第18話 ターンと一緒に





「ポロッコさんおめでとうございます」


「あ、ありがとうございます。サワさんの紹介のお陰です」


 いいのかなぁ。まあいいか。別に悪の道に引き込んだわけじゃないし。


「それで、ターンですよ。レベル9って凄いじゃないですか」


「ああ、それな」


「むふふん!」


 アンタンジュさんがちょっと申し訳なさそうにしているけど、ターンは鼻をふんすかしている。何をやらかした?


「ターンがあんまり役に立つもんだから、7層行ったんだ」


「7層!?」


「ああ、鼻が利く上に索敵ができるだろ。安全に7層まで行けたんだよ」


「まさか、7層ってことは、まさか?」


「ああ、マーティーズゴーレムを狩った」


「うわぁ。よく3人で倒せましたね」


「3人?」


 マーティーズゴーレムは所謂ウッドゴーレムの一種で、7層の何か所かに固定で存在している。ゲームでは序盤後半から中盤のレベルアップスポットとして、マーティー巡りが定番なんだ。

 固いわ魔法は通らないわだけど、経験値は跳び抜けて高い。製作者側のサービスとまで言われているくらい。


「だって、魔法無効だし、固いんですよね」


「ああ、そうなんだけど、ターンがね」


「関節壊した」


「うえええ」


 ターンも戦闘に参加したのかあ。


「ターンが飛び込んで、両脇の関節を壊したんだよ。そうなったらもう木偶のぼうだからな」


「速歩、跳躍、強打だぞ」


 ターンが親指をぐっと突き上げた。


「お陰でわたくしとジェッタのレベルもあがりましたわ」


「ああ」


 フェンサーさんとジェッタさんもレベル上がったか、これで3人がレベル10。もうアベレージレベル10のパーティだね。



 だけどさ。それでもさ。


「なんでターンに、そんな危ないことさせてるんですか!!」


「え? あ?」


 アンタンジュさんが動揺しているみたいだけど、そんなこと知ったものか。


「ウィスキィさんもです。あなたがそういうところ管理しないで、どうするんですか! ターンだったら即死もあるんですよ!? それなのにヒーラーも居ないのに」


「ご、ごめんなさい」


「すまない」


「申し訳ありませんわ」


 ウィスキィさんだけじゃなくって、ジェッタさんもフェンサーさんも謝ってきた。


「ジェッタさんとフェンサーさんはどうでもいいです!」


「うおっ!?」


「酷いですわ!?」



 というか、なんでわたしはこんなに怒っているんだろう。わたしが他人を心配して怒る? ターンが可愛いから、大切だからに決まってる。だけど、ここまで怒ることか?


「ごめんなさい。ターンがやりたいって言った」


 ターンが謝った。しっぽがへひゃんとしている。耳もいつもより垂れている感じだ。


「強くなりたかった。サワに負けたくなかった。一緒にいたかった」


 ついにターンの目から涙が零れはじめた。うわあああ、これはマズい。

 まわりの雰囲気はポロッコさんも含めてお通夜だ。ああ、わたしのお葬式ってどうなったんだろう。


「ごめん、こっちこそ取り乱した」


 現実逃避をしても始まらない。とにかく対話だ。それを学んだんだろう、自分。


「ううん、サワはターンを心配してくれた」


「それでもごめん。ターンの努力と勇気を忘れてた」


「努力と勇気には自信があるぞ。サワがくれたんだ」


「ごめん、ごめんね、ターン」


 わたしはターンに抱き着いて泣き出してしまった。



 ◇◇◇



「いや、なんと言うか、あたしたちも悪かった。あんまりターンが凄いから、調子に乗っちまった」


 アンタンジュさんが頭を掻きながら言った。


「いえ、みなさんがイケると思った判断です。駆け出しのわたしが怒ることじゃありませんでした。ごめんなさい」


 今考えると、素人は口出しすんな状態だったかもしれない。顔が赤くなってしまう。


「でもできたら、安全マージン……要は余裕を持って戦ってくれると嬉しいです」


「サワがそれを言うのか?」


「わたしのポイズントード狩りは安全です」


 アンタンジュさんが突っ込んでくれた。乗っかるしかないね。


「ま緑で臭いぞ」


 さらに乗っかったのは、なんとターンだ。真顔じゃない。笑っている。良かったあ。


「安全にレベルが上がるからいいの!」


 ターンの頭をワシャワシャとかき回した。目を細めてくれている。

 みんなが笑ってくれた。ポロッコさんまでもだ。これで仲直りだよね? いいんだよね?


