第177話 再び深層へ





 王都に行ったり、ターナとランデのレベリングをしたりと2か月ちょっと。『訳あり』たちは整えていた。

 何を? そりゃ69層をぶち抜く準備だ。冒険者は諦めない。


「申し訳ないけど『ライブヴァーミリオン』は55層まで」


「仕方ないわね」


 部隊長たるクリュトーマさんが了解してくれた。

 今のまま60層以降に突撃したら、レベル吸われまくりだから。ダメ、絶対。ターナとランデも不服そうな顔しない。新世代レベリングっていったって、今でも一番弱いのは貴女たちなんだよ。



 問題は深層アタックを掛ける4パーティだ。

 一度は断念して、ジョブチェンジとレベリングを重ねてきた彼女たちは、わたしの想像を超えた。


「あの、ここまでやったんですか」


「ああ、負けたくないからねえ。80層は無理かもしれないけど、69層のクソッタレだけはブチのめすのさ」


 アンタンジュさんが息まいたけど、彼女たちは本気だった。どれくらい本気かっていえばだ。

 アンタンジュさん、ホワイトロードのレベル53、ウィスキィさんはウラプリーストのレベル55、ジェッタさんはホーリーナイトのレベル44、フェンサーさんがシュゲンジャのレベル55、ポロッコさん、ホワイトロードの53、そしてドールアッシャさんはウラプリーストで54だ。


「全員ヴァンパイア特化じゃないですか」


「ああ、調整したからねえ」


 全員レベルドレインを食らわない、聖属性ジョブで固めてある。

 しかも手抜きなんてしてない。経由したジョブで、自分たちの弱点をキチンと補ってる。もう言うことないよ。



 他の3パーティもすっごい育ってる。全員がレベル50台でジョブチェンジして、基礎ステータスを上げてるんだ。55層のジャイアントフロッグレベリングが効いてるね。

 そんなメンバーの中には、初登場のジョブを持ってる子もいる。


 まずはワルシャンの『ラマ』。シュゲンジャとウラプリーストと並ぶ、モンクの上位ジョブだ。近距離のシュゲンジャ、中距離のウラプリーストと比べると『ラマ』はマントラっていう魔法みたいな攻撃が得意だ。


 次にシーシャの『ユーグ』。ナイト系上位ジョブだね。新しいモノ好きの彼女らしい。集団戦闘を得意としてて、エンチャンターみたいな集団バフを得意にするジョブだよ。


 そしてワンニェの『スクネ』。グラップラーの上位、つまり近接ジョブだ。組技からの蹴りを得意にしてる。近づいたらヤバいってことだね。


 さらにはイーサさんの『レ・ロイ』。ツカハラ、スヴィプダグに並ぶ、剣士系上位ジョブだ。

 精霊剣タンキエムを使うと、湖すら作るっていう、よくわかんないジョブだったりする。


「新しいことに挑んでこそ冒険者よ」


 リッタはそう言うけど、6人中4人が新ジョブって酷すぎない?


「可能性よ」


 はいはい。



 ◇◇◇



『ブラウンシュガー』は実に無難なジョブ選択と、レベリングをしてきた。シュエルカ以外はホワイトロードとホーリーナイトっていう、対ヴァンパイアジョブだ。

 そんな中でシュエルカの選んだジョブは『ヒキタ』だ。ああ、ついにわたしにも後輩ができた。めっちゃ嬉しい。セリアンズが面白くなさそうだけど、滅茶苦茶愛でた。

 無口なシュエルカの口元がちょっと上がった気がする。一緒に強くなろうね。


 最後に『ルナティックグリーン』だ。わたしはターナとランデのレベリングでちょっと出遅れたけど、その隙を突いたかのように彼女たちも強くなった。


「やっぱりターンだね」


「ん。『グラディエーター』も強いぞ」


 ということで、ターンはパワーウォリアーの上位ジョブ、グラディエーターになっていた。いや、ホントわたしが知らないうちになってたんだよね。

 まあ、近接戦闘が十八番のターンなら使いこなすんだろう。


「まったくもう」


「むふん」


 なんでそんな誇らしげなのさ。


「ターンは負けない」


「そうだね」


 そうなんだよね。ターンは誰にも負けたくないんだ。その原動力はどこからきてるんだか。



「じゃあ、これから69層のヴァンパイアロードをぶっちめますか」


「おう!」


 なんと今回はサーシェスタさん、ウラプリーストレベル63。ベルベスタさん、ラドカーン、レベル54。そしてハーティさん、コウガニンジャ、レベル46に加えて、『シルバーセクレタリー』からピンヘリア、ポナチーワ、メンヘイラまでもが出撃することになった。

