第175話 新時代を超える冒険者





「ま、まだ続けるの」


「んっと4時間くらい経ったかな。あと2時間はやるよ」


「……やるわ」


 ターナが気丈に答えた。がんばれ、がんばれ。

 これやるの、数日だけだからさ。


「そう、それ。良く避けた」


「流石に慣れるわよ」


 ランデも動きが良くなってきてる。ステータスじゃない、プレイヤースキルだ。それが欲しかった。



「さて、終わり」


「ふうふう」


「はぁはぁ」


「どうだった」


「どうもこうも、疲れたわ」


「汚れも酷い」


 一応毒消しはしてるものの、毒液自体は纏わりついたままだ。久しぶりに『緑の悪魔』の登場だね。

 ちなみに二人のレベルは7。全然だけど、レベル以上の経験を積んだと考えてもらおう。


「さあ、明日はコンプリートよ」


「ほんとにできるの?」


「当然だよ、ランデ」



「どうでした?」


「酷い目にあったわ」


 クランハウスに戻ってお風呂に入ってから、夕食だ。

 ユッシャータがターナを気遣う。


「わたくしたちはカエルレベリングやっていませんから、ちょっとうらやましいです」


「サワ、どういうこと?」


「説明したでしょう。本当に強くなってほしいからよ」


「仕方ないわね」



 ◇◇◇



「大切な要素は、一度変更したジョブには戻れない、これよ」


 食堂では今、リッタ先生のシステム講座が行われてる。リッタがどれくらい理解できてるかっていう、お試しの意味もあるね。


「もう1年くらい前になるわね。それまでは自分の就ける最高のジョブをとって、それを上げ続ける。それが主流だったわ」


「別に否定したわけじゃないからね。わたしも最後はそうするつもりだから」


 一応補足はしておこう。


「そうね、その最後はいつになるやら」


 リッタがため息交じりだ。


「そこでテルサー、ジョブチェンジの良いところは?」


「はい。スキルが残るのと、補助ステータスの10分の1が基礎ステータスに足されることです」


「よくできました。特に重要なのはスキルの数はそのまま残るってこと」


 正確には10分の1の小数点以下切り捨て、だけどね。


「じゃあどうして、ジョブチェンジをするか。ウィスキィ」


 そういや、リッタって誰に対しても敬語使わないね。


「マルチロールと継戦能力、基礎ステータスね」


「その通り。前衛ができて、攻撃魔法が使えて、治癒ができて、宝箱を開けられる。そして長時間戦える、そんな冒険者になれるのよ。だけどそのためには短期間でレベルアップをしなきゃならない。そこでサワの登場ね」


「わたしはモンスターじゃないよ?」


「似たようなモノじゃない。サワはまずカエルレベリングを始めたわ。見た目は酷いけど、アレなら5日でマスターレベルに持ち込める」


「次はマーティーズゴーレムだったねえ。これはターンのお手柄だよ」


「むふん」


 ターンが腕を組んで鼻を鳴らす。


「次は9層で魔法連打。これはベルベスタね」


「まあねえ。あたしゃそればっかりだったからさあ」


 十分凄いんだけどね。


「これだけでマスターレベルなら2日になったわ。しかもこれの凄いところは、レベルの高いメンターと、本人の根性さえあれば誰でもできるってこと。カエルは嫌だけど」


 そう、まさにそれだ。気付きの問題。それといいじゃん、カエル。



「そこからはとんとん拍子よ。戦えるようになれば深く潜れる。レベリング効率が上がる。ジョブチェンジがしやすくなる。その究極が『背負子レベリング』ね」


『ライブヴァーミリオン』がすっごい微妙な顔をしてる。

 アレ、ほんとなんにもしないからねえ。


「ターラとランデも、明後日から背負子だからね」


「え?」


 だって、メイジのレベリングだもんよ。



「ここからはサワに任せるわ」


「はいはい。わたしたちは今、さらに高い次元を目指せる段階にきました。これまではコンプリートレベルがジョブチェンジのタイミングだった。だけど、もう違います」


 ただ上位ジョブを目指してマスターレベルでジョブチェンジをしていた時代。わたしが提唱したコンプリートレベルを経由してからのジョブチェンジ。それはそれでアリだけど、もう古い。


「わたしたちは69層に到達しました。55層で効率的なレベリングもできます。つまり」


 そしてさらに、それを超えた基礎ステータスを重視したジョブチェンジ。それがこれからの冒険者だ。


「特別な理由がない限り、基本ジョブはレベル40、上位ジョブはレベル50から60をジョブチェンジの目安にします」


 上位ジョブに高いレベルを要求する理由はちゃんとある。上位ジョブは経験値が重たい代わりにステータスの伸びがいいんだよね。

 たとえばソルジャーなら0から12、ファイターで13、ソードマスターで14って感じに、合計ステータスの期待値が大きくなるんだ。

 そしてそれは当然基礎ステータスに跳ね返ってくる。高レベルであればあるほど。


「ジョブによって差はありますけど、上位ジョブほどステータス上昇率は上がります。二度と同じジョブに就けない以上、効率的に高レベルを狙える境界線が、今のところはこの辺りってコトですね」


