第8話 初めてのレベルアップ
迷宮の第2層に、剣戟の音が響き渡っていた。本日第3回目の接敵だ。
第1層は治療所やら物販なんかがあって、迷宮というより小さな街の様相だった。なんでも協会から派遣された巡回の冒険者がいて、しっかりとモンスターを掃除しているらしい。
その迷宮はと言えば、見た目はわたしの知る『ヴィットヴェーン』にそっくりだ。
ただひたすら石で組まれた四角い迷宮。曲がった道など無く、直線の道と直角の曲がり角や交差点があるばっかりだ。
灯りは無い。だけどこのパーティにはフェンサーさんの永続灯り魔法、ファ=ミルトがあるので、問題ないのだ。
そうして『クリムゾンティアーズ』の4人と臨時の2人の、合計6人パーティは進む。
そんな感じで、わたしたちの初戦闘は第2層から始まった。今の相手は4匹のレッサーゴブリンだ。前衛の3人が危なげなく対処してくれていて、ここまで後衛組の出番は一度もない。
フェンサーさんですら、魔法の一発も放っていないのだ。
「いやあ、パワーレベリングというか、単に突っ立ってるだけだね。これで経験値が貰えるんだから、酷いもんだ」
「見ているだけでも、それは経験ですわ」
「なるほど、そういう考え方かあ。ターン、相手の動きをよく見ておいて。自分ならどう対処するかって、考えながらね」
「分かった」
そんな会話をしているうちに戦闘が終わった。ドロップは肉片だ。一応食べられるらしいけど、嫌だなあ。
すっと、蒼いバトルフィールドが消える。最大6人収容可能な、謎のバリアだ。ゲームではこういうのは無かったけど、戦闘中の乱入を避けるっていう仕様が反映されているんだと思う。ご丁寧なことだ。
「レベル、上がらない」
「そうだねえ。でも多分、次あたりで上がると思うよ。わたしはまだかな」
「そうなんだ」
「うん。プリーストよりソルジャーの方がレベルアップが軽いから」
「サワ、詳しいね」
「そりゃもう」
「たしかにサワは詳しいですわね」
わたしとターンの会話にフェンサーさんが参加してきた。
「宿にあった資料を読み込んでおいたんですよ」
カバーストーリー発動だ。と言っても、本当に読んだ。冒険者の宿を名乗るだけあって、フォウライトには資料棚が設置されていた。
わたしはそれを読み込んでおいたのだ。主にわたしのゲーム知識と、この世界の違いを確認する目的だったけど。なので流し読みをしながら、違和感があったところだけ詳しく読んだんだ。
「ほら、次いくぞ次」
「はーい」
アンタンジュさんに促されて、わたしたちは迷宮第2層を彷徨う。
◇◇◇
次の敵はコボルトパピーだった。名前だけ聞けば心が痛むが、顔面は醜悪なのでそれほどでもない。MIN、すなわち『精神力』が効いているのか、倒される敵に同情心が湧かないんだ。これは正直助かる。
3匹出てきたそれは、前衛3人組にあっさり倒されて、毛皮を残して消えた。
「ふわっ!」
突然声を上げたターンは、薄い銀色の光に包まれていた。レベルアップだ。
「おおお、こんな感じなんだ。ターン、大丈夫?」
「うん。なんか気持ちよかった」
「ほほう。ねえ、ターン、ターン。ステータス見せてよ」
「ん」
ターンが胸に手を当て、インベントリからステータスカードを取り出した。皆がそれを覗き込む。
==================
JOB:SOLDIER
LV :1
CON:NORMAL
HP :11+5
VIT:14+3
STR:10+3
AGI:19
DEX:16+3
INT:7
WIS:9
MIN:14
LEA:19
==================
「すげえ」
思わずアンタンジュさんが零した。たしかに凄い。でもこれ補正なのか? セルフラックなような気もする。まあ良い方向なんだから問題はない。
「この調子だと、レベル5くらいで斥候を任せられそうですわ」
フェンサーさんも驚いているようだ。確かにAGI(素早さ)とDEX(器用さ)が30を超えれば、それと適切なスキルがあれば行けるかもしれない。だけど気が早い。
「ああ、そういえばスキルはどう?」
「んんと『強打』?」
「瞬間的に攻撃力が上がるスキルだね。シーフやニンジャになっても使えるから、後で練習だね」
「分かった」
「レベルアップきたー!!」
ターンのレベルアップから遅れること、30分。2回の戦闘を経て、わたしは銀色の光に包まれた。
プリーストの場合、
ドキドキしながら、ステータスカードを出す。もちろん皆が覗き込んでいる。
==================
JOB:PRIEST
LV :1
CON:NORMAL
HP :9+3
VIT:13+1
STR:12+2
AGI:13
DEX:14
INT:20
WIS:13+1
MIN:17
LEA:17
==================
「ぐはっ!」
「……変な伸び方だな」
「勘弁してくださいよー、ジェッタさん」
わたしのLEAは何処に行ったのやら、なんでSTRが伸びるんだか。まあいい。次だ、次。
「あ、その前にスキルだ!」
胸の奥に念じる。ああ、感じる、これがスキルか。
「『ミルト』でした……」
覚えたのは『ミルト』。すなわちフェンサーさんのファ=ミルトの劣化版だ。この状況では、完全に役立たずだよ。
「ま、まあ、気にしないで。どんどん行けばいいんだよ」
さすがにアンタンジュさんの歯切れも悪い。気を使わせて申し訳ない。
だが落ち込まない。わたしは確率論者なのだ。つまり、今回はヒキが悪かっただけ。レベルを上げれば収束するさ。
◇◇◇
その後も探索は続いた。アンタンジュさんがレベル10、ジェッタさんとフェンサーさんがレベル9、ウィスキィさんがレベル8。アベレージレベル9の『クリムゾンティアーズ』なら、第2層などものともしない。
途中、宝箱も出たがスルーした。第2層だと『爆発』か『毒針』くらいだが、初心者二人がいるので、冒険を避けたというわけだ。『クリムゾンティアーズ』からしてみれば、ゴミばかりだろうし。
そうして2時間ほど、2層のモンスターを狩りまくった結果、ターンはレベル3に、わたしはレベル2になった。
以下が、その結果だ。
==================
JOB:SOLDIER
LV :3
CON:NORMAL
HP :11+13
VIT:14+4
STR:10+5
AGI:19+5
DEX:16+5
INT:7
WIS:9
MIN:14
LEA:19
==================
うん、順調だ。セリアンだけあって、力系の伸びは良い。けどこれはまだ偏りかな。AGIがもっと伸びると助かるんだけど。それでも明日には、2層で戦闘ができるレベルにはなりそうだ。
覚えたスキルは『速歩』と『遠目』らしい。シーフ系でも覚えられるけど、この感じならソルジャーでも斥候はできそうだ。
問題はわたしだ。
==================
JOB:PRIEST
LV :2
CON:NORMAL
HP :9+6
VIT:13+2
STR:12+2
AGI:13
DEX:14
INT:20+1
WIS:13+2
MIN:17
LEA:17
==================
わたしの引き、弱すぎ問題だ。いやいや、偏りだよ。分かってるよ。だけど、専門職なのに、INTとWISが伸びないのかよ。下がるわあ。ちなみにスキルは『オディス』。簡単にいえばプチヒールだ。何故か魔法スキルだけ造語なんだよね。
でもこれで一応、わたしもプリーストを名乗れるようになった。
まだまだ、明日があるさ、明日が。今日は帰ってご飯食べて、ぐっすり寝れば、明日がやってくる。引ける明日がやってくる。歌でも歌おうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます