第70話 ズィスラとヘリトゥラ





「来たわよ!」


「し、失礼、します」


 わたしとターン、そしてリッタとイーサさんが居るのは育成施設の施設長室だ。施設長のマーサさんも一緒だよ。結構ふくよかな感じのおばさんで、貴族っぽくないんだよねえ。


 そこに入ってきたのが、わたしが目を付けた二人、ズィスラとヘリトゥラだ。二人とも14歳で、ズィスラは茶に近い金髪に気合の入った青目、背はわたしよりちょっと高い。ヘリトゥラは茶色の瞳に濃い茶色の髪を伸ばした大人しそうな女の子だ。背丈はわたしと同じくらいかな。

 ふたりとも、まだまだ痩せ気味だね。


「二人ともいらっしゃい」


 マーサさんが優しく声を掛ける。ああ、この人の声は安心する。この施設のお母さんって感じで、こっちまで嬉しくなるなあ。


「用事はなに!」


「ず、ズィスラ」


 強気なズィスラに弱気なヘリトゥラってか。


 リッタは微妙な顔をしている。大丈夫、キャラは被っていないから。それとイーサさん、顔が歪んでいますよ。こんなのと一緒のパーティにリッタを置いておけるかって、表情に長文書いてあるし。

 それに比べてターンの平静なことよ。ブレないねえ。



「こちらの皆さんは、クラン『訳あり令嬢たちの集い』の2番隊『ルナティックグリーン』よ」


「知ってるわ!」


「は、はい。知ってます」


「なら話は」


「入ってあげるわ!」


「ちょ、ちょっと、ズィスラ」


 いやあ、本当に話が早い。というか、早すぎでしょ。


「まあ、そうなんだけどね。わたしたちは二人を勧誘しに来たの」


「だから入るわ!」


 さて、その心はどうなんだろう。



「サワさんごめんなさいね。ズィスラは気が早くって」


「い、いえ」


「この子は早く一人前になって、ここを出たいと考えているみたいなの」


 マーサさんはそんなことを言うけど、もしかしてこの人、この施設全員の考えを把握してる? 特徴的な子だけかな。


「どうしてここを出たいの? ここにいれば食事だって」


「わたしは自分の力で生きるの!」


 またクイ気味に来た。イーサさんの眉間が酷いことになってる。


「なあ。ターンはサワに助けてもらったぞ」


「それが何よ!?」


「ズィスラは助けてほしいのか?」


「……」


 ターンの正論攻撃だ。普段寡黙なだけにおっかない。別にターンは怒ってるんじゃない。ただ疑問なんだろうね。

 自分の力で生きるためには、誰かの助けが要るって、ターンはそれをよく知っているんだから。


「わ、わたしは、助けてほしいです。必ず、強くなって、恩返し、しますから」


「ヘリトゥラ!」


「ズィスラ、みなさんはわたしたちを、助けてくれるって、そう言ってくれてるんだと、思うよ」


 なんだ、良いコンビじゃない。

 二人の過去に何があったかは知らない。知ったところで何にもできないし。

 だけどさ、今ここからなら助けられるし、わたしは彼女たちの力が欲しい。


「ねえ、ヘリトゥラ、ズィスラ。わたしたちはあなた方を助けて、そして恩を返してほしい。五分五分のやり取りだね。それじゃダメかな」


「哀れ」


「哀れみじゃないよ。わたしはあなたたちの才能をかってるの。力が欲しいの」


 ズィスラが黙った。なら畳みかける。


「ちょっと事情があって『ルナティックグリーン』が4人になっちゃったんだよ。それで、二人追加して、稼げるパーティを作りたいんだよね。それで一番見込みがありそうなのが、ズィスラとヘリトゥラだったってわけ。それ以上でもそれ以下でもないよ」


