第174話 お姫さまたち





「儂から説明させてもらおう」


 顔を覆ったままの王様に代わって、宰相さんが説明を始めた。


「簡単なことだ。ヴィルターナ様とカトランデ様は、コーラリア嬢、ユッシャータ嬢と懇意であらせられる」


 ああ、そういうことね。


「わたしからも」


 今度はクリュトーマさんだ。


「コーラリアとユッシャータが自慢してしまったのよ。ヴィットヴェーンに行って強くなって、しかも『訳あり令嬢たちの集い』に入れてもらったって」


 なんてことを。ああ、だからコンプリートレベルなんだ。


「だけど、今回の氾濫については話していないわ」


「そうですか。確認になりますが、ヴィルターナ様とカトランデ様はヴィットヴェーンに赴き、迷宮に潜りたいと考えているということでしょうか」


「ええ、そうですわ。それと様付けは要りませんわ」


 ヴィルターナが当たり前のように言い放つ。


「王陛下のご許可は」


「お爺様、再度確認いたしますわ。わたくしとカトランデがヴィットヴェーンに向かう件、ご許可いただけますわよね」


「……許そう」


 どんな力関係だよ。それとわたしたちが連れてくのは確定なのかい。



 ◇◇◇



「同行するにあたり、ひとつ確認したいことが……、あったんです」


「あらなに?」


「姫さま方はエルフやドワーフ、セリアンをどう思っていますか?」


「可愛らしいわ」


 そう言うヴィルターナとカトランデの膝の上には、それぞれチャートとシローネが座って、頭を撫でられていた。ターン、キューン、ポリンが順番待ちをしてるし。

 もはや問うことすら馬鹿馬鹿しい。あと、お姫さまたちの口調が変わってる。


「それが素ですか」


「そうよ。わたくしのことはターナでいいわ」


「わたくしもランデでお願いね。サワも普通にして」


「かしこまりましたよ」


 人のことは言えないけど、とんだお転婆だ。


 二人に護衛はついてない。強いて言えば『ライブヴァーミリオン』になるかな。

 そうだよ、彼女たちもヴィットヴェーンに来ることになったんだ。あの感動的な別れはなんだったんだろう。



 5両の馬車がヴィットヴェーンに向かってる。

 フェンベスタ伯爵とサシュテューン伯爵で1両ずつ。残りはお姫さまたちと、その荷物だそうな。


「それで、どうしたいんですか」


「そうね、まず敬語は止めて」


「はいはい」


 ターナが言うならまあ仕方ない。


「そしてわたくしたちを鍛えてほしいの」


 ランデが追加というか、本命の話題を切り出した。


「それだけ?」


「……それとできればだけど、『ライブヴァーミリオン』は4人なんでしょう? 入れてもらいたいかなあ、って」


「かなり出遅れてるし、辛いわよ」


「やるわ」


「やる」


 ランデとターナが決意を込めた顔で決意を述べた。だけどまだチャートとシローネ撫でくりまわしているんだよねえ。実にウチ向きではある。



「サワ」


「なに、ターン」


「こいつら見所がある」


「そう……」


 羨ましそうにチャートやシローネを見ながら、ターンが言った。あのさあ。


「『訳あり』になるかどうかはどうとして、受け入れ自体、全員の賛同が必要だから、着いてから考えるわ」


「ええ、それで構わないわ」


「じゃあわたしは別件があるから、これで」


 わたしは馬車から飛び降りた。



 ◇◇◇



「何故私なのだ?」


「サシュテューン伯なら、王都の狙いを理解できるんじゃないかなあって思いまして」


 サシュテューン伯爵の馬車で、わたしはこっそりと会話をしてる。


「ヴィットヴェーンの分断だろう。あわよくば、私を統合派に引き入れようと考えているかもしれん」


「なるほど。わたしと伯爵の敵対状況に、火種を持ち込んだわけですね」


「そうなるな」


 分断工作かあ。


「それで伯爵はどうするおつもりですか」


「変わらんよ。すでに貴様から一撃を貰っているのだからな。これまで通り、穏便な敵対といったところだ」


「それなら助かります」


「貴様にそれを言われてもな」


 皮肉気に伯爵が苦笑した。程ほどなら見逃しますから、そこらへんの境界線はわきまえてますよね。


「フェンベスタには書状を送っておく。ヴィットヴェーンにはヴィットヴェーンのやり方がある」


「一応感謝しておきますよ」


