第155話 クリムゾンティアーズ





「『セーフリームニル』」


 ポリンがヴァンパイアボーンを押し出すように突撃する。その一撃で、キングトロルが沈んだ。

 たまにはターン以外がラストアタック獲ってもいいじゃない。


「49層クリアだね」


「おう」


『ルナティックグリーン』が拳をぶつけ合う。予定どおり、レベル35くらいだね。ターンとヘリトゥラはもっと上だけど、この辺りならまだまだ稼げる。

 レベリングと調整ってことで、他の3パーティも揃ってる。みんなの装備は、チャートが死霊のオオダチくらいで、他はクナイ系、キングトロルの大剣、ヴァンパイアボーンかヴァンパイアメイスだね。100層を目指すなら、装備も更新していきたい。


「欲しいのはカタナかシュリケンくらいだね。良い装備が出たら嬉しいけど」


 キングトロルの皮を収納しながら宝箱を見つめてみた。想いよ届け。


「『正義の剣』」


「嬉しいけどさあ」


 今のところ、チャート以外はジョブチェンジの予定無しだ。よっぽどの理由があれば別だけどね。なので保留。クランハウスにでも飾っておこう。

 シーシャの一件以来、アイテムの個人所有は一旦無しになった。武器庫みたいな感じで共同管理してるよ。共同管理って言うとなんか全部クランのモノみたいに聞こえるけど、一応仕事ごとに個人にはお金が払われてる。面白いのはレベリングもお仕事って扱いなんだ。良いクランだね。


 話はちょっと変わるけど、育成施設の買い出しは子供たちの担当だ。ちょっと多めにお金を渡して、ちゃんとお釣りを持って帰ってきてくれるか、数字っていうのは生きていないと意味ないからね。

 わたしが言うなって話だけどさ。そういうちょっとしたことで、INTがポコンと上がる時もあるのがヴィットヴェーンだ。



「さあ、どんどんやるわ!」


 わたしの思考をぶった切るように、ズィスラが指示出ししてくれた。

 そうだよね。やることは決まってる。


「本番に向けてレベリングを頑張ろう」



 ◇◇◇



「どうしよう」


 今、わたしたちは悩んでいる。

 カタナがドロップしちゃったんだよね。他にも『大魔導師の杖』とか『一之タチ』。『正義の剣』も出ちゃったし、これならチャートにケンゴーになってもらうと同時に、他の人がジョブチェンジするってのがアリになってくるよ。


「それを言い始めたらキリがないさぁ」


「ベルベスタさん」


「とりあえず今のままで行っといで。70層辺りでレベリングできる体制を作ればいいんじゃないかい?」


 確かに。確かにその通りなんだけど、目の前のエサが。


「『クリムゾンティアーズ』はジョブ数も少ないですし、今回の探索に見通しがついたら、ジョブチェンジもアリですね」


 そうだ、他の人に譲れば良い。今のところは、だけどね。

 その点『クリムゾンティアーズ』は一点豪華主義になってるから丁度いい。別に生贄とかそういうんじゃないよ。強くなるためのステップなんだから。


「そうだねえ。あたしたちもそろそろ、次の段階かな」


 苦笑いしながらアンタンジュさんが答えてくれた。


「じゃあ戻ってきたらジョブチェンジだ。その前に、深層を拝見と行こうか」


 いや、ホント助かる。



 予定から2日遅れて、ついに深層アタックが始まった。

 インベントリにはモンスター肉が満載されて、背嚢には調理器具や水筒なんかをぶら下げている。長時間迷宮に籠る時に使われる、一般的な冒険者装備だ。


「あれ。これって知識チート使えない?」


「どうした」


「うーん、もっと効率的な装備ってないかなあって」


「そうか」


 ターンはいつでもクールだね。


 うむむむ。なんか思いつかないかなあ。ランドセルは出てきたけど、普通に背嚢があるし。

 荷車、一輪車。迷宮でそんなの使ったら、速攻で壊れる気がする。そう言えば背負子はわたしの発明だった。


「サワ、集中しなさい!」


 ズィスラがお怒りだ。ごめんね。

 50層ともなれば、おちゃらけていられる場所じゃない。真面目にやらないと。気合を入れ直そう。



 ◇◇◇



「アイアンゴーレム……」


 55層にゲートキーパーが居た。ロックゴーレムを8体も引き連れてるし。


「どっちかって言うと氷系です。後は物理で圧し通る」


 最初に挑戦したのは『クリムゾンティアーズ』だ。純粋にレベルが高いパーティがゴーレム共に襲い掛かった。あれ、表現が逆かな。


「『マル=ティル=ルマルティア』ですわ」


 先手はフェンサーさんの極大氷魔法だ。ゴーレム共の脚が止まる。


「『BFW・SOR』『BF・AGI』『BF・STR』。ドールアッシャ!」


「はいっ」


 ウィスキィさんのバフがドールアッシャさんに降りかかり、そして一歩を踏み込んだ。右フックが繰り出される。


「おうらあぁぁ!」


 ドールアッシャさん渾身の三毛猫耳パンチだ。

 近接戦闘上位ジョブ、ヴァハグンの打撃、しかもレベルは68。この階層だと完全なオーバーレベルだ。食らって消えろ。


 どんっ、て凄い音がしてロックゴーレムの腹が消えた。本当に消えた。どうやったんだ。

 猫パンチ恐るべし。


「おおお、『強化』『活性化』『克己』『狂化』」


 アンタンジュさんが自己バフを掛けまくってる。


「『バーサーク・ムーヴメント』!」


 繰り出したヴァンパイアボーンが、砕けるんじゃないかってくらいに勢いよく、アイアンゴーレムに叩き込まれた。すっごい。べっこり凹んだぞ。


「『五畿七道』」


 ウィスキィさんの斬撃がラストアタックになった。もちろんジェッタさんやポロッコさんも、ロックゴーレムを倒してる。

 強い。ジョブ数は少ないかもしれないけど、レベルを上げて補正ステータスで殴ればここまで行けるんだ。



「やりましたね!」


 バトルフィールドが解除されて、みんなが駆け寄った。

 本気で驚いた。強いとは思ってたけど、55層のゲートキーパーを完封できるなんて。


「今のターンたちより強い」


「ターンは嬉しいこと言ってくれるねえ」


 まったく、これだから一点レベル主義は怖いんだ。

 お手本にしよう。レベルを上げてぶん殴るを実践してくれた先輩たちなんだ。わたしたちもできるようになろう。


「サワさん、これはどうでしょう?」


 宝箱をからアイテムを取り出したポロッコさんが聞いてきた。


「あ、いいですねえ。『黒鉄の脚甲』ですよ。ドールアッシャさんにピッタリです」


 ふむふむ、13個くらいのジョブを積み重ねて、上位ジョブ持ち。その上でアベレージレベルが60台となると、ここまでの力を見せつけることができるんだ。

 これぞわたしたちの誇る1番隊、『クリムゾンティアーズ』だ。



 ◇◇◇



「ふひー、ヤバかったあ」


 案の定、一番苦戦したのは『ルナティックグリーン』だった。アベレージレベルがねえ。

 それでもターンの『イガニンポー』で拘束して、ヘリトゥラの魔法があったから、被弾は最小限にできた。まあこれからこれから。


「『黒鉄』系の武器が結構出たね」


 ジョブチェンジ系で壊れないアイテムは結構強い。強いんだけど結構止まりだ。

 ああ、1回ジョブチェンジに使ったら、その機能は失われるよ。使い回しできたら大変なことになる。


「片手剣系なら『黒鉄の長剣』とかの方が強いですね」


 というわけで盾持ちのジョブ、ガーディアンなんかは装備変更だ。

 ついこの間まで最強格だった武器が更新されていくのって、ちょっと寂しいけど、同時にこれぞって感じだよね。大好き。



「昇降機は後回しにして、マッピングと56層ですね」


「わかってるよ」


 アンタンジュさんが了解してくれたように、昇降機で一気に下層とはいかない。

 各階層のマッピングは大切だし、少しずつ変わっていくモンスターに慣れておく必要がある。


「昇降機が一気に59層とかだった大変ですしね」


「エルダー・リッチかい。今ならどうだと思う?」


「『ルナティックグリーン』以外なら勝てますよ」


「おやまあ」


 ヤツの『ノーライフ』を突き抜ける攻撃を出せばいいだけだ。『ショートテレポーション』にしても、速度で潰せる。うん、勝てるね。

 こう考えると強くなったもんだ。



「サワ、後ろから変なのがきたよー」


 後方警戒をしてたニャルーヤが言った。


「変なの?」


「うん、何かズリズリーって」


「ああ」


 そっかニャルーヤってあの時、まだいなかったんだっけ。


「久しぶりですわ」


 フェンサーさんが高らかに笑った。うん、久しぶりだね。丁度良いよ。



「ゼ=ノゥです。さあ、みなさんやりますよ!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る