第161話 その先にあるジョブ
「厳しい状況です」
そう言うしかなかった。
「勝つには勝てるでしょうけど、多分レベルを吸われます。そこまでして70層を攻略する意味があるかどうか……」
ここは岐路だ。
わたしたちは冒険者。やるべきことがふたつある。食べていくこと、潜り続けること。いや、確かに前者だけでいいって考え方もあるけどさ。それじゃちょっと夢が無い。
大体あそこは69層なんだけどなあ。なんであんなことになってるんだか。適正レベルは何処行った。
「『ブラッドヴァイオレット』だったら」
ウィスキィさんが提案とも呟きともつかないことを言った。しかも、その中に自分が入らないの、知ってるだろうし。悲しいじゃないか。
「地上に異変が迫るとかなら考えますけど、今回はちょっと違うかなって思います」
「そうね」
「それに1パーティだけじゃ、多分呑み込まれます」
そのためには全員の底上げが必要だ。だけど、もうこれ以上のレベルアップは見込めない。ほとんどのメンバーが、60台後半を超えているし。
69層が上層に溢れてくるとかならまだしも、ここで無理する理由なんてどこにもないんだよね。諦めるしかないかなあ。
「諦めたくない」
「ぼくも」
ズィスラとチャートだ。
年少組は全員同意みたいだね。すっごく悔しそう。
「わたくしも諦めたくないわ」
「リッタ様」
リッタがそう言えば、イーサさんだって乗ってくる。『ブルーオーシャン』の顔つきが変わった。
となれば後は。
「あたしたちは足手まといなんじゃないかい?」
「そんなこと、言わないでくださいよ」
ここはレベルとステータスのある世界だ。ジョブとスキルもある、ある意味残酷な現実が付きつけられる、ゲームみたいな世界だ。
だけど、仲間だ。数字なんかに縛られるのは馬鹿馬鹿しい。
「ターンは楽しかったぞ」
ターンがアンタンジュさんを見て言う。その視線の強さに、目を離せない。
「みんなで、迷宮に入れて楽しかったぞ」
「ターン……」
ウィスキィさんも感極まってる。うん、クるよね、これ。
「途中でサワとリッタが喧嘩したけど」
「うぐっ」
「はうっ」
それ止めて、わたしとリッタにダメージ通るから。
「あんたら、迷宮で喧嘩なんかしたのかい」
サーシェスタさんの声が固い。ううっ。
「直ぐに仲直りしましたから、大丈夫ですから」
「わたくしは悪くありません!」
クランハウスに笑い声が木霊した。
◇◇◇
「じゃあ、69層攻略はやるってことで決まりですね。だけどソレは今すぐじゃなくてもいいわけで」
「それって、今までと変わらないわね」
「そうリッタ。そういうことだよ。でも違う点もある」
「心意気ね」
「ふむん」
ターンたちが腕を組んで頷いた。
「そうです。今すぐでも無茶すればやれます。だけど悔しいじゃないですか」
特にレベルとか。
「なので、少々の無茶で済むくらいに鍛えます。なんせわたしたちは、55層レベリングができますから」
「シーフになる」
ジャリットが決然と言い放つ。かなり気にしてたんだね。
「シーフどころか、ハイニンジャまで持ってこう」
「やる」
ドワーフたる彼女がニヤリと笑った。意外と似合うね。
「じゃあこれからのジョブチェンジ方針ですけど。これだけは、ってのあります?」
「ソルジャーとメイジは?」
実はソルジャーを持ってないアンタンジュさんが聞いてきた。
「こだわらなくっていいと思います。前衛が目標な人はメイジを取ってもいいかな、くらいですね」
元々、ファイターやウィザードになれない人たちの救済、それと基礎ステータスを少しでも上げる策だったんだ。今となったら意味は薄い。初手ソルジャーだったターンが懐かしいね。
「シーフ、ニンジャ、ハイニンジャは絶対」
再びジャリットのご希望だ。
「いいね。それ採用」
「うん」
ちょっと前ならニンジャからハイニンジャは最終形だったけど、『訳あり』には通用しない。前提ジョブとして捉える。
「エルダーウィザードも推すわ!」
ズィスラの意見ももっともだ。とてつもなく贅沢な話だけど、ハイウィザードだと足りない。何より『シルバーセクレタリー』がすでに実現してるんだから。
ああ、楽しくなってきたぞ!
