第170話 こんどはオークか





「ちょっとまって。やり直し」


「なにか失礼がありやしたかい」


「失礼はないけど、どういう状況ですか、これ」


「姐さんたちがココに来るって聞きましてね。こりゃあお迎えせねばと」


 なんという余計なことを。


「サワ、出迎えがあるってことか?」


「違うの、違うのよターン」


「ふむ?」


「ちょっと外、戻ろうか」


「ふむ」


 仕切り直しだ。もうテンプレは諦めた。逆に怖いからみんなで入ろう。そうしよう。



「どうしたのよ」


「リッタ、心を強く持って。ビビったら負けよ」


「そんなに強そうなのがいるの?」


「そういうわけじゃないんだけど、精神攻撃が凄いの」


「地上なのに!?」


 どうしよう、話が通じない。

 いや、テンプレ予測してたわたしがおかしいのか。ううむ。


「と、とりあえずみんなで入ろう。お願い」


「怖いわね」


「別に怖くなかったぞ」


 ターンは強心臓だねえ。



 ◇◇◇



「ご苦労様っす!」


「お疲れ様です!!」


 さっきより増えてるし。なんでかきちんと整列してるし。なんで全員頭下げてるわけ。

 後ろの方にいる新人さんかな? なんか不満そうだけど。


「今日はどのようなご用件で。素材でしょうか」


 ああ、この人知ってる。昨日一緒に戦ったパーティのリーダーさんだ。


「そっちもですけど、どちらかといえばジョブチェンジですね」


「さっすが姐さん方、貪欲ですね。ささっ、こちらです」


「むふん」


 なんでだろう、接待モードになってる。ターンもターンで当たり前みたいな顔しないでよ。



「なんなんだよあいつら。女で子供ばっかりじゃねーか」


「なんでヘコヘコしてるんだ」


 どごん。どがん。


「痛ってぇ。なにするんだよ」


「いいか若造。あのお方らはな、戦場の女神なんだよ」


「ぶふぉっ!」


 思わずむせたじゃないの。なにそれ『戦場の女神』?


「お前らはあそこにいなかったから、信じられないのも仕方ねえ。だけどな、俺たちは見たんだよ」


「なにをだよ」


「『ゴブリン1000匹斬り』だ」


「マジ、かよ」


「おう。誇張なんかしてねえぞ」


 いや実際は3000匹以上倒したけどね。


「しかも戦いながらジョブチェンジして、また戦って……。ありゃあ『狂気の沙汰』だったな」


「そんなのあり得るのかよ」


「最後のゴブリンエンペラーなんざ、殴られても殴られても、それでも立ち上がって倒してのけたんだ。ほら、あそこの『黒柴』のねーちゃんだ」


「むふん」


 ターン……。

 なんというか、全部ほんとだ。それだけに始末が悪い。褒め殺しって結構クるんだね。年少組は誇らしげだけど、それ以外はちょっと胃が重たそうだ。



「と、とりあえず素材は後日にして、ジョブチェンジだけにしましょう」


「異議なしよ」


 リッタが疲れた顔をしてる。


「ささっ、姐さん方、ここが『ステータス・ジョブ管理課』でさあ」


「ありがとうございます」


「なあに、じゃああっしはこれで。良いジョブチェンジを」


 なんだそれ。


「本日のご用件は」


「あ、ジョブチェンジをお願いします」


 受付のお姉さんが怪訝な顔をしてる。そりゃ22人で来ればねえ。


「どなたでしょうか」


「ええっと、13人かな」


「は?」


 わたしと、ヘリトゥラ、チャート、リィスタ、シュエルカ、ジャリット、イーサさん、シーシャにワルシャン。それと『ライブヴァーミリオン』の4人だね。うん、間違ってない。


「聞いてはいましたが、ほんとうなんですね」


 受付さんが、呆れたような感心したような顔をしてる。どんな噂が流れてるんだか。



 ◇◇◇



「サワさんですか」


 ケータラァさんががっくりしてる、なんだよ。いいじゃん。


「てっきりワンニェさんかニャルーヤさんがくるかと」


 たしかにあの二人はレベル30台のガーディアンだけどさ。


「レベル0の5人組、たのしみですわ」


「ほら、コーラリアを見習ってください」


 さすがに不味かろうと『ライブヴァーミリオン』に一人まわしたんだ。それがレベル0ツカハラのわたしだったのが、ケータラァさん的には気に入らなかったらしい。

 クリュトーマさんとユッシャータがウィザード、コーラリアはビショップだもんね。不安にもなるか。ほんとはケータラァさんもウィザードにしたかったんだけど、固辞されてグラップラーのレベル0だ。大した変わんないんだけどねえ。


