第11話 和やかで物騒で遠大な野望
「ほらほら、あんたらはもう寝ちまいな」
泣きつかれてぐてっとなってしまったわたしと、ウトウトしているターンにアンタンジュさんが言ってくれた。
「今後の打ち合わせは明日の朝だ。寝坊すんじゃないよ」
「こっちが寝過ごしそうですわ」
アンタンジュさんにフェンサーさんが突っ込みを入れた。
「違いない。じゃあ、打ち合わせはこの部屋でやるからさ。寝てたら叩き起こしてくれていいよ」
「あの、その、ありがとうございます」
「ほら、ターンがもう寝てるぞ」
アンタンジュさんは手をひらひらと振って、わたしたちを追い出した。
「さてさて、新しい本当の仲間を作る作戦会議だね」
「……うん、酒が美味いな」
扉の向こうから聞こえてきたのは、ウィスキィさんとジェッタさんだろうか。
わたしは自室に戻って、ターンを抱えて眠りに落ちた。
◇◇◇
案の定翌日、『クリムゾンティアーズ』の人たちは起きてこなかった。でもまあ、わたしの心配もしてくれたし、……叱ってくれたし、ここは穏便に行こう。
「みなさーん、起きてくださーい!」
「うぇああ」
謎の声を出しているのは、ジェッタさんかな。ドワーフってお酒に強いイメージあるけど。
といった感じで、30分ほど時間を費やして、会議が始まった。
「まずは、そうだね。サワの解毒効果が持続するかの検証だね」
「はい」
「確認するためには、毒攻撃を受ける必要があるんだけど、覚悟はあるかい?」
アンタンジュさんが真剣な表情で聞いてくる。答えなんてひとつだ。
「はい。大丈夫です。事前にヒールポーションも飲んでおきますし、『オディス』と『キュリウェス』もありますから」
「そうだね。万全ってわけだ。で、そこからだ」
「そこから?」
「昇降機の鍵を取りに行く。あたしたちは持ってるけど、サワとターンは持ってない。だからそれを狙いに行く」
「昇降機、ですか」
この世界の迷宮マップは、わたしがやっていた『ヴィットヴェーン』と全然違う。と言うか、違って当たり前なんだ。なんてったって、『ヴィットヴェーン』は新規階層がランダムに生成される仕様だったんだよ。
この世界では沢山の先駆者がいるから、マップは固定されているわけだ。わたしのやっていたゲームの世界では、昇降機なんて次の階層で行き止まりなんてザラだったけど、こちらではさて。
「ああ、第1層から第5層までの直通だ」
「第5層まで!?」
「そうだよ。第1層はなんにも問題ないだろ?」
「そうですね」
「じゃあ後は、第5層で目的地までたどり着けるかだ。サワ単独でだよ?」
その言葉の意味するところは、昨日わたしが言った案を肯定してくれるものだった。
「いいんですか? あの、わたし」
「やりたいんだろ? なら応援するのが仲間ってもんだ」
アンタンジュさんを含む『クリムゾンティアーズ』のみんなが良い笑顔をしている。これは昨日、あれから話し合ったんだろ。まったくお人好しな人たちだ。
「ただし応援する条件があるわ」
「どういうのでしょう」
ウィスキィさんが話を引き継いだ。
「まず、今日は解毒の検証と、昇降機の鍵の取得ね」
「はい」
まあ、ここまでは短期目標だ。問題はこの後。
「それで、ポイズントード狩りができそうだったら、サワは一人でプリースト互助会に入るっていうお話だったよね」
「……ごめんなさい。そうなります」
「あやまらなくていいわ。だからそこで条件」
「どんなのでしょう」
わたしはちょっとビビりながら、話を聞いていた。この人たちなら無理難題は無いだろうと、思いたい。
「ターンのことよ。サワの案が上手く行ったら、彼女が置いていかれるわ」
「確かに、それは……」
その通りだ。ポイズントード狩りが上手く行ったら、わたしは凄い速度でレベルアップできるだろう。
「そこで条件を付けるわ。まず、あと2日、今まで通りのレベルアップをしましょう。これはサワが少しでも安全に狩場まで行けるようにするためよ」
「あ、いいんですか?」
「ええ。レベルアップの約束はまだ有効なんだから。それともう一つの条件、2日に一回半日でいいから、ターンと二人でレベル上げして。人数が少ない方が、えっと経験値効率が良いんでしょ?」
