第12話 ゲートキーパーがナンボのもんじゃい、他人任せだけど





 いきなり背後から、ひしっとターンが抱き着いてきた。温かいなあ。


「どうしたの?」


「ん」


「そっか」


 多分今のは、頑張るぞ、負けないぞって意味だ。多分、離れるのは寂しいも入っているかも。

 ははっ、なんだ、わたしにだって分かるじゃないか。相手に寄り添えばいいんだ。


「じゃあ、ちょっと遅くなったけど、行こうか」


「おう!」



「あら、話はついたの?」


 階段を降りてきたわたしたちを見て、ツェスカさんが笑った。


「昨日は騒がしくして、すみませんでした」


「いいってことさ。冒険者やってると、そういうこともあるもんだ。さあ、遅いけど特別に朝飯だよ」



 ◇◇◇



「痛うぅっ!」


 ぶっとい注射を打たれたときよりか、さらにキツイ痛みが身体を走り抜ける。これは腕以外で受けちゃマズイ。足とか胴体だったら、動きが止まってしまう。

 

 わたしは今、第4階層で、ツーテイルスネイクを腕にぶら下げていた。物理的にぶらぶらしてる。


「うおりゃあ!」


 そのまま地面に叩きつけてみたが、そこはプリーストの弱腕、トドメを刺すに至らなかった。そこにアンタンジュさんの剣が突き立てられることで、戦闘は終わった。


「どう? 状態」


 ウィスキィさんに言われ、ステータスカードを取り出して見れば、『CON:NORMAL』。ああ、やっぱりだ。


「通常です。状態異常無しです」


 ついでに言えば噛まれた傷もみるみる治っていた。HP全回復だ。わたしは永久機関かなんかだろうか。


「良し、じゃあ効果が続くかどうか確認するから、後4、5回噛まれに行くぞ。ついでに、2匹同時に噛まれた場合も想定だ」


「ひい!」


 アンタンジュの言ってることは妥当だ。だがそこに優しさが感じられない。いや、心配してくれてるのは分かるけど、一部意地悪混じってないか?


「どうした?」


「やりますよ!」


 ニヤニヤしながら確認してくるところが厭らしい。まったく、仲間っていうのはこういうものなのかな。わたしもついニコニコしてしまう。


「なんで笑ってるんだ? サワ。そういう趣味か?」


 不思議そうな表情でジェッタさんが尋ねてきた。マジっぽい聞き方止めて。


「違います!」



 結局その後、わたしは延べ7匹の蛇に齧られることになった。最後の方では、腕にくっ付いた蛇を壁やら床に何度も叩きつけて、自力で倒すことすら成功した。慣れとは恐ろしい。


 そして、状態異常は起きなかったし、傷も回復した。ついでにスタミナも問題ない。つまり私の『薬効チート』、昨日名付けたんだけど、それはかなり強力だということだ。



 ◇◇◇



「あ」


 そう言ったのはウィスキィさんだ。銀色の光に身を包まれている。レベルアップだ。


「ウィスキィはもうちょっとだったしね。どうだい?」


「えっと、こんな感じ」


 ==================

  JOB:WARRIOR

  LV :9

  CON:NORMAL


  HP :12+39


  VIT:14+17

  STR:13+26

  AGI:12+3

  DEX:13+8

  INT:14

  WIS:10

  MIN:14

  LEA:13

 ==================


 『強打』『頑強』『跳躍』『強打+1』『頑強+1』

 『体当たり』『連撃』『強打+2』『威圧』『頑強+2』

 『活性化』


 凄く穏便で普通なお姉さんのウィスキィさんだが、流石はウォリアー、ゴリゴリのパワーファイターだ。スキルはまあ読めば分かるだろう。『活性化』は確率で回復と状態異常解除ができるスキルだ。ああ、スキルはプレートに出ないので、自己申告だよ。

 なにげにINTが結構高いんだよね。商家の出だって言ってたし、その影響かな。なんで前衛やってるんだか。



「んじゃ、ゲートキーパー殺りにいくか」


 ゲートキーパー。迷宮において、特殊なアイテムや通路、扉なんかの前に固定で配置されたモンスターだ。その階層においては一段階強い傾向があって、冒険者たちに試練を浴びせてくる存在だ。

