第71話 このノリに慣れるんだ





 さて、ここでわたしたちの装備を紹介しておこう。


 まず全員が、革鎧を着用している。

 しかもそれは『上質なレッサーデーモンの革鎧』だったりするのだ。基本はレッサーデーモンの皮を使っていて、さらに要所はスライム緩衝材を使った3重構造だったりする。

 足元と腕は、ブラックウルフの毛皮に鉄板を被せた手甲とブーツだ。特徴的なところとしては、首元にレッサーデーモンとボーパルバニーの皮を被せたマフラーを全員が装着していることだね。


 たまたま『ルナティックグリーン』全員が前衛ジョブに就いているから、こういう統一装備になっているんだ。くすんだレンガ色の革鎧と、両手両脚が黒、そして首元に白いマフラーだ。


 武器としては、わたしは愛用のサモナーデーモンソード。早くカタナが欲しい。ターンはニンジャ刀、イーサさんはアイアンナックルを使っている。

 残りの3人は全員『切り裂きの剣』。すなわち、バスタードソード+2相当だね。盾もしっかり装備だ。はっきり言って、新人冒険者には過ぎた装備だったりする。


 装備で安全が買えるなら、何の問題も無いさ。今度お値段をズィスラに教えてあげよう。そうしよう。



「さあ、改めて自己紹介。わたしはサワ。今はケンゴーのレベル33」


「ターン。ハイニンジャをやっている。レベル25」


「リッタよ! シーフレベル0ね。だけどウィザードをコンプリートしているわ!」


「イーサです。グラップラーのレベル0です」


「ズィスラ。ソルジャーよ!」


「ヘリトゥラ、です。ソルジャーです」


 これが今の『ルナティックグリーン』だ。


 初出のジョブ、グラップラーだけど、カラテカの派生だ。流石に組み技は使わないけど、投げ技、関節技と、相手を『止める』スキルが豊富な、所謂素手タンクって感じのジョブだね。

 イーサさんはとことん守ることに特化していくつもりらしい。


「じゃあ行くわ。ズィスラとヘリトゥラはとにかく見て。冒険者っていうのがどういう戦い方をするのか、目に焼き付けて」


「分かってるわ!」


「はい」



 ◇◇◇



 まずは4層のゲートキーパーだ。


「『ダ=リィハ』!」


 開幕リッタの中規模炎魔法からの、わたしとターンの強襲だ。それで終わり。


「見えた?」


「全然、見えませんでした」


「……」


 ズィスラはとても悔しそうだ。それでいいんだよ。


 さて、これでレベル3。次は当然、カエルだね。



 わたしも色々反省したんだ。実戦経験も無しにレベルだけを上げても仕方がない。二人にはじっくりと見てもらって、そして戦ってもらう。

 ここは小説によくあるVRMMOじゃない。『コマンド形式のレトロゲー』を継承しているんだ。だから、わたしはあまり深く考えていなかった。レベル上げは簡単だけど、簡単にプレイヤースキルは身に付かない。

