第26話 今日はターンのターンだ!
「やったぞ!」
「そうだね。やったね!」
ターンの見せてくれたステータスカードを確認して、私は感動していた。
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JOB:SOLDIER
LV :22
CON:NORMAL
HP :11+79
VIT:16+26
STR:13+40
AGI:19+29
DEX:17+42
INT:10
WIS:9
MIN:14
LEA:19
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レベル21だとコンプリートに足りなかったんだろう。だったら22に上げればいい。だけど、それがどれだけ大変なことか。
わたしにはカエル狩りがある。時間はかかるけど、低レベルをマスターくらいにまでなら、1週間で十分だ。
対してターンだ。彼女は彼女で、マーティーズゴーレム狩りをしまくっている。だけどそれはわたしと違って、経験値効率は良いけど命がけの行為だ。その点では、ホント申し訳なくなってしまう。
だけど、それでもターンはやってのけた。ソルジャーコンプリートレベルに到達したんだ!
わたしは唖然としているドルントさんから、勲章をひったくった。
「ああ、引き抜きする人ですけど、わたしとしてはドールアッシャさんを希望します。だけど、本人の同意があればですから。じゃあ、わたしは急ぎますので、これで」
背後で、ドルントさんとドールアッシャさんが何か言っているけど、今は知らん。
そんなことより、ターンのジョブチェンジだ。彼女がどれだけこの時を待っていたか、わたしはそれを知っている。よって最優先事項なんだ。
この後、授与式をぶち壊したとして、ウィスキィさんにがっつり怒られるとも知らず。
「協会に行くよ、ターン!」
「がってん!!」
どこで覚えたそんな単語。
◇◇◇
「で、どうするかは決めたの?」
「うん」
「そっか、楽しみだね」
「うん!」
わたしたちは冒険者協会への道を走り抜ける。ちょっとキツイ。バイタルポーション、今日は飲んでいないんだ。
「到着!」
「着いたねえ」
ターンはもう、ふんすふんすで、しっぽぶるんぶるんの大興奮だ。
協会事務所に入って、そのまま『ステータス・ジョブ管理課』を一直線に目指す。相手はいつものお姉さんだった。
「あら、今日はターンさんですか?」
「ジョブチェンジだ!」
「そうですか。頑張りましたね」
「むふん!」
お姉さんがカウンター越しにターンの頭を撫でている。気持ちはよく分かるぞ。
「どうするの? やっぱりウォリアー?」
VITとSTRに不安があるターンだ、シーフの前にそっち系を強化するジョブを経由してもいい。
「違う」
「え? 直接、シーフに行くの?」
「それも違う。見れば分かるぞ」
「分かった」
もう、助言などするまい。合っていようとそうでなかろうと、彼女が自分の意思で行う初めてのジョブチェンジだ。見届けるだけのこと。
いつの間にか『クリムゾンティアーズ』の面々も現れた。勲章受勲式は台無しだろうね。ごめんなさい。
◇◇◇
カウンターはすでにジョブチェンジモードで開け放たれ、ターンは所定の場所にステータスカードをはめ込んだ。後は手を当てて念じるだけだ。
ターンが手を添える。わたしまで緊張してしまう。それは『クリムゾンティアーズ』の皆も同じだろう。
彼女は現在、パーティの遊撃だ。今後就くジョブによっては、フォーメーションも変わってくるかもしれない。だけど、だれも何も言わない。わたしみたいな薬効チートなんて無しで、ただひたすら、自分の技術で経験値を積み重ねてきたターンに、今更口出しなどできるわけがない。
ターンが手を当て、念じた。ステータスカードの表記が変化していく。それは。
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JOB:KARATEKA
LV :0
CON:NORMAL
HP :18
VIT:18
STR:17
AGI:21
DEX:21
INT:10
WIS:9
MIN:14
LEA:19
