第4話 ステータスオープン! それは茶番
「さて、今回はどういうビルドにしよう」
夕食を終えて自室に戻り、わたしは考える。
「わたしはキャラじゃない。1回限りの、一世一代の挑戦になるんだから、当然目指すは守備重視、それでいて最強だよね」
前世で最後に作ったのは、ウィザード、ファイター、シーフなんか10ジョブくらいを経由して、ニンジャから高位ジョブに上げた、攻撃力特化型スーパーニンジャだった。ならば今回はどうする。
ああ、いやいや、この世界の『仕様』が分かっていないんだから、ここで決めつけるのは早計だ。だけどなぁ。ぐひひひ。楽しみだなあ。
「明日起きたら夢だった、なんてことがありませんように」
お父さんには申し訳ないけど、今のわたしは自分の脚で歩けて、手を広げられる。しかも大好きなゲームの世界だ。
その日、わたしは中々寝付けなかった。
◇◇◇
「じゃあ行ってきます!」
翌朝、朝ご飯を食べてから、わたしは意気揚々と冒険者協会へと出かけようとしていた。道筋はもちろん、ツェスカさんに聞いておいた。
「ああ、ちょいと待ちなよ」
「なんです?」
チェスカさんに手招きされて、食堂の端に連れていかれてしまう。まさか、ここにきて態度豹変?
「あのさ、道順書いた紙に小物屋も書いといたから、財布買っときな」
「えっ?」
「靴ん中から、チャラチャラ音してるよ」
「あちゃあ。助言代払います?」
背中を引っ叩かれた。STR高くて、痛い。
「小娘が生意気言うもんじゃない。さあ、行ってきな」
「はいっ、行ってきます!」
そうして私は宿を飛び出した。
ウキウキで石畳の道を歩く。周りは白い壁と色とりどりの瓦屋根の建物が立ち並び、情緒があってすごく綺麗な気がする。中世ヨーロッパってもっと汚いイメージがあったけど、ここではそういう感じは無い。
そして道を歩く人たちも、意外と小奇麗な感じがする。ここら辺がゲーム世界のご都合主義なのかは分からないけど、悪いことはない。人種もバラバラで、ヒューマンが一番多いんだろうけど、そうじゃない人たちも結構いるし、その人たちも横柄だったり卑屈だったりしていない。なんかこう当たり前の多人種国家って感じだった。
「ふんふんふ~ん」
今のところ、この街の暗い部分は見えてこない。だけどわたしも馬鹿じゃない。絶対にそういうのがあるものだって前提で動かなきゃならない。せっかく第2の人生なんだから慎重に、だけど必要な時は大胆に。それが生き方だ。
「ここかあ」
貰った地図にあった小物屋さんに立ち寄って、とりあえず体に括りつけられる紐の付いた財布というか、小物袋を購入した。800ゴルド也。トイレを借りて、靴の中のお金を詰め替えた。
そしていよいよ冒険者協会だ!
