第210話 さあ、100層を超えて進もう!





「出ないわね」


「うん、出ないね」


 リッタのぼやきにわたしが返す。そうなんだ、超位ジョブへのアイテムが出ない。ここまで渋かったっけか。

 その代わりと言ってはなんだけど、上位ジョブ用アイテムはザクザクだ。もう余りまくって『オーファンズ』に流しまくってる。『高貴なる者たち』『世の漆黒』? 知らん、自分たちでなんとかすればいい。


「そう言えば、明日は200人受け入れだっけ」


「これで大体5000人。サワノサキ領は立派な子爵領ですね」


 ハーティさんはそう言うけど、まだまだこれからだよ。

 ベンゲルハウダーはオリヴィヤーニャさんたち『フォウスファウダー一家』が孤児たちを抱え込んだ。王都は王都でそろそろ打ち止めらしい。残るは因縁のあるボルトラーンだけど、ウルマトリィさんが、その権力を使って孤児を引き入れるように動いてる。頼んます。



 あれから2か月、わたしたちはワイバーンを狩りまくっていた。

 到達階層は103層。なんでこの程度かって言えば、100層からの敵がやたら強く、多くなったのと、大きくなったバトルフィールドに慣れる必要があったから。

 それと他にも色々あったんだ。王都遠征とか。


「全員の装備を更新したいしね」


「レッドワイバーンの革鎧ねえ。そこまで揃えるの?」


 ウィスキィさんが頬に手を当てて言う。大人の空気だ。やるなぁ。


「『訳あり』全員分は、せめて」


 ノーマルワイバーンのは、もう全員分できてるから、随時『オーファンズ』にまわしてる。


「セラミックヘルビートルもいい感じですね」


「そうねえ」


 これまで使ってきてたジャイアントヘルビートルの上位互換だ。軽くなったのに硬くなって、魔法抵抗性はそのまんま。コレが出るっていう理由だけで103層を巡回してるくらいだよ。


「100層に到達したからこそ、腰を据えて、装備を整えて挑む。大切です」


「サワは迷宮のことになると、真面目ねえ」


「他も真面目ですよ」


「最近はそうかもね」


 まったく、子供扱いだ。まあ、そうなんだけどさ。ウィスキィさんたち大人組には、何度助けられたか。



 ◇◇◇



「皆、よく集まってくれた。嬉しく思うぞ」


 今日はヴィットヴェーン迷宮総督邸完成記念式典だ。

 ポリィさん、あ、いやポリュダリオス第5王子殿下がスピーチしてる。


「我としては、これまでのヴィットヴェーンを大きく変えるつもりはない。いや、むしろこのまま発展していってほしいと、そう考えている」


 参加してるのは、フェンベスタ伯爵やサシュテューン伯爵を筆頭に、ヴィットヴェーン関係貴族。それに冒険者協会幹部、各互助会幹部、ヴィットヴェーン街の大手商人たち、そして冒険者からは大手クランのリーダーだ。『訳あり』からは特別に、各部隊長とコーラリア、ユッシャーラ、ターナとランデ。要は王位継承権持ちが招待された。


「ヴィットヴェーンは王国において、最も攻略が進んでいる迷宮だ。我もそれを誇らしく思っている」


 久しぶりのベースキュルトがちょっと苦い顔してるよ。『訳あり』の活躍が癪なのか、それともヴィットヴェーンの運用について、思うところがあるのかな。



「殿下、この度はおめでとうございます」


 わたしの挨拶は、継承権持ち4人組の後だった。クリュトーマさんと一緒の並びだね。


「繰り返しになるが100層達成、見事であった。それと」


 殿下がポリィさんの顔をする。飄々とした商人って感じだ。


「先日の一件、笑わせてもらったよ。まだあのような愚か者がいるとはね」


「お墨付きもいただけましたので、結果としては良かったかと」


「はははっ」


 そうなんだよ。上でちょっと触れたけど、実は半月くらい前にまーた襲撃があったんだ。

 しかも親子そろってわび状を出してきたケルトタング伯爵の子分子爵が。


「なかなか痛快でした」


「クリュトーマさん……」


 その時はもうブチ切れて、暴力と権力両方を使うことにした。『ルナティックグリーン』と『ライブヴァーミリオン』が出撃して、ターナとランデ、つまり王女様直々に瓦割りを披露したんだ。


「サワがあんなことを言うから」


「酷いわー」


「だって、ターナ、ランデ、ああでもしないとさ」


「それでも……、確かに仕方ありませんね」


 二人の抗議はまあわかる。わたしは子爵が泣いて謝罪した後で登城、王様に直接抗議した。

 返答次第では『ライブヴァーミリオン』の解散まで匂わせた。

 その日の深夜まで、王様の執務室からターナとランデの怒声が響き渡ったらしい。金と素材をばら撒いて王都経済を崩壊させるとか、『訳あり』の総力をもってケジメをつけるとかなんとか。しまいには王様と宰相の目の前で瓦割りを披露したらしい。ナムナム。