「半年後には、レベル100でジョブチェンジ、なあんて言ってそうだねえ」


 アンタンジュさんの混ぜっ返しに、周りが笑う。そして多分みんなも気付いてるんだろうね。それは冗談じゃないかもって。



「それが、わたくしとランデに言った、サワより強くなれるっていう意味なのね」


「そうよ。だけどターナ、抜かせないからね」


「どうしてよ。わたくしは頑張るわ」


 ターナが頬を膨らませた。

 抜けないんだよねえ、正確には抜かせない。だってわたしの目標は最強だからね。わたしを抜かすのは多分、ターンだけだよ。いや、とっくに抜かされてるかあ。



 ◇◇◇



「さあ、走る走る。走れば基礎VITとかSTRが上がる時あるから、とにかく走る」


「わかってるわ」


 ターナが文句を言いながらもついてくる。さて今日はマーティーズゴーレムから9層だ。


「どっかん」


 スキルもなにもあったもんじゃない。こん棒一発でマーティーズゴーレムが砕け散った。ちなみにわたしは今、ベルセルクだね。


「ターンはソルジャー時代にスキルを組み合わせて、一人で倒したよ」


「可愛いのに怖いわ」


 うん、可愛いのは同意だ。あと怖くない。格好良いんだよ、ターンはね。


「次は9層で燃やすから、ランデも参加ね」


「わかったわ!」


 嬉しそうでなにより。



「『ダ=リィハ』」


「『ダ=ルマート』」


 わたしとランデの攻撃魔法が炸裂する。うんうん、魔法が弱点の敵が大量っていうのは最高だ。


「マスターレベルになったわ」


 ターナが嬉しそうだ。わたしはひとつも上がってないけどね。


「じゃあ、もうちょっと燃やしたら次いこうか」


「次はどうするの?」


「ん、35層」


「えっ?」



 ◇◇◇



「本当にこれるものなのね」


「階層のマップと敵の特徴を全部頭に入れておけばね」


「なるほど、知識も強さなのね」


「ランデ、大正解。モンスターを理解してるだけで倍は強くなれるって、わたしは思ってる」


「じゃあ、36層は危ないってこと?」


「そうそう、ボーパルバニーが出るからね。最初に到達した時は大変だったよ」


 ダグランさんが死にかけたんだっけ。



「よう。新入りさんかい?」


「噂をすればダグランさんじゃないですか」


「俺の噂って、怖えなあ」


 35層で狩りをしてたら『暗闇の閃光』に会った。ガルヴィさんやケインドさんもいる。


「今日は35層ですか」


「ああ、ダグランがロード=ヴァイになったもんだからよ」


 ケインドさんが苦笑いしながら教えてくれた。


「へえ、やるじゃないですか」



「サワ、そちらの方々は。特にお二人方のワッペンはまさか」


「こちらは『世の漆黒』のトップパーティ『暗闇の閃光』よ。カエルワッペンを付けてるのはダグランさんとガルヴィさん。名誉『訳あり』よ。サワノサキの領民だから仲良くね」


「そう、わたくしはターナよ」


「わたくしはランデ」


「わたくしときたかあ。またお貴族様かい」


 王族だよ。そのうち不敬罪でとっ捕まるぞ。


「迷宮で貴賎なしよ」


 ランデが言い放った。うん、いいねえ。


「そりゃありがてえ、また迷宮で会ったらよろしくな」


「ええ、こちらこそ」


 これがダグランさんとターナの出会いであった。別にその後、なにも無いけどさ。



「さてじゃあ、コンプリートしよっか。二人はスキル解禁。ただしわたしが指示した時だけね」


「わかったわ」


 そうやって、35層を駆け巡る。


「サワがなんでもできるのは知っているけど、ジョブは幾つ目なの?」


 ふと、ランデが聞いてきた。


「えっと、34ジョブかな」


「34っ! それ、全部コンプリートしているの?」


「うん。だけどレベル50超えたのは、ええっと、11個だね」


 ケンゴー、ヒキタ、ハイニンジャ、ホーリーナイト、ロード=ヴァイ、エルダーウィザード、オーバーエンチャンター、カダ、シュゲンジャ、ホワイトロード、ツカハラ。うん、間違いない。


「なるほど、これは追いつくのは大変ね」


「期待してるよ」



 その日、二人はソルジャーをコンプリートした。


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