第10話 どうせわたしには、人の心なんて分からないよ!
皆に遅れて宿に戻ったわたしは、とりあえず食事をと食堂に行ったわけだけど、そこではみんながお茶やらお酒を飲んで待っていてくれた。
「遅くなってごめんなさい」
「別にいいさ。とにかく食べな」
アンタンジュさんはお酒を飲みながら、軽く手を振った。それではということで、夕食だ。やっぱりちゃんとした食事はいいな。何回食べても涙が出てきそうになる。
それでは今日のリザルトだ。
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JOB:PRIEST
LV :4
CON:NORMAL
HP :9+11
VIT:14+2
STR:12+3
AGI:13
DEX:14
INT:20+7
WIS:13+8
MIN:17
LEA:17
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『ミルト』『オディス』『強打』『ピィフェン』『キュリウェス』
まずはわたしから。レベルが1上がった。今回は大体期待値通りのパラの上がり方だ。VITとSTRは捨てているので気にしない。とにかくWISを伸ばしたい。
あと、スキルは『ピィフェン』、味方一人の防御力上げる魔法と、『キュリウェス』、解毒魔法だ。今後の事を考えると両方のスキルは多分役に立つ。
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JOB:SOLDIER
LV :6
CON:NORMAL
HP :11+20
VIT:15+5
STR:10+10
AGI:19+11
DEX:16+11
INT:7
WIS:9
MIN:14
LEA:19
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『強打』『速歩』『遠目』『強打+1』『跳躍』『索敵』『頑強』
次にターン。彼女も1つレベルを上げた。良い感じで、AGIとDEXが上がっている。正直ここでシーフにしても良いくらいだけど、まだまだ我慢。新しいスキルは『頑強』。自身の防御力を上げるスキルだ。VITの低めなターンには良いかもしれない。
◇◇◇
わたしがふむふむと納得していると、周りの目がジットリしていることに気が付いた。
「な、なんです?」
「サワの特異体質のことだよ。当然気になるだろうさ」
アンタンジュさんが言った。そりゃそうか、気になるよね。だけどわたしにも分からないんだよね。強いて言えば前世のベッドの上で、薬漬けになっていたことくらいだ。思い出したくないなあ。
「わたしも分からないんですよね。だけど、反動とかは別にありませんし、今のところは前向きに考えてます」
「前向き?」
「はい、明日も試してみたいことがあるんです。帰り道でアンチポイズンポーションを買ってきたんですよ」
「なるほど、解毒も続くか試したいってわけか」
「4層とか5層なら毒持ちのモンスター、いますよね?」
「まあ、いるね。5層のポイズントードは厄介だけど、4層ならツーテイルスネイクあたりが手頃かな」
わたしはふむふむと頷く。じゃあ明日は第4層あたりで実験かな。
「申し訳ないですけど、付き合ってもらえますか?」
「ああ、構やしないよ。その特異体質とやらは、サワの武器になりそうだ」
「あはは。それでですね」
さっき協会で聞いてきた内容も併せて、今後のわたしの行動を説明することにした。
「もし、解毒が持続するようなら、わたしはパーティを抜けて、プリースト互助会に入ろうと思ってるんですよ」
「ん?」
「さっき話に出た、ポイズントードって群れて仲間を呼ぶんですよね。それって絶好の狩場じゃないですか。でも周りの皆さんはそうはいかないし、だから経験値効率も兼ねて、ひとりでやろうと思ってるんですよ」
ここで、周りの空気が変わっていたのに気づかない私は馬鹿だった。だけど、それでも続けてしまった。
「プリースト互助会に入ったら、後ろ盾が手に入るみたいですし、武器の貸与もあるそうなんですよ。だから、大量のドロップを抱えても安全みたいです」
「サワ、あんた……」
「ああ、もちろんターンは、今のままレベルアップを続けてください。わたしが渡したお金は返金無用ですよ。こっちの都合ですから」
ぱん!
