第25話 出荷作業





「わかりましたよ。入会します。ただし、プリースト互助会と掛け持ちですよ」


「構わん、構わん。それと感謝するぞ、ウィスキィ嬢」


「いえ。貸しは多い方が良いので」


「怖いのう」


 それでもドルントさんは笑顔だ。余程嬉しいのだろう。こういうおじいちゃんの笑顔を見ると、協力してしまいたくなっちゃうじゃないか。まあ、プリースト互助会に比べて人数は4分の1くらいらしいし、ちゃっちゃと終わらせよう。


「最後に確認しておきますけど、会費は無し、一人引き抜き、貸しひとつ、いいですね?」


「やむを得まい。おおそうじゃ、勲章を作ろう『エンチャンター互助会名誉教導官勲章』じゃ!」


「ああ、一応貰っておきますけど、結果が出てからにしてくださいね」


 なんで弱小互助会が、最大手互助会に対抗意識を燃やしているんだか。



 ◇◇◇



 翌日わたしを含めた『クリムゾンティアーズ』はエンチャンター互助会を訪れていた。

 ロビーに集まっていたのは30名ほど。これで全員だそうだ。確かに若い女性が多い。


「本日から当会会員となり、そして我々エンチャンターを、教導してくれることになったサワ君じゃ。皆、挨拶を」


『よろしくお願いいたします!!』


 おおう、何か気合が入っている。会長から何か吹き込まれたな? バラ色の未来がどうこうとか。


「今日は、どなたがレベルアップをする予定ですか?」


「こちらじゃ。挨拶をせい」


「副会長の、ドールアッシャと申します。レベルは5です」


「そ、そうですか。わたしはサワです。こちらこそよろしくお願いいたします」


 ドールアッシャさんはネコミミのお姉さんだった。副会長でレベル5? マジかあ。


「ああ、わたしは事務処理がちょっとできるから、副会長なんですよ?」


 おう。表情読まれたか。しかも事務処理ができる? 狙い目だ。会長にはバレないようにしておこう。



「では、今日のこれからの予定です。鍵を持っている方は何人いますか?」


 10人ほどが手を挙げる。


「じゃあ、『クリムゾンティアーズ』が4層までキャリーしますので、全員が鍵を取得しておいてください。一括だとお値段が安くなりますので」


 まあ20人程度なら今日中に、全員終わるだろう。


「鍵を持っている皆さんは、一気に5層へ向かいます。そこでドールアッシャさんからレベル上げですね。目標レベルは8にします。護衛は、ウィスキィさんにお願いします」


「任されたわ」


「では、出発です」


 これが後に『出荷作業』と呼ばれることになる、所業の開始だった。わたしのせいじゃない。



 ◇◇◇



 最初の戦闘は30分ほどで切り上げた。

 なんでって、わたしがレベル0だからだ。VITはポーションでどうとでもなるけど、STRが減ったのがキツい。相棒の『パワードメイス』の重いこと。それでもドールアッシャさんから『BF・STR』と『BF・AGI』を貰ったからなんとかなった。わたしは不死身の女なのだ。


「いやあ、助かりましたよ。ドールアッシャさん」


「いえ、わたしは何も」


「いやいや、そういう意識が、エンチャンターの立場を悪くしているんです。もっと自信を持っていきましょう。ほら見てくださいよ」


 わたしはステータスカードを取り出した。


 ==================

  JOB:ENCHANTER

  LV :3

  CON:NORMAL


  HP :16+11


  VIT:17

  STR:17

  AGI:14+4

  DEX:14+1

  INT:24+13

  WIS:19

  MIN:17

  LEA:17

 ==================


『BF・VIT』『DB・VIT』『BF・STR』『DB・STR』『BF・INT』


 たった30分の戦闘で、わたしはレベル3になった。ついでにドールアッシャさんも一つ上がって、レべル6に。

 プリーストスキルは省略。『BF系』はバフ、『DB系』はデバフだ。低レベルの内は、単体単一パラメーターだけのバフ、デバフだけど、もっとレベルが上がれば、複数人数、勿論敵にも複数体に効果を与えることができるようになる。さらには、複数のパラメーターにもだ。


 なんだかんだで強いんだよ、エンチャンター。INT依存なのも、わたしと相性がいい。


「じゃあ、もういっちょ行きますか! 次はレベル8にしますよ」


「は、はいっ!」


 ドールアッシャさん。修羅の道へようこそだ。



「緑色が、緑色が……、ああ緑色の流星が。ぱぁってなって」


「何言ってるんですか。たった2時間ですよ。ステータスカード見てください」


「サワも容赦ないね」


 ウィスキィさんは護衛なんだから、静かにしていてください。


「あっ、あああ」


 うわ言だか感嘆だかよく分からない声で、ドールアッシャさんがステータスカードを取り出した。

 ==================

  JOB:ENCHANTER

  LV :8

  CON:NORMAL


  HP :10+29


  VIT:12

  STR:11

  AGI:14+6

  DEX:15+19

  INT:18+29

  WIS:17

  MIN:10

  LEA:11

 ==================


『BF・VIT』『BF・STR』『DB・VIT』『DB・STR』『BF・INT』『DB・INT』『BF・AGI』『BF・DEX』『DB・AGI』『BFW・SOR』『DBW・SOR』『BF・WIS』『DB・MIN』


 ドールアッシャさんは見事レベル8になっていた。しかも『BFW』、『DBW』系も覚えたようだ。全体バフとデバフだね。


「ドールアッシャさんはもう、立派なエンチャンターですよ。ここから頑張って、マスターレベルを目指しましょう」


「はい。はいっ!」


 良しっ! この人を後日一本釣りだ。会長にはお気の毒だが、知ったことか。全員を育てればいいんだろう? 育てれば。



「じゃあ次の人ですね。レベル6ですから、1時間半くらいでしょうか」


「お願いします!」



 その日、4名のエンチャンターがレベル8となって、出荷された。



 ◇◇◇



 さらに1週間後、エンチャンター互助会全員がレベル8以上を達成した。すなわち出荷完了である。いやあ、良い仕事をした。ギリギリレベル8になるように時間調整した甲斐があったってもんだ。鍵を全員に配ってくれた『クリムゾンティアーズ』にも感謝だ。


 結局1週間カエルを狩り続けたわけで、わたしはあっさりとマスターレベルに到達した。こんな感じだ。


 ==================

  JOB:ENCHANTER

  LV :13

  CON:NORMAL


  HP :16+37


  VIT:17

  STR:17

  AGI:14+22

  DEX:14+32

  INT:24+51

  WIS:19

  MIN:17

  LEA:17

 ==================


 スキルは沢山なので省略。レベリングまだまだいくよ。当然目指すはコンプリートだ。次のジョブも一応決めてはいるけど、ちょっと迷いもある。どうしたものか。



 そして今日は、栄えある勲章授与式だ。なんのって? 例の『エンチャンター互助会名誉教導官勲章』のだ。

 そして、わたしは、ここである人物を引き抜く。まあ誰だかは分かっているだろう。


「ではここに、我らがエンチャンターの強化ならびに地位向上に貢献したことを讃え」


 ドルント会長がなんか訓示らしきものを述べているがスルーだ。むしろ今のわたしは、次は『ウィザード互助会』が押しかけてこないだろうなと、ビビっているところなんだ。


 だが、そんな空気は吹っ飛んだ。



「サワ! コンプリートしたぞ!!」



 ターンがそう叫んで、わたしの胸に飛び込んできたからだ。勲章なんて貰ってる場合じゃねえ!!


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