第176話 朱色のワッペン





「ごめんなさい。言っていなかったことがあるの」


 ターナとランデがソルジャーをコンプリートした翌日、二人はメイジもコンプリートした。ただし背負子レベリングだ。わたしとニャルーヤで運んだ。

 なんかニャルーヤって目上にも格上にも物怖じしないんだよね。助かる存在だ。ガーディアンも持ってるし、固めのビルドをしてるのもいいよね。


「なんとなく想像できるけど、どうぞ」


「お爺様を説得する時に、ヴィットヴェーンの、特に『訳あり』の秘密を探るって」


「うん、凄くよくわかった」


 こっちは殿下や『ライブヴァーミリオン』に、なんにも隠していない。むしろ手札は全部見せた。

 だけど信じられなかったんだろうね。自分らで検証すればいいのに。


「謝らなくっていいよ。逆にさ、強くなって王様を見返してあげて」


「不敬よ」


「あれ? ターナとランデは『訳あり』を探るより、自分たちが強くなりたいってみえるんだけど」


「……まいった。お見通しね」


「いやいや、わたしじゃないのよ。ターンたちが心配してないからね。それに『ライブヴァーミリオン』もなにも言わないし」


「クリュトーマさんたちには話してないわ。無関係よ」


『ライブヴァーミリオン』が知っていた? あり得ない。


「あったり前でしょ。知ってたら、黙ってるわけない」


「信用してるのね」


「信頼してるの。仲間だから」


「羨ましい」


 大丈夫、もうわたしにとって、ターナもランデも仲間だから。ただ、私は単純だから他の人たち次第なんだけどね。



「こう言ってはなんだけど、裏があるかもしれないわよ」


「『訳あり』には裏が無いから、意味ないよ」


「そう」


 強いていえばサシュテューン伯爵との繋がりくらいだけど、あれも力で押さえつけてるだけだしねえ。


「まあまあこんな話はおいといて、明日からはウォリアーだからね。力と速さが両立するから40までは持っていくわよ」


「やるわっ」


 素直でよろしい。



 ◇◇◇



「今日はぼくだ」


「チャート、よろしく頼むわ」


「まかせろ」


 ランデに頭を撫でられて、シッポブンブンのチャートである。ターナとランデについては、なるべく色んな人たちと組み合わせて、交流してもらおうって考えたんだ。

 ちなみにチャートはレベル43のロード=ヴァイだ。レベル50以上が9ジョブなんだよね。かなり強いよ。



「『マル=ティル=トウェリア』『活性化』『ハイニンポー:4分身』『バーサーク』」


 ああ、もうチャートがノリノリだ。ボーパルバニーを焼き払って、ロックリザードを叩きのめしてる。この階層だと、普通に4人分の働きしてるね。


「なにあれ」


「あれが強さよ」


 わたしに担がれてるターナが呆れてる。まあ、気持ちはわかるよ。


「見とれてないで、学んでね」


「わかっているわ」


 ターナとランデの二人には、ジョブ毎のスキルとその効果を教え込んでる。あとは実際にそれを見て、反映するんだ。

 とはいっても、基礎ステータスが違いすぎるんだけどね。


「さて、ゲートキーパー部屋だよ。相手はジャイアントヘルビートル」


 38層なんだよね。ここ。


「魔法無効で物理軽減だったかしら」


「よくできました」


「子供扱いしないで」


「はいはい。でもねえ。チャートには意味ないかも」



「『切れぬモノ無し』『剣豪ザン』」


「おわりね」


「なんなの、アレ」


「チャートだけど」


「強すぎるでしょ。それと、ランデが目を回してるわ」


 ありゃまあ、背負子を交代しようか。



 ◇◇◇



 さて本日の目的階層、44層だ。ここで徹底的にレベリングする。


「ターナ、ランデ。攻撃系スキルを全部使い切っちゃって。後はわたしたちがどうとでもするから」


「わ、わかったわ」


「やるわ」


 返事はいいけど、腰が引けてるねえ。

 この階層はオーガやトロルが山ほど出る。ジャイアント系列だね。オークの氾濫よりもちょっとデカブツだよ。だけど動きは遅い。ちゃんと対応できるからさ。


「レベル30あるんでしょ。殴られても死なないから、存分にやって」


「酷いわ。ぶへああ」


 ああ、よそ見するから。


「『ラ=オディス』。ほら立って。殴り返しなさい」


「酷すぎる」