◇◇◇
「それじゃあまとめますね」
侃々諤々の末、必須ジョブになったのは以下の通りだ。
シーフ、ニンジャ、ハイニンジャ、カラテカ、ウォリアー、パワーウォリアー。ここまでは前衛系だね。
そして後衛系はプリースト、ウィザード、ハイウィザード、エルダーウィザード。これに加えて、エンチャンターかビショップも追加だ。要はINTを上げろってこと。
「今まではレベル20ちょっと、コンプリートレベルでジョブチェンジでしたけど、これからは55から60を目指します」
一度就いたジョブには戻れない。だったらそのジョブを鍛え上げるのが当然だ。
今まではそれがコンプリートレベルだったけど、これからはそれの3倍まで引っ張るってことになる。当然、基礎ステータスの上乗せが3倍になる。55層レベリングあったればこそだね。
「何か損した気分だなあ」
「ふむ」
わたしとターンはアイテム無しで就けるジョブを網羅してる。ちょっと悔しい。
「まあまあ、アイテムは優先的に回すから、ね」
ウィスキィさんがそう言って取り成してくれた。有難い話だよ。
「ターンも本当にいいの? ニンジャ系を最後にするのは分かるけど」
「大丈夫、ウィスキィ。フーマがある」
ああ、そう思われるんだ。そろそろバラした方がいいかな。
「さてここで、重要なお話があります」
「なんだい今更」
サーシェスタさんが怪訝そうな顔をしてる。逆に年少組はワクワクって感じだ。
「イガ、コウガ、フーマ。ニンジャ系ジョブはそこで終わりじゃありません」
「まさか!?」
チャートが立ち上がる。そうだよ、まだ先があるんだ。
「その名も『マスターニンジャ』。イガ、コウガ、フーマを全てマスターした後に就ける、更なるニンジャです!」
ガタガタっと椅子がずれる音と共に、ほぼ全員が立ち上がった。いや『シルバーセクレタリー』だけは膝を突いてる。それやめい。
「ニンジャだけじゃありませんよ。全てのジョブにまだ、上位があるんです」
「サワ、そいつは本当かい?」
ベルベスタさんが声を震わせる。
「ええ。ロウヒ、カスバド、ラドカーンを極めた先、『アーチウィザード』」
「……まだまだ先は長いねぇ。いや待ちな、てことは」
「そうです。全てのジョブに、まだ上位があります」
「サムライも?」
シローネが興奮して鼻を鳴らしてる。
「うん、あるよ。だけどね、100層を越えないとアイテム出てこないんだよね」
「なら行く!」
「サワ、先に言いなさいよ!」
ズィスラはちょっとお怒りだ。ネタばらしが遅かったかな。
でもまあ、みんながやる気になってくれたようでなによりだよ。
◇◇◇
翌日、早速とばかりに大規模ジョブチェンジだ。スニャータさんが驚いてたよ。
『ルナティックグリーン』だと、わたしがエルダーウィザードに、ズィスラがニンジャ、ヘリトゥラがビショップだ。
なんで3人かと言えば、いっぺんに全員だと55層レベリングに時間が掛かりそうだからだね。わたしたちがレベル40台に乗ったら、残りの3人もジョブチェンジの予定だ。
『クリムゾンティアーズ』はなんと全員だ。まあ、基礎ステータスがあるからイケるだろうってのと、『シルバーセクレタリー』がマンツーマンで引っ張ることになった。
『ブラウンシュガー』はチャート、シュエルカ、ジャリット。方針は『ルナティックグリーン』と一緒。
最後に『ブルーオーシャン』はリッタ、イーサさん、ワルシャンだ。ついにイーサさんがジョブチェンジだね。ちなみにウォリアーだ。ホーリーナイトが長かったから慣れるのに手こずるかな。
リッタはパワーウォリアーだ。後衛イメージが強いだけに、覆そうと張り切ってるよ。
「さて、行きますか」
「おう!」
はてさて、気合十分のみんな。想いはそれぞれだろうけど、強くなろうって意思は統一されてるはずだ。『訳あり』たちは新しい目標を胸に、動き出す。
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