第160話 先輩が後輩に渡すモノ





「『BF・INT』『BFW・MAG』『BF・INT』『BF・INT』」


 初手はフェンサーさんのバフからだ。『クリムゾンティアーズ』にはエンチャンターが4人いるけど、INT効率を考えればフェンサーさん一択になる。

 対象は3人。フェンサーさん自身とアンタンジュさんとウィスキィさんだ。エルダーウィザード1人とハイウィザードが2人。こうしてみると魔法火力がどうしても低い。


「まったく、魔法が苦手な敵に、あたしたちは向かないねえ」


「戻ったら鍛え直しね」


 それでもアンタンジュさん、ウィスキィさんは余裕を崩さない。他のメンバーだってそうだ。


「『マル=ティル=トウェリア』」


 3発の極大攻撃魔法が敵を覆う。ただし後ろの2発はINTが乗ってない。

 でも『クリムゾンティアーズ』の強さはここからだ。


「『BFW・SOR』『BF・STR』『BF・STR』『BF・AGI』『BF・AGI』」


 フェンサーさんが、今度は前衛バフを被せていく。


「『克己』『活性化』『芳蕗』」


 フェンサーさん以外が自己バフに入る。


「『ディフェンシブモード』」


 ジェッタさんが構える。


「『ストライクコマンド』」


 ドールアッシャさんが一歩を踏み込んで、攻撃態勢に入る。


「もう一発ですわ! 『マル=ティル=トウェリア』」


 フェンサーさんが2発目の魔法を放った直後、前衛たちが動き出した。



 もうそこからは圧巻だった。ドールアッシャさんがナックルで、アンタンジュさんがこん棒で、ウィスキィさんが剣で、殴る、殴る、斬る。

 ジェッタさんは完璧にフェンサーさんを守り抜き、ポロッコさんが相手の体勢を崩しまくる。


「ブラックマミーって、結構硬いはずなんだけど」


「硬いから、逆にボコボコね」


 わたしとリッタが素直な感想を述べる。っていうか、スキル出し惜しみしてない?

 技量だけで戦ってる。なるほど見せてくれてるのか。


「強い」


「うん、強い」


 チャートとシローネが目に焼き付けるように、見つめてる。うん、これこそだ。


「役割分担ね」


「ジェッタさんが凄いね」


 ズィスラとヘリトゥラが零した。

 そうなんだよね。ジェッタさんのヘイト取りが上手い。アタッカーのスイッチも上手い。


「『クリムゾンティアーズ』。格好良い」


 ジャリットはジェッタさんを自分に投影してるみたいだ。目が釘付けだよ。


 旧時代の冒険者たちの戦い方、っていうわけでもないんだろうけどさ。だけど彼女たちは受け止めろって言ってるみたいに感じる。うん、受け継ごう。引き継ごう。


「この戦い方は、今のわたくしたちこそ身に付けなきゃダメね」


「そうかもしれません」


 リッタとイーサさんも感嘆したように見てる。



 ◇◇◇



「なんて顔だい。弱い冒険者が連携して相手を倒すのは、当然だろ?」


「それが凄いから感動してるんですよ」


 アンタンジュがくすぐったそうな顔をしてるよ。


「あなたたちに見せられた?」


「うん。見たぞ」


 ウィスキィさんとターンは、何か分かり合ってる。

 なんにしても凄かった。格好良い戦いだった。それがわたしたちの共通認識だ。


「わたしたちでも勝てるんですね」


「そうですねえ」


 ポロッコさんとドールアッシャさんがほのぼのしてるし。二人も見事でしたよ。


「……次はお前らだ」


 ジェッタさんの言葉で目的を思い出したわたしたちが、気合を入れ直した。



「そろそろレベルスティーラーが出てきたね。索敵目一杯で」


「おう」


 66層に入って、遂にヤツらが現れた。マミーもドレインは持ってるんだけど、確率低いんだよね。こっちは名前通り、レベルドレイン攻撃がメインなんていう、わたしがいっちばん嫌いなタイプの敵だ。


「氾濫の時と一緒です。なるべく遠距離攻撃で、近づく時は盾持ちを前面に。ただしニンジャは別」


 ニンジャって言っても、ターンとキューンのことなんだけどね。二人ならまあ、自由にやらせても大丈夫でしょ。

 そうして探索を進めていくわけだけど。


「おかしい」


「どうしたの、キューン」


「敵が少ない、と思う」


「ふむ」


 ターンまでキューンに同意した。ってことは現実だ。敵が少ない?


「それってまさか、こないだの氾濫のせい」


 確かにアレからひと月も経ってない。迷宮のモンスター供給ってどうなってるんだろ。

 今わたしたちがいるのは68階層。そろそろ休憩が欲しいところなんだけど、どうしたもんか。



「ここはどうとして、この下がどうなってるかは分かったもんじゃない。一旦休みを入れないかい」


 アンタンジュさんの言う通りだ。敵が薄いなら、今のうちに休んで今後に備えるべきかも。


「そうですね。まだ2日目ですし、焦ることもないです」


 なあんてね。油断なんかするわけないじゃない。

 2パーティを周辺警戒に当ててたわたしたちは、ヴァンパイアとレベルスティーラーの大群に強襲を受けた。



 ◇◇◇



「この後、何が来るか分かりません。スキルは控えめに」


「了解!」


 リッタが答えるけど、ウィザード系はもどかしいだろうなあ。この波がどれくらい続くのか読めないから、もうちょっと我慢してね。


「サワ、どっちだと思う?」


「そうですねえ、たまたまかワザとか」


 ウィスキィさんの問いに、あんまり意味は無い。


「どの道、全部倒すんでしょう?」


「もちろんですよ!」


 そういうことだ。

 元凶がこの下にあったとしても、それにお目にかかるまで引くわけがない。そういう覚悟でここまで来たんだ。


「がんがん倒して、どんどんレベルを上げるよ」


「つっ!」


「くっ」


 なんて言った瞬間に、ポリンとアンタンジュさんが貰った。近接系はキツいか。だけどさ。


「盗られたレベルは取り返す! 覚悟決めてください!」


「うおおおお」


 アンタンジュさんの踏み込みが大きくなった。その分打撃が強くなるけど、危険もやってくる。だけど、それでも躱してる。すっげえ。


「わたしは望んでヴァハグンになったんですよ。弱音なんて吐くわけないでしょう!」


 わたしの知る限り、唯一グラップラーの上位ジョブ、ヴァハグンを持ってるのはドールアッシャさんだけだ。三毛猫耳とシッポを揺らした彼女が躍動する。


「負けられないぞ、キューン」


「うんっ」


 そんなアンタンジュさんを見たターンとキューンも、さらに動きを加速する。タレ柴耳とキツネ耳が加速でブレた。


「やっぱりニンジャ系は速いねっ!」


 ズィスラに同意だよ。だけど、負けてられない。聖属性スキルを使えばもっと楽になるけど、それは終わりが見えてからだ。



 そうして2時間、急に大群が止まった。


「もっかい休憩です」


「そうだねえ」


「殺しに来てるんだか、それとも」


「育ててくれてる、かい?」


「そんな気、しません?」


 疑問に思ったことをアンタンジュさんに正直に言ったところで、状況は変わらないね。結局は有無を言わさず戦うしかないんだ。


「ターン、キューン、斥候スキルは足りてる?」


「おう」


「ぼくも行く」


「わたしも」


 チャートとワンニェも乗ってくれた。この子たちなら大丈夫かな。任せるよ。


「69層を探ってみて、無理しないでね」


「任せろ」


 てな感じで『訳あり』が誇る斥候部隊が出撃していった。



 ◇◇◇



「ロード1、ガード18、他が沢山」


「帰ろっか」


「おう」


 いや、勝てるよ。倒せるよ。だけどさあ、見合わないって言うか、どれだけドレインされるか想像つかないんだよ。

 負け惜しみじゃないよ。計画的撤退ってヤツだ。


「まあ、68層も70層も似たようなもんだね」


 そう言ってアンタンジュさんが苦笑いしてる。他のメンバーも似たような感じだ。


「じゃあ、今回の探索はここまで。次回以降をどうするかは、戻ってから考えましょう」


「仕方ないねえ」


 なんだか70層が一つの壁って感じになってきた。乗り越えてみせろって感じなのかなあ。

 実際、探索に意味あったんだよね。レベルも上がったし、アイテムも素材も沢山だ。ジョブチェンジもできるよ。だけど悔しいなあ。


「戻って今後の方針ですね」


 さて、どうしよう。



「ご無事で何よりです。予定より早いご帰還ですが、何か不都合が」


「69層が大変なの」


 クランハウスの入り口で、ピンヘリアが迎えてくれた。

 残念な報告をしなきゃならないのが、心苦しいよ。


「68層までマッピングしたから、模写してから悪いけど会長に渡してもらえるかな」


「畏まりました」


 そう言い残して、ピンヘリアが消えた。エルダーウィザードだったよね?


「じゃあ、みんなが集まったら今後の話し合いだね」



 皆はどう考えているのか、これからどうしたいのか、どうなりたいか。わたしたちは決めなきゃならないんだ。


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