第162話 新時代のレベリング





「うわははは、大魔導師サワ様のお通りだあ。仄暗い氷の牢獄で消え失せろ。『マル=ティル=ルマルティア』!」


「サワ、なんとかの氷ってなんだ?」


「フレーバーだよ、フレーバー」


 ノリノリだ。

 あの決意の翌日、わたしはすでにレベル15だ。35層で魔法を撃ちまくってる。結構楽しいね。でもちゃっちゃとレベルを上げないと、ターン、キューン、ポリンに申し訳ない。


「どうしよう、38層行っとく?」


「まだだぞ、コンプリートまでは35層だ」


「りょーかい」


 ターンがちょっと過保護だよ。

 ズィスラはレベル17、ヘリトゥラはもう19だ。結構イケると思うんだけどね。


 ==================

  JOB:ELDER=WIZARD

  LV :15

  CON:NORMAL


  HP :329+71


  VIT:116

  STR:154

  AGI:117

  DEX:143+36

  INT:70+52

  WIS:60+17

  MIN:51

  LEA:17

 ==================


 わたしは今、こんな感じだ。前衛系が全部100超えてるウィザードだよ。

 武器は黒鉄のスタッフだ。死霊の杖もあるけど、こっちの方が打撃力が高いんだよね。



「むふん。まあ、よかろう」


「ありがとうございます」


 で、翌日、やっとこさ38層の許可が下りた。ターン教官は厳しい。

 レベルは21。コンプリートはしてるよ。だけど38層のゲートキーパーには無意味なんだよね。魔法無効だし、そこんとこどうなんだろう。


「ターンに任せろ」


 最初っからそうしてよ。

 まあズィスラもレベル25になってるし、間違ってないんだろうだけど。


「『活性化』『一騎当千』『ハイニンポー:ハイセンス』『裡門頂肘』」


 ターン一人の攻撃でジャイアントヘルビートルが沈んだ。ズィスラが悔しそうだよ。


「なにもできなかった」


「その悔しさが強さになる」


「……分かってるわ!」


 なんなんだろう、このやり取りは。



「よう、派手にジョブチェンジしたらしいな」


「ダグランさん、ガルヴィさん、お久しぶりです。エルダーウィザードやってますよ」


「相変わらず貪欲だなあ」


「そっちこそ、ダグランさんがロードで、ガルヴィさんがハイニンジャでしたよね」


「おう」


 44層で『世の漆黒』に出会った。良く考えたら彼らはウチの領民だし、久しぶりってのもなんだね。今度また視察でもしようかな。

 こらこら、キューンとポリンの頭を撫でるな。ターンまで並ばないでよ。


「ふむ、行くぞ」


 10分くらいナデナデタイムを経過してから、ターンが出発を宣言した。


「サワとズィスラ、ヘリトゥラでやれ」


「いきなりスパルタ!?」


「やるわ!」


「やる」


 パーティを2分割して、経験値を稼げってことだね。やったるわ。


「『マル=ティル=トウェリア』」


 オーガロードと取り巻きのオーガが、魔法の炎に包まれる。


「『ルート・フィアンナ』」


「『ヤクト=ティル=トウェリア』」


 ヘリトゥラの石兵がオーガロードを押さえ込んだ。そこにわたしが単体攻撃魔法を叩き込む。どうよ。


「『大切断』」


 前方ではズィスラが死霊のオオダチを振り回してる。

 ニンジャはマルチウェポンファイターだ。なので、剣士系スキルを普通に使える。

 逆に今エルダーウィザードのわたしは、スタッフオンリーなんだよね。ジョブ制限で剣とか装備したらペナルティが凄いんだよ。


「取り巻きは終わり!」


「ズィスラ、やっちゃえ」


 ズィスラの宣言にヘリトゥラが返す。そうだ、やっちゃえ!

