第156話 今の彼女たち





「よいしょー」


「おうりゃ」


 後方にいたニャルーヤとワンニェが手にした盾で、4体のゼ=ノゥから繰り出された触手を受け止めた。

 戦闘判定が『ブルーオーシャン』に入る。


「『マル=ティル=トウェリア』」


「『BFW・AGI』『BFW・STR』」


 リッタの攻撃魔法とシーシャの広範囲エンチャントが飛ぶ。

 表面を焼き焦がされながらも、それでもゼ=ノゥの前進は止まらない。


「はっ!」


「とりゃぁ」


 イーサさんとワルシャンの斬撃がそれぞれ2体ずつ、ゼ=ノゥを叩き切った。スキルすら使っていない。

 片やレベル78のホーリーナイト、もう片方はレベル63のロード=ヴァイだ。弱ったゼ=ノゥなど相手にもならない。


「パーティで必死に撃退してたのが懐かしい」


「本当ねえ」


 わたしの呟きをウィスキィさんが拾ってくれた。感慨深いねえ。

 それにしてもナイト系上位ジョブが4人いる『ブルーオーシャン』は硬い。魔法攻撃力はリッタとシーシャが稼いでくれるし、うん、強いね。



「むむっ」


「むむむっ」


 わたしの目線で何かを察したのか、チャートとシローネが気合を入れた。対抗心メラメラって感じだ。


「チャート」


「おう」


 シローネがチャートに指示、と言うか意思を飛ばした。『ブラウンシュガー』が動き出す。

 チャートの先導で右の角に入った瞬間、戦闘が始まった。なんも無理に戦わなくても。


「サワ、こいつなんだ?」


「戦闘前に聞いてよ。ファイアジャイアントとキメラ。ブレスと毒に気を付けて」


「分かった」


 シローネはそう言うけど、ほんとに分かってるのかなあ。


「『ラン・タ=オディス』『ディバ・ト=デイアルト』」


 ナイチンゲールとカダのダブルジョブを持ってるテルサーが、事前回復系魔法を掛ける。HP自動回復と、状態異常回復だ。これで『ブラウンシュガー』は、わたしほどじゃないけど即死しなければ問題ない状態になった。


「『マル=ティル=ルマルティア』『ヤクト=ノル=リィハ』」


 リィスタの氷結魔法がファイアジャイアントに、単体攻撃魔法がキメラに飛ぶ。レベル77のエルダーウィザードが、INTを最大限に活かした攻撃だ。


『コオォォォ』


 それでもなんとかファイヤジャイアントが炎のブラスを吐き出した。しかも後衛を狙ってやがる。


「『ワイドガード』」


 だけど残念、そこにジャリットが割り込んだ。ガーディアンは守り抜く。ましてや彼女のレベルは79だ。10日かけて1上がるかどうかのレベルを、ここまで積み上げてきたんだ。


「『メングラッド』」


 直後、シュエルカの剣がファイアジャイアントを切り裂いた。半精霊属性などモノともしない圧倒的斬撃スキルが敵を粉砕する。それがシュエルカ。レベル77の上級剣士、スヴィプダグだ。


 リィスタの魔法で動きの落ちたキメラは、チャートとシローネに切り刻まれていた。

 サムライとホワイトロードがスキルを乗せて攻撃する。たまに毒攻撃を貰うけど、自動回復がコンディションを元に戻した。すっげえ。


「むふん」


「むふふん」


 敵が消え去った後には、腕を組んで自慢気な6人がいた。

 これこそが『ルナティックグリーン』と『クリムゾンティアーズ』の良いとこ取りって言うか、中間的ジョブチェンジをしてきた『ブラウンシュガー』だ。『訳あり』のエースは伊達じゃない。



 ◇◇◇



 そしてわたしたちこと『ルナティックグリーン』なんだけど、こっちはやたら泥臭い。


「『ラン・タ=オディス』『ディバ・ト=デイアルト』」


 わたしの常時回復と事前回復は飛んでるけど、WISが足りないせいで回復量が足りてない。でも全員プリーストを経由してるから、随時それを補ってる感じだ。


「流石にレベル差は大きい、ねっ」


 確かにわたしたちは基礎ステータスが高いし、スキルも多彩だ。その分、補助ステータスが足りてない。

 かろうじて、ターンとヘリトゥラが頑張ってくれてる。


「いいみんな、後ろで見てるだけなんてダサいことしちゃダメだよ」


「おう!」


 ヘリトゥラ以外は現役前衛ジョブなんだ。後ろでピヨってる場合じゃない。

 たった2体のキメラにこのザマだよ。1体をターンとヘリトゥラに任せて、残り4人総がかりなのにさ。レベル差が20以上ってのは、流石にねえ。


「ぐはっ」


 ガーディアンのズィスラが弾き飛ばされた。盾スキルを使ってもか。


「キューン、かく乱。ポリンは攻撃。わたしもやるよお」



 何度も飛ばされて、怪我して、それでも高いHPがあるからやってられる。痛いモノは痛いけど、これを乗り越えればレベルアップできると思えば耐えられる。でもみんなはどうなんだろう。


「負けない!」


 ズィスラが再び盾をもって突撃した。ああ、あの子も強い。


「うりやぁ!」


 ヴァンパイアボーンを持ったポリンが、敵を殴りつける。


「『ハイニンポー:変幻自在』」


 4人に分身したキューンが斬撃の雨を降らせてる。

 ズィスラだけじゃなかった。キューンもポリンも強い。わたしも負けてらんないねえ。


「『アイ・ヴァンホー』!」


 わたしが突っかける。ロード=ヴァイのスキル、ただ、愚直な刺突だ。突き刺され。

 その一撃でキメラは消えていった。ほぼ同時に、ターンとヘリトゥラも敵を倒した。つまりはわたしたちの勝利ってことだ。



「っしゃあ!」


 わたしたちを銀の光が包み込んだ。来た来たレベルアップだ。しかもわたしなんて二つも上がったぞ。アガるわあ。


「あはっ、あははははっ、レベル、レベルきたあぁぁ!」


 しかもプレイヤースキルまでゲットだ。コレで盛り上がらなくってどうする。やっぱり格上倒してレベルアップって最高じゃん!


「サワは相変わらずねえ」


 ウィスキィさんが何かボヤいてるけど知ったことじゃない。


「やったね。ポリン、キューン、ズィスラ、ヘリトゥラ、ターン」


「当たり前よ!」


 ズィスラが不敵に笑う。ああ、この子たちもわたしと一緒。『ルナティックグリーン』だ。


「盛り上がってるとこ悪いけど、あんたたち、しばらくここでレベリングね」


 アンタンジュさん、そりゃないよ。



 ◇◇◇



『ブラウンシュガー』と『ブルーオーシャン』はマッピングに走った。わたしたちは『クリムゾンティアーズ』監視の下でレベリングだ。どうしてこうなった。


「ほれほれ、せめてレベル40半ばまでは持ってくよ」


 スパルタ教官、アンタンジュさんが怖い。連戦にならないように周辺警戒してくれてるのは、助かるけどさ。



「『マル=ティル=トウェリア』」


 全員が一斉にハイウィザード最強魔法を叩き込む。相手はフロストジャイアントが3体だ。火炎系は当然効くだろう。


「1体抜けた」


「なぬ?」


 ターンが鼻を鳴らして警告した。これでもまだ生きてるのかい。


「キューン、やるぞ」


「分かった」


 あれ、わたしをほったらかしにして分かり合ってるんだけど。

 次の瞬間には、ターンとキューンが敵の首筋にクナイを突き立てていた。


「やった」


「うん、やった」


 やったが『殺った』に聞こえるのは気のせいなのかな。バイオレンスだね。

 こうやって魔法攻撃ができるから耐えられてる部分が多い。もちろんこれこそマルチジョブの恩恵だ。INTの絡みで本職には敵わないけどね。


「よしっ、どんどん行こう」



「マッピングしてきたわ」


「お疲れリッタ」


「それで、怪しい場所があるの」


 リッタが見せてくれた地図にはいかにもなヌケがあった。一辺8ブロックで正方形か。確かに。

 迷宮は100層を越えない限り、その層で完結する。一旦下層に行ってから戻るとか、そういう場所は無いんだ。


「テレポーターは無かったわ」


「そう。ただの壁かそれとも隠し部屋か」


 もし隠し部屋なら美味しい。大抵何かしらがあるからだ。


「じっくり探すしかないね」


 ここにいる18人、全員がシーフスキルを使える、だったら良かったんだけど、実は17人なんだよね。ジャリットだけシーフを経由してない。


「……ごめん」


 ああ、落ち込んでる。


「気にするな」


「そうだよ、この中で一番レベル高いんだから。胸を張って」


「……うん」


 シローネとわたしが励ます。ジャリットはガーディアンのレベル79。氾濫があったからとは言え、最高到達54層でよくも上げたもんだ。

 名実共に『ブラウンシュガー』の盾なんだよね。


「……100層到達したら、シーフにジョブチェンジする」


「そ、それも良いかもね。ちゃんとパーティで話し合ってね」


 大丈夫だろうか。



「あの、これでしょうかぁ」


「あ、確かに何かある」


 見つけたのはなんとワルシャンだった。見つけるならセリアン組だと決めてかかってたよ。

 そして、ある。見た目は只の壁なんだけど、触ったら木の感触なんだ。隠し扉だ。


「行くしかないね」



 さて、問題は誰が行くかだけど。


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