層分昇降機が移動した。ここはある意味、目的地の第5層だ。



「ポイズントード狩りだろ? こっちだよ。近くだけど、普通の連中は近づかない場所だねぇ」


 アンタンジュさんが先導してくれる。初見階層だけにターンは2番目だ。


 その場所までは扉無しで到達できた。つまり、敵に遭遇する可能性はかなり低いということになる。好材料だね。後はわたしがどれだけヤれるのか、それだけだ。

 だからこそ、仲間たちに見せつけなきゃならない。さっきの戦いには参加できなかったけど、ここはわたしの戦場だ。


「ほんとにやるのか?」


 ターンが心配そうにこっちを見ている。だから、わたしは笑いかけるんだ。


「やるんじゃないよ。できるんだ。見守っててね」


 今回は全員がフィールドに入る。だたし5人は手出しをしない予定だ。

 わたしがヤバいとアンタンジュさんが判断したら、残り全員で敵を倒すか、もしくは撤退ということになっている。


 念のため、各種ポーションをもう1本ずつ飲んでおく。ふぁいおー! 心の中で叫ぶ。


「ふぁいおー!!」


 あ、口にも出ちゃったか。


『ふぁいおー!!』


 仲間たちも声を出してくれた。やっぱし、背中が温かい。ベッドで寝てて背中が寒いと思ったことはないよ。だけど、こんなに温かいのは初めてだ!



 ◇◇◇



 かちゃり。


 目的の扉のノブを自分の手でゆっくり回して、ロックを外した。そして、こっからだ。


「うおりゃああ!」


 思い切り足で蹴飛ばし、扉を開け放つ。そして、駆け出す。後ろの連中は唖然としているが、これがわたしなりの覚悟ってもんだ。


 いた。今のところ4匹。ポイズントードがわたしだけを見ている。いいねぇ、叫んだ甲斐があったってもんだ。ヘイト取ったり。


「てめぇら全員まとめて、かかってこいやあ!」


 わたしはメイスを突き出して、相手を挑発した。多分後ろでは5人が呆れかえっていることだろう。それでいい。


「うるあぁぁぁ!」


 一匹のデカいカエルに殴りかかる。ヒット! だけどまだ倒せない。そんなうちに、カエルどもから緑色の唾みたいのを吐きかけられた。これが毒攻撃か。汚いなあ。

 唾がヒットした部分が、ビリっとする。だけどそれは一瞬で、我慢しようと思えば我慢できる程度だ。つまり、イケる!!



 連中は3匹にならないと、仲間を呼ばない仕様だ。だから最初の一匹を集中的に狙う。ぼこんぼこんと何回でも殴った。


『ぐけぇぇ!』


 突如カエルの鳴き声が聞こえた。これか、これが仲間を呼んだってヤツか。つまりわたしは一匹目を倒したってことだ。精神は結構ヤバヤバだけど、体力は万全で怪我もない、毒も通っているけどすぐ治る。まだまだヤレるってことだ。



 ◇◇◇



「おいおい、本当か」


 背後からジェッタさんの呟きが聞こえたような気がした。だけど今はそれどこじゃない。


「うおるあぁぁ!」


 もう、どれに一撃いれたとか、そんなのは覚えきれない。とにかく目の前のカエルをぶっ叩くのみ!

 周りから見れば、わたしが多数のカエルに集られているように見えるかもしれない。いや、実際集られているから、それは事実なんだけど。それでもわたしはノーダメだ。


 今は6人いるから経験値は分散するけど、これがもしわたし独りなら、もしくはターンと二人だけだったら。


 楽しくなってきたぜぇ。



 わたしは左手で顔だけをガードしながら、他の攻撃は無視することにした。直立しながら、ただひたすら右腕のメイスを振るう。次回からは、メイスを右腕に固定する何かを考えないとね。

 そして、相手のモーションを見抜く。カエルのやってくることは三つだけだ。攻撃する、唾を吐く、仲間を呼ぶ。それだけだ。


 それを見切ればいい。仲間を呼ぶ敵は無視だ。唾を吐くのも無視だ。こっちに飛びかかってくるのだけを叩き伏せればいいんだ。出来る出来る。凄くあちこち痛いけど、痛みなんぞ慣れているし、すぐに消えるんだから、なんら問題はない。ああ、意識が加速していく。


