第172話 ウチのメンバー舐めんな
「カーネルオークとジェネラルオーク。なるほどラスボスってわけね」
「あれが親玉か?」
「多分ね」
「どうする」
「いつも通りやっつけるけど、取り巻きを減らしてからかな」
「わかった」
ターンとやり取りしたあと、各パーティが動き出す。流石にまだ、カーネルとジェネラルにはつっかけないよ。
さて、ここからのジョブチェンジはアリかナシか。ナイトのヘリトゥラ、ロードのチャート、ニンジャのシローネ、ソードマスターのリッタ、ロードのイーサさんあたりか。『ライブヴァーミリオン』は怖いからやめとこうかな、どうしよう。
「リッタはどう思う?」
「ここでジョブチェンジは怖いわね」
ふむ、確かに。ジョブチェンジの機会なら、あとでいくらでもあるし。
「よし、ここからは状況が変わらない限りジョブチェンジ無し。ただし、ユッシャータとケータラァさんは別」
前言撤回。ファイターとウィザード固定は意味が薄い。がんばってね。
「それと最後は『ブラッドヴァイオレット』だから、みんなレベル上げてね」
「おう!」
途端、みんなの動きが速くなった。さて、今回はどういうメンバーになるのかな。
◇◇◇
「上は片付いたぜえ、って酷ぇな、こりゃあ」
「ちょうどいいところに殿下。適当に戦闘しながらドロップ拾っておいてください」
床一面には、お肉やらこん棒やら剣やら、色々と落っこちてる。
「我は荷運び係かあ。いい度胸じゃねえか」
「そういうのは実力を身に付けてからです」
「言ってくれるぜえ。おい手前ら、雑魚をやるぞ」
「へい!」
王都最強クランなんだけど、ヴィットヴェーンで修行してから、なんか変なノリなんだよね。
まあいいや。大物はこっちがもらう。大切な経験値だ。
「クリュトーマさん、指示を」
「ユッシャータとケータラァがジョブチェンジして、レベルを上げるまでは無難にいくわよ」
うん、妥当で良いと思う。じゃあ、それに応えないとね。
「きゃあっ」
「『ファ=オディス』」
ユッシャータがダメージをもらうけど、すぐに治す。だけど痛いものは痛いよね。
でもこれが冒険者だ。痛いのや苦しいのがイヤなら、地上で生きればいい。だけど冒険者は潜って戦う職業だ。周りを見てみなよ。誰も彼もがノーダメージで戦ってるわけじゃないよ。
「えいっ!」
彼女の剣がレフテナントオークを切り裂く。エインヘリヤルを経由してるんだ。十分に前衛やれる。がんばって。
「ごべっ!」
おもいっきし殴られた。人の心配してる場合じゃなかったわ。こんにゃろう、HP無かったら一撃で死んでるぞ。
「死ねや。『切れぬモノ無し』『ファ=オディス』」
相手をたたっきった後、回復を掛ける。もう、ポーションチートじゃ効果が薄くてダメなんだよね。ハイヒールポーション高いしさ。状態異常系ならまだまだ通用するけど。
「ユッシャータ、ケートどう?」
「いけます」
クリュトーマさんの声に、ユッシャータが元気に答えた。ファイターのレベル41とウィザードの40。十分だね。
「『ラング=パシャ』」
誰かと言われる前に、ケータラァさんが自発的に奇跡を願った。
ユッシャータがソードマスターに、ケータラァさんはハイウィザードだ。大体整ったかな。
「『ライブヴァーミリオン』は一時休息。サワ、ニャルーヤ、後は頼むわ」
「はい」
「はいー」
良い判断だよ、クリュトーマさん。
◇◇◇
「そろそろだね」
「やるのか?」
チャートがふんすと鼻を鳴らした。さて、どうしたもんか。
まだまだ残党はいるけど、メインはジェネラルオークが2体と、カーネルオークが12体だ。できたらカーネルを削りたい。となると。
「リッタ、イーサさん、チャート、シュエルカ、ポリン、テルサー。『ミューティレイトアマランス』」
それともうひとつ。
「シローネ、ズィスラ、ヘリトゥラ、ニャルーヤ、シーシャ、ワルシャン。『ピオニーヘッドハンター』」
2つのパーティは『ルナティックグリーン』『ブラウンシュガー』『ブルーオーシャン』の混成だ。隊長をリッタとシローネに振って、それなりにバランスは取れてるはず。
両方とも名前はでっち上げだよ。戦闘中に色々考えておいたんだ。正直、赤系の色に適当な単語をくっつけただけ。
「そしてキューン、リィスタ、ジャリット、ワンニェ、それとターンとわたしで、『ブラッドヴァイオレット』!」
そしてメインはいつもの『ブラッドヴァイオレット』。現状、最強のメンバーだ。ターンのレベルが低いけど、積み重ねてきた基礎ステータスがそれを覆す。
「『ライブヴァーミリオン』と『万象』は、遊撃、かく乱をお願いします」
「了解です」
「わあったよ」
ごめんね。主敵を任せるのは、まだ足りないよ。
『ミューティレイトアマランス』と『ピオニーヘッドハンター』が左右から、カーネルオークに迫る。『ブラッドヴァイオレット』は正面からヘイト取りだ。
「あ」
『アマランス』と『ピオニー』がカーネルオークに攻撃を仕掛けた瞬間、ジェネラルオークが躓いた。足元のドロップに引っかかったんだ。つられてもう1体のジェネラルも一瞬たちどまる。それが致命傷だった。
「戦闘判定、確定しちゃった」
二つの青いバトルフィールドが形成された。6体のカーネルと1体のジェネラル。それが2組に。
「サワ、どうする?」
「どうするもなにも、リッタとシローネに任せよう」
「おう」
「お前ら、見てるだけでいいのかよ」
「隊長はリッタとシローネに任せてますし、いざとなったら『ラング=パシャ』もありますから」
「そりゃそうかもしれねえけどなあ。上から6人が抜けてるんだろ?」
「殿下、あんまり『訳あり』舐めてると、潰しますよ。その時々のレベルや相性はありますけど、ウチには強者しかいませんからね」
「だがなあ」
「見てればわかりますよ」
殿下としても心配してくれてるのかな。だけど、それは甘い。
「『BFS・INT』『EX・BFW・SOR』」
「あーあ」
テルサーとヘリトゥラが同時にバフを掛けた。レベルが3つ飛ぶ。要は、逃げる気などさらさら無しってことだ。
「『BFS・INT』」
さらに、テルサーはリッタにINTバフを掛ける。『訳あり』の誇る2大ウィザード、リッタとヘリトゥラのINTが爆上げした。
「『活性化』『北風と太陽』『マル=ティル=トウェリア』『ヤクト=ティル=トウェリア』『秘宝サンポ』。各自、自己バフ」
リッタが魔法を放ちながら、指示を出す。もう滅茶苦茶だ。
「『BFW・STR』『BFW・AGI』『BFW・DEX』」
ヘリトゥラがバフを上掛けする。『カスバド』の魔法は格下には滅法強いけど、この状況だとハマらない。なので力圧しする気だ。
「全員自己バフ。やるぞ」
シローネが端的に言い放った。
そこからは圧巻だった。リッタやヘリトゥラに合せて、ポリン、シーシャの魔法が撃ち込まれる。さらに全員が前衛ジョブスキルを叩き込んでいく。
時に殴り返されることもあるけど、みんながプリースト持ちだから、すぐに自己回復ができてしまうんだ。こういう時、力と速さがあっても状態異常無しの敵は怖くない。
「凄いですわ」
「そうだね。『訳あり』たちは凄いんだよ」
コーラリアが目を輝かせている。他の『ライブヴァーミリオン』も『万象』もそうだ。
「確かに今のレベルとジョブだと、彼女たちは2番手3番手です。だけど」
「ええ。あれが目指す場所なのね」
「違いますよ、クリュトーマさん。通過する目印です」
「そうね。ええ、そうなのね」
それと横に立ってるハイッソーとアッシャー、泣くなし。
◇◇◇
15分くらいで、オークのラスボスは消えていった。凄いぞみんな。
「さあ、後始末と39層の確認。『万象』は38層を警戒。わたしたちはいきます」
「もう勝手にしてくれや」
「一応50層まで確認してきます。3日くらいかかるでしょうから、地上に戻っててもいいですよ」
「そんなわけ、いくかよ」
で、実際に50層まで行ったけど、特に異常はなかった。『ライブヴァーミリオン』がビビってたけどね。
途中でちょこちょことジョブチェンジしながらだったから、やっぱり時間使っちゃったね。奇跡の大安売りだ。それでも約束してた3日後には、38層に戻ってこられたよ。
「あれ、殿下。待っていてくれたんですか?」
「いやあ、それがなあ」
38層にいた殿下が、すっごい微妙な顔をしてる。ああ、これは多分厄介事だ。
「陛下が登城せよと仰せだ」
さて、逃げる準備でもするかあ。
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