第173話 はいはい、謁見謁見





「面を上げよ」


 王陛下じゃなくって、横にいる宰相さんが言った。

 直答なんてとんでもないってことかな。


「直答を許す」


 あれま。周りの貴族たちがどよめいてるけど、いいの?


 状況をおさらいすると、わたしの左には、コーラリアとユッシャータがいる。

 後ろには、クリュトーマさんとケータラァさん。さらに後ろにクランメンバーが並んでるって感じだ。

 どうやらわたしはクランリーダーにして筆頭子爵だから、特別に前列らしい。コーラリアとユッシャータは王位継承権を持ってるから、公爵夫人のクリュトーマさんより格上だそうだ。貴族って面倒くさい。


「名を述べよ」


 王様は60歳くらいのおじいちゃんだった。髪は真っ白だけど、なんだかこう威厳はある。

 こういう人と相対するのは、わたしの人生で初めてだ。


「サワ・サクストル・ウィズ・サドゥルータ・サワノサキ=フェンベスタ・メルタ・メッセルキールと申します。陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう」


 昨日必死に暗記した。自分の名前を憶えるのに努力するとは、これ如何に。


「フェンベスタ卿、サシュテューン卿。相違無いな」


「はっ」


「間違いはございません」


 なんでヴィットヴェーンのお二人までがこの場にいるんだか。



 ◇◇◇



「そろそろヴィットヴェーンに戻ろうって決めてたんですよ」


「ほう?」


「ああもう。王様に呼び出される理由を教えてください」


「分かっているだろう」


「ゴブリン鎮圧はみんなの働きですし。『小規模な』オーク氾濫は、まあたまたまですね」


「お前たちが3日以上かけて殲滅した氾濫は、小規模だったのか。これは驚きだなあ」


「報告しやがったんですか」


「せざるを得んだろう、せざるをよ」


 この殿下、いつかぶっ潰す。



「で、謁見はいつです? 明日ですか? 出席者は?」


「7日後に全員だ」


「全員って、正気ですか?」


「知るか。陛下はキールランターを救った英雄たち全員をお望みだ。分かってるだろうが、やらかすなよ? 本気でやらかすなよ?」


 わたしは危険物だったのかあ。そうかあ。



 で、事前会議だ。


「両伯爵にはご足労を」


「やらかしてくれたな」


 しょっぱなからサシュテューン伯爵が飛ばしてる。


「ゴブリン氾濫の鎮圧に協力して、小規模なオーク氾濫を潰しただけです」


「報告とは随分違っている気がするが」


 なんでもゴブリン騒動の直後には、召喚がかかっていたらしい。本当にお疲れ様だ。

 追加して、オーク氾濫鎮圧がトドメになったらしい。できればハーティさんにも来てもらいたかったよ。


「それで目的が全然わかりません。なにがしたいんでしょう」


「単に褒賞の場とみないあたり、成長したかな」


 フェンベスタ伯爵が褒めてるんだか、貶してるんだかわからないことを言いだした。


「教えてもらえると助かります。どんな状況があり得ますか」


「まあ、無難に報奨金か勲章がありきたりだな」


「それなら、まあ」


「甘いな」


 サシュテューン伯爵ががっつりと釘を刺してきた。


「私なら、貴様が伯爵に陞爵されても驚かん」


「えええ!?」


「だがそれは無い。分権派が力を増すだけだ」


「それって、わたしを統合派に取り込むってことですか? それこそ」


「ああ、あり得ない」


 ちなみにサシュテューン伯爵はここにいないことになっている。

 ターンが誘拐して袋に詰め込んで天井から侵入した。今頃、伯爵家は大騒ぎだろう。


「統合派が無理となったなら、混乱の種を播くか」


 フェンベスタ伯爵の言うこともわかる。だけどどうやって。



 ◇◇◇



「サワよ。此度の働き真に見事であった。よって100万ゴルドの褒賞と、キールラント聖五芒勲章を贈るものとする。列席する冒険者には其方が差配するように」


 100万を渡すから、身内に金をばら撒いてそれで終わりってか。まあ、いいけどさ。

 ついでに言うと、第5王子、殿下、侯爵令息や騎士団、魔術師団の褒賞が事前にあって、最後にわたしたちって流れだ。

 大トリというか、一番功績が少ないくらいのニュアンスかな。


「さらにだ。サワの持つ『ウィズ』を『サイド』とすることで、此度の功績に応えたい」


 ざわめきが広がるけど、意味わからん。


「失礼ながら不明を恥じるばかりです。『サイド』とはどのような意味を持つのでしょうか」


「ふむ、平民上がりが知らぬのも無理はないな。『サイド』を持つ者は、王族の皆様以外からの命に対し、抗命権を行使できるのだ」


 なんか横から割り込んできた。ああ、ブルフファント侯爵ってのがアレか。


「なんという名誉。陛下の御心の深さに感動を覚えるばかりでございます」


「さしあたっては、ヴィットヴェーン探索最深層を更新せよ。ドロップした品はそうだな、10組を王家に献上すればよい」


 なんで侯爵が話を進めてるんだ。ああ、点数稼ぎか。それともそういう嫌われ係なのかな。


「じ、10組にございますか」


 ちらっと王陛下を見てみる。不動だ。表情も動いてない。出来レースか、忠誠を試されてるのか。


「なんだ。不服か?」


「い、いえ、努力いたしましょう」


「ならば良し。全力を尽くせ」


「ははっ!」


 まあいい。面白くはないけど、勝った。勝ちだ。最深層で敵を倒してドロップを10組を差し出せるなら、わたしたちにとって端数だ。2、3日使えば1000個流通させるのと同じことだからね。『訳あり』を甘くみたな。

 けど大丈夫、王都を経済崩壊させるつもりはないからさ。



「これにて謁見ならびに褒賞の儀を終了する。この後、サワ・サクストル・サイド・サドゥルータ・サワノサキ=フェンベスタ・メルタ・メッセルキールは陛下との直接面談を行うため、移動せよ」


 宰相が締めくくった。はいはい、ついていけばいいんでしょ。



 ◇◇◇



 ついたのは、応接室と会議室が混じったような部屋だった。豪勢なんだろうけど、わたしにはよくわからん。


「座って楽にせよ」


「はっ」


 王様にそう言われれば、席につかざるを得ない。王様がお誕生日席で、背後に宰相さんが立ってる。壁際には騎士団が10人くらいか。

 わたしたちは上座から順にコーラリア、ユッシャータ、わたし、クリュトーマさん、ケータラァさんだ。じゃあ、反対側は?


「紹介したい者がいるのでな。ここに来てもらった」


 あれ、王様の口調がちょっと砕けたかな。


「ヴィルターナ、カトランデ、入りなさい」


 屏風みたいのの後ろから現れたのは、二人の女の子だった。ゴージャスなドレスを着てる。絶対偉い。

 二人とも茶色の髪で緑の瞳、顔立ちはどことなく王様に似てる。歳はわたしと同じかちょっと下かな。王様に似てる!?


「自己紹介なさい」


「わたくしはヴィルターナ・スヴァステア・ランド・キールランティアと申します」


「わたくしはカトランデ・イルマタイル・ランド・キールランティアです」


 王様に促されて二人が名乗った。そう、わたしに向かってだ。残りのみなさんはお知り合いってことだね。そしてやっぱり王族だった。


「わたしはサワ・サクストル・サイド・サドゥルータ・サワノサキ=フェンベスタ・メルタ・メッセルキールと申します。よろしくお願い致します」


「わかると思うが、二人は余の孫だ」


 はいはい。わかりました。

 それで、冒険者の活躍話でも聞きたいってとこでしょ。


「わたくしたちのことは、ヴィルターナ、カトランデでお呼びください。サワさんとお呼びしても?」


「もちろんかまいません」


 ちらっと王様の方を見たら、苦い表情で頷いている。いいのか、これ。


「氾濫鎮圧でのご活躍をお聞きしたいのです」


 やっぱりか。



「というわけで、キールランターの騎士団、魔術師団、そして冒険者たち、特に『万象』と『ライブヴァーミリオン』の活躍により、ゴブリン氾濫は終息したのです」


 という、かなりマイルドにした内容を話してあげた。『ライブヴァーミリオン』の皆さんがすっごい微妙な顔をしてる。


「ではオーク氾濫については」


「陛下?」


 なんでヴィルターナはオーク氾濫まで知ってるんですかねえ。

 わたしが受けた褒賞は『ゴブリン氾濫鎮圧に対する協力』のはずなんだけど。


「むう。どこからか聞きつけたらしいな」


 王城の防諜はどうなってるんですか。


「わたくしは知っていますわ。真の功労者にして実力者は『訳あり令嬢たちの集い』。ヴィットヴェーン、いえ、キールラント最強のクランであることを」



 ◇◇◇



「わたくしたちも冒険者を目指していますの。ナイトのレベル22です」


「わたくしはウィザードでレベル21です」


「そ、それはご立派ですね」


 ヴィルターナとカトランデが自己申告してきた。あれ、コンプリートレベル?


「それでもサワさんたちに比べれば、ひな鳥のようなものですわ」


 そこで『ひな鳥』なんていう比喩が出てくるあたり、お姫様だなあ。


「そこでですね、わたくしたちもヴィットヴェーンに赴いて、学ばせていただきたいと考えておりますの」


「はい?」



 再び王様を見る。両手で顔を覆ってるよ。どういうことさ。


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