第77話 全員集合、そして盆踊りへ





「なんてザマだい」


「あ、来ましたね」


 アンタンジュさんたち『訳あり令嬢たちの集い』がやってきた。って、オルネさん、ピリィーヤさん、キットンさんまでいる。もちろん、ズィスラとヘリトゥラもだ。

 本当に全員集合じゃないか。


 付け加えたら『村の為に』や『ラビットフット』、他にも見たことがあるパーティがチラホラいる。

 あははっ、ヴィットヴェーン大集合だ。



「会長からお言葉を賜ってきたぞ!」


『ワールドツー』の隊長さんが大声で叫んだ。


「『存分にやってくれ。地上は任せてほしい』だそうだ!!」


「おおおお!」


 冒険者たちのテンションが一段階上がった気がする。


「ついでに『サワ嬢の言葉に従え』、だとさあ!!」


「うおおおお!!」


 なんだそれ。



 ◇◇◇



「面白いことになってるね」


「ええ、最高ですよ。宴にようこそ」


 今のところ、わたしとターン、サーシェスタさんとベルベスタさんはジョブチェンジしてない。強いて言えば、ベルベスタさんがサムライになろうとしたのを、全員で止めたくらいだ。


「パーティを組みなおします。『シュレッダーズグレイ』は解散。『ホワイトテーブル』と『ブラウンシュガー』は基本編成に」


 まず『ホワイトテーブル』は万全だ。『ブラウンシュガー』も、3人がジョブチェンジした上にレベルアップしまくっている。こっちも大丈夫だろうね。


「『クリムゾンティアーズ』はポロッコさん、ジェッタさん、ドールアッシャさん、フィンサーさん、イーサさん、リッタです。リーダーはリッタ。アンタンジュさん、ごめんなさい」


「構やしないよ」


 ジョブチェンジの関係で、『クリムゾンティアーズ』の後衛は柔らかい。それを全部こっちで受け入れる。『ルナティックグリーン』は、わたしとターン、アンタンジュさん、ウィスキィさん、そしてズィスラとヘリトゥラだ。

 わたしとターンで前衛と後衛を両方やってやる。


「半日もすれば、パーティを元に戻しますから、気合入れてレベルアップしてくださいね!」


「おうさあ!」



「臭い! 変なのが来る」


「臭い?」


「人形。6体」


 ターンの言葉から思い浮かぶのは、ゾンビ系かっ。この際どこの階層から来たかはどうでもいい。種類はなんだ? 目を凝らせ。


「ゾンビウォリアー、ゾンビウィザードです! ウォリアーとウィザード前提で戦ってください。弱点はもちろん、炎!」


「『ティル=トウェリア』!」


 すかさずターンの攻撃魔法が叩き込まれた。めちゃくちゃ速いウィザードって凄い。


「全滅」


 よし、これなら戦える。むしろどんどん来い。クリティカルがないだけボーパルバニーが来るよりマシだ。しかも密度が高い。こりゃホントに『氾濫』だ。

 ただ、なんというか臭い。



 ゾンビとロックリザードメインの戦いが続く。たまにボーパルバニーとかがトッピングされた感じだ。迷宮のモンスターは共食いしないもんなあ。

 問題は、前衛が時々毒を貰うくらいかな。ウチは大丈夫だけど、他のパーティはプリーストの残弾が心配だ。

 ボーパルバニーは事前に徹底的に対策した。見かけたら防御態勢を取って、魔法を叩き込む。それだけでいい。


「『訳あり』と『暗闇』以外は、3時間交代です。『暗闇』は『ブラウンシュガー』と組んでください」


 ほんとは『ホワイトテーブル』と組ませようかと思ったけど、気まずいとアレだからやめといた。


「優雅な宴がいっきに盆踊りだね」


「盆踊り?」


「地元の祭りだよ。鎮魂の意味があるんだよね」


「ふむ」


 多分ターンは分かってないね。じゃあ分からせてあげよう。


「はぁ~、ちょいとゾンビが出てきたらぁ~」


 適当に盆踊りリズムで歌うことにした。


「魔法で火を付け、あの世へとぉぉ」


「あの世へと~」


 いいぞ、ターン。


「燃えろよ燃えろ、天まで昇れ。あそれ」


『あそれ』


 いつの間にか『訳あり』たち全員が歌っていた。恥ずかしそうにしてる子もいるけどね。


「できたら良い物、落としておくれ」


 想いよ、迷宮に届け!