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ターンが選んだジョブは『カラテカ』だった。素手を旨とし、それでいて一撃必殺を狙う、多彩な技をスキルとして内包したジョブだ。
なるほどこれならば、ターンの立ち位置は変わらない。遊撃として、これまで以上に強力な攻撃を繰り出すことだろう。
「考えたんだね?」
「考えた。ウォリアーになってSTRを上げるのも考えた」
「そっか」
「でも、それは後でもできる。今は、色んな技を磨く」
「そっか」
いつしか私は泣いていた。
もう、雨の路地で泣いていた黒柴娘はいない。いや、黒柴はそのままだけど、流されず、自分の意思で立ち位置を求めた一人の人間がそこにいたんだ。
「なんで、サワが泣いてる?」
「なんとなくだよ」
「サワはターンが守るから、泣くな」
「そっか、そっか」
ありがとう、ターン。
『KARATEKA』というジョブは、クリティカル率が高いのがウリだ。ただし、武器を持てないため、取得する人は少ない。リーチの短さが、そのまま危険につながるからだ。ましてや小柄なターンならば。
それともうひとつ、武器を持たずに体一つで戦うスタイルは、冒険者らしくないという、謎の幻想で忌避されている。分かってないなあ。多彩なスキルを求める人には、めちゃくちゃお勧めのジョブなのに。
「じゃあさ。さっそくレベルアップいっちゃう?」
「当然」
◇◇◇
「『BF・INT』!」
エンチャンターのバフ、デバフ効果はINT依存だ。だからまず開幕はここから。そして、とても重要なことだけど、バフ、デバフは『1回の戦闘』に置いて永続するということだ。
「『BF・VIT』『BF・STR』『BF・AGI』『BF・DEX』『BFW・SOR』ついでに『BFW・LEA』!」
わたしはターンにバフを掛けまくった。順にVIT、STR、AGI、DEXの2割増強。ついでにSOR、すなわちソルジャー系のステータスに1割増強だ。最後のは全体効果のLEA増強!
「さらにわたしにも『BF・VIT』『BF・STR』『BF・AGI』『BF・DEX』!」
さあ、かっかってこいよポイズントード。今宵の、昼間どころかまだ午前中だけど、わたしとターンは一味違うぞ!
長いブーツと、ナックルガードを付けたターンに毒は通じない。飛んでくる毒唾は全部避けている。わたしはと言えば、いつも通りに正面から受け止め、それでも動じない。
2匹になったカエルは、必死に仲間を呼ぶ。呼び出された途端に、わたしかターンが一瞬で倒す。ただそれを繰り返すだけだ。
ターンの両腕と両脚が、返り血で青く染まっている。わたしは毒唾を受け止めて緑色だ。
青と緑の2体が殺戮機械となって、延々と作業を繰り返す。
お前らが全滅するまで、わたしたちのバフは消えない。1回の戦闘判定だから、時間は関係ない。さあ、全滅なんてさせてやらないぞ。とことん呼び出した仲間を倒し続けてやる。
「あははは、経験値、経験値、ほらターンも」
「何かイヤだ」
「そんなケチ臭いこと言わないでさあ。レベルレベルれべりゅうう!!」
「凄くイヤだぞ」
「お前らなあ」
いつの間にやら『クリムゾンティアーズ』の皆が見物に来ていた。
「なんか凄いですわ、緑と青の競演ですわ!」
フェンサーさん、分かってるぅ!
「……本人たちが楽しいなら、まあ良いのでは」
ジェッタさんも理解を示してくれた。
「あうあうあう」
ポロッコさんは、何言ってるか分からないよ。
「まあ心配なさそうだから、あたしたちは帰るわ。あんまり遅くなるなよ」
「アンタンジュさん了解でーす。あれ? ウィスキィさんは?」
「台無しになった授与式とドールアッシャの勧誘、それと押しかけてきた『ウィザード互助会』の対応中だ」
「うげぇ!」
「まあ、いいさ。今日は忘れろ。存分に暴れてろ」
「さっすが、アンタンジュさん!」
その日、日付の変わる直前まで戦っていたわたしたちは、わたしがレベル17、ターンがレベル13となった。ちなみに1日でマスターレベルになったのは、前代未聞の記録らしい。
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