第27話 黒門
「おいおい、どういうことだこりゃあ」
「何がだ?」
「いつから冒険者の酒場に、こんなに女が増えている? しかも生意気に冒険者の格好して、ぶがはぁ!」
なんかあっちで、冒険者がぶん殴られていた。殴ったのは隣のテーブルにいた、そっちもまた冒険者だ。ただし、同じテーブルに女性冒険者が二人、ああプリーストとエンチャンターだ。レベルアップしたことがある。
「な、何しやがる!」
「命助けたんだから感謝しやがれ!」
そう言って、殴った方がわたしのいる席に歩いてきた。
「サワさんすまねえ。あれでも知り合いなんだ。よおっく言っておくから、勘弁してやってくれねえか」
「はい、わかりました」
「すまねえ。感謝するよ」
殺さねぇよ! なんでわたしの扱いがこんなんなんだよ。なんだかこのひと月くらいで、こんな出来事が5回くらいあった。最初は言い訳をしていたけど、もう面倒になったので、スルーすることに決めたんだ。
大体どうやってプリーストエンチャンターが前衛を殺せるんだよ。奥の手はあるけどさ。
「サワは凄いな」
ターンが感動したように言う。あのねターン、あんたも『悪魔の黒狼』なんて言われてるんだからね。背中を見せたら死ぬらしい。冒険者の噂話好きも大概だ。
ここのところ、わたしとターンは『クリムゾンティアーズ』と離れて活動していることが多い。
◇◇◇
駄々をこねるエンチャンター互助会会長のドルントさんをなんとか説得し、見事ドールアッシャさんの引き抜きには成功した。どうせなら専属の事務員雇った方が、安く上がりますよというウィスキィさんの言葉がトドメになったらしい。世知辛い。
最初はビビっていたドールアッシャさんも、『クリムゾンティアーズ』の待遇の良さに態度が豹変した。そう、わたしたちはまたしても不遇の女性を救いだしたのだ。そうに決まっている。
今は6人でレベルアップと連携向上に頑張っているらしい。わたしと一緒だと疲れるんだとさ。こっちにおいでよ。楽しいよ。
「じゃあ、今日もやるか」
「おうともよ!」
だから、どこから言葉を拾ってきてる?
最近、わたしとターンは二人でマーティーズゴーレム狩りに勤しんでいる。さすがにポイズントード狩りだと時間効率が悪いんだ。あそこは初期レベル上げとしては絶好の場所だけど、最初から最後までなんて万能な狩りなどない。だからこそ楽しいんだ。
わたしが『BF・STR』『BF・AGI』『BF・DEX』をターンに掛ける。それだけだ。10秒後にはマーティーズゴーレムは謎の高級木材を残して消えた。
じつはこれ、カエルの皮ほどじゃなくてもダブつきはじめているのだ。しかも、中級から上級パーティが苦労して納めていたのを、わたしたちがポンポン持ち込むわけにもいかない。カエルの皮の時は競合が居なかったから別に良かったけど、高級木材は別だ。なので、わたしとターンのインベントリが木材塗れになりつつある。
それにしてもターンの動きは凄い。消えたかと思ったら、カラテカらしくどっしりとしたモーションが途中まで終わっているんだ。相手の背中へ向けて。
実はこの世界の『カラテカ』は、言うなればマジカルカラテ使いである。それを証明するのは、一日でマスターレベルまで到達してしまった、ターンのスキルを見れば分かるだろう。
まあ、『ニンジャ』『サムライ』そして『カラテカ』。外国から見た東洋の神秘に溢れたなにかが、そのジョブにも現れているのだ。
わたしもわたしで頑張っている。AGIとSTR、DEXを上げて、相手の攻撃を躱す練習をしている。時々食らうけど、一日一本ミドルヒールポーションのお陰で、骨折程度なら即完治というわけだ。プリーストとしての威厳? わたしのヒールはターン用に温存しているのだよ。
そんなわたしたちの今のステータスがこれだ。
==================
JOB:ENCHANTER
LV :20
CON:NORMAL
HP :16+61
VIT:17
STR:17
AGI:14+32
DEX:14+57
INT:24+73