「はい! やります」
鳥肌が立った。この人たちは、わたしとターンの絆まで気にかけてくれている。
「その時は、二人でスキル全開で戦ってね。二人の息を合わせる意味もあるんだから」
「ターン」
「ん?」
「お願いね」
「わかった。負けない」
ターンの目がギラギラとしているのが、伝わってきた。
「ターンはどれくらいレベルアップしたら、次のジョブになる?」
「VITとSTRで30から40欲しいな。期待値で1.5だから、レベル20から27くらい」
「……マスターレベルの2倍だね」
わたしとターンの会話に、ジェッタさんが冷静な突っ込みを入れた。
「やる」
それでもターンの答えはひとつだった。
◇◇◇
「次はわたくしの番ですわ」
次に発言というか登場したのは、フェンサーさんだった。綺麗な金髪をクルクルと縦ロールに巻いて、両肩から降ろすエルフ。なかなかゴージャスエルフだ。出っ張る所も出っ張り、引っ込むところは引っ込んでいる。凄い。エルフなのに悪役令嬢みたいだ。
「わたくしは『クリムゾンティアーズ』を抜けますわ!」
「はぁ!?」
爆弾発言にも程がある。何がどうしてそうなる。
「それがさあ、ジェッタも抜けるって」
追加爆撃がアンタンジュさんからもたらされた。どうしてそうなる?
「サワが抜けるなら、わたしもそうする。強くなるためだ。教えを乞う」
「わたくしも、同意ですわ!」
「あの、ジェッタさん、フェンサーさん。別に『クリムゾンティアーズ』抜けなくても、幾らでも教えますよ?」
「けじめだ」
ジェッタさんが、なんかキマった顔をしている。意味ない行為ですよ、それ。
「いえその、わたしのやり方ならいずれは強くなれるかもですけど、上手く行くかも分からないし、時間がかかりますよ」
「あら、おかしなことを言いますわね、どれだけ時間がかかっても最強を目指す。それがサワの考え方ではなくって?」
「ドワーフの寿命は300年だ」
「エルフは、大体500年ですわ」
あああ、そういえば、そういう設定だった。長寿人種かあ。ちなみにセリアン(獣人種)は大体人間と一緒だ。
「うーん、でもパーティを解散するっていうのは」
それは勿体ないんじゃないかな。昨日、仲間の温かさってものを教えてもらったばかりだし。
「実はな、解散は殆ど決まっていたんだ」
「え?」
「最初に言ったろ、二人抜けたって。だからさ、とりあえず4人で組みながらでも、状況次第で野良をやろうかと思っていたんだ」
野良。つまり4人がバラバラに、必要とされるパーティに臨時参加する形だ。
確かに今も『クリムゾンティアーズ』は前衛3人の後衛ひとりっていう、バランスが悪いパーティだし、どこかと合体といっても、前衛を持て余すのは間違いない。
「どこかのクランに入るっていうのはどうです?」
「それがなあ」
訳アリなのかな?
「あたしたち全員が、はぐれ者なのさ」
「ええ?」
ちょっと想像がつかない。こんなに良い人たちなのに。
「あたしはスラム上がりでね、商家の出のウィスキィに拾ってもらったんだ」
「拾ったなんて、わたしは13歳で変態貴族に売られそうになって逃げだしたところで、アンタンジュと出会っただけよ」
「わたしは、不愛想でパーティを追い出された」
ジェッタさん……。
「わたくしは高飛車で生意気だそうですわ!」
フェンサーさんも、なんと言うか。
「あんたらと組めれば最高だったんだけど、まあ考え方の違う連中とはなあ」
「ごめんなさい」
そう。ここではっきり言わないとダメなんだと、昨日学んだ。ボヤかしてもだめだし、ちゃんと相手の考えも汲まなきゃだめだ。
「わたしは今の考え方を変えられません。だけど」
「そこでクランですわ」
わたしが続きを言いかけたところで、フェンサーさんが言わんとすることをインターセプトしてきた。
「もしかして、最初から?」
「ああ」
アンタンジュさんも人が悪い。
「でっかいクランを作るぞ。入会条件は訳アリの女限定で、特典はサワの指導だ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます