第154話 強さを重ねて
「よしっ。コンプリートよ!」
嬉しそうな声でズィスラが言った。
授与式と宴会から4日で、ズィスラの準備が整った。次はガーディアンだね。
宴会は楽しかったよ。わたしが入っていったら全員が膝を突いたんで、二度とするなってお説教になったけどさ。
ヴィットヴェーン中の冒険者が集まったんじゃないかってくらい、沢山の人が来てくれた。嬉しかったなあ。それともお酒のダシにされただけかな。
ポリンは昨日のうちにロードになった。だけどアイテムはまだ出てない。どうしたもんか。ロードのままでも十分強いからねえ。
「ターン!」
「シローネ」
44層の階段を降りたところで『ブラウンシュガー』『ブルーオーシャン』と落ち合った。今日はどうだったのかな?
「シュリケンと麻沸散が出た」
むむっ、シュリケンは育成施設に回すとして、カダかあ。なんかしっくり来ないなあ。
「あの、わたくしでも良いですか」
「シーシャ」
リッタがあきれ顔をしてる。そうだよね、シーシャってもうアイテムジョブ3つ目なんだ。でもまあ、他に使いそうなメンバーもいないかな。
「いいんじゃない」
「サワさん、ありがとうございます」
「それは戻って、みんなに報告してからね」
「はい!」
◇◇◇
「やあ、待っていたよ」
「げっ」
「げって、失礼ね!」
戻ったわたしたちを応接で迎えたのは、ジュエルトリアとアリシャーヤだった。
「宴会以来ですね」
「そうだね」
さっさとリッタが去っていくのを目の端に捉え、わたしは部屋に入った。ハーティさんが場を繋いでくれてたみたいだ。
「ご用件は」
「借りを返しておこうと思ってね」
「借り?」
「見てくれれば分かるよ」
そう言ってジュエルトリアとアリシャーヤがそれぞれ、インベントリから何かを取り出した。それをテーブルに置く。
「『黒の聖剣』『ギュルヴィたぶらかし』……」
「本当は格好を付けて『フルンティング』といきたかったんだが、これしか出なくてね」
「どういうことです?」
「なあに、俺とアリシャーヤのジョブチェンジアイテムを、お返ししようってワケさ」
やっとこ話が見えてきた。彼らのクラン『高貴なる者たち』設立の時に、イェールグートを押し付けたっけ。その時に渡したのが『ギュルヴィたぶらかし』『フルンティング』だ。
なんで今更。
「これでも君たちには感謝しているんだよ。強くしてくれたし、クランハウスも融通してくれた。これくらいのお返しは構わないだろう」
「けれど」
「聞いてるよ。探しているんだろう?」
「ぐぬぬ」
「裏は無いよ。クランハウス建設費用もしっかりと返す。そうだね、子爵就任祝いとでも思って、受け取ってくれればいい」
「横のアリシャーヤは納得していないようですけど」
「なによっ! あげるって言ってるから、いいじゃない」
よくもまあ子爵様にそこまで言えるもんだ。だけど、結構楽しいな。
「分かりました。喜んで受け取ります。なんならジョブチェンジ見ますか?」
「そこまでは言わないさ。俺たちはまだ最強を諦めていない。だからこそ、君たちには最強でいてもらいたいのさ」
「格好良いことを言って、追いつけなくなっても知りませんよ」
「ははっ、それでこそだ」
ほほう、なってやろうじゃないか。届かない最強に、いつまでも追い続けられるような存在にさ。
◇◇◇
「じゃあ、サワがロード=ヴァイ、ズィスラがガーディアン、ポリンがエインヘリヤルで、シーシャがカダだね」
その日の夜の打ち合わせで、アンタンジュさんが簡単にまとめてくれた。
「チャートはどうするんだい?」
「カタナが出るまでサムライをやる」
「そうかい。それにしてもあの貴族の坊や、中々粋なことをするじゃないか」
食堂に笑いが起きる。結構認めてるんだよね、みんな。
『高貴なる者たち』はわたしたちがパワーレベリングしたせいもあって、人数こそ少ないけど、アベレージレベルとスキル数なら、ヴィットヴェーンナンバー2だ。実戦経験が足りてないけど、それもこないだの氾濫騒動で、随分経験を稼いだはず。強くなって当然か。
「サワ、仕上がるまでどれくらい?」
「そうですね、10日もあれば」
ウィスキィさんが聞いてきたので、そう返した。下層目的ならそれくらいでイケるだろう。
「そう、わたしたちも調整しておかないとね。ハーティ、後は頼めるかしら」
「お任せください」
「あの、ウィスキィさん、それはどういう」
「あたしたちも潜るんだよ」
「アンタンジュさん」
『クリムゾンティアーズ』はジョブ遍歴こそ少ないけど、レベルは凄い。当たり前に全員が60以上だ。
「100は無理でも80層くらいは行けるさ」
「『ブラウンシュガー』も行く」
シローネも宣言した。
「当然『ブルーオーシャン』もね」
リッタも。
まったくこの人たちは。楽しくなってきたじゃないか。
「ほれ、クランリーダー?」
サーシェスタさんが促してきた。
「『ホワイトテーブル』と『シルバーセクレタリー』はどうするんです?」
「こっちは待機だねえ」
「皆様の帰りをお待ちしています」
と来たもんだ。まあそうなるか。
「あれ? もしかしたら初めてかもしれませんね。4パーティ合同の深層探索」
「あたしたちは、子供の面倒見てたからねえ」
確かにアンタンジュさんの言う通りだ。こないだの氾濫でレベルが一気に上がったってことだね。
当然『高貴なる者たち』もそうだし、ヴィットヴェーンの冒険者たちもそうだ。
「燃えてきました」
「サワ、やるぞ」
「うん、ターン。やるよ」
わたしは拳を固める。
「『第1回訳あり深層探索』を行います。初回の目標は70層。出発は10日後です。期間は5日間を見込みましょう。10日分を目途に各自、装備と携行品の支度を」
「おう!」
◇◇◇
「むふんむふーん」
「ご機嫌だね、ターン」
「みんなで一緒に潜るぞ」
まるで遠足前日みたいだ。まあ、気持ちは分かる。わたしもワクワクしてるしね。
あれから6日、わたしたちは深層アタックへの準備の真っ最中だ。
わたしはロード=ヴァイ、レベル25。ターン、コウガニンジャ、レベル38。ズィスラ、ガーディアン、レベル24。ヘリトゥラ、カスバド、レベル47。キューン、ハイニンジャ、レベル28。ポリン、エインヘリヤル、レベル26だ。
6日かけた割にはレベル低いんだけどね。その分35層で慣らしは十分なんだ。残り4日で一気に稼ぐ。
「盾の使い方もしっくりくるわ」
ズィスラが元気に報告する。
「身体が動く」
キューンもニンジャの動きに慣れてきたみたいだ。
「やれる」
そしてポリンが『ヴァンパイアメイス』を構える。
わたしはホーリーナイトが長かったから、ロード=ヴァイに合わせるのは問題ない。右手に持つのは、ヴァンパイアプリンセスから出た『鮮血のサーベル』だ。
ターンもそうだ。ニンジャの動きはお手の物。
ウィザード系一本のヘリトゥラも同じく行ける。彼女の背中には『ガーヴ・オブ・ヴァンパイア』が翻っている。
「じゃああと4日、行ってみようか」
4日で49層まで行く。それがわたしたちの目標だ。レベルは35を超えるだろう。できれば40くらいにしておきたいな。それくらいしないと、みんなと深層探索なんてできやしない。
「『ルート・フィアンナ』」
ヘリトゥラが使う『カスバド』の魔法は一風変わってる。石の兵士を生み出し、戦わせるっていう感じだ。囮に使ったり、ドレイン対策に丁度いい。強さはINT依存なので、レベルが上がればどんどん強くなるぞ。
「『バドヴ』」
これまたカスバドの魔法だ。死の風が吹き荒れ、一定確率で敵を即死させる。レベルとINT依存なので、格下で魔法抵抗の無い敵には滅法強い。
もう、なんかこうヘリトゥラ無双だね。
「『シュライヒ』」
わたしも負けてはいられない。鮮血のサーベルに黒を纏わせて、敵を切り裂く。闇属性攻撃だ。天使系モンスターに特効があるけど、こんな階層には出てこない。練習、練習。
今のわたしは、ホーリーナイトの聖属性と、ロード=ヴァイの闇属性攻撃を使い分けることができる。白と黒が交わり、最強ってわけだ。ぐふふ、格好良いぞ。
「サワ、変な顔をしてるぞ」
ターンのツッコミが冴えるね。
こうしてわたしたちは49層を目指した。
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