第225話 ヤルに決まってる





「なあ、アレってどうなんだ?」


「言われてもなあ」


 後ろでガルヴィさんとダグランさんが何か言ってる。

 2回目の3時間休憩、終わったのかな。


「あはははっ! レベルがぐんぐん上がるよぉ! あはははは」


「むふん!」


 対するわたしとターンはこんな感じだ。


「レベル162。いいねえ、実に素敵だねえ」


「アホみたいにジョブ重ねて162かよ。実質レベル、どうなってんだ!?」


「ケインドさんに教えてあげますよ。そうですね、190相当くらいかもですねえ。あはははは」


「だからその笑い方、止めろって。怖いぞ」


「レベルアップは怖くないじゃないですかあ」


 実に、実にいい気分だ。

 グレーターデーモンと戦い始めて14時間くらい。1回休憩したらもう、スキルは満タン。しかもわたしたちは、すでにヤツらを凌駕してる。



「ターン、そろそろ6体、いってみようか」


「おう。『ダ=リィハ』」


 ターンが例によって効果の無い魔法を放ってバトルフィールドに導いたのは6体。

 さあ、いよいよ直接対決って感じになってきた。別に『仲魔』を呼ばれなくても、敵は黒門からぞろぞろ出てきてくれる。


「アンタンジュさん、リッタ、そっちは?」


「4体なら問題ないねえ」


「同じくよ」


「レベル上げて、6体相手にできるようになってください」


 酷な要望だけど、グレーターデーモンの湧きが速くなってる気がする。『訳あり』で対応できるようになっておかないとね。



 ◇◇◇



「ぐれえた~でぇもん!」


『ぐれえた~でぇもん!』


「べつにグレてないけどね~」


『グレてないけどね~』


 ヴィットヴェーンの68層に、妙な調子の歌が響く。


「美味しいのは経験値~」


『美味しい美味しい経験値~』


 歌ってるのは『訳あり』だけじゃない。この場にいる全員だ。特にジュエルトリア。なんかこう男性オペラ歌手みたいな感じで、高らかに歌い上げてるし。

 ああ、最高だ。この想い、迷宮に届け。



「ぐあっ。ちくしょう、レベルをやられた!」


 時々誰かの叫び声が上がるのは、まあ仕方ない。ちゃんと治して戦線復帰だ。なんかこうゾンビだよねえ。

 ここにいるみんなは普通に全員プリースト経験あるし、なんならナイチンゲールやカダもいる。流石に『訳あり』以外は敵の数、絞ってるけどね。


「積み上げてきたジョブとスキル、舐めてんじゃねーぞ!」


 ダグランさんが叫ぶ。全く同意だよ。

 確かに『暗闇の閃光』は全然負けてない。凄いよ。


「またお出ましよ!」


 リッタが叫びながら戦闘判定を取った。『ブルーオーシャン』もいい感じでレベルが上がってるはずだ。事実、グレーターデーモン相手に全く引けを取ってない。


「いいねえ。どんどんレベルがあがるよ」


 アンタンジュさんが口端を吊り上げる。『クリムゾンティアーズ』も仕上がってきたかな。

 それはこの場にいる『訳あり』以外、つまり『暗闇の閃光』『咲き誇る薔薇』『ラブリィセリアン』も一緒だ。もう1体2体なんてケチなことは言わない。なんなら6体でも五分でヤレる!



「おおい、助けに来たぞ!」


「ゴットルタァさん!」


 ゴットルタァさんたちだけじゃない。『リングワールド』も『白光』も『鉄柱』も、他のクランまで。さらには『オーファンズ』も、今回の黒門氾濫に対応したみんなじゃないか。


「上の氾濫は終わったんですか!?」


「ああ、黒門は消えたぞ。掃討も終わらせた」


「そりゃなにより。だけどここの敵はヤバいですよ!」


 いくらハーピーやギガントフロッグを倒せたからって。ちょっとさあ。


「構やしねえ。俺たちだってやれるとこ見せてやるさ」


 頼もしいお言葉なんだけどね。


「じつはココ満員です。人が多すぎますよ」


「あ」


 一緒になって降りてきてたウルマトリィさんが、間抜けっぽい声を上げた。


「なので、見物しててください」



 ◇◇◇



 そしてその時がついにやってきた。


「黒門が消えた」


 戦闘開始から優に2日、いや50時間以上は経ったかな。ついに68層の黒門が消えたんだ。

 最後の敵は。


「グレーターデーモン・ルビー」


 赤黒く輝くグレーターデーモンが3体、そこに残されてた。

 これはつまり、そういうことだよね。黒門が消えたから、もうこれ以上敵は出てこない。残された3匹。やること決まったじゃない。


「ひゃっはー! ターン、リッタ、アンタンジュさん。1体ずつ接敵判定!!」


「おおう!」


「倒さないで! ここからが本番だからね!」


「サワ?」


 ウィスキィさんが怪訝な顔をするけど、プレイヤーなら当たり前の行動だ。元の世界なら100人が100人同意してくれるはず。

『ルナティックグリーン』『ブルーオーシャン』『クリムゾンティアーズ』、3パーティがそれぞれ1体のグレーターデーモンをバトルフィールドに入れた。ならばやることはひとつ!