 これは掛け値なしの本音だ。

 わたしみたいなのが腹芸を使ったところでバレるだろうし、多分この娘たちには正直に言った方が良い、と思う。


「二人が強くなってくれたら、ウチのクランも儲かる。二人もお腹いっぱい食べられる」


「お腹じゃないわ! でも、入る。お願い、入れて」


「お願い、します」


 凄く微妙な感じだけど、二人の勧誘は成功した。



 ◇◇◇



「ヘリトゥラもズィスラも良い子なんです。ただ、親が居なかったからなんでしょうね、自分の力でなんとかしないとって、そう思っているみたいで」


 マーサさんのフォローだけど、もう大丈夫。宣言したからには仲間だ。わたしたちは、『訳あり令嬢たちの集い』は、仲間を見捨てない。

 二人の態度を見たリッタもイーサさんも、今では納得の表情だ。



「じゃあ、二人とも『ルナティックグリーン』ということね。一応知っているけど、ステータス見せてもらえるかな」


 ==================

  JOB:NULL

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :8


  VIT:12

  STR:8

  AGI:10

  DEX:9

  INT:7

  WIS:9

  MIN:17

  LEA:17

 ==================


 ズィスラのステータスを改めて見て思う。14歳にしては弱い。



 ==================

  JOB:NULL

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :7


  VIT:11

  STR:7

  AGI:10

  DEX:10

  INT:8

  WIS:8

  MIN:15

  LEA:18

 ==================


 それはヘリトゥラも一緒だ。とにかく弱い。これまでの過酷な生活が想像できちゃうくらいだ。


 だけどね、誰だって最初は弱いんだ。

 それに二人はそれぞれLEAが17と18っていう、ターンに迫る才能がある。これが強みだ。

 だからまず、二人のやることは。



「たくさん食べて、運動して、勉強して、よく寝ること」


「なんでよ!」


「基礎ステータスが足りてないから。大丈夫、安心して。二人に掛かった経費はハーティさんが全部教えてくれるから。これは貸しよ」


「10倍にして返すわ!!」


 残念、ひと月も経てば100倍返しくらいできるようになるから。



 ズィスラとヘリトゥラを『訳あり令嬢たちの集い』に紹介した。『ブラウンシュガー』が微妙な感じだったけど、年長組は穏やかなものだったよ。分かってるね。


 クランハウスの一室に二人を宛がって、運動と勉強を言いつけた。そこらへんは『ホワイトテーブル』が面倒を見てくれるはずだ。


 今、わたしたち『ルナティックグリーン』は、リッタとイーサさんのレベル上げだ。なんせレベル0だからね。


「リッタとイーサさんは、彼女たちのこと、どう思います?」


「わたくしは、真っすぐだと思ったわ」


「……もう少し言動をどうにかしてもらえると、助かります」


「『ルナティックグリーン』に入れるっていうのは?」


「賛成!」


「反対はしません」


「ターンは賛成するぞ」


 良かった、今の段階で明確に反対されなくって。後は二人次第かな。



「じゃあ、今日はリッタとイーサさんのレベルを上げるのと、プレイヤースキル、実戦経験を積みましょう。わたしとターンは基本、後衛で行きますよ」


「分かったわ!」


 やっぱり微妙にキャラが被るなあ。


 最初は9層でレベルアップだ。ターンが適当に敵を焼き尽くして、零れたのをリッタとイーサさんに任せた。


「えいっ!」


「はあっ!」


 リッタはどうとして、イーサさんは素手での戦いだ。色々大変だろうけど、意気込みでなんとかしてください。怪我は直ぐに治すからね。


 9層でレベル9、21層でマスターレベルが目標だ。今回は4人だから経験値配分も高いし、ガンガン行こうぜ。



 ◇◇◇



 3日後、31層でリッタはナイトを、イーサさんはカラテカをコンプした。恐ろしい速さだ。

 だけどちょっと心配もあるんだよね。こうもジョブチェンジが早いと、ジョブごとの立ち回りが疎かになりそうでさ。

 今後はその辺りも考慮しないとなあ。



「STRが10になったわ!」


「わ、わたしも、です」


 クランハウスに戻ったわたしたちを、ズィスラとヘリトゥラが待っていた。たった3日だよ。流石にこうも早いと思っていなかった。やるじゃん。

 よく食べて、よく動くの方針は間違っていなかった。逆に彼女たちのこれまでの境遇を想像してしまう。



「それでサワ、わたしたちはどうすればいいの!?」


「じょ、ジョブは何を」


「じゃあ、ふたりはまずソルジャーからね」



 意外と素直だね。リッタとハーティさんもジョブチェンジだし、明日から、新生『ルナティックグリーン』の出撃だ!


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