第9話 地味だけどわたし向きのチート
「ふぁいおー、ふぁいおー」
「クリムゾンティアーズ、ふぁいおー!」
6人が迷宮第3層を駆け抜ける。先頭はターンだ。時折すれ違ったり、追い越したりしたパーティが目を丸くしているが、知ったことではない。
わたしが昨日提案した、時間効率と基礎パラ上げの両得を狙った行動なのだ。問題なのは提案したわたしがヘロヘロなのと、先輩でエルフのフェンサーさんが青白い顔をしていることだ。それ以外の人たちは、涼しい顔をして走っている。特にターンなんかは斥候の役割も貰って、とても嬉しそうに駆けていた。
「ふひゅー、ふひゅー、待って、げん、かい、ですわぁ」
フェンサーさんには悪いことをしたなあと思いつつ、わたしも崩れ落ちるように停止した。
「サ、サワ。スタミナポーションですわ」
「ああ、事前に準備してたんですね」
「昨日の提案を聞いて、こうなる気がしていたのですわ」
「私の分まで、すみません。おいくらですか?」
「500ゴルドですわ」
「帰ったら払いますね」
わたしとフェンサーさんは、二人してスタミナポーション(弱)を飲み干した。ちょっと甘くて、意外と美味しい。それと同時に、見る間に疲れが消えていく。ポーション凄い。
それが、奇跡の始まりだった。
◇◇◇
「疲れない?」
さらに1時間後、スタミナポーションの効果が切れて、ぶっ倒れているフェンサーさんを他所に、わたしは元気溌剌だった。
「ポーションの持続時間に個人差があるのかな?」
それが最初に思いついた推論だった。
「それともわたしに変なブーストが掛かってる?」
だけど、ステータスカードのCON(状態)欄は、ノーマルのままだ。状態異常じゃない。なんだこれ?
この現象は流石に見過ごせない。明日にでも検証するしかない。
そして本日の結果がこれだ。
まずはターン。
STRの引きがおかしい。まあ、良いことだけど。2層や3層なら、普通に前衛をやれそうな気がする。今後のためにもあとでアンタンジュさんに確認しておこう。
スキルは『強打+1』と『跳躍』、そして『索敵』だ。レベルが2上がっただけだけど、複数のスキルが取れるのは仕様だ。どの道レベル13で全部覚えるわけだし。
==================
JOB:SOLDIER
LV :5
CON:NORMAL
HP :11+20
VIT:15+5
STR:10+8
AGI:19+10
DEX:16+8
INT:7
WIS:9
MIN:14
LEA:19
==================
AGIが伸びた! スキルと併せれば、すでにターンは斥候としてパーティを機能させるだけの力を持っている。
この結果が、わたしがターンにソルジャーを推した意味だ。どうにもこの世界の皆さん、自分のパラ限界ギリギリのジョブに就く傾向が強いんだ。別にそれが悪いことだとは言わないけど、下級ジョブ、私に言わせれば初級ジョブにはそれなりに良い所もある。何処でも役に立つ基本スキルが存在してるからだ。ターンは基礎パラが良かっただけに、レベル5でも十分凄いことになっている。ふひひ。
んで、わたしだ。やっとこさWISで当たりを引けた。良かった、本当に良かった。これで少しか治癒魔法の効果が上がるってもんだ。
新しく覚えたスキルは『強打』。これはメイスで相手をぶん殴れってスキルだ。流石に前衛には出れないけど、後衛の防御役としてはイケるかもしれない。
==================
JOB:PRIEST
LV :3
CON:NORMAL
HP :9+8
VIT:14+2
STR:12+3
AGI:13
DEX:14
INT:20+3
WIS:13+7
MIN:17
LEA:17
==================
そして注目すべきは、わたしとターンの基礎VITが1上昇したことだ。なんと、フェンサーさんも上がったらしい。これはやはり、普段の鍛錬は基礎パラに影響を及ぼすということだ。筋肉ムキムキのオジサンは、元々STRが強い。結構当たり前かな。