「あはっ、あはっ、あはははは!」


 あれ? わたしは笑っているの? なんで? 楽しいからだね。


「経験値だ経験値。経験寄越せ。いいから経験値だ」


 わたしはやたらめったら殴りまくった。


「レベル、レベル、レベルアップ! レベル、レベル、レベルアープっ!!」


 どんどんと精神が研ぎ澄まされて、同時に動きが良くなっていくのが分かる。顔への攻撃以外は無視して、手近な獲物を殴る。ああ、そういえば『強打』もあったっけ。3回しか使えないけど。

 出し惜しみをしても仕方ないから、使ってしまおう。


「あれ?」


 いつの間にか、カエルどもは全部消えてなくなっていて、蒼いフィールドが消えてしまった。

 同時にわたしとターンの身体が銀色に染まる。


「もっとやれたのに……」


 どこかの偉い人が言っていたっけ、『心で高笑いしながらも、頭は残酷に』だったっけ。まあいい、そんな感じだったと思う。わたしはまだ、その領域にいないらしいことだけは、よく分かった。次回に活かそう。



 ◇◇◇



「なんと言うかまあ」


 アンタンジュさんがため息を吐いている。なんでさ。


「24匹だったね」


「うむ」


 冷静なのはウィスキィさんとジェッタさんさんだった。ちゃんと数えてくれていたんだ。


「良い戦いっぷりでしたわ!」


 手放しで褒めてくれるフェンサーさんだが、私も大体分かってきた。この人はいつでもポジティブというか、何も考えない前向きな感じなんだ。それはそれで、アリだね。


「格好良かった」


「マジ!?」


「うん」


 何より胸に染みるのがターンの言葉だ。そうか私は格好良かったかあ。


「そうか? なんかカエルに、ボコボコにされていた感じだったけど」


 アンタンジュさんは煩いよ。ターンが格好良いって言ってくれてるんだから、それでいいじゃないか。



 ああ、そうだレベルアップだ。


 ==================

  JOB:PRIEST

  LV :6

  CON:NORMAL


  HP :9+17


  VIT:14+6

  STR:12+4

  AGI:13

  DEX:14

  INT:20+13

  WIS:13+15

  MIN:17

  LEA:17

 ==================


 『ミルト』『オディス』『強打』『ピィフェン』『キュリウェス』

 『回避』『オディス=ヴァ』『ファ=オディス』『シーフォ』


 パラの上昇はまあまあかな、大きいのは『ファ=オディス』つまり、普通のヒールだ。プチヒールから進化した。これで立派なプリーストを名乗れそうだ。

 それと『シーフォ』。これは宝箱鑑定系の魔法スキルだ。ほぼ確実に罠を判定できるから、罠解除を持たない『クリムゾンティアーズ』でも、毒系ならわたしが開ければ良いってことになる。テレポーターなんぞはごめんだ。



 ==================

  JOB:SOLDIER

  LV :8


  CON:NORMAL


  HP :11+28


  VIT:15+9

  STR:10+12

  AGI:19+15

  DEX:16+14

  INT:7

  WIS:9

  MIN:14

  LEA:19

 ==================


 『強打』『速歩』『遠目』『強打+1』『跳躍』

 『索敵』『頑強』『突撃』『回避』『速歩+1』


 で、ターンの結果。レベルが8ともなれば『クリムゾンティアーズ』のメンバーとして恥ずかしくない。ソルジャーだからパラ的にはちょっと劣るかもしれないけれど、ゲートキーパー戦で見せた、スキルを組み合わせた戦闘は魅力だ。パーティに欠けた、斥候役も見事に果たせるだろう。



 ◇◇◇



「それでどうでしょう」


 わたしの戦いっぷりの総評を聞いてみる。


「ああ、一言で言うなら『狂気の沙汰』だね」


「なにそれ酷い!」


「いやだって、それ以外言いようがないだろ」


 アンタンジュさんのあんまりな言葉に、わたしは憤慨した。あんなに頑張ったのにさ。


「でもまあ」


 ん?


「合格じゃないか? みんなはどう思う?」


 アンタンジュさんが周りに聞いた。


「絵面は酷かったですけど、無傷だよね。止めようがないかな」


 これはウィスキィさんの言葉だ。


「最初から心配してない」


 安定して不動のジェッタさん。どこからその信頼は来るのか。


「わたくしも混ざりたいですわ!」


 意味が不明なことを言うのは、いっつもフェンサーさんだ。


「負けないぞ」


 両拳を胸の前に当てて気合を入れるターン。例のポーズだ。いいねえ。



 そういったわけで、わたしによるポイズントード狩りは認められることになった。ただしそれは、みんなと共有する時間が減ることも意味していた。


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