「あははは!」


 わたしも笑った。

 良かった。この世界でこの人たちに出会えて、仲間になれて良かった。



「ほらほら、騒ぎが終わったんなら、こんなところでダベってないで、さっさと行きな」


 ツェスカさんが手を叩いた。こないだもそうだったっけ。

 そういえば、わたしがこの街で初めて会話したのは、ツェスカさんだった。この人にも感謝だなぁ。


「ああ、そうだ。紹介状をありがとうございました」


「いやいや、適当に注意事項を書いただけだよ」


「それでもです」


「へえ、ツェスカさんまで紹介状書いたんだ。こりゃ、サワは大当たりだな」


「どういうことです?」


 アンタンジュさんの台詞がよく分からない。


「ツェスカさんの紹介状って言ってな、それを持っていった冒険者は、大物になるんだよ」


「迷信も大概だね」


 面倒くさそうなツェスカさんだったけど、プリースト互助会の受付さんが驚いていたのはそういうことか。

 拝んどいた方がいいんだろうか。


「いいから、行っといで」



「んじゃ、今日はポロッコのレベル上げだな」


「え? わたし昨日レベル5まで上がりましたよ?」


「何言ってんだい。ウチは『クリムゾンティアーズ』。アベレージレベル10のパーティだよ」


「うええ!?」


 ポロッコさん頑張って。多分そのうち、馴染むから。


「ターン、わたしたちも負けてられないね」


「負けないぞ?」


「その意気や良しっ!」


 途中、プリースト互助会に立ち寄り、ポロッコさんの長期派遣契約をしてから、迷宮に向かう。受付嬢さんは破格の契約に凄く嬉しそうだった。それに、ポロッコさんを見る目が温かかったから、お姉さんなりに心配していたんだろう。良い結果になったんだよね。



 ◇◇◇



 さて、意外と時間をくってしまったけど、今日のわたしとターンの予定は、『6時間ほど』カエルレベルアップ。その後は、4層を二人だけで探索だ。

 ターン一人だけなら大丈夫だろうけど、わたしという荷物を連れての5層はまだ危ない。



「サワ。飽きたぞ」


「だったら、砂時計見てるだけじゃなくって、カエルやっつけて。手伝って」


「分かった。サワから離れて戦う」


 戦闘開始から4時間。ターンが暇そうに、カエルを蹴って倒している。手では触れたくなさそうだ。毒の唾は全部避けている。すごいな。『回避』使わないで躱しているぞ。


「サワも、もう少し丁寧に攻撃したほうがいい」


「ええ? そういうの分かるの?」


「みんなに習った」


 ヤバい。ターンのプレイヤースキルが上がっている。対してわたしはどうだ。適当にカエルを殴っているだけだ。しかも『パワードメイス』を持って、『エンハンスドチェインメイル』を着ているから、防御も攻撃も適当だ。

 これはいかん。どっかでプリーストとしての戦い方を学ばねば。えっと、サーシェスタさん? なんか怖いなあ。


『ポーションが持続するなら、多少怪我をしても大丈夫だろう?』


 うっ、幻聴が。頭が。


「どうした? お腹減ったか?」


 ああ、ターンのお腹が減ったのね。じゃあ一旦ここまで。


「ご飯にしよう。ターン、やっちゃって」


「おう」


 15秒後、戦闘は終わった。そしてわたしとターンを銀色の光が包む。



 ==================

  JOB:PRIEST

  LV :9

  CON:NORMAL


  HP :9+27


  VIT:14+7

  STR:12+8

  AGI:13

  DEX:14

  INT:20+21

  WIS:13+20

  MIN:17

  LEA:17

 ==================


 『ミルト』『オディス』『強打』『ピィフェン』『キュリウェス』

 『回避』『オディス=ヴァ』『ファ=オディス』『シーフォ』『フィリスト』

 『モンサイト』『ファ=ミルト』『フォ=ピィフェン』


 さて、わたしはレベル9になって、ついにINTとWISが20を超えた。更に覚えたのはレベル8が省略になっているのでアレだけど、相手の魔法を封じ込める『モンサイト』、前にフェンサーさんが使っていた永続灯り魔法『ファ=ミルト』、そして1人の防御力上げる『ピィフェン』の上位版で、パーティ全員に効果をもたらす『フォ=ピィフェン』だ。



 ==================

  JOB:SOLDIER

  LV :10


  CON:NORMAL


  HP :11+35


  VIT:15+12

  STR:10+14

  AGI:19+15

  DEX:16+19

  INT:7

  WIS:9

  MIN:14

  LEA:19

 ==================


 『強打』『速歩』『遠目』『強打+1』『跳躍』

 『索敵』『頑強』『突撃』『回避』『速歩+1』

 『暗視』『聞き耳』『強襲』



 ターンはついに2桁レベルになった。だけど、ジョブチェンジはまだまだ我慢。VITとSTRは20以上、それが最低限だ。



 わたしとターンのレベルアップはまだまだ続く。果てしなく遠い高みを目指して。


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