それはアンタンジュさんが、わたしの頬を軽く張った音だった。
「な、なにを!?」
「何をもなんもあるかい!」
わたしは大して痛くもない頬に手を当てて叫んだ。ちょっと涙が滲む。
「レベルアップだの経験値だの効率だの、あんたはそれだけなのかい、サワ!」
「え?」
だって、この世界の冒険者って強くなってナンボじゃない。強くなるためには効率、大切じゃない。
「ターンを見ろ」
言われた通り、わたしはターンを見た。彼女には表情が無かった。少なくとも嬉しそうではない、それくらいは分かる。だけど、今の顔はどういう意味を持つんだろう。分かんないよ。
「あたしたちだってそうさ! 最初は確かに金だった。だけど今は仲間だって思ってやってるんだよ!!」
「そんなこと言われたって!」
「はいはい、せっかくの食堂が静かになっちゃってるよ。場所を変えよう、ね」
ウィスキィさんが手を叩きながら言った。確かに食堂は静まり返り、沢山の人がこちらの様子を窺っていた。
「ひっ!」
わたしはなんとも言えない恐怖を覚える。こんなに沢山の目に晒されるなんて、生まれて初めてだ。
「わたしたちの大部屋でいいでしょ」
そう言ってくれたウィスキィさんが、頼もしくてしょうがなかった。
◇◇◇
「で、サワ。あんた、あたしがなんで怒ったか分かってるのかい?」
「えっと、わたしの都合で、パーティ抜けるなんて言ったから?」
「まあ、それもある」
「それ以外も?」
「ああ、分かるかい?」
怒っているというか諭すような感じで、アンタンジュさんが問いかけてくる。と言っても、わたしは大混乱だ。何がいけないのかが分からないって、こんな気持ちになるんだ。だって、わたしは。
「だって、わたしは」
「なんだい? 言ってごらんよ」
「わたしは、人の気持ちなんて分からないよ。ずっと一人だったから!」
小学生で入院して以来、わたしに構ってくれるのはお父さんとお医者さん、看護師さんたちくらいだった。誰が人付き合いなんて教えてくれるのさ。
「周りに人はいたよ! だけどそれはお仕事でわたしの傍にいるだけで、お父さんだって、わたしの心配ばっかりで、それしか無かったんだよ!」
「……」
「そんなわたしに、人付き合いとか、人の気持ちなんて分かるわけないじゃない! どうしたらいいのさ! もう分かんないよ。レベルアップして何が悪いのさ。効率厨で何か問題あるわけないじゃない!」
そこからはもう、堰を切ったようにわたしは喚き散らしていた。
「わたしには、それしか無かったんだから!!」
そうだ、わたしには人の心が分からない。自分の心さえ、それが正しいのかすら分からない。ましてや他人なんて。
「サワはターンを助けてくれた」
ターンだった。
「……それは、ターンが可愛くて、可哀そうだったからだよ」
「それでも助けてくれた」
いつの間にか、ターンはポロポロと涙を零していた。
「ほかの人、ターンもよく分からない。だけど、ターンはサワに感謝してる。サワが好きだ。間違いない」
「っ、ターン!」
わたしはターンに抱き着いて、叫ぶように泣いてしまった。物心ついて以来、誰かに感謝されたのなんて、初めてだった。ずっとずっとベッドにいて、誰かのお世話になるばかりで、お父さんには後ろめたさばっかり感じて、ずっとそんな生活だったんだ。だけど、この世界は違う。
「ごめんね、ごめんね、ターン」
「ううん。ううん」
「ワケありなのは分かったよ。じゃあ、これからどうするのが一番いいのか、みんなで、仲間同士でそれを考えようじゃないか」
周りにいた『クリムゾンティアーズ』も笑っていた。苦笑いかもしれないけれど、それでもだ。
ああ、そうか。ターンだけじゃなく、アンタンジュさんも、ウィスキィさんも、ジェッタさんも、フェンサーさんも、みんなわたしを仲間だって思ってくれてるんだ。
そんなわたしとターンの頭を撫でてくれたアンタンジュさんの手は、とても温かかった。
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