 基本は『ライブヴァーミリオン』の護衛だけど、これはもう『訳あり令嬢たちの集い』の全力出撃みたいなもんだ。



「サワ、なんか盛り上げて」


 ウィスキィさんの無茶振りだ。


「えっと、結論から言えば楽勝です。負ける要素がありません。なので、安全にいって、暴れまわって70層がどんなところか見てきましょう」


「おおう!」



 ◇◇◇



「じゃあ、あたしらはここまでだね」


 サーシェスタさんを始め、居残り組は55層でお別れだ。十分に露払いをやってくれたおかげで、突撃組のスキル消費は少ない。


「とはいえ、65層あたりで一泊かな」


 4パーティ合同だから、迷宮宿泊も楽になる。3時間ローテで2パーティずつかな。


「じゃあまず59層、エルダー・リッチね」


 リッタも気合入ってるねえ。



「『マル=ティル=トウェリア』」


「『バドヴ』」


 ゾンビは魔法で、ゼ=ノゥを打撃で倒していく。もはやゼ=ノゥの触手をもらうメンバーはいない。躱し、捌き、時に斬る。

 最初に出会った時、全力攻撃したのが懐かしいくらいだよ。今なら軽いスキルでも倒せてしまう。


「ついた」


 シローネがぼそりと呟いた。ゲートキーパー部屋だ。


「待ってろエルダー・リッチ」


 ズィスラが気合を入れる。入れるのはいいんだけど。


「どのパーティからいきます?」


「わたくしたちからいくわ!」


 おお、リッタも気合が入ってるね。新ジョブの力を見せつけたいのかな。


「じゃあ1番手は『ブルーオーシャン』からで」



「『BFS・INT』『BFW・SOR』『BFW・MAG』」


 開幕はエンチャントからだった。打撃、魔法両方にバフが掛かる。


「『BFS・INT』」


 さらにリッタのINTを大幅に上げる。


「『北風と太陽』」


 リッタの魔法が、相手に継続ダメージを入れる。


「『グヒヤサマージャ』」


 ワルシャンのタントラが、モンスターにデバフ効果をもたらした。

 この2発だけで、ゾンビがバタバタと倒れてく。すげえ。


「『ホアンキエム』」


 イーサさんが地面に精霊剣タンキエムを突き立てると、一面に湖が展開された。ゾンビが全て沈む。

 さすがにエルダー・リッチは耐えたかな。



「『アビラウンケン・ソワカ』」


 ニャルーヤの独鈷杵が飛び、エルダー・リッチは『ショートテレポート』でそれを躱した。

 だけどその先にいたのはワンニェだ。


「『角力』!」


 ワンニェの蹴りがエルダー・リッチの『ノーライフ』を突き破って、膝を砕く。そのままローブを引っ掴んで、地面に叩きつけた。ナイス神代相撲。


「『ベルナルドゥス』!」


 フィニッシュはシーシャの一撃だ。横たわったエルダー・リッチに大剣が振り下ろされて、そのまま奴は消えていった。



 ◇◇◇



 いやあ、強い。広域バフに拘束系デバフ、重たい一撃。それを組み合わせた必勝パターンだ。


「てかさ。今のでヴァンパイアロード倒せない?」


「そうね、自己バフをもうちょっと盛ったらいけると思う」


 頼もしい。そして恐ろしい。

 なにせ『北風と太陽』はアンデッド特効だ。多分65層以降で一番強いのは、こりゃ『ブルーオーシャン』だよ。


「全員聖属性の『クリムゾンティアーズ』もイケそうですね」


「重たい一撃がいるなあ」


「またまたアンタンジュさん。『ファイナルホワイトアタック』があるじゃないですか」


「あれはスキル名がねえ。この歳になるとちょっとなあ」


 やめてあげて。イーサさんの目が死んでるから。



 全員が60層に降りたち、戦闘を開始した。

 ジャイアントマミー、アナコンダ、ユニコーン、サーベルタイガー、ダ・ゼ=ノゥなんかが出てくる。だけど敵じゃない。もう、わたしたちにとってのそれらは、単なる素材か宝箱担当でしかない。 アイテム置いてけー。特にダ・ゼ=ノゥ。


「やった!」


 おお、ポリンが喜んでる。なにが出たのかな?


「『シャドウ・ザ・グリーン』」


「そ、そう良かったね」


 ああ、年少組がジャンケン始めたよ。



 賑やかにやりながら63層のゲートキーパー、ブラックマミーとジャイアントマミーをブっちめて、わたしたちは69層を目指す。


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