「それで、手出し無用のお墨付きかい。公爵ですら持っていない権限を子爵がねえ」


「貴様は本当に……」


 ベースキュルトの血管がはち切れそうだけど、知らん。わたしたちは全面勝利したのだよ。

 ちなみにその子爵家はお取りつぶし、ケルトタング卿は目出度く子爵とあいなった。ああ、死者は出てないよ。わたしが止めたから。


「まあまあ、目出度い場なのですから。ベースキュルト卿も落ち着いてください」


「貴様ぁ」


 ざまぁ。



 ◇◇◇



「ついに出たね」


「うん」


 ポリンが手にしたソレは大剣、『ハースニル』だ。

 ナイトの超位ジョブ『ラウンドナイト』へのジョブチェンジアイテム。さて、武器としても上等だし、誰が使おうか。


「候補はズィスラ、アンタンジュさん、ジェッタさん、シュエルカ、ジャリット、イーサさん、ワルシャン、かな」


「サワでもいいぞ」


 まあそうなんだよね。ぶっちゃけ『訳あり』全員誰でもいい。『ライブヴァーミリオン』と『セレストファイターズ』は、まだかな。それと『ホワイトテーブル』と『シルバーセクレタリー』は望まないだろうし。


「まあ戻ってから相談だね」


 でも、なんとなく想像できるんだよね。『ルナティックグリーン』の誰かだろって。



「別に超位ジョブに就いたからって、他になれないわけじゃありません。第1段階なら後に続く強化扱いで問題ありませんよ」


「そうかい、なら決まりだね」


 決まりって、アンタンジュさん。なにがどう決まったのかな。


「『ルナティックグリーン』だ。見つけたヤツらで好きにすればいい」


『ブラウンシュガー』と『ブルーオーシャン』の面々がちょっと悔しそうだけど、それでもなにも言わなかった。


「サワだ」


 ターンが断言した。確かにわたしはガーディアン、ホーリーナイト、ユーグを全部持ってるから条件は満たしてる。いいのかな?


「サワがいたからここまでこれた。なら、次の最初はサワだ」


 念押ししなくても。


「異議は無いわ!」


「わたしも」


 ズィスラとヘリトゥラが立ち上がる。


「うん」


「サワがいい」


 キューンとポリンもだ。まったく、この子たちときたらさあ。


「わかった。使わせてもらうよ。『ラウンドナイト』になる。言っとくけど、わたしの最終形は」


「……最強なんだろう」


 ジェッタさん……。たまに発言して、ことごとくいいこと言うから始末に悪い。


「サワならやれますわ!」


 それはフェンサーさんも一緒かあ。長い付き合いだもんね。もう2年近くになるんだな。



 ◇◇◇



「ジョブチェンジです」


「はい、それでは手をこの上に」


 もうお馴染みになったやりとりだけど、今日はちょっと違う。ヴィットヴェーンに新しいジョブが生まれるんだ。

 ちなみにわたしのステータスは今、こうだ。


 ==================

  JOB:VALKYRIE

  LV :120

  CON:NORMAL


  HP :1002+813


  VIT:293+216

  STR:382+319

  AGI:322+265

  DEX:382+233

  INT:127

  WIS:161+266

  MIN:89

  LEA:17

 ==================


 なんか最初の予定通り、力強くて器用でプリーストもできるぞ、って感じだね。さて。


「じゃあジョブチェンジしますよお」


 左手に鞘ごと『ハースニル』を持って、わたしは右手をアーティファクトに沿えた。そして念じる。『ハースニル』は破壊オブジェクトじゃない。暫くは相棒になるかな。よろしくね。


「なんです、このジョブ!?」


 今更スニャータさんが驚いてるし。なら教えてあげるし。宣言するさ。


「今のわたしは『ラウンドナイト』。ナイト系超位ジョブです!」


 そう言って、ステータスカードを掲げた。


 ==================

  JOB:ROUND=KNIGHT

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :1083


  VIT:314

  STR:413

  AGI:348

  DEX:405

  INT:127

  WIS:187

  MIN:89

  LEA:17

 ==================


 どうよコレ。凄いでしょ。

 STRとDEXが400台に入ったよ。HPも4ケタだ。


「もっかい言いますよ、わたしのジョブは『ラウンドナイト』。ナイト系超位ジョブの第1段階です!」


 ふふふ。冒険者どもめ、声も出まい。


「な、なあサワ嬢ちゃん」


「なんですか」


「ラウンドナイトなんて格好良いジョブなら、プレートメイルじゃないのか?」


「あっ! そ、それはアレですよ。一般常識に捕らわれない、色々な理屈があるんです」


「そ、そうか。いや、なにもケチをつけようってわけじゃあなかったんだ。すまん」


「いえ」


 見た目を含む一般常識って大切だね。



 ◇◇◇



「層転移?」


 ジョブチェンジを終えてクランハウスに戻ったわたしたちに伝えられたのは、凶報だった。


「うん、多分62層がどこかと入れ替わってます。オーブルターズ殿下たち『万象』が巻き込まれました。2日後くらいに正式な救援要請が来ます」


 王都に派遣していた『オーファンズ』がもたらした報告だ。巻き込まれちゃったかあ、あの殿下。

 他の迷宮で救出なんてヴィットヴェーンには無かった要素だ。だから面白い。この世界が現実なんだって感じることができる。


「『ルナティックグリーン』『ブラウンシュガー』『ブルーオーシャン』そして『ライブヴァーミリオン』、キールランターに行く。絶対に助けるよ」


「おう!」



 わたしが生きるこの世界で、冒険者を死なせたりなんかしない。知り合いなら尚更だ。

 冒険者は見捨てない。そんな言葉を胸に、わたしたちは出撃する。


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