第17話 むふふん!





「あ、あのサワさん」


「え? どうしました」


 他の人より遅い夕食を食べていたら、ポロッコさんが話しかけてきた。これは友情フラグか?


「『クリムゾンティアーズ』って今、プリーストいないんですよね」


「まあ、一時的にわたしが抜けたから、そうなりますね」


「あのその、紹介してもらうわけには、いきません、よね?」


「ええ?」


 まあ確かに、『クリムゾンティアーズ』にヒーラーがいれば安心度は上がる。わたしの我儘で一旦抜けたという引け目もある。


「それは互助会抜けるってことですか?」


「それは……、どうしましょう」


「わたしに聞かれても」


 とか彼女は言っているけど、互助会の理念は違う。もし安定したパーティなりクランなりに引き取り手があったなら、それを推奨するのだ。

 そして、明らかになってはいないけど『クリムゾンティアーズ』は、近い将来穏便に解散して、不遇な女性冒険者たちの器になろうとしている。さて、ポロッコさんはどうなんだろう?



「サワさんが戻るまでだけでも、指名いただいて、実戦経験積めればって。あそこは女性ばかりですし。レベル1のわたしを気遣ってくれましたし」


「ああ、考えてくれてたんですね。ありがとうございます」


 そういえば、こうやって敬語同士で話すのって、こっちに来てから初めてかも。ウェンシャーさんは例外だね。あの人はなんというか、誰であろうと敬語だろうから。


「でもちょっと違います。わたしが戻る時にはもう、ポロッコさんと役割被りませんよ」


「え? でもプリーストですよね」


「ふふふふふ、よくぞ聞いてくれました。わたし、今はプリーストだけど、ジョブチェンジ予定ですから」


「ええ!? ビショップかモンクになるんですか?」


 そう。これがこの世界の常識的な考え方だ。ジョブチェンジは基本的にしない。したとしても、派生ジョブか上位ジョブへ、くらいなものなんだ。

 だけどわたしは、そんな常識をぶっ壊す! たとえチートが無かったとしてもそうしていた。15年計画が3年計画になった程度だ。



「わたし、どんくさいんです」


「はい?」


 なんかいきなり話題が変わったぞ?


「互助会に払う会費が足りなくて、雑務をお手伝いしているんですけど、手際が悪くって……」


 どんくさくって、手際が悪い冒険者とはこれ如何に。


「それで、みんなにちょっと冷たい目で見られるようになってしまって」


 まさか、イジメ? わたしにはいじめっ子もいじめられっ子の気持ちもわからない。今後も知りたくもない。だけどなあ。


「いえその、虐められるってわけでもないんですよ、ただちょっと……。でも大丈夫なんですよ? ウェンシャーさんがそういうの叱ってくれますし」


 あの人ってそういうタイプだったのかあ。やっぱし第一印象だけじゃダメだね。ちゃんと付き合ってみないと。



「それと」


「それと?」


 そこで、ポロッコさんはちょっと言葉を区切る。何か頬を赤らめている。なんだなんだ?


「気になる人って言うか、その」


「ええ、それって?」


「わたしと同じくらい小さいのに、格好良いし」


 まさか、まさかとは思うが、ターンかっ!? たしかにあの子は小さいし格好良い。あの動きはとてもソルジャーとは思えない。

 だがしかし、ポロッコさんが、いやもうポロッコでいいや、この泥棒猫めがっ!


「同じドワーフであんなにも凄いなんて」


 ……ジェッタさんだったかあ。


「わかった、向こう次第だけど紹介はするよ。それと、頑張って」


「はい、頑張ります!」


 わたしはテーブルの上に置かれたポロッコさんの手を包んだ。多分分かってないだろうけど、ジェッタさんに視線を向け続けておくれ。ターンはわたしんだから、手を出さないように。



 ◇◇◇



 さて翌朝、わたしはポロッコさんと一緒に冒険者の宿を訪ねた。

 今日はわたしの自主練と、ターンとの冒険の日なのだ。ウキウキするねえ。


 宿の前には、ふんすと腕を組んだターンが立っていた。気合は入っているようだが、くるりと巻いた黒しっぽがブンブン振れている。かわいい。


「おはよう、ターン」


「おはようございます」


 わたしとポロッコさんが挨拶をした。わたしに会えるのがそんなに嬉しいのかな?