 石兵に纏わりつかれてさらには魔法に晒されたオーガロードの前に、ズィスラが滑り込んだ。


「『剣豪ザン』!」



「よし、レベル40」


「ふむ、よくやった」


「ありがと、ターン」


「じゃあ、サワに隊長を任せるぞ」


「受け取りました」


 わたしとターンはがっしりと握手をした。なんだろうこの茶番。

 ズィスラがニンジャのレベル43、ヘリトゥラはビショップの45、そしてわたしがエルダーウィザードの40だ。ここで残り3人をジョブチェンジする。


「ターンはベルセルク、キューンがケンゴーで、ポリンがエルダーウィザードね」


「おう」


 もうアイテムジョブの大安売りだ。

 さあ、こんどはわたしたちが引っ張る番だね。



 ◇◇◇



 1週間後、ターンたちのレベルが40を超えた。当然だけど、わたしたち先行グループは50を超え、目標の60手前まで来てる。やっぱり55層レベリングは効率的だ。


「『クリムゾンティアーズ』はどうです?」


「ああ、今は二つ目を30くらいまで上げたよ。経験値が軽いからねえ」


「ウチはリィスタとテルサーがジョブチェンジだ」


『ブラウンシュガー』はチャートとシローネがちょっとの間固定して、残り4人をジョブチェンジしまくる予定だ。


「『ブルーオーシャン』はシーシャもジョブチェンジよ。ワンニェとニャルーヤはごめんなさいね」


「構いませんよ」


「大丈夫ー」


 ジョブチェンジのタイミングや内容は、各パーティに任せてる。強いて言えば報告とジョブチェンジアイテムの予約くらいだ。

 それにしたって55層レベリングをやってれば、ポコポコ出てくるんだけどね。



「効率的で、しかもジョブを無駄にしない。これはもう新時代レベリングですね!」


「そのうち100層でも同じこと言いそうだねえ」


 サーシェスタさんが茶化すけど、否定できないんだよねえ。


「その時はその時ですよ」


「本気かい」


 食卓に笑い声が響いた。



 それからひと月、わたしたちは相変わらずの日々を送っていた。


「うん、棒術も悪くないね」


 わたしは、錫杖をヒュンヒュンと振り回してる。あれからオーバーエンチャンター、カダと来て、今はシュゲンジャをやってるんだ。

 ついにジョブ数は30を超えた。わたしは暗記してるからいいけど、他の子たちはスキルが多すぎて大変そうだ。慣れろ、慣れるのだ。


「もうちょい」


 そう言うターンは、ベルセルク、ナイチンゲールと引き継いで、ホワイトロードのレベル51だ。あと2、3日もあれば次のジョブを選べるだろう。


 ここにきて特性と言うか、各人の方向性が見えてくる。

『ルナティックグリーン』とチャート、シローネはとにかくジョブを取りまくる方針だね。それ以外は、最終的にもともとのジョブ傾向に合せるっていうか、メインジョブの他にサブジョブって考え方をしてるみたいだ。

 もちろん要所は押さえた万能性があるから、この先を見ても問題ない。


「わたしたちがおかしいんだよね」


「どうしたの、サワ」


「ん-ん。そろそろ戻ろっか。それにほら、明日にはアレもできるし」


「楽しみだね」


 ヘリトゥラが嬉しそうだ。うん、わたしも楽しみだよ。

 というわけで、ちゃっちゃとジャイアントフロッグの群れを倒して、今日のレベリングは終了だ。



 ◇◇◇



「ケータラァ、さん?」


「お久しぶりです、サワさん」


 クランハウスに戻ったら、王都にいるはずのケータラァさんがいた。しかも旅装のまんまだ。馬車も無いし、歩いて来た?


「サワさん、ユッシャータさんが伯爵邸に立ち寄っているそうです。『ブラウンシュガー』も戻っていませんし、話はそれからで」


「ユッシャータも来てる? 分かりました」


 ハーティさんは落ち着いている。『ブルーオーシャン』がピリついている感じだけど、概ね話を聞いてからってところかな。



 1時間くらい経って『ブラウンシュガー』が戻ってきた。わたしたちと同じで、ケータラァさんに驚いてた。そのすぐ後にユッシャータもやってきた。彼女も旅装のままだ。疲れた表情が痛々しい。


「話を、聞かせてもらえますね」


「ユッシャータ様」


「わたしからお話しします」


 ユッシャータが悲壮な顔で話し始めた。


「王都で、キールランターで氾濫が起きました」


 そうきたかあ。


「主体はゴブリンですが、上位種がいるようで統率が為されています。数は3000以上が確実視されています」


 みんなの表情が変わった。ゴブリンはどうでもいいけど、数が多い。


「階層は? 上を目指してるの?」


「5日前の段階で14層です。発生が17層でしたので、上を目指しているのは間違いありません」


 5日前って、王都まで馬車で2週間だったよね。なるほど、二人で走ってきたわけか。



「メッセルキール公爵家からの正式な依頼です。すでにフェンベスタ伯からも許可は得ています。3パーティ、いえ、2パーティを派遣してもらえないでしょうか」


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