第45話 ブラウンシュガー





「じゃあ改めて、ようこそだ」


 アンタンジュさんの宣言を受けて、新人4人は嬉しそうだった。ターンたちもシッポを振っている。なんだかんだで人好きなんだよね。

 それを温かい目で見る年長組の皆さんとわたし。これでいいんだ。こういうクランを、わたしたちは作りたかった。これは一歩目だ。


「それでね、ぐむぐむ」


「食べるか話すか、どちらかにしなさい」


 シュエルカが口いっぱいにパンとシチューを詰め込んで、それでもなんとか話をしようとするのを、ウィスキィさんが優しく止める。

 色々あったんだろうな。リィスタとシュエルカと知り合いだったらしいけど、ジャリットとテルサーは今日会ったばかりらしい。それでも守るって言うのが凄い。わたしには理解できないよ。



 その日、新入りの4人はひとつの部屋で就寝した。出会ったばっかりで、周りがまだ怖いのかもしれない。守ってあげないとね。



 ◇◇◇



「勉強!?」


 翌朝、冒険者協会でステータスカードを発行してもらった4人だけど、案の定INTが低かった。テルサーはエルフらしくちょっとはマシだったけど、それでも9。意外だったのは、シュエルカのWISが10あった。プリーストになれる。


 リィスタの叫びは関係ない。全員勉強はこのクランの基本だよ。あと基礎体力作りもね。


「どうするの?」


 チャートが悲しそうな顔で聞いてきた。この子からしてみれば、レベルアップの機会が少なくなるのは嫌だろうなあ。


 別に『訳あり令嬢たちの集い』は、最強を目指してない。個々人の目的が達成できればそれでいい、くらいのノリだし。

 そんな中で、わたしとターンは逆に異質だとも言える。最強を目指してるからね。チャートとシローネは目的のために努力を厭わないタイプだ。目標は美味しいご飯だし。



 じゃあ、新しい4人はどうする?


「わたしは、みんなを助けたい」


「みんな?」


「うん、街のみんな」


 リィスタがみんなの代表みたいに言った。

 そっかあ。4人だけじゃ全然足りないもんね。だけど、ウチは孤児院じゃないし、慈善事業をやっているわけでもない。



「どうしたいかって話かい。なら、チャートとシローネに聞いてごらんよ」


 サーシェスタさんの言葉はわたしにとって意味不明だ。なんで二人に聞くの?


「サワ、おれ、手伝いたい」


「ぼくも」


 シローネとチャートが、彼女たちを助けたいと言い出した。なんで?


「あいつら、見てらんない」


「ぼくらの村よりも酷い」


 そ、そうなんだ。そういう感覚で助けたいって、なっちゃうんだ。あれ? じゃあチャートの悲しそうな顔って、もしかして。

 でもそれが二人の良い所なのかな。新しい発見かも。じゃあ、応援してあげないとね。


「チャートとシローネの心意気は分かったわ。4人もキッチリ育てるよ。じゃないと、みんなを救うなんて夢物語だ。それができるくらい強くなってね」


 4人が頷いて、それから犬耳二人に駆け寄った。



「ターンはいいの?」


「いい。ターンはサワと一緒で強くなり続ける。……でもちょっとは手伝う」


「ふふっ、そうだね」


 まあ『ルナティックグリーン』は出入り自由というか、暫定的に所属者が変わっていくのが前提の部隊だ。言わばわたしとターンだけが、正真正銘の『ルナティックグリーン』。

 そうか。じゃあ新しい部隊名が要るのかな。


「よし。6人のために新しいパーティ名を考えよう!」


「いいねえ」


 サーシェスタさんが乗ってくれた。


「サワが考えて」


「ええ?」


 シローネがきっぱりと言い切った。


「……おれ達はサワに強くしてもらった。みんなもサワに強くしてもらう。だからサワに名前を付けてほしい」


「……うん。ぼくも賛成」


 シローネ、チャート……。なんかいつもの歯切れ良さが無いよ? まさかとは思うけど、考えるのが面倒ってわけじゃないよね?


