第171話 狂気の氾濫





「魔法、撃ち尽くしました」


「こっちもよ!」


 ユッシャータとクリュトーマさんが叫んだ。


「レベルは?」


「29よ」


「同じです」


「コーラリア、奇跡を起こして。二人はハイウィザード。コーラリアとケータラァさんは適当に前衛ジョブで」


 他のパーティはやらない。レベル50以上が基準だからね。


「『ラング=パシャ』ですわ!」


 コーラリアがジョブチェンジの奇跡を起こした。


「クリュトーマさんとユッシャータは強制睡眠。3時間で起こすからね」


「なんという」


「なに言ってるんですか、ケータラァさん。3時間はわたしたちで稼ぎますよ。リッタ、ニャルーヤをちょうだい」


「わかったわ。ニャルーヤ」


「了解ー」


 ケータラァさんはヘビーナイトを選んだ。ニャルーヤはガーディアンのレベル39で、わたしはツカハラのレベル23。

 コーラリアはファイターになったけど、まだ攻撃魔法スキルが残ってる。寝てる二人を守り抜くぞ。


「パーティ組んでるから、経験値は流れます。二人が起きた時にどれくらいのレベルになってるか、わたしたち次第ですよ」


「……わかりました」


 これぞ睡眠レベリング。寝てる間にレベルアップしているという、禁断の荒業だ。言ってはみたけど、別に禁断ってわけでもないけどね。仕様だ仕様。



 ◇◇◇



「クリュトーマさん、ユッシャータ、起きて」


「んん」


「んあ」


「もう3時間ですよ。レベルはどうですか?」


 途端二人がシャキンとした。切り替え早いねえ。


「レベル11、です」


 ユッシャータが唖然としてる。


「もうちょっとだったかあ。まあ、ウィザードスキルは戻ってるから、活躍してもらいますよ」


「わ、わかったわ」


 クリュトーマさんが激しく動揺してるけど、それどこじゃない。ほら、魔法魔法。



「ターン、状況」


「なんか強いのが増えてきた」


 ターンが指さす方を見ればなるほど。


「レフテナントオーク、グニーオーク」


 オークの進化系は、力圧しが多い。いいね、いいねえ。思わず笑みがこぼれるよ。


「あははは、今のところは力馬鹿ばっかりだよ。ガンガンやっちゃって!」


「ふふふ、サワは相変わらずね」


「おほほほ。お姉様も毒されましたね」


 リッタとシーシャが乗ってきた。


「ふっ」


 ターンがニヒルな笑いと共に攻撃を繰り出してる。

『ルナティックグリーン』も『ブラウンシュガー』もそれぞれ笑いながら、戦い始めた。

 ああ、サバトだ。これは。


「よっしゃあ! 全員笑おう! 笑いながら倒し続けるぞう」


「おおう! あはははは」



 ◇◇◇



「無事かあ、お前ら!」


「あら、殿下に『万象』の皆さん。無事も無事ですよ。むしろ絶好調」


 殿下たちが37層にやってきた。どれくらいぶりだろう。多分わたしたちがオーク氾濫に立ち向かってから2日くらいかな。


「よく頑張った。あとは我たちに」


「あはは、なに言ってるんですか。連中はわたしたちの獲物ですよ」


「『マル=ティル=トウェリア』。あはは、燃えて消え失せなさいな」


「……クリュトーマ」


「あら、旦那様。楽しい戦場へようこそ」


「サワお前、クリュトーマたちになにをした」


「何もしてませんよ。強いていえばジョブチェンジとレベルアップでしょうか」


「おほほほほ。お父様にも楽しさをわけてあげたいくらい」


「ユッシャータ……」


 殿下がでっかい手で、目を覆った。ヌルいなあ。戦場でやることか。

 でもちょうどいい。



「じゃあこの場は殿下にお任せします。わたしたちは38層に降りますね」


「なんだとおっ」


「もう、レベルの上りが悪くなってるんです」


「お前はそればかりかあ!」


 無視だ無視。さて、パーティをどうするか。


「サワ。来たぞ」


「どしたのターン?」


「サワさん」


「報告に参りました」


「ハイッソー、アッシャー!?」


『シルバーセクレタリー』の二人が突然あらわれた。かっけえ。あと、片膝やめて。


「ヴィットヴェーンに変わりはありません。4日前の情報です」


「いくつか、ジョブチェンジアイテムをお持ちしました」


「助かるよ。あ、そうだ。手伝ってもらえる?」


「光栄です」


 本当に嬉しそうだなあ。


「じゃあ、ハイッソーは『ルナティックグリーン』、アッシャーは『ブルーオーシャン』で。ニャルーヤとわたしはこのまま『ライブヴァーミリオン』」


「畏まりました、ターンさんよろしくお願いいたします」