WIS:19
MIN:17
LEA:17
==================
わたしはレベル20。コンプリートはまだだ。あと3つくらいは必要かもしれない。動きも速くなったし、器用さも増した。何と言ってもINTが実に97。これに『BF・INT』を掛けると100を越えてボーナスが入る。以後のバフ、デバフ効率が10%増加するのだ。これがデカイ。
==================
JOB:KARATEKA
LV :17
CON:NORMAL
HP :18+67
VIT:18+30
STR:17+37
AGI:21+44
DEX:21+40
INT:10
WIS:9
MIN:14
LEA:19
==================
『正拳突き』『踏み込み』『回し蹴り』『発勁』『三戦』『見切り』『掌打』『飛び蹴り』『崩し』『連撃』『連脚』『無拍子』『聴勁』『水面蹴り』『裡門頂肘』『鉄山靠』『芳蕗』
そしてターンはレベル17だ。相変わらずの見切りタイプだけど、スキルとプレイヤースキルが合わさってとんでもない強さを発揮している。マーティーズゴーレムが可哀そうになるほどだ。
そしてマジカルカラテの名に恥じず、中国拳法やら合気道みたいのまで混じっている。最後の『芳蕗』に至っては、メーカー曰く『一子相伝の謎の武術』とされていてMINを30上げるという、よく分からない効果が設定されている。ほんとなんなんだ?
そうして今日は、レベルあがらず。やっぱりキツい。
そんな時だった。
◇◇◇
「おおっ! サワの嬢ちゃんとターンじゃないか」
第7層を通過していく時に、よく話しかけてくれているパーティだった。たしかアベレージは15から12に落ちたんだっけか。プリーストとエンチャンターを入れたお陰だ。だけど総合力はがっつり上がったと喜んでくれていた、比較的わたしたちに好意的な人たちだ。
「こんにちは」
「ちわっす」
ターン……。
「もう上がりかい?」
「ええ、まあ」
「そりゃ良かった。俺たちも一緒に上がるが、急がないか。途中でも声をかけていくつもりだ」
「どうかしたんですか?」
嫌な予感がする。
「ああ、『黒門』を見つけた。9層だ」
「げっ! どれくらいですか?」
「俺たちも見たのは初めてでな。大きさは5メートル四方くらいで、色は紫」
「大物ですね。紫なら3日くらい後でしょうか」
「詳しいな」
「ええ、資料は読んでいるので」
資料ってのは嘘だけど、『黒門』は迷宮で起きるトラブルの一つだ。
破壊不能の物体で、真っ黒になった時にその大きさに見合ったモンスターが、階層を無視して現れる。
さて、この世界だとこういう時、どういう対応をするんだろう。目の前のパーティの言動を聞くに、潜っている連中を退去させるのは、合意されているみたいだ。
「5層と6層を回って、昇降機で退避してください。一応1層にも伝達を。わたしたちは4から2層を走ります。協会への報告は先に着いたほうで」
「走り回ることになるけど、大丈夫か?」
「速さとスタミナには自信があります!」
「後衛なのにすげえな。じゃあ任せた」
「多分6層か5層に『クリムゾンティアーズ』がいますので、よろしくお願いします」
「ああ、サワ嬢ちゃんの頼みを断るヤツなんて、ぶっちめてやるよ!」
彼らとわたしたちは行動を開始した。
◇◇◇
しかし『黒門』かぁ。『氾濫』や『層転移』に比べればマシだけど、なんか嫌な予感がする。というか5メートル四方っていうのがよく分からない。ゲームだと全部同じ大きさのグラだったもんなあ。色違いは分かったんだけど。
5層より下のパーティなら、4層のゲートキーパーを抜いているから、すぐにでも帰還するだろう。問題は4層と3層だなぁ。説得できるかな。いざとなったら毒攻撃するぞって、脅そうかな。
「サワ」
「ん。大丈夫だよ」
「そっか」
事態が大事に発展するのは3日後だった。
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