◇◇◇
冒険者協会事務所はなんかやたら立派な建物だった。5階建てくらいだろうか、面積だけなら周りの建物5個分くらい占有している感じだ。
入口は4か所もあって、それぞれ意味があるんだろうけど、今のわたしにはよく分からない。全部開け放たれていたので、手近な扉を潜った。
ギルドってわけじゃないけど「おいおい、おじょーちゃんみたいな小娘が来る場所じゃねーぜ」イベントが発生したらどうしよう。残念ながら今のわたしは訓練を積んだつえー状態でもないし、秘めたる力も持っていない。今のところ。
「ほえ~!」
思わず間の抜けた声を出してしまったのは、一部を除いて事務所があんまりにも綺麗だったことでもあったし、そこにいる客層との違和感でもだった。
綺麗っていうのは華美っていう意味じゃない。そういう意味じゃむしろ飾り気がない。だけど清掃が行き届いているんだ。床ピカピカ。
そして客層というのは、まあ多分冒険者のお兄さん、お姉さんたちだ。とにかく色んな種族の人たちが、色んな格好、色んな武器を持ってずらずらと列を成していた。
「ん? 素材買取課」
ああ、なるほど。迷宮産の素材やらアイテムを、あそこで買い取ってもらえるわけだ。なるほどカウンターが多いはずだ。って、朝方なのに? てことは、朝帰りっていうか、徹夜組かあ。凄いなあ。
さらにそのカウンターのさらに横には、お食事処みたいなコーナーがある。いや、フードコートみたいな感じかな。そこだけは事務所の綺麗さと違って、如何にもな光景が広がっていた。うん、イメージ通りのアレだ。しばらくは近づかないようにしておこう。
「でも、強くなったら。うひひ」
あえて、買い取りカウンターからの帰りに、そこで食事をしてやるんだ。飲み物は当然ミルクだ。そこからの展開が今から楽しみだぜ。
「とりあえず今は、目的目的っと。おお、あそこかな」
そこには『ステータス・ジョブ管理課』と書かれたブースがあった。2個しか窓口はない。まあ、そんなもんか。
ゴクリと喉を鳴らし、わたしは敢然とカウンターに向けて突き進む。番号発券機などはない。ただカウンターは空いていて、職員さんが一人、暇そうにしていた。
「いらっしゃいませ」
わたしに気づくと、職員のお姉さんが真面目そうに対応してくれた。金髪の綺麗なお姉さんだ。ザ、受付嬢って感じだね。
「ステータスカードの発行をお願いしたいんですけど、いいですか」
こういう言い方をしてしまう自分を、日本人だなあって思ってしまう。
「ジョブはどうしますか?」
「今日は、ステータス確認とカードの発行だけで。できますか?」
「後でジョブ変更をすると、2000ゴルドくらい割高になります。よろしいですか」
「はい、構いません。どんなジョブに就くかは、よく考えたいので」
「ふふっ、ご立派ですね」
褒められることか? 初期値を見てからどう育てるのかは基本だと思うんだけど。
「ではカード発行とステータス確認で10000ゴルドです。先払いでお願いします」
「はい」
わたしは10枚の銀貨を取り出した。ホントは面倒だから金貨で払いたいんだけど、おつり90枚は勘弁だ。金貨ってどういう場面で使うんだ?
「ではまず、こちらの書類に、お名前、人種、性別、年齢、住所、ああ宿でも構いません。記入をお願いいたします」
なるほど、ステータスカードに記載されない項目は、アナログなんだ。
わたしはこっちの文字で、すらすらと記入して、それを手渡した。
「では、カード作成に入りますね」
受付嬢さんが、カウンターの奥にあるカギをガチャガチャと開けて、天板をずらした。そこには手のひらより結構大きい、白い石板が設置されていた。
「ちょっと待ってくださいね。今カードをセットするので」
昨日見た、ステータスカードらしきものを、石板の横にはめ込んだ。なるほどピッタリだった。
「では、手のひらを石板に乗せて……」
「ゴクリ、乗せて?」
「高らかに『ステータスオープン』と叫んでください!」
「へ?」
「ですので、叫んでください。できるだけ気合が入っていた方が、良い数字が出る傾向があります」
「ホンキですか?」
「ええ」
受付嬢さんはマジ顔だ。そういうことも、あるのか? 担がれてるんじゃないか? ゲームにそんな設定は当たり前だけど無いよ。ああ、2コンに声をかけるってゲームが昔あったって、お父さんが言ってたっけ。
「分かりました。やります」
「はい。ではどうぞ」
「すぅ! スーテイタスっ、おーーーぅぷぅんっ!!!!」
必殺技を叫ぶ合体ロボを意識して、それっぽく叫んでみた。
気付けば、周りがシンとしていた。
「あ、あれ?」
とたん、怒涛の拍手が巻き起こった。
「いやあ、嬢ちゃん、カード取得おめでとう!」
「良い叫びだったよ!」
「おねえちゃん、かっこいい!」
「うむ、うむっ! この歳まで生きて、これほどのステータスオープンを聞けるとは、長生きはするものじゃ」
後者のちびっ子とおじいちゃんはどっから出てきた?
「……あの?」
わたしが受付嬢さんを見ると、彼女はバツが悪そうに笑った。
「恒例なんですよ。でも、受付歴5年のわたしとしても、3本の指に入る良い叫びでした」
なんだそれ。
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