「『BFS・INT』『EX・BFS・INT』『エル=ラング=パシャ』」


 INTを上げて、奇跡を呼ぶ。『魔法無効化解除』を願うんだ。



 わたしの考えが伝わったんだろう。リッタが、ポロッコさんが同じく奇跡を求めた。

 その後で発される魔法はただ一つだ。


「『モンサイト』」


「『モンサイト』」


「『モンサイト』」


 全員が一斉に、相手の魔法無効化を唱えた。通れ、通れ、いや、通る。

 グレーターデーモン・ルビーはレベル170相当。今のわたしたちならやれる。


「通ったあ!」


 次の瞬間、敵が魔法モーションを取ったにもかかわらず、何も起きなかったんだ。第1段階終了。


「リッタ、アンタンジュさん、そっちは?」


「通ったわ!」


「封じたみたいだねえ」


 ならば良し!


「『EX・DBS・SOR』『EX・DBS・STR』『EX・DBS・AGI』『EX・DBS・DEX』」


 すかさずポリンが相手をデバフった。

 つまりこれで、ここから先に出てくるグレーターデーモンは、同種なら魔法を封じられた上に、デバフ状態で出現することになる。ウェルカーム。


「今のがお手本。『ブルーオーシャン』『クリムゾンティアーズ』、やっちゃって!」


「わかったわ」


「おうよ」


 リッタとアンタンジュさんが元気に返事を返してくれた。


「ヤツが1体『仲魔』を呼んだら、わかってるね?」


「タコ殴りですわ」


 フェンサーさんが元気に応えてくれた。ちょっと違うんだけどね。

 これからやるのは『養殖』だ。


 もはや魔法は来ない。ただひたすら物理攻撃を受け流すだけだ。デバフってはあるけど、その圧倒的速度に慣れておくのも悪くない。



「来たあ!」


 そしてついに、敵が『仲魔』を呼んだ。ここらへんは仕様通りなんだね。黒門経由だから心配だったんだ。

 さてさて、態勢は整いつつあるよ。あとは、どれだけ狩れるかだ。


「ラッキー! 同種だ!」


 出てきたのはグレーターデーモン・ルビー。別種ならデバフのかけ直しだけど、これなら呼び出し元のステータスを受け継いでくれる。


「全員自己バフ。スキル控えめで数を稼ぐから、ダメージは避けて」


「おう!」



 ◇◇◇



「まーた、この光景か」


「そこのアンタ、何か知ってるのかい?」


 最後の戦闘が始まってそろそろ20時間。後ろでウルマトリィさんがガルヴィさんに、話しかけてる。


「ヴィットヴェーンの古参なら誰でも知ってるし、アンタだってカエルでやったんじゃないのか?」


「いや、アタシたちはやってない」


「そうか、じゃあよく見ときな。アレがサワさんの神髄だ」


 どんなんだよ。


「『訳あり』、いやサワさんの強さはレベルやジョブ、ステータスだけじゃない。ああいう状況を作り出して、それを継続させることだ。おっそろしいぜ」


「……アレがサワの強さだってのかい?」


「ああ、見ろよ、もうほとんどスキルを使ってない。回復スキルが尽きるまでやる気だぜ、ありゃ」


 あれ、ガルヴィさんわかってんじゃん。

 そうだよ、知識チートと継戦能力がわたしたち、最大の力だ。それがあるから、ここまでこれた。今も戦えてる。



「サワ、あたしたちはそろそろだ」


「了解です。最後にジョブチェンジ」


 アンタンジュさんが、『クリムゾンティアーズ』の限界を告げた。ここまでだ。


「あいよお。ポロッコ」


「はい。『ラング=パシャ』」


 それぞれがジョブチェンジアイテムを手に持ったのを確認してから、ポロッコさんが奇跡を望んだ。

 レベル100を200に上げるより、ジョブチェンジして0から150にする方が簡単だからね。あっという間に1ジョブの完成だよ。

 フサフキのドールアッシャさんがちょっと残念そうだけど、まあまあ『フサフキ+1』が待ってるからさ。



 3時間後に『ブルーオーシャン』が、そしてさらに6時間後、『ルナティックグリーン』が戦闘を終えた。ラウンドナイト気に入ったんだけどなあ。まあ、戦闘終了時にレベル185まで行ってたから良しとするか。



 なんたって、今のわたしは『ミヤモト』のレベル153なんだし。


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