「まあまあケート落ち着いて。サワさんがそう言うなら大丈夫ってことだから」


「クリュトーマ様……」



 そんな感じでキールランター迷宮だ。

 生態系っていうか、出現するモンスターはヴィットヴェーンと同じだったり、違ったりする。ゲームの『ヴィットヴェーン』って6まで出てて、当然モンスターも違う。そのあたりがバラバラに配置されてる感じなんだよね。


「上層は人型モンスターが多いわけですね」


「ええ、ゴブリン、コボルト、オークね」


 クリュトーマさんが解説してくれる。47層までのマップも完備してるし、とりあえず20層から30層でレベリングかな。



「『ティル=トウェリア』」


 わたしの魔法が、敵を焼き尽くした。よし、レベルアップ。マスターレベルまでは来たね。

 ここは迷宮23層だ。なんでも魔法抵抗性の無いモンスターが多くって、ウィザードを抱えてるパーティの狩場らしい。美味しくいただくよ。


「でも、ヴィットヴェーンに比べると少ないかなあ」


「氾濫の影響かもですわ」


「ああ、確かに」


 コーラリアのいうことももっともだ。氾濫の後っていうのはどうしてもねえ。

 それにしたって敵が少ないのは面白くない。ゴブリン氾濫なら、50層くらいが起点なのかな。



「今日はここらあたりまでですかね」


 36層までは到達した。マップがあるから楽なもんだね。


「なんだか申し訳ないわね」


「いえいえ、明日からは活躍してもらいますよ」


 クリュトーマさんが残念そうな顔をしてるけど当たり前だ。レベル0スタートのウィザードをここまで連れてきたんだから、彼女たちに活躍の場所なんてない。


「今日はここで宿泊です」


「迷宮で夜営なんてはじめて」


 ユッシャータがちょっと楽しそうだ。


「ターンたちがいるから安心だぞ」


「やっぱりターンは頼もしいですわ」


 コーラリアがわしゃわしゃとターンたちを撫でる。仲良さそうでなによりだけど、ちょっと悔しい。



 ◇◇◇



 夜営といっても5時間後、わたしたちは動き始める。


「ねえ、なにかオークが多くない?」


 リッタのセリフはダジャレじゃない。本当にオーク率が高いんだ。

 ここはまだ38層。別にオークは珍しくないけど、上位種が混じってる。まさかとは思うけどさあ。


「今度はオークの氾濫?」


「ゴブリンが減ったから、っていうのは」


「そんなのあるの?」


「知らないわよ!」


 ズィスラのツッコミが冴える。それにしたって、氾濫の連鎖なんてありえるの?


「サワ、どうする?」


 シローネが冷静に判断を仰いできた。流石は『ブラウンシュガー』の隊長だけある。


「とりあえず倒すだけ倒して。それから37層まで引いて、陣地構築。それで様子をみよう」


「了解」


『ルナティックグリーン』『ブラウンシュガー』『ブルーオーシャン』が突っ込んでいく。わたしを含めた『ライブヴァーミリオン』は遠距離砲台だ。


「これでいいのかしら」


「役割分担ですよ」


 クリュトーマさんを筆頭に『ライブヴァーミリオン』は不満そうだ。仕方ないから。わたしとケータラァさんしか前衛いないでしょうに。



「これ、確定かな」


「来た」


 翌日オークの群れが37層に現れた。階段を使ってだ。

 通常、モンスターは階層を移動しない。つまりはそういうことだ。


「サワ」


「悩むとこだね」


「そうね。一度戻ってジョブチェンジするか。このままやるか」


「サワさん、リッタさん、なにを」


 わたしとリッタの会話にケータラァさんが割り込んだ。まあ気持ちはわからいでもない。だけど、わたしたちは『訳あり』だ。そろそろ意識改革が必要だね。


「このままやろう。状況次第で奇跡も使う」


「おう!」


 動揺する『ライブヴァーミリオン』を他所に、わたしたちの行動が決定された。



「敵のレベル次第だけど、レベル30までは粘ります」


「それからどうするんですの?」


「コーラリア、もちろんジョブチェンジだよ。なんのためにプリーストを取ったのかってね」


「なるほどですわ!」


 うん、コーラリアは素直でいいねえ。


「あの、地上に戻って報告というのは」


「確かにケータラァさんの言うとおり。だけどね、わたしたちは違うんですよ」


「違う?」


「わたしたちは『訳あり令嬢たちの集い』。目の前の敵は経験値!」


「それは、あまりに」


「わざわざ現れてくれたんです。他の人に譲るなんて、とんでもない」


 現に3パーティが暴れまくってるよ。『ライブヴァーミリオン』、後れをとってどうするのさ。



「わたしとケータラァさんは前線。後衛は魔法連打。ジョブチェンジはわたしが指示します!」


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