 今回は、1層から5層に連なる昇降機の鍵をドロップするゲートキーパー、ってことになる。編成はスケルトン系がメインらしい。


「出し惜しみは無し。スキル使ってガンガン行くよ!」


 景気の良いアンタンジュさんの声と共に、わたしたちは歩き出した。流石にここでは走らない。



 ◇◇◇



「ソード3、こん棒3、ボス1ですわね」


 現れたのは7体のスケルトンだった。ソードとこん棒はどうとして、ボスは一回り大きい上に、4本腕で剣を2本とこん棒を2本ずつ持っている。ゲームで言うところの、エリートスケルトンだ。


「サワとフェンサーは後ろ、ターンは遊撃、残りは前で。まずは取り巻きを削るよ!」


「了解!」


 開幕はフェンサーさんの『ファ=トリハ』からだった。炎の範囲攻撃が相手を襲う。だがそれは当然、全体攻撃ではない。対象は向かって左側の取り巻き3体に集中していた。


「ウィスキィ、ターン。左は任せた!」


 そう指示を出しながら、アンタンジュさんとジェッタさんは右の3体を狙いに行く。中央は無視だが、どこかでちょっかいをかけないと、ヘイトが何処を向くか分かったもんじゃない。救いなのは、敵の全部が遠距離攻撃を持たないことくらいだ。


「へぶっ」


「ターン!? 『オディス』! 『ピィフェン』!」


 ターンが相打ちのように転がされていた。慌てて回復をかける。

 これはわたしのミスだ。先に『ピィフェン』(防御バフ)を、ターンに掛けとくべきだった。どこかで皆は攻撃を受けないなんて勘違いをしていた。わたしにできる『ピィフェン』は3回。残り2回は誰に掛ける?


「アンタンジュさん! 『ピィフェン』あと2回です。指示を!」


「サワとフェンサーだ!」


 ここで後衛に回すってことは、攻撃が通る可能性があるってことだ。


「了解しました!」


 わたしは指示に従い、自分とフェンサーさんに『ピィフェン』を掛ける。これでタネ切れだ。メイスを握りしめる。フェンサーさんを守るのがわたしの役割でもあるんだ。使える『オディス』(回復)はあと3回。


 だけど心配は無用だった。右側に残された取り巻き1体をジェッタさんに任せて、前衛残り3人がエリートスケルトンに襲い掛かる。

 わたしはターンの動きに目を見張った。多分『速歩』と『跳躍』、そして『強打』を組み合わせているのだろう。レベルの低いわたしには追いきれないような動きで、敵を翻弄していく。だけど彼女はダメージディーラーじゃない。


 アンタンジュさんとウィスキィさんの攻撃が、エリートスケルトンに通った。4本腕はすでに1本になっている。

 トドメはなんとフェンサーさんだった。中級単体攻撃魔法『ファ=リハト』が敵の額を貫き、そしてエリートスケルトンは光になって消えていった。


 残されたのは2個の鍵だった。複数所持ができないから、わたしとターンの分ってことだ。


「強えぇ」


 多分まだまだいけるんだろうけど、それでも本気の片鱗を見せてくれた『クリムゾンティアーズ』は、伊達にアベレージレベル9を張ってはいなかった。

 それとなにより、レベル6ソルジャーのターンが役割を果たした。これは本当に凄い。どれだけの意志があったら、あそこまでやれるんだろう。


 薄青いフィールドが解除されると同時に、わたしとターンが銀色に輝いた。


「ああ、レベルアップかぁ」


 ==================

  JOB:PRIEST

  LV :5

  CON:NORMAL


  HP :9+13


  VIT:14+4

  STR:12+4

  AGI:13

  DEX:14

  INT:20+10

  WIS:13+13

  MIN:17

  LEA:17

 ==================


 『ミルト』『オディス』『強打』『ピィフェン』『キュリウェス』

 『回避』『オディス=ヴァ』


 わたしはやっとWISで神引きをした。プリースト系魔法の効果に直接影響が出るので助かる。『オディス=ヴァ』は単体敵攻撃魔法だ。相手のHPを削るって感じ。



 ==================

  JOB:SOLDIER

  LV :7

  CON:NORMAL


  HP :11+24


  VIT:15+6

  STR:10+10

  AGI:19+12

  DEX:16+14

  INT:7

  WIS:9

  MIN:14

  LEA:19

 ==================


 『強打』『速歩』『遠目』『強打+1』『跳躍』

 『索敵』『頑強』『突撃』『回避』


 ターンと言えば、今後を考えるとVITとSTRに上がってほしかったのだけど、贅沢は止めよう。それより、現状でも十分斥候として役立てる。『回避』を覚えたのも良いね。



 だけど今はレベルアップの結果より、仲間たちの頼もしさと、それに負けたくないっていう、そんな気持ちの方がずっと強かった。


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