 とりあえず二人を見る。茶柴と白柴。残りの4人も見る。全体的に茶色い。

 ホワイトじゃないな、どっちかって言うとブラウンだ。だけど、白要素も必要だ。むむむ。なんか来い、降りてこい。


 ブラウン、ブラウン、ブラウン。


 何かヒントは無いかとあたりを見渡してみたけど、ソレっぽいものが無い。年長組のメンバーは面白そうな顔をしているし。

 ベルベスタさん顔を見て、ふと思いついた。そう言えば年少組はお菓子が好きだっけ。多分新しい4人もそうだろうなあ。じゃあ。


「よし。『ブラウンシュガー』って名前でどう? 茶色と白って感じで」


「おお!」


「美味しそう!」


 チャート、シローネ、みんなでお菓子を食べられるくらいに稼いでね。



 ここに『訳あり令嬢たちの集い』3番隊、『ブラウンシュガー』が結成された。



 ◇◇◇



「暫定だけど、シローネが隊長でチャートが副隊長だね」


「おう」


「まかせて」


 一応クランリーダー的立場のアンタンジュさんが、3番隊隊長と副隊長を指名した。もうしばらく様子を見て、6人で話し合えばそれでもいいということになる。


「リィスタ、ジャリットはソルジャー、テルサーはメイジ、シュエルカはプリーストだね」


 ここからはわたしが指示出しだ。4人は素直に従ってくれた。チャートとシローネも説得したらしいね。

 ただし、次のジョブはみんなにお任せだ。6人で話し合って決めてくれればいい。それもまた『ヴィットヴェーン』だからね。



 さて新しいパーティなわけだけど、数日は分割だ。チャートとシローネはターン、ハーティさん、ベルベスタさんと一緒に9層へ行ってもらう。

 一応メイジ出身の柴犬耳二人は、『オディス』(小癒)が使える。ポーションも持ってるし、そうそう事故は無いだろう。


 ただその前に4層のゲートキーパーだ。ここだけはターンとベルベスタさん、新人4人で突撃だ。はっきり言ってターンは予備だ。ベルベスタさんの『ティル=トウェリア』一発でチュドーンでしょ。


「終わったよぉ」


「相変わらず凄いですね」


「4層でやることじゃ無いからねぇ」


「じゃあここで一旦お別れだね。気を付けて」


「そっちもさね」


 ということで、ベルベスタさんチームは9層を目指した。わたしたちは5層だよ。勿論カエルだ、カエル。リィスタ、テルサー、ジャリット、シュエルカ、君たちは今から『ルナティックグリーン』だよ。



「カエルだ……」


 カエルだねえ。


「安心して、全員バフってるし、相手もデバフ状態で仲間呼ぶから。できれば相手の攻撃と毒唾は避けてね。食らっても解毒も回復もかけるから」


 ゲートキーパーでレベル3になっていたから、ここからはサクサク行くよ。

 一応、レベル20までは面倒みるから、それまでにプレイヤースキルも上げないとね。ちなみにリィスタとジャリットは剣装備、シュエルカはメイスでテルサーはスタッフだ。

 もうすでに、みんなの装備はクラン所有物で固めてある。『クリムゾンティアーズ』が集めてくれたんだ。


「全員、1回以上は殴れるようになってね」


「わ、わかった」


 テルサーはメイジだけど、甘えは許さない。ほれほれ、動け。殴れ。切れ。



「いったん終了ー!」


 多分レベル6くらいかな。そこで一旦戦闘を切る。レベルアップしたAGIに慣れてもらう必要があるからね。今度はもっとサクサク行くよ!


「じゃあ再開!」


「……カエル」


 そうだねジャリット、カエルだね。


「カエル、です」


 カエルだよ、リィスタ。どうしたの?


 カエルの毒唾と返り血を浴びるとテンションが上がっていく。

 今のわたしのジョブはファイターなのだ。だから切る。仲間を呼んだ直後に切る。丹精を込めて斬る。プレイヤースキルの上げどころだ。もうちょっとしたら、相手にデバフかけるの止めよう。速さにも慣れてもらわないとね。


「カエル……、だった」


 カエルだったねえ。どうしたのシュエルカ? 疲れた顔して、そんなに動いてないでしょ。


 その日の夕食は、何故かカエルの話ばかりだった。明日もだからね。



 新入り4人は全員がレベル8になっていた。さあ、明日も頑張ろうね!


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