「おう」


「リッタさんも」


「歓迎よ」


 さて、これなら『ライブヴァーミリオン』をサポートしながら潜れるね。


「おい。我の話もきけよ」


 知らないねえ。じゃあ、いってきます。



 ◇◇◇



「おうおう、レフテナントとグニーばっかりだ。メジャーオークもいるねえ」


 階段の敵を蹴散らして38層に来てみれば、そこにいたのは一段階上がったオークの群だった。2日くらい戦ったのに、まだこんなにいるのかあ。


「『ライブヴァーミリオン』は陣地構築。残りは周りを蹴散らして」


「サワさんは貴族の扱いがなっていませんわ!」


「あら、わたしも子爵で公爵夫人だよ。ほらほら練習だと思って」


「わかりましたわ」


 コーラリアは納得してるんだから、ケータラァさん渋い顔しないで。もういい加減に慣れてくださいよ。


「早く終わらせないと、どんどんレベルがおいてかれますよ。ニャルーヤをお手本にしてくださいね」


「こんな感じですー」


 はい、見習って、ちゃきちゃき手を動かす。



「さあ、ここからはクリュトーマさんが隊長です。補佐はしますから、戦い方と、休憩、ジョブチェンジの指示もしてくださいね。4人の目安はレベル40で」


「怖いわねえ」


「何事も経験ですよ」


「怖いのはサワさんよ」


 あれまあ。そんな鬼軍曹みたいにいわなくってもさ。


「仕方ありませんね。『ライブヴァーミリオン』出撃。主目標はグニーとレフテナント。メジャーは他に任せなさい」


「了解!」


 いいじゃんいいじゃん。流石は第1夫人、指示出しに慣れてる感じする。


「『ティル=トウェリア』。サワさん、ニャルーヤさん、コーラリア、ケート、飛び込んで」


「呼び捨てで構いませんよ。『一の太刀』!」


 わたしの剣がレフテナントオークを唐竹割りだ。『ツカハラ』なのに刀属性無いんだよね。剣士系だから仕方ないのかな。



 さて、全体指揮はわたしの管轄だ。さて、レベルが頭打ちなのは。


「シローネ」


「レベル55」


「シローネ、テルサー、ジョブチェンジ。選択は任せるから『ライブヴァーミリオン』とスイッチ」


「わかった」


「『ラング=パシャ』」


 一番レベルの低い、とはいっても45のリィスタが奇跡を願った。どうやら、シローネがニンジャで、テルサーはシュゲンジャになったみたいだ。

 レベル0とは言え、彼女たちは普通にそのまま戦線復帰できる。こっちとスイッチしたとはいえ、当たり前にレフテナントオークを撃退していく。


「みなさん見てください。あれが『訳あり』のレベル0です」


「知っているわ」


「なら」


「当然目指しますわ!」


「負けません」


 コーラリアとユッシャータが気合をいれる。残り二人も目に炎が宿ってる。よしよし、それでこそだ。



 ◇◇◇



「レベル42です。サワ、いいかしら」


「どうぞ」


「コーラリア、ユッシャータ」


「『ラング=パシャ』」


 ケータラァさんが奇跡を起こした。

 クリュトーマさんがヘビーナイト、コーラリアはナイト、そしてユッシャータはファイターだ。やるねえ。さてこれで全員前衛ジョブになった。



 さらに4時間後、今度は『ルナティックグリーン』から、ターン、ズィスラ、ポリンがジョブチェンジした。特筆すべきは、ズィスラの新ジョブ『フェイフォン』。ドールアッシャさんのヴァハグンと並ぶ、近接系上位ジョブだ。必要アイテムは『洪家三宝』。まあ秘伝の書みたいなヤツだね。


「奥様、レベル40です」


「そう、サワとニャルーヤは」


「53ですけど、まだいいです。引っ張ります」


「わたしは54ですー」


 ケータラァさんがレベル40に到達した。ニャルーヤもまあ、ジョブチェンジタイミングだね。クリュトーマさん、よく見えてるじゃん。

 わたしはまだ引っ張る。ってか、わたしまで変えると、前線が不安だし。


「ニャルーヤは自由に。ケート、ウィザードになりなさい」


「奥様」


「なりなさい」


「かしこまりました」


 押し切られちゃったよ。

 そんな感じで、ニャルーヤがエインヘリヤル、ケータラァさんはついにウィザードになった。



 さらに数時間後、いきなりセリアンズが迷宮の奥に視線を送った。こりゃ来るか。


「サワ、なんかデカいのが来る」


「数は?」


「10くらい」


 ターンの報告にキューンが補足した。



 さてボスか、それとも別のなにかか。それでもまだ、オークの氾濫は続いてる。


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