「ランデさあ。そう言う暇があったら、魔法撃って、スキルで殴って」


「わかってるわよぉ」



「スキル使い切った?」


「ふう、はぁ、そうね」


「じゃあ寝て」


「寝るって」


「いいから寝て、スキル回復させてね。『ノティカ』。おやすみ」


 ランデとターナを強制的に寝かせて、わたしとチャートは敵に立ち向かう。


「チャートと二人って初めてかもね。やるよ」


「おう!」



「起きた?」


「んんっ」


 チャートがペチペチとターナの頬を叩いた。


「シャキッとして。レベルは?」


「……36!?」


 うんうん、睡眠レベリングも悪くないね。


「じゃあもうちょっとだね。目標レベル40以上。スキルを使い切ったら地上に戻るからね」


「え、ええ、わかったわ」


 ところで、そこでもう一人、ランデがまだ寝てるんだけど。ターナ、起こしてね。



「『活性化』『渾身』『踏み込み』『貫通』『3連撃』。やったわ」


「いいねえターナ」


 ターナが一人でトロルを倒した。スキルは好きなだけ使っていいって言ってあるから、もうやりたい放題だ。

 それがいい。スキルをどんどん使って、身体に覚え込ませるんだよ。


「慣れてきたわ」


「パワーウォリアーは上位互換だから、明日からも似た感じでいけるよ」


「うん!」


 ターナとランデのレベルは41になっている。わたしとチャートがサポートすれば、もう44層で戦いを任せることだってできそうだ。

 ここまではキャリーに頼ってたから、戦えていること自体、嬉しそうだ。うんうん。


 その日の最後に、ゲートキーパー部屋でオーガロードをぶちのめして、レベリングは終了だ。



 ◇◇◇



「ウォリアーのスキルもいいわね」


「ウォリアーとカラテカは活性化系スキルがいいからね」


「マルチジョブの良さがわかってきたわ」


 その日の夕食、二人は大はしゃぎだ。特に前衛にシフトしたランデがもうね。

 最終的にレベル43だ。明日からはパワーウォリアーね。



「今日もやるわ」


「わたくしもよ」


「まだ基礎ステータスが低いから、44層までは背負子よ」


「はーい」


 ランデの口調がだんだんくだけてきてる。こっちが素なのかな。

 今日の相方はテルサーだ。ガーディアンのレベル32だよ。ステータスなら45相当くらいかな。


「よろしくお願いします」


 テルサーは相変わらず丁寧だねえ。


「こちらこそ」


「よろしくねー」


 うん、やっぱり口調が違ってきてる。


「パワーウォリアーは1日だとキツいかもね」


「やれるだけやってみせるわ!」



 ◇◇◇



 それから大体1か月、二人は頑張った。パートナーも入れ換えつつ、食事やお風呂を共にして、クランのみんなと少しずつ仲良くなっていく。

 冒険者をやってる以上、強くなれれば嬉しいし、できることが増えればもっと嬉しい。ウェルカムだよ二人とも。


 ターナはパワーウォリアー、カラテカ、シーフ、プリースト、エンチャンター、ウィザード、ハイウィザードを経由して、今はグラップラーだ。パワーウォリアー、シーフ、ハイウィザードはレベル50台までもってった。

 ランデはパワーウォリアー、カラテカ、シーフ、プリースト、エンチャンター、ハイウィザード、グラップラーときてビショップだね。ウィザードは最初にコンプしてあるから、こんな感じになる。


 もう背負子は使ってない。自分でエンチャントして、自己バフかけて、魔法を撃ちこんで、攻撃して、回復してる。つまりは立派な『訳あり令嬢』だ。



 それからも研鑽は続き、さらに2週間。

 そしてその日がやってきた。


「これをやる」


「おれからもだ」


 ターンとシローネが、朱色の家を模したワッペンと、訳あり令嬢のワッペンを渡した。

 すでに彼女たちはキングトロルとジャイアントヘルビートルの革鎧、レッサーデーモンとジャイアントフロッグのマントは渡してある。だけどその両肩に、ワッペンはついていなかったんだ。


「ありが、とう」


「大事にするわー」


 ターナはボロボロと涙をこぼし、ランデは輝く笑顔をみせた。



 今日、『訳あり令嬢たちの集い』7番隊。『ライブヴァーミリオン』に2名が加わり、フルパーティになったんだ。


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