迷宮の帰り道で、わたしはフェンサーさんに500ゴルドを支払った。そして、二人でボータークリス商店に寄って、スタミナポーションをわたしも買った。それともうひとつヒールポーション(弱)も。フェンサーさんは震える手で、同じポーションを3本買っていた。赤字じゃないんだろうか。物凄く申し訳ない気持ちになってしまった。
◇◇◇
そして翌日。すなわち3日目、わたしは迷宮の入り口でスタミナポーション(弱)を飲んでから、みんなについていった。これである程度検証できるかもしれない。
もしわたしの予想が合っていたなら、ちょっと恐ろしいことになる。もし、わたしの想像がそれを超えていたら、とても悲しいことになるかもしれない。
だけど、レベルアップだ。わたしはレベルアップして最強になる切っ掛けを見つけたんだ。じゃあやらない理由が無い。わたしはこっそり、昨日買っておいたヒールポーション(弱)も飲み干しておいた。
第4層を探索している時に、それが証明されることになった。
相手はソードスケルトン5体。すかさずフェンサーさんが魔法を放った。『ファ=トリハ』、範囲炎攻撃だ。ゲームなら全部に攻撃が通るのだけど、ここは現実との狭間だ。2体程がノーダメージで回避成功した。
無傷の2体にアンタンジュさんとジェッタさんが向かう。半死半生の残り3体には、ウィスキィさんとターンが飛びかかった。だけど、1体が抜けてきてしまう。狙いはフェンサーさんだ。わたしは思わず立ちふさがりメイスで攻撃を受け止めた。受け止めたけど、それは下手くそで相手の剣が左腕を掠った。
「ぐあっ。つぅぅ」
当たり前だけど痛い。だけど、わたしの気迫は衰えない。痛みなんて慣れているし、逆にそれは生きている証拠だ。だから、わたしは負けたりしない。
「『強打』あぁ!」
そのままメイスを相手に叩き込んでやった。目の前のソードスケルトンは崩れ落ちて消えた。わたしが自身の手で、初めて倒したモンスターだった。
そのすぐ後に戦闘は終わった。みんなが私の下に駆け寄ってきた。フェンサーさんは青い顔をしている。大丈夫だから。治癒魔法あるから。
わたしは血を流しながらも、治癒魔法『オディス』を唱えようとして、はたと止まった。
「傷、治ってる……」
「サワ、あんたポーション飲んだのかい?」
アンタンジュさんは責めた風でもなく言ってきた。
「飲みました」
「そうか、まあ初めての怪我で動揺するのは分かるよ」
「いえその……」
言うべきか、どうしよう。だけどやっぱりこれは言った方がいい。もう何日も付き合って、この人たちが信用できるって、わたしは思ってる。
「迷宮に入った直後に、ヒールポーション、飲みました」
「はぁ!?」
「理由は分かりませんけど、わたしの特異体質なんじゃないかなって、思いまして」
そう、昨日のスタミナポーションがヒントだった。飲んでから多分12時間、効果が続いたんだ。ただ、スタミナポーションは持続するタイプの薬だ。それに対してヒールポーションは怪我をした後にしか効果が無くって、しかも1回限りだ。
「ターン、剣貸してくれる?」
「……ん」
ターンは最初イヤイヤをするような顔をしたが、それでも剣を貸してくれた。わたしが何をしようとしているのか、分かったんだろう。
わたしは剣を受け取り、左腕を軽くなぞった。周りもその意味を分かるのだろう、黙って傷口を見ている。はたして、傷はあっという間に塞がった。
「効果が、持続してる」
◇◇◇
その日の帰り道、皆は微妙な顔をしているけれど、わたしの心の中では小人が踊っていた。なんたって、この特異体質はイケる。レベルアップに嵌るんだ。
冒険者協会で素材を下ろした後、わたしは用事があると言って、受付嬢さんの所に向かった。教えてもらいたいことがあったんだ。
そして、1時間ほどのレクチャーを受けた後、ボータークリス商店で3種類のポーションを2本ずつ買った。ひとつは『アンチポイズンポーション』だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます