第5話 そいつは未来の大当たり





 良い笑顔で親指を突き上げている受付嬢さん。どうしたもんだ、これは。


「ああ、ええっと、褒めてくれてるんでしょうか? どうにもこう、晒し者にされている感じが強いんですけど」


「まさか、本当に気合が入った良い叫びでしたよ」


 それは本当に褒めているのか? まあいい。本題は、わたしの初期ステータスだ。こっちが重要、こっちのが重要なんだ。些事は流そう。


「では、カードをどうぞ」


「あ、ありがとうございます」


 打って変わって恭しい感じで、カードを手渡してくれる受付嬢さんだ。怒るに怒れないじゃないか。まあいい、それより今はステータスだ。そうなんだ。


 震える手でカードを受け取り、その上の数値をクワっと見る。来い! 来い来い!!



 ==================

  JOB:NULL

  LV :0

  CON:NORMAL

  HP :9

  VIT:13

  STR:12

  AGI:13

  DEX:14

  INT:20

  WIS:13

  MIN:17

  LEA:17

 ==================



「来たああああああ!!」


 さっきのステータスオープンより、よっぽど大声が出た。周りがなんだなんだとこっちを見ているが、それどころじゃない! 受付嬢さんも、ちょっとビビっている。


「あの、そんな凄いステータス出たんですか?」


「凄いもなんも、大当たりですよ。大当たり!」


「見せてもらっても、いいですか?」


「ええ、ええ、勿論構いません」


「では」


 私のカードを受け取った受付嬢さんも感嘆していた。



「確かに凄いですね。これなら殆どの初級ジョブが選び放題じゃないですか。ビショップには一歩足りませんか。惜しいですね。でもINTが20もある! こんなの見たことないですよ。ウィザード系に行くんですか?」


 ちなみにビショップの条件はINTとWISが15以上だ。だが、そんなことはどうでもいい。


「いやいやいや、見るのはそこじゃないですよ! LEAが17ですよ17!!」


「えええ!?」


 LEAすなわち『LEARNING』。学習能力に関わるパラメーターだ。これが高いとレベルアップ時のパラの伸びに補正がかかる。たしか17だと3%くらいだったはずだ。LUKのパラメーター専用みたいな感じの数値ってことだね。

 しかもこのパラは滅多に伸びない。職業で伸ばすことが出来ないから、超低確率、0.1%くらいで1伸びるかどうかだ。つまりレベル1000で1伸びれば御の字と言う、そういう項目なんだ。


 もちろんレベル10や20なら誤差だ。だけど、レベル100なら、1000なら、顕著にその差が現れる。勝った。これは勝つったぞ!



 ◇◇◇



 ふむふむと頷いているわたしを見て、受付嬢さんが珍獣を見ているような目をしているが、知ったことか。ここからわたしの道のりは始まるのだ。


「では、ジョブはどうしますか?」


「今は保留です。ちょっとビルド考えるので」


「びるど?」


「まあ、将来設計みたいなもんです。色々ありがとうございました」


 気分がアガったわたしは、先ほどのイタズラへの文句も忘れて帰ろうとした。


「失くさないように、ちゃんとインベントリにしまっておいてくださいね」


「っインベントリ!?」


「ええ、インベントリですけど」


「わたし、使い方知りません」


「ああ、たまにいらっしゃいますね。地方から来た方とか」


 暗に田舎者だと言いたいのか、この受付嬢さんは。こらえろ。情報は大切なんだ。


「どうやって、使うんですか」


「簡単ですよ、胸に当てて仕舞えーって感じです。出す時も一緒ですね」


「ほほう」


 言われて、その通りにカードを胸に押し付けてみたら、すっと吸い込まれる感じがした。気が付けばカードは消えていた。こりゃ凄い。



『ヴィットヴェーン』のインベントリはスタック仕様だ。つまり同一のモノなら99個まで重ねられる。


 そして私は今、それを体感していた。胸の内にさっき突っ込んだカードがあるのが感じられる。試しに胸に手を当てて、出てこいと念じたらしっかりカードが手にあった。なるほど、こういう風に表現されているわけか。

 これなら財布買わないでも良かったかも。


「ああ、注意事項としては『加工されていない迷宮産』の物しか入れられないので、ご注意ください」


 ここにわたしの買い物は、間違っていなかったことが証明された。まあツェスカさんがここまで分かっていて誘導したんだろうなあ。



「じゃあ、近々ジョブ取得に来ますので、その時もよろしくお願いします」


「ええ、お待ちしていますね」


 というわけで、わたしは冒険者協会事務所を後にした。



 ◇◇◇



「戻りましたー!」


「おう、お帰り。どうだった?」


 宿に戻れば、ツェスカさんが出迎えてくれた。


「はいっ、最高のステータスでしたよ」


「そりゃ良かった。で、どうするんだい?」


「大体は決まっていますけど、一晩考えてみます」


「そうかい。それでさ」


「どうしました?」


 ツェスカさんは面白そうな表情をしていた。これは何かを企んでいるに決まっている。



「おーい、お前らぁ」


 ツェスカさんが声をかけたそれは、奥のテーブルを陣取っていた4人組だった。全員が女性。人種はヒューマンが二人と、エルフと多分ドワーフが一人ずつ。この世界だと、エルフとドワーフが仲悪いっていうのはないのかな。


「ほれ、行くよ」


 ツェスカさんに促されて、彼女たちのテーブルに向かう。さて、これはいったいどういうことだろう。


「こいつらは『クリムゾンティアーズ』。アベレージレベル9のパーティだよ」


「『クリムゾンティアーズ』、格好良い名前ですね」


「ほう、分かるかい」


 ショートカットで赤毛、長身のヒューマンが立ち上がって言った。


「ええ、哀しさとそれに負けない強さを感じます」


 結構適当に返してみたが、相手は震えていた。やりすぎたか?


「お前、ウチのパーティに入れ!」


「えええ!?」


 赤毛のお姉さんがとんでもないことを言いだした。


「話は聞いてる。まだレベル0なんだろ。気にすんな。あたしたちが鍛えて、育ててやる!」


「あ、いえ、その」


 なんか、両肩に手を置かれて、相手はうんうんと頷いている。なんだこれ。


「ほらほら、アンタンジュ。そこまでにしておきな」


 そうか、このなんかこう、妙に暑苦しい人はアンタンジュっていうのか。で、どういうことだ? というわけで、ツェスカさんに顔を向けてみた。



「いや、彼女らをあんたの『メンター』に紹介しようと思ったんだけど、なんでサワはそういう上手い言葉が出てくるんだ?」


「いやぁ、じいちゃんに仕込まれたんですよ」


 大嘘だ。適当なことを言っただけなんだよ。


「あたしたちは今、欠けた翼なのさ。レィダが結婚して、ヴァッセンタは訳アリで実家に帰っているんだ」


「欠けた翼、ですか」


 アンタンジュさんが、フッと寂しそうな笑みを浮かべた。ヤバい、どうしよう。わたし、この人が好きかも。


「メンターってことは、わたしをレベリングしてくれるっていう意味でしょうか」


「そんな寂しい言い方をするなよ。お互い切磋琢磨して、一緒に強くなるんだろ?」


 マジでヤバい。恋心とか百合とか置いといて、こういうタイプの人は大好きなんだ。

 いや、とりあえず落ち着け。でもツェスカさんの推薦だし、多分信用できるんだろう。もしこれが手の込んだタカリっだったら、私の目が曇りまくっていただけだ。


 どうする。どうしよう。


「あたしはアンタンジュ。レベル10のファイターだ。こっちは……」


 ああ、なんか自己紹介始めた。コレ、もう逃げられないパターンなんじゃないか?



「ええっと、わたしはサワです。明日、プリーストになる予定です!」


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