 いや、自分自身は戦いたくて、気が付いたら実戦経験豊富になっていたんだけどね。


 ホントそう考えると、『ブラウンシュガー』はよく付いてきてくれたと思うよ。


「『BFW・SOR』『BF・AGI』『BF・AGI』。とりあえず反射速度を上げたから、今回もよく見ていてね」


「わ、分かってるわよ!」


「は、はい」


「『DBW・SOR』。さあ、カエル狩りの時間だよ!」



 5時間くらい後、一旦戦闘を切った。4人をレベルアップさせて、動きを良くしよう。


「ねえ、なんなの? なんなのこれ!?」


「慣れて」


 リッタがズィスラの肩に手を置いて、切実な表情で諭した。別に普通じゃん。


「慣れろ」


 ターンも真似をしてヘリトゥラの肩に手を乗せた。ちょっと背伸びしてるよ。


 はいはい、戦闘再開。今度はわたしとターン以外に戦ってもらうからね。



「くぅっ!」


「『キュリウェス』。ヘリトゥラ、毒貰いすぎだよ。避けて避けて」


「ヘリトゥラのせいじゃないわ!」


 ズィスラの抗議が聞こえるけど、知らないね。事実は事実だ。


「相手にデバフかけて、こちはバフってるんだよ。避けて斬る、それだけ。スキルも使っていいからね」


「簡単にっ!」


「カエルの動きは三つだけ。仲間を呼ぶか、毒唾を吐くか、飛びかかってくるか。全部に予備動作があるから、ちゃんと見て!」


 毎回毒唾攻撃を無視するわたしの言葉は、果たして正しいのだろうか。いや正しいに決まってる。


「どんなモンスターも全部同じだよ。予兆を見れば行動が見える!」


 うん。今日はずっとカエルにしよう。ここで対応できないなら、マーティーズゴーレムなんて見る意味が無い。ゆっくりで良いんだ。しっかりと強くなってほしい。だから。


「かえーるー、かーえーる! 経験値のかえるー!」


「何よそれ!?」


「カエルの歌だよ。さあ、みんなも」


「かーえる、かえーる、経験値~」


 ターンが全然違うフレーズで歌い出した。


「か、かえるー、経験持ってこいかえるー」


 リッタが。


「かえる、かえる、かえるー」


 イーサさんも歌い出した。


「なんなのよアンタがた! おかしいわよ」


「か、かえる、かえるー、経験値はかえる」


「なんでヘリトゥラまで歌ってるのよお!!」



 ◇◇◇



 結局この日は4人がレベル8とレベル6で終わった。

 派生ジョブだけあって、グラップラーの上りは遅い。


「あうう、頭の中でカエルカエルって声が聞こえるわ」


「明日もカエル狩りだよ」


 ゴツンとズィスラがテーブルに頭を叩きつけた。マナー悪いよ。


「……同情できないことも無い」


 ジェッタさん!? 普段無口なのに、ここでそういうこと言うの?


「だが、カエル肉も美味いぞ」


 そうなんだ。今日はカエル肉が沢山だったので、唐揚げが食卓に山盛りなのだ。

 そして地味に、ジェッタさんの好物でもある。妙な所でキャラ立てしなくても。


「それにしても、サワにしてはゆっくりなレベル上げですわ」


 今度はフェンサーさんだ。


「今回は、実力を伴ったレベル上げをしようと思っているんですよ」


「むむっ」


 チャートとシローネ、それに『ブラウンシュガー』の4人が、頬を膨らませてる。いや、そうじゃないんだよ。


「申し訳ないけど『ブラウンシュガー』は19層で頑張ったじゃない。実戦経験十分でしょっ?」


「むむう」


 勘弁してよ、シュエルカ。


「そうすると、実戦経験をおざなりにして、無理やりレベルを上げたのは私だけですね」


「ハーティさん、ホントごめんなさい。謝りますから、なんならいくらでも実戦に付き合いますから」


「ふふっ、冗談ですよ。ズィスラさん、ヘリトゥラさん。サワさんは本気ですよ。本気であなたたちを強くしようとしているんです」


「の、望むところだわ!」


「ありがとう、ございます」



 ◇◇◇



「かえるー、れべるー、かえるー、経験値~」


 翌日、あんまりバラバラだとやりにくいということで、カエルの歌が統一された。作詞ターン、作曲はリッタだ。流石は貴族。


 今日はもう、わたしとターン、イーサさんは後ろで見ているだけだ。たまに解毒と回復をするくらいで、攻撃魔法も禁止。とにかく斬りまくれぃ。


 4時間ほどでレベル10になったので、9層へ移動した。流石にここでは攻撃魔法を使うけど、手加減して、ちょろちょろと零れてくるモンスターを剣で斬る。イーサさんは補助スキルで援護の練習だ。わたしとターンは見物だよ。たまにターンが補助的に魔法を使うくらいだ。



 3人がマスターレベルになった所で、満を持して22層だ。イーサさんはレベル11だけどね。

 最近ここと21層は上級冒険者の人気スポットになっている。ちょっと前までだと18層とかだったけど、2回の騒動を経験して全体がレベルアップしたのと、マルチジョブがある程度動き始めた影響らしい。


 ここは、総合力が問われる階層だ。逆にパーティの構成と連携さえキッチリしていたら、アベレージレベルが15くらいあれば十分戦える。


「さてターン、やっと出番だね」


「おうよ!」


 イーサさんとリッタのコンビは問題ない。なので、わたしとターンはズィスラとヘリトゥラのサポートに回る。わたしはバフとデバフ、ターンは攻撃魔法って感じだ。


「あっ、フライングラビット!」


 リッタがレアモンスターを見つけた。おお、レアだねえ。



 レア? あれ、何かおかしくないか? 31層のクリスタルツリー、ラージロックリザード。最近ここでフライングラビットが何回も出てなかったか? たしか『暗闇の閃光』も『ラビットフット』も。……まさか、まさかまさか。


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