 ◇◇◇



 3時間ほどで、今度は後発組のジョブチェンジの開始だ。まあそれをするのは、『訳あり』と『緑の二人』くらいだけどね。他のパーティは戦闘中のジョブチェンジは流石にノウハウが足りない。

 現状の安定を取るみたいだ。


 アンタンジュさんがウィザードからハイウィザードに、ウィスキィさんはエンチャンターからウィザード、フェンサーさんはファイターからウォリアー、ドールアッシャさんはカラテカからシーフだ。ネコミミは伊達じゃない。


 続けて、リィスタがソードマスター、シュエルカがウィザード、ジャリットがナイトだ。


 最後。ズィスラとヘリトゥラが二人ともウォリアーだ。VIT上げないとね。


 さあこれで、一段と強くなったよ。



 さらに3時間、ゾンビの群れは途切れない。辺り一面ドロップだらけだ。時々突撃してインベントリに回収しているけど、なんか禍々しい剣とかスタッフが混じってるんだよね。呪いの装備だろ、これ。


 わたしはレベル44、ターンが41。もうウハウハだよ。

 ちなみに先発組は、2回目のジョブチェンジを終えている。残りも全員マスターを完全に超えた。

 周りのパーティも交代こそ多いけど、レベルが上がって安定してきている。


 これはイケる。フラグか!?



「なんだ? これ」


「どうしたの?」


「分からないのが来る」


 ターン、チャート、シローネ、そしてドールアッシャさんと、耳と鼻がいいメンバーがシッポを膨らませている。


 急にゾンビの進行が途切れ、そしてそいつが現れた。

 一言で言うなら、紫とピンクの肉袋だ。太い血管のような触手が身体に巻き付いている。ズルズルと迫ってくるその姿は、人間を根源的な恐怖に追い落とす。


「……ゼ=ノゥ」


「『芳蕗』!」


「『克己』『明鏡止水』『沈着冷静』!」


 反射的にターンと一緒にMINを上げた。そうしなきゃまともな判断ができなくなる。



「触手攻撃、毒と石化を使ってきます! 全員撤退準備。あれが今回の黒幕です!」


 たしか55層相当のモンスターだ。しかも、単体はあり得ない。

 ここはこの1体を全力で倒して、一度撤退する。


「目的地は21層。そこで態勢を立て直します。繰り返します。『訳あり』以外、全員全速撤退です! アーティファクトを安全に運んでください」


「お、おう」


 最後とばかりに魔法をばら撒いて、各パーティが撤退していく。


「パーティ組み換えです。『ルナティックグリーン』を初期最強組み合わせに」


 すなわち、わたしとターン、サーシェスタさんとベルベスタさん、そしてヘビーナイトのポロッコさんと、モンクからウォリアー、シーフに繋いだシローネだ。本当は、ハイウィザードになった人たちも入れたいけど、他のパーティが弱体化する。だからそれはできない。


「他のパーティも、魔法を撃ってから撤退。21層で会いましょう」


「分かったよ」



 さて『ゼ=ノゥ』だ。

 とりあえず他には見当たらないけど、1匹いれば10匹いると思った方がいい。

 なんでこのメンバーかって、プリーストが4人もいるからだよ。状態異常? なんだそれ。特にわたしは忘れがちだけど、傷無効、毒無効だ。石無効のポーションは残念ながら無い。


「『ティル=トウェリア』」


「『マル=ティル=トウェリア』」


 開幕、ターンとベルベスタさんの最強魔法が放たれた。よし、ハイニンジャと高レベルシーフなら、先手を取れている。文句は付けたけどベルベスタさんがシーフで助かった。


 だけど、倒しきれてない。表面が焦げて、皮膚らしきものがパラパラ零れているけど、消えない。ああ、再生持ちだった。わたしかよ。


「『BFW・SOR』。前衛、最強スキルで攻撃。プリーストは状態異常回復!」


「了解」


 ターンは恐ろしいくらいに冷静だ。


「『ハイニンポー:五月雨』」


「おうらぁ。『粉微塵・極』」


「『剣豪斬四連』!」


「『ヘヴィ・シールドバッシュ』!!」


 なんとトドメはポロッコさんだった。


 消えていく『ゼ=ノゥ』の後には宝箱が1個あるだけだ。とりあえず、このメンバーなら1体なら倒せる。だけど、複数体同時だと、ちょっと分からないなあ。

 いや、今は宝箱だ。


「ターン。よろしく」


「ん」


 シローネとベルベスタさんは高レベルシーフだけど、『ヴィットヴェーン』の場合、ニンジャにトラップペナルティは掛からないんだ。


「ベルベスタ」


「ん? どうしたぃ?」


 ターンが宝箱から出たスタッフを、ポイっとベルベスタさんに放った。まさか?


「こりゃあ、『大魔導師の杖』かい?」


「多分」



 ついにベルベスタが目的に到達した。良かった良かった。ほら、さっさと撤退するよ。

 流れ的にカタナでしょうに。ちくしょうめ。


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