「存分に感謝してくれ。貴様らのせいで、やり難いことこの上ない」



 とりあえずまとまった。ヴィットヴェーンに変わりは無し。ただお姫さまを二人引き受けただけだ。後は二人の性根次第かな。



 ◇◇◇



 3日後、わたしたちはヴィットヴェーンに戻ってきた。

 時間がもったいなかったので、ランデとターナを荷車に乗せて走ってきたんだ。結局あんまり意味なかったね、荷車。二人の荷物を載せた馬車は、後で来ることになった。


「やあやあおかえり。こっちは変わりなしだよ」


 クランハウスでオルネさんに出迎えられて、やっと帰ってきたんだって実感が湧いた。よく考えたら、こんなにヴィットヴェーンを離れたのって初めてだったんだよね。

 そっかあ、わたしの居場所はちゃんとあったんだ。テンションが上がってくるのも仕方ない。


「ランデ、ターナ。ようこそ『訳あり令嬢たちの集い』へ」


 なんてことも言っちゃうわけだ。

 クランハウスにいた『ホワイトテーブル』と『シルバーセクレタリー』を紹介して、あとは『クリムゾンティアーズ』の帰りを待つばかりだね。フラグじゃないよ。



「やあ、おかえり」


「こっちこそ、おかえりなさい」


 いいね、こんなやり取り。フラグに負けずに、普通に『クリムゾンティアーズ』が戻ってきた。


「ん、新顔かい? それに『ライブヴァーミリオン』もかい」


「またお世話になるわ、アンタンジュさん」


「そりゃ構わないけど、そっちのお二人は」


「ランデよ」


「ターナです」


 なんというか、重要な部分をすっぽかした自己紹介だ。


「ああ、またサワが拾ってきたのかい」


 犬猫じゃないんだからさあ。


「じゃあ今日は歓迎会ですわね!」


 フェンサーさんのテンションが上がった。まあいっか。



「明日からレベリングなのよね」


「そうだね。二人にはソルジャーになってもらうけど、いい?」


「もちろん。それが『訳あり』のやりかたなんでしょう」


 意気や良し、なんだけど、今回はちょっと変えてみる。


「ねえ、どうして二人は強くなりたいの?」


「確かに私は第1王子の娘よ。ターナは第3王子」


「生活は安泰でしょう」


「それよ。沢山の冒険譚を読んだわ。生まれ持った立場じゃなくって、自分の力で立場を奪っていったわ。サワ、それがあなたなの。わたくしたちはあなたになりたい」


「……いいわ。ただし音を上げたら王都に戻ってもらうからね」


「構わないわ。わたくしは負けない」


 自分でも意地悪だって思う。だけどこの子たちの覚悟を見極めてみたいって、そう思っちゃったんだ。



「ターン、わたしは一旦抜けるから、後を頼むね」


「おう、任せろ」


 背負子ハイパーレベリングはまだ無しだ。

 だったら当然、カエルだね。



 ◇◇◇



 ソルジャーになった二人を引き連れ、わたしは迷宮を進む。


「『ティル=トウェリア』」


 4層のゲートキーパーをあっさり倒してみせた。ここは大したことない、本命は5層だし。


「次こそ『訳あり』の強さの原点よ。覚悟はいい?」


「やるわ」


「ええ」


 ならば良し。


「カエル?」


「そうよ、ポイズントード。毒を吐いて、仲間を呼ぶわ」


「だったらすぐに全滅させれば」


「違うんだよね。最低2匹は残して。わたしが言うまで全滅は無し。それと、魔法は禁止よターナ」


「ええ?」


「相手の動きをよく見て、躱して、それから斬って。さあ、やるわよ」



「毒、毒をもらったわ!」


「『キュリウェス』。もっとちゃんと躱して」


「できればそうするわよ!」


「仲間を呼ぶ、毒を吐く、攻撃する。それだけの敵よ。挙動を読んで。『訳あり』たちなら誰でもできるよ」


「やるわ!」


 ランデが気丈に振る舞うけど、まだまだ怯えがある。ターナしてもそうだけど、こんなのを楽勝だと思わなきゃ、この後が続かないよ。

 こんなとこで脱落するなら、それまでだ。だけど乗り越えたら、最強への道が開かれるよ。さあ、どっちを選ぶのかな。



「この際だからはっきり言っておくよ。ランデ、ターナ。二人は一番つらいかもしれないけど、一番強い道を歩いてる。ついてこれたら最強だよ。わたしやターンを超えるかもしれないくらい」


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