「おはよう。レベル9になったぞ!」


 ターンは胸からステータスカードを抜き出し、ズバっと擬音が聞こえるくらいの勢いでわたしに突きつけた。なるほど。



 ==================

  JOB:SOLDIER

  LV :9


  CON:NORMAL


  HP :11+31


  VIT:15+12

  STR:10+13

  AGI:19+15

  DEX:16+16

  INT:7

  WIS:9

  MIN:14

  LEA:19

 ==================


 『強打』『速歩』『遠目』『強打+1』『跳躍』

 『索敵』『頑強』『突撃』『回避』『速歩+1』

 『暗視』『聞き耳』



「おおう、やったねえ。くやしいなあ、また突き放されたかあ」


 ちょっと棒読み入ったけど、イケるか?


「むふん!」


 イケた!


「レベル9ってことは、もう立派な『クリムゾンティアーズ』じゃない」


「むふふん!」


 そうなのだ。アベレージレベル9のパーティたる『クリムゾンティアーズ』、すなわちレベル9とはパーティの中核をなすと言っても良い。しかも、パーティにいない斥候系のパラメーターとスキル構成なので、完全にメンバーとして重宝がられるのは間違いない。



「とりあえず中に入って話そう。みんな居るんでしょ?」


「いる」


 そうして、ターンは道案内をするように店の中へ入っていった。嬉しそうだなあ。しっぽブンブンだよ。あ、ポロッコさんも微笑ましそうだ。だからダメだよ。



「みなさんおはようございます」


「おう、おはよう」


 それぞれが挨拶を交わす。


「それで、なんでポロッコが一緒なんだい?」


「それがですね」


「サワさん、自分から言います」


「ああ、そうですね」


 ポロッコさんが名乗り出た。確かにそういうもんだ。


「あの、サワさんが戻ってくるまでで構いません。わたしを『クリムゾンティアーズ』に入れてもらえないでしょうか」


「サワ?」


 アンタンジュさんがわたしに聞いてくる。うーんと。


「ほら、ポロッコさん、レベル5になったじゃないですか」


「レベル5かよ! 凄いなカエルレベルアップ」


「その表現止めてください」


「そうか?」


「それでですね、『クリムゾンティアーズ』から指名してほしいんだそうです」


「なるほど。ウィスキィに任せる」


 あ、ぶん投げた。多分これはすでにオーケーってことで、取り分とかの計算が面倒だってことだな。


「はいはい。こちらとしてはプリーストの加入は大歓迎よ」


「じゃあっ!」


 ポロッコさんが嬉しそうにしている。良かったね。


「取り分は、5人の時は3割、6人で2割5分でいい?」


「ええっ? そんなに貰えるんですか!?」


 事実上の1割乗せだ。破格なんじゃないか?


「サワが連れてきたっていうことは、そういうことなんでしょう?」


「ええ、まあ」


 バレてたか。そうだよ訳アリ案件だ。



「じゃあ、構わないわ。ポロッコさんだったわね」


「はいっ」


「サワが戻ってくるまでっていう条件はその通りにするわ。だけど彼女が戻ってきたら、わたしたち、クランを作る予定なの。その時、あなたはどうする?」


「クランですか!? まさか、それにわたしを?」


「そうよ、勧誘。優秀なプリーストの青田買いね。それに互助会、居心地悪いんでしょ?」


「何故それを?」


 ポロッコさんの告白は、わたし以外知らない。だからパーティの皆は当然知らないはずだ、そうポロッコさんは思ったのだろう。ああ、ブロックサインとかは出してないからね。ただ、わたしが連れてきたっていう事実だけで伝わっただけだ。


「わたしたちもみんな、色々あったのよ。だからそういう連中の受け皿になるような、そんなクランを立ち上げようって、考えてるの」


「素晴らしい考えだと、思います。だけどわたしは」


「ポロッコさんは、あまり居心地の良くない互助会で、最初にカエルレベルアップを体験して、レベル5になったわ。多分今日、レベル6になる」


 だからカエルレベルアップって言うの止めろし。あと、さらっと恐ろしい文脈も混じった。ポロッコさん、気付いてる?


「そんなポロッコさんを、周りはどう見るかしら?」


「わ、わかりました! 入ります! 新しいクランに入ります!!」



 なんで悪魔の契約